ラボのナゾ解き!? 棚卸しに挑戦しよう

2023.02.13

 ラボにはナゾのものがいろいろあります。・・・とはいえ、自分自身の過去のモノも「ナゾ」です。高校時代のレポート(玉ネギ細胞のスケッチ)がどうして実家にとってあるのかしら。生物の先生がわざわざ作ったスタンプ「デタラメを書くな」が押されているから記念にとっておいたのかしら?

 

 さて今回は、ラボにおける棚卸しについて理解を深めていきましょう。片づけ面倒、うんざり、という言葉が瞬間的に出る方にぜひお読みいただければと思います。なぜそうなってしまうのかが理解でき、ラボ片づけは楽しいナゾ解きだと思うようになるでしょう。

 

ラボではどんなものを棚卸しするのか

 みなさんのラボでは棚卸し習慣がありますか?
バイオ系ラボを例にとり(それ以外知らないので書けないという事情あり)、どんなものを棚卸ししているかをご紹介します。

 もしかすると他の専門分野の方には想像しにくいかもしれませんので、<実家に存在するもの>にあてはめてみました。

 棚卸しするものをざっくりA, B, C, Dの4種類に分類しました(紙類や機器は除きました)。

 

A. 試薬

 

購入した薬品のこと。試薬名ラベルが付いており、会社名、型番、製造ロットが書いてある。たまにラベルが失われている、あるいは、わたしが老眼であるという理由を別にしても文字が読み取れないことがある。別容器に移し替えられ、もともとの試薬名や詳細がわからなくなっていることがある。

実家にあるものに例えると<塩、しょうゆ、砂糖、小麦粉、重曹、洗剤>

 

B. 調製液

 

購入品をもとにした2次製作物。試薬を溶解・希釈しただけのものもあれば、数種類の試薬を使って濃度やpHをあわせて作ったものもある。

実家にあるもの <青汁の粉末を懸濁した液、加熱した水道水に植物由来色素などを抽出した麦茶、安倍川餅用に砂糖:きな粉:塩を1 : 1 : 0.05の比で混合したもの、掃除用に希釈あるいは混合した洗剤>

 

C. 実験サンプル

 

さらに製作に手間がかかっているモノ。組織標本, 細胞から採取したRNAやcDNA、プラスミド、合成した化合物。形状は液体、固体。冷蔵または冷凍されていることが多い。

実家にあるもの <自作の漬物・味噌・梅酒・梅干し、冷凍庫内のスパイシーカレー、5円玉をつなげてつくった宝船、牛乳パック鍋敷き>

 

D. 供与サンプルや試供品

 

他の研究組織や会社から送られてきた実験サンプルやもらった試薬。型番や由来が明確でないこともある。

実家にあるもの <新聞販売店由来らしき王貞治選手と長嶋茂雄選手の写真入りうちわ、親戚なのか知人の子どもなのか親との関係性がわからない新郎新婦の絵入り皿、へんな匂いの線香、おみやげでもらったらしい乾燥魚のような地域特産品>

 


なにがナゾを呼ぶ原因なのか

 最近では試薬管理システムが導入されている研究機関が多くなり、バーコードを読み取れば試薬棚卸しは済むようになりました。管理システム導入前のものを棚卸しして管理ラベルをつけるまでは大変ですが、いちどつけてしまえばあとは楽です。

 では整理がむずかしいナゾのものとは?

 それは名前、日付(西暦と年月日)、中身の情報の3セットが揃っていないものすべてです。特に分類B, Cについては中身がわからないと大変困ります。
ではどんな風に困るのか、ということがわかる会話をピックアップしてみます。

 

溜まっているナゾのモノとはどんなものか

棚卸し中、ラボで聞こえる声の数々を再現してみると、いくつかのパターンがあることがわかります。

 

 

*要・筆跡鑑定

 

10mM 〇〇、と濃度と中身の情報だけ書いてある、液体入り15mLチューブ。
「これ、誰のものわかります?」
「このきれいな字はわたしの字じゃないことだけは確かだ」

解説:名前が書いてなくても、なにか文字が書いてあれば筆跡鑑定が有効なこともありますが、持ち主がわからないことのほうが多いです。「自分の字と似てるけど確信はもてない」というケースもあります。

 

*存在してないはずのわたし

 

イニシャルと作成年月日が書いてある調整液ボトル。
「2008年にはまだここにいなかったからわたしのじゃない。イニシャルは同じだけど」

解説:イニシャルは持ち主特定の手がかりとしてはほとんど役に立ちません。To (とー)さんという名前の留学生と、T.O.イニシャルを使う学生さんが同時期にラボにいたことがありました。まぎらわしいです。

 

*記憶なし

 

名前あり・サンプル名なしオレンジ色の液体入りプラスチックボトル。
「これ、僕の名前がかいてあるけどなんだったっけ? ぜんぜん覚えてないな・・・」
「それ、オレンジジュースですか?(笑)」
「いや、そんないいものじゃない、と思う」

解説:派手な色でも中身がなんなのかも忘れています。実験ノートを確認するにも、作成年月日が書いてないと、どこに書いてあるのかさがしにくい。記憶には頼れませんね。

 

*どうする?のループ

 

名前なし・中身不明の液体ビンを発見。
「えーこれどうしようー」
「すてていいんじゃない? だいぶ前からあるみたいだし」
「でも中身がわかんないからどこに捨てたらいいかがわからない」
「えーどうしようー」

解説:最も困るパターン。会話がループします。頼りになるスタッフや安全管理室に相談しましょう。

 

*今は考えたくない

 

「先生、このサンプル臭(にお)ってます」
「定年になったときどうするか考えるから箱にテープ巻いて置いといて」

解説:定年前といわずにできるだけ早く捨てていただきたい。学生や後任の人が困ります。でも教授にも捨て方がわからないようです。親がのこした借金のようなモノ。

 

*過去の確執

 

「どうしておなじ試薬がいくつも使いかけにされているんだろう?」
「それは大人の事情が」

解説:おなじ部屋の人たちがそれぞれの研究費で買ったものだったんですね。在庫があってもリストがない、見つけられない、あるいはシェアできない人間関係だったという原因が考えられます。こうしたラボでは一括管理がやりにくく、話がまとまらないので片づかないラボになりがちです。

 

だれかとやれば楽しい棚卸し

棚卸しや片づけが大変なのは溜めてしまっているから。そして、一人でやろうとするからです。だれかと会話しつつ謎解きしながらやると楽しいものです。

実家の片づけもおなじことが言えます。親の思い出話を聴きながらやることで親やご先祖の意外なエピソードを知ることができるでしょう。

また、片づけ習慣のないラボで棚卸しをすると、ラベルや記録が大事だということを身にしみて感じることができます。反面教師効果抜群! 新人さんや学生さんにはラボ棚卸しでナゾ解きを一緒に楽しんでもらうほうがいいですよ。任せきりにせずサポートすることがもっとも重要です。

試薬管理システムを使いつつ、毎年ほかのモノも棚卸しすることで「片づけ?大変じゃないですよ」と涼しい顔をしていられるようになります。つまり、片づけしながら推理するのは、今しかできない貴重な経験になるかもしれません。

 

まとめ

  • 所有者・作成者がわかれば半分以上は解決
  • 記録とラベルをすること、毎年やることが片づけを楽にする
  •  一人でやらない、やらせない。一緒に片づけを楽しむ。

【著者紹介】ショウボ

筑波大学卒業後、製薬会社の研究所に30年以上研究者として勤務。博士(医学)
医学部の大学院研究室を経て現在は国立研究機関で研究業務員。
2017年よりラボ専門整理収納アドバイザーとしても活動中。
ラボ整理研究室を主宰。

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