#35 KAICO株式会社に独占インタビュー!科学技術振興機構理事長賞受賞、そして経口ワクチン開発へ~後編~

2023.01.27

#5 カイコから作られる有用タンパク質が人や動物の医薬品原料へにてご紹介したKAICO株式会社の科学技術振興機構理事長賞受賞を記念して、九州大学伊都キャンパスのすぐ近くにある福岡市産学連携交流センターにお邪魔し、事業や研究、キャリアについてお伺いしてまいりました。前編に続き、後編ではスタートアップでの仕事の進め方や、今後の展望についてお話いただきました!

 

経口ワクチンは摂取の在り方を変える

抗体キットが成功しましたが、続けてワクチン開発も進められるのでしょうか?

谷口:事業的には経口ワクチンを作るというのが私達の目標です。私は動物向けの、佐々木が人向けのものを開発しています。

 

経口ワクチンといのはやはりかなりニーズがあるのですか?

谷口:今のワクチンは注射による接種がメインなのですが、薬剤の輸送、低温管理、会場の設置、人員配置などとにかく手間がかかる上、針刺し事故などの人為的リスクも伴います。さらには、被接種者は接種会場などその場所に行かなければいけない、針自体が嫌な人もいます。
こうなってくると先進国のようにリソースやインフラが整っている場所でないとなかなか全般にまで普及させるのは難しい。特にアフリカなんかでは厳しいというのが現状です。こういった状況は人向けの医療でも動物業界でも同じです。
経口ワクチンであればこういった課題から解放され、アフリカでも使ってもらえるワクチンになるだろうと考えて開発を進めています。ですので最初から海外展開を考えていて、それ前提で色々なメーカーと話もしています。

 

動物向けのワクチンもかなり需要はあるのでしょうか?

あります。例えば今我々が開発しているワクチンは豚のある感染症に対するものですが、この感染症は世界中のほとんどの養豚場で検出されているようなものであります。かなり需要があることは間違いありません。市販のワクチンはすべて注射型で、日本では全頭摂取が義務づけられていますが、東南アジアのような地域は日本のようにはいきません。
経口ワクチンであればこういった地域でも全頭ワクチン接種が可能であり、より食の安全が確保できます。注射型ワクチンの現状の問題を解決するため、私達は経口ワクチンを開発したいのです。

 

遺伝子組み換えカイコにより目的のタンパク質を生産する

 

経口ワクチンの開発を進める上での課題

谷口:一般的に経口ワクチンの一番難しい部分は安定性と有効性の両立です。例えば弊社以外で開発されているものとして、植物を使った経口ワクチンなどがありますが、大量生産や長期保存の際の安定性、加工性、設備投資コストの増大など、解決が難しい部分があると聞いています。

カイコは飼育方法も確立されており、大量に原料を調達できるという利点があります。凍結乾燥できますので安定性にも優れ、有効性も動物では既に確認済みです。そもそもカイコは人でも動物でも食事と共に摂取されてきた歴史もありますので安全性という点では実績があります。

私達はこういったカイコの利点をうまく活かして、医薬品としてのガイドラインをクリアした有効で安全な経口ワクチンを開発し、経口ワクチン業界のパイオニアになりたいと考えています。

完成イメージとしては誰にでもサプリメントのように摂取できるようなもの。人だと錠剤、動物であれば餌にまぜたり、餌のペレットに練りこんだりと、粉末状のものをニーズに合わせて成型しようと考えています。

 

冷凍保存されたカイコ、一頭から数百回分のワクチンを生産することができる 

 

社会実装スケジュール

 現在の開発フェーズはどういった段階でしょうか?

谷口:動物用では実証試験が終わり、これから製造品質管理の構築や、非臨床試験に入るところです。

 

佐々木:人用に関しては法律の規制に向けた対応を社内で構築し始めている段階で、当局と内容のやり取りを始めるようなフェーズですね。

 

上市目標のスケジュール

谷口:動物用だと2026年が目標です。人用だともう少しかかると思います。早くて2025年度中に人用の臨床試験も始めたいと考えています。

今年AMEDのワクチン・新規モダリティ研究開発事業に、九州大学日下部先生を代表者とした「カイコ昆⾍モダリティによる低価格な国産組換えワクチンに関する研究開発」という課題が採択され、国プロとしてカイコのワクチン開発の支援をしてもらっているところです。これを活用しながらまずはカイコを使った注射型ワクチンを作り、臨床試験まで進める予定です。

今回の新型コロナウイルスのパンデミックにより海外からの原料調達に依存することのリスクが浮き彫りになりました。国産ワクチンを目指す上で、カイコ生産系は海外資材に依存せず有事での供給リスクも低いといった点が期待されていて、国もバックアップした体制で実現に向かっているところです。

バイオベンチャーは開発段階で資金が多く必要になりますので、代表の大和が資金調達をしながら色々な補助金も活用しています。創業期もJSTSTARTというプログラムがきっかけになりました。そういった機会と資金を活用しながらプロジェクトを進めたいと思います。

 

人、動物ともにKAICOの技術でワクチンの経口摂取を実現できる世界を目指す

 

ビジネスも研究も!KAICOの仕事の進め方

これからが本当に楽しみなKAICOですが、現在は何名ぐらいでどのようにお仕事を進められているのでしょうか?

谷口:今は12人ほどでやっていて今のところマルチタスクでやっている事が多いですね。

技術員がメインで、少しずつ人も増えてきたところです。創業当初は3人で、私で4人目にだったのでそう考えると倍になりましたね。(※2022年11月現在)

佐々木:反復横跳びのように研究とビジネスサイドを行ったり来たりしています。
KAICOに入る前から何でもやりたいと思っていたので期待した内容ではあります。研究員としてだけでなく、会社を俯瞰して見た時に「会社としてどういう研究をしているか?」と考えるようなビジネスサイドの仕事もしたいと考えるようになって、そういった機会を求めてベンチャーに来ました。

 

組織が成長されているとのことですが、しばらくは現在の拠点で活動する予定でしょうか?

谷口:社員はこれからも増えて行く予定ではあるのですが、スペース的にはまだ大丈夫です。バイオ系の研究設備は簡単には作ることができないので、しばらくはここに留まる予定にしています。設備的な活動のしやすさという意味では大学ベンチャーは良いです。
独立した研究施設を作ろうと思うと市や県、行政などとの調整も必要になります。ここを出なければならないような規模になればまたそういった新しい仕事が増えるなと楽しみにしています。
幅広い業務に携わっており、だんだん専門性がなくなっているようにも思いますが、ベンチャーを作るということ自体が「事業開発」という専門分野だと感じています。

 

最近は研究をしながらビジネスサイドに興味を持つ研究者も増えているのでしょうか?

谷口:そうだと思います。例えば弊社の品質管理メンバーも、本業だけでなくワクチンのシーズ開拓をしたり、製品パッケージのデザインをしたりと色々な仕事に携わっていて、充実しているようです。弊社は裁量権を持てるので、風通しが良く、自ら色々な仕事に参加する風土が生まれているのだと思います。

KAICO社の実験室、一般的な大学の研究室に雰囲気は近い

 

スタートアップで働く魅力

ご自身が感じる魅力、こんな人は向いているといったお話をお伺いできますでしょうか?

佐々木:自分で色々な可能性を考えながら、それを形にするところまでを短期間で、自分が主導権を持って進められるのは面白い所です。家庭もありますのでスタートアップという環境にヒリヒリするところはありますけど、そういう状況が楽しめる人は向いているのではないかと思います。

 

谷口:裁量権の大きさが醍醐味ですね。自分がやったことの結果がダイレクトに入ってくるので、その反応を含めてやりがいを感じる部分があります。弊社の場合、自分がやりたいということがあればスピンアウトでテーマ化させてもらえるケースもあります。もちろん家族がいて心配な部分がないかと言われるとないとは言えませんが、私の場合自分の中の楽観的な部分と悲観的な部分の折り合いをうまくつけているので何とかなっています。

 

佐々木:人がやらないようなことを真面目にできるというのも面白います。例えば大手のワクチンメーカーで急にカイコワクチンの話をしても前向きな反応は得にくいと思うんですよ。やり始めるまでに色々な人を説得して進めなければいけない。それをすっ飛ばす訳ではないですが、みんなでそこに面白さを見つけて全力投球できる、これはまさにベンチャーらしい楽しさだと思います。

 

谷口:確かに社内調整に割く時間は少ないですね。うちであれば大和に相談し、ここで意思決定される。こういうスピードの速さはベンチャーの強みであり、面白さでもあると思います。多くのフィルターを通るとどうしても最後に世に出すものは角のないものになりがちですが、ベンチャーではアイデアが生まれた時の尖ったイメージのまま商品を市場に出すことができます。
成功するまで色々なことがありますが、あきらめないのもの大事。これは自分でGOするかどうかまで決められるからというのもあると思います。だからこそ最後までやり切れるのだと思います。

 

仕事の楽しさと家族とのエピソードを語る佐々木さん

 

KAICOをもっと知りたい

前編、後編の2回にわたってKAICO株式会社の事業や魅力についてお伺いしてきました。取材にご協力いただいた谷口さん、佐々木さん、並びにKAICOの皆様、ご協力ありがとうございました!

スタートアップというと一見浮き沈みの激しそうな環境に思われがちですが、お二人とも仕事に充実し、プライベートでは何よりもご家族を大切にされている様子に大変魅力を感じました。今後もLabBRAINSをKAICO株式会社をはじめとしたスタートアップ企業を応援して参りたいと思います。

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