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ある真夏の日、関東地方の遊園地に行きました(白手袋をはめた巨大黒ネズミの遊園地ではありません)。おそろしげな生き物の絵が看板に描いてあったので新種のお化け屋敷か? とワクワクして入ったら、寒い部屋のなかに雪男やペンギンがいました。あまりキモは冷えませんでしたが体は冷えました。こういうアトラクションなら、研究所の低温室で通年開催できます。
さて、今回は寒くて整理しにくい場所のお話です。
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低温室というのは、容量が大きくたいへん便利な収納場所です。しかし真夏ならともかく普段はあまり足を踏み入れたくありません。
理由は3つあります。
なぜ研究棟の低温室は無法地帯になりやすいのか? それは、外から見えないからです。目につかない場所、というのは蔵や納戸や外の物置と同じく、使わないモノが詰め込まれる運命にあります。
蔵には先祖代々のお宝の茶碗や徳川埋蔵金の地図が眠っているかも、という淡い期待が持てます。しかし低温室にあるものといえば、先祖代々の使用期限切れの培地や測定キットなど、使わないけどもったいなくて捨てられないモノが置いてあるという確信しかありません。
よそのラボと共同で使っている場合、区画割があいまいな棚や実験台の上、あるいは床に転がっている持ち主不明なモノや内容物不明な液体を”だれが処分するのか・・・”という話になるので、「片づけよう」と言い出す人が現れません。そのため、建物を改修する機会でもないと、こうしたモノを処分しよう、ということになりません。
医学部の研究棟で、30年に1回あるかないかのこの改修が行われた際、ある研究室の教授がこの片づけのまとめ役を務めてくださっていました。新しくなった低温室の使用希望者説明会の時に「(古い低温室の中を)片付けるのがすごく大変だった・・・」としみじみおっしゃっていました。この方こそPI (ラボ主宰者)の鑑。複数のラボが関係する共用の場所の片づけは、誰かがリーダーシップを発揮することで進むのです。
低温室整理も大変ですが、別の意味で大変なのが冷凍庫(マイナス20から30℃)です。そして個人的に難易度第一位だと思うのは大型ディープフリーザー(マイナス80℃)です。下手すると凍傷になり「ちょっと極地(またはヒマラヤ登山)に行ってきた」状態になります。
霜や氷に埋もれた高額な試薬(使用期限切れ多いです)や貴重なサンプル(忘れられているモノ多いです)の数々。何があるのか確認するにも霜を払ってみないとラベルが読めません。しかも試薬やサンプルが溶けないように素早くやらなければいけません。
一般家庭の冷凍庫と異なり、ラボのフリーザーは自動霜取り機能がついていません。年に1回程度、電源を切って霜を掻き出し氷を割り、人力で完全霜取りをすればいいのですが、メンテナンスを怠ると霜にひっかかって引き出しがあかなくなってしまいます。
中身を移し替える場所の余裕がないラボでは、ドライアイスと大型クーラーボックスを用意するか、ご近所ラボの使っていないフリーザーに目をつけておき、お借りする交渉をして準備する必要があります。
なるべく霜がつかないようにするには、扉を開ける時間を短くするのが一番です。探し物時間や取り出し時間を短縮し、ひいては霜取りの手間を減らすために整理収納の工夫が役立ちます。
整理収納サポートで伺ったあるラボでは、年代物の大型フリーザー(マイナス20℃)の最下部に昭和から令和にかけて形成されたと思われる厚さ20cmほどの氷層があり、箱や袋が埋まっているのが見えました。中身を全部避難させ、電源を切って湯をかけてもなかなか溶けず、金槌とノミで発掘作業をしました。
また、あるラボではディープフリーザー奥の霜溜まりの中から“だいじRNA”と書かれた箱が出て来ました。だいじ、と箱の上にも側面にも書いてあるのに名前も日付も書いてない。
前回の記事で「名前を書くときエスペラントや古代ルーン文字は使わないように」とお願いしましたね。中身はだいじなRNA(リボ核酸)であることはよくわかりましたが、大事だったら名前もちゃんと(読めるように)書きましょう。くどいですがこれ、ラボを快適環境にするために重要なことなので再度お伝えしたいです。
みなさんのラボではもうやっているかもしれませんが、おすすめの管理方法を書いてみたいと思います。
低温室の管理をしやすくするために、区割りマップをつくり中にも外にも掲示しましょう。使用者や管理者の連絡先(グループ名や内線番号)も書いておくこと。そうした上で欠かせないのが定期的な棚卸しをすることです。フリーザーの管理も基本的に同じです。
整理整頓されているラボでは、各収納には記号や番号がついており、どの場所に誰の(あるいはどのチームの)ものが入っているかという配置図が表示されています。これにより目当てのものが入っている引き出しだけ取り出して素早く扉を閉め、必要なものを取り出したらさっと引き出しを戻すことができます。
マップを作って貼るとき、クリアフォルダをマグネットか荷造りテープで貼り付け、その中に紙のマップを入れるようにすると差し替えや書き足しがラクです。
フリーザーに何か入れるときに便利なのは、透明なチャック付きポリ袋です(今いるラボではセイニチグリップスのユニパックを使っています)。袋の中に名刺サイズくらいのメモ片を外側から見えるようにいれます。ポリ袋は霜を払いやすく、メモの情報が読みやすいです。
メモに書くことは
試薬だったら、入荷日や小分けにして凍結した日(西暦年から書く)と試薬名を書いた紙、取り扱い説明書を入れてチャックつき袋の中に入れるようにします。ポリ袋に直接書いてしまうと、こすれて消えてしまうことがあるため、紙に書くほうが確実です(冷蔵なら袋に直接書いても大丈夫です)。
メモを入れるのは、目的のモノを探しやすくし、他のモノの温度が上がるのを最小限にしたいからです。
よくやるフタつきの紙箱やプラスチック箱に立てていれ、ラベルを貼っておく方法のメリットは残数を数えやすいこと、サンプルの番号順を維持できることです。しかしディープフリーザーにいれておくとラベルの霜を払いにくく、また中身が減っても同じだけ場所をとるのが難点です。
しまう時に適当に突っ込んでいる・どこに入れたか記録をしていない・他の人と共同で使っており、定位置が決まっていない、ということだと、探す時間がかかって実験がなかなか始められません。探し出せなくて「この試薬ないから発注しよう」と納品された頃に隣の引き出しから見つかったりするとがっかりします。
こうした、整理しないことによるデメリットが特に顕著に現れるのがフリーザーという場所です。
なお、フリーザーの扉をあけたままのんびりさがしものをしていると霜がつきやすくなるばかりか、他人のサンプルまで溶けて影響を受けるかもしれません。だから、自分の引き出しだけ出してさがしましょう。扉のロックをかけるのもどうかお忘れなく!
まとめ