LINE公式アカウントから最新記事の情報を受け取ろう!
「研究業界の情報発信の手助けをしたい」という共通の想いで意気投合したLab BRAINS(アズワン株式会社)若林とtayo magazine(株式会社tayo)熊谷。
折角なのでお互いの強みを活かし、実験装置などの「モノ」にフォーカスして研究室の紹介をするような企画をやろう!ということで、「モノ」から見る研究室という連載シリーズが始まりました。
顕微鏡などの汎用的な実験装置から、分析機器まで幅広く取り扱います。
今回のお相手は琉球大学 助教の中川鉄水先生。なんとグローブボックスを「自作」して、自身の研究に使用しています。自作グローブボックスの話や、沖縄という立地・物流条件ならではの悩みをお伺いしました。
CONTENTS
Lab BRAINS 若林: 本日はよろしくお願いいたします!
tayo 熊谷: グローブボックスのお話をいただけるとのことですね。まず、このお写真いただいている物に関して教えていただけますでしょうか?
中川: こちらはNEDOの予算で買った、MBRAUN(エムブラウン)のグローブボックスです。現在うちの研究室ではグローブボックスを4台持っているのですが、これが一番新しいです。
*中川先生は「移動式FC用水素源アンモニアボランの社会実装に向けた先端技術開発/水素利用等高度化先端技術開発/移動式FC用水素源アンモニアボランの社会実装に向けた先端技術開発」の代表者としてNEDOに採択されている
(NEDO 燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業)
熊谷: HPには「溶媒用」「非溶媒用」の二点が掲載されています。何台もあるのは扱う試料によって使い分けているのですか?
中川: 基本的にはそうです。また、NEDOで購入したMBRAUNのグローブボックスに関してはNEDO以外の研究には使えないので、研究内容で使い分けている部分もあります。
若林: その辺りの使用目的の規定って結構厳しいんですか?何に使用したか、誰かがチェックしに来るのでしょうか。
中川: 厳しいですね。監査が入ります。
熊谷: お金を出す側の気持ちとして「別のことに使われると困る」というのは分かるのですが、汎用性の高い機器が特定用途でしか使えなくなっちゃうのは勿体無い気もしますねえ。
若林: MBRAUN以外のグローブボックスもお持ちなのですか?
中川: 今の研究室にはMBRAUNの他、UNICO(ユニコ)のものも置いています。グローブボックスの国内で出回っている主なメーカーとして美和製作所、UNICO、MBRAUNがあるのですが、全て使ったことがあります。
大学院生の頃の広島大学や、ポスドクとして勤務していた米国・ロスアラモス国立研究所など、それぞれ使っているものが違ったので一通り経験しました。
熊谷: 中川先生のHPを見るとグローブボックスには学生の自作のものもあるのですね。
中川: 卒研生には最初に装置等の自作を課題として与えたりしています。「無いものは作る!」が研究室のモットーです。
MBRAUNのグローブボックスは約500万円ですが、自作した場合、ボックス本体(10~100万程度)と循環精製システム(20~30万円)で150万程度で作れます。さらに自分でメンテナンスできるので、ランニングコストもかなり抑えられます。
若林: ランニングコストってそんなにかかるんですか?
中川: うちのラボは沖縄にあるので、サポートで修理の人を呼ぶのもすごく高いんですよね。「送料無料は無料じゃない」と沖縄の人はよく言いますが、やはり追加で費用がかかることが多いです。
若林: 「※ただし離島を除く」ってやつですね。
熊谷: 単純な質問なんですが、、作れちゃうもんなんですか?自作方法はどう学んだんでしょう。
中川: 大学院生の頃に触媒やモレキュラーシーブの入れ替えなど、メンテナンスを自分でやっていたので、基本的な仕組みは早い頃から理解していたと思います。仕組みが分かれば直すことも作ることもできます。
研究機器の自作は技術への理解を深められるので、学生に作ってもらうこともあります。
熊谷: ゴールが「論文の出版」だとそれまでの道のりが見えなくて辛いことも多いかと思うのですが、ものづくりは目に見える成果が着実に積み上がるので良いですね。
中川: その通りで、「ゼロからなにかを作り上げる」成功体験は学生の自信にも繋がります。イオン交換水の精製器なんかも自作しますよ。
若林: すごい、精製器を自作されている例は初めて聞きました笑
中川: 活性炭・ポンプ(風呂水ポンプと昇圧ポンプ)・イオン交換膜のハウジングセットがあればできます。
あと自作機器周りでは、琉球大学には金属工作室があるのでお願いすることもあります。グローブボックスの循環精製器の部品として男子トイレ用のU字型手すりを使っているので、その溶接をお願いしたり。
熊谷: 職人さんがいるんですね!僕が大学院で所属していた研究所も昔はガラス職人さんが居たらしいのですが、ポジションがなくなってしまったらしく・・当時作ってもらったガラス器具を大事に使っていました。
中川: そうですね。残念ながら、「ちょっとした実験機器を作ってくれる人」というのは、どこの大学でも今減っているのではないかと思います。
・中川先生は美和製作所、UNICO、MBRAUNのグローブボックスすべてを使ったことがある
・沖縄ならではの「自作した方がいい」事情も
・学生にも浸透する「無いものは作る!」マインド
いわゆる卓上の「簡易グローブボックス」と、先生がお使いの大型グローブボックス。UNICOさんの大型グローブボックスも取り扱いしているものの、アズワン社員としての日常で"見慣れて"いるのは前者でした。今回の機会もありアズワンECサイト「AXEL」で"グローブボックス"と検索すると、「価格帯」「メーカー」「材質(アクリル/ステンレスなど)」で絞り込めるようになっていて自社ながら「便利だなぁ」なんて感じました。知らなかったんかい、って言われそうですが。笑
中川: あと、作ったものが2台と、貰ったものも1台あります。
熊谷: 出身研究室から引き継いだとかですか?
中川: 厳密には違います。広島大学の先輩が独立して北海道大でPIをやっているんですが、広島大学のグローブボックスを持っていったんですよ。でも新しくいいのを買ったので、それを私が貰いました。なので、このグローブボックスは広島、北海道、沖縄と旅してきたことになります。
林: 大学間の実験機器の移動って簡単にできるんですか?売るとなると大変なんですかね?以前大学の方に、買ったは良いがあまり使用していないような機器の処分の際、売るとなると手続きが非常に煩雑で泣く泣く廃棄しているという話を聞きました。
中川: おっしゃる通り、書類作業が大変です。固定資産になるので物によっては減価償却とかも関わってきますし、大学ごとのルールも色々違うので。売るのは特に大変ですね。企業からもらう場合は寄付の扱いになるので、もっと単純です。
林: その辺りの機器の融通などもアズワンとしては踏み込んでいきたいところですね。最近アズワンでは中古の取り扱いを始めたりと、必ずしも新品を売るというだけではないので。何か中間業者を挟むことで大学間での機器の受け渡しがやり易くなるのなら考えていきたいな、と思います。
熊谷: 研究者の書類作業は日本の研究の律速要因の一つなので、是非頑張ってください!笑
熊谷: 先生は琉球大学のご所属です。「沖縄で大学院生活を送る」ということに興味ある学生もいるかと思うのですが、本土との環境の違いなど伺えますでしょうか?
琉球大学のYouTube。キャンパス内にジャングルがあるのは琉球大学だけ。
中川: まず、本土とは生活環境が色々と違います。例えば食費一つとっても、イカ、カツオ、マグロ、肉、酒などは安い一方で、本土から仕入れているものは高いです。また、最低賃金が安いので、学生はアルバイトに困っていたりもしますね。
熊谷: 最近だとコロナ禍もあり、逆にリモートのアルバイトやインターンも増えたような気もするのですが、その辺りの恩恵はないんですかね?
中川: 情報系に強いとそういった選択肢もあるのかもしれませんが、理学部の化学科では情報系に弱い学生も多いですからね・・・。沖縄はかなりコロナの影響が大きかったので、研究室に人数制限が出て、卒研の内容もリモートに対応したり、工夫しないと研究が進まない状況でした。私は教育やアウトリーチに関する活動もいくつか行っているのですが、その辺りも工夫が必要でした。
若林: 実験室での実験が必須な分野だと、教育のオンライン化は難しそうですよね。どのような対応をしていたんですか?
中川: ちょっと無理やりですが、小学生や高校生向けに家で実験させたりしていました。あまり危険でない試薬の水溶液を冷凍庫に入れて融点や凝固点を見る、解析させるなどは自宅でも可能です。沖縄の事情として、やはり大人も子供もサイエンスに触れる機会が少ないんです。親子で参加して、親の方が喜ぶこともあります。
*中川先生は「身近な化学」という高校生向けの公開講座を行っている。
若林: 素晴らしいですね!LabBRAINSでは教育系の企画も計画しており、参考にさせていただきたいです。
熊谷: 最後に、学生に向けて琉球大で大学院生活を送る魅力を教えていただけますか?
中川: やはり最大の魅力は沖縄という地でしょうね。北海道から大学に入学するような学生もほぼ毎年いますし、自然の中で遊べる方にはとてもいい環境なのではないかと思います。
そして「研究以外にすること」が都会に比べてあまりないので、結果的に研究とそれ以外の時間のメリハリがうまく付けられるのかも知れません。普段は真面目に研究して、遊ぶ時はキャンプや釣りなどガッツリ遊ぶ、といった生活を送る人が多いと思います。
琉球大学の中川先生の研究室では外部からの大学院生を積極的に受け入れております。
この記事で中川先生の研究に興味を持った方は、ぜひお気軽に研究室見学など問い合わせてみてはいかがでしょうか?
●琉球大学 助教 中川 鉄水先生
水素エネルギー社会の実現に向け、アンモニアボランを中心とした水素貯蔵材料の研究を行う。趣味の書道を活かした研究室のオリジナルグッズ作成や、教育/アウトリーチ活動などにも積極的。
●株式会社tayo 熊谷
博士(環境学)の元深海微生物学者。今は株式会社tayoの代表として、研究者のキャリア問題の解決や産学連携の支援に取り組む。
●アズワン株式会社 林
企業の研究職や産学連携のコンサルティング職を経てアズワンに入社。Lab BRAINSでは大学発ベンチャーの取材などを主に担当。