【あなたのキャリアvol.4】生命とは何かを問うことで、創薬・医療へ還元する

2022.03.10

この連載は様々な”人物”に焦点を当て、その人のこれまでのキャリア、これからのプランを寄稿いただく企画です。多種多様な立場・業種の方々の”これまで”と”これから”を聞くことで、自分の将来に悩むすべての皆さまの”これから”を考える助けや、刺激になるような連載を目指しています。

さて、第4回は、名古屋大学大学院理学研究科で研究員をされている秤谷隼世さんに寄稿いただきました。研究者として薬学・医学・生物学・化学など様々な分野にわたるテーマで研究を行われる一方で、学生時代から高校生への出前授業を行うなど、積極的な教育活動への参加も行われています。また、最近では愛知県若手研究者イノベーション創出奨励事業にて表彰されるなど、目覚ましい活躍ぶりの秤谷さんのキャリアを存分に執筆いただきました。秤谷さんの多岐に渡る活動から、皆さまのキャリアのヒントが得られれば幸いです。

それではどうぞ!

【経歴】

お名前:秤谷隼世(はかりや・はやせ)さん
〇2012. 三重県立伊勢高等学校 卒業.
〇2016. 慶應義塾大学薬学部 首席卒業.
ー学士研究:COPDに対するドラッグ・リポジショニング(DR)研究
ー産総研 :IT創薬(バーチャルスクリー二ング)
〇2016-2021. 京都大学大学院 医学研究科 / 日本学術振興会リーディングプログラム
ー修士研究:iPS細胞培養基材としてのペプチド修飾ゼラチンナノファイバー
ー博士研究:自己集合性分子による細胞表面修飾
〇2021- 現在. 名古屋大学大学院 理学研究科 研究員

核酸医薬の研究者。大学院在籍時は、専攻として細胞表面修飾技術の研究を進める傍ら、副専攻として文部科学省リーディングプログラムを履修して医工連携プロジェクトに取り組む。また、京都大学で受講数 No.1の高大連携講師(コーディネーター)として高校生のキャリア支援にも取り組む。現在は大学で核酸(DNA・RNA)の薬物送達研究に従事するほか、Institute for Life Discovery: SeeD にて代表をつとめ研究会を主宰。講演・執筆活動、医療/ヘルスケア関連事業のコンサルティング・アドバイザー業務、イベント企画、コンテンツ制作などを通して医療・薬学の課題解決に躍進している。

【自己紹介】

核酸医薬という分野で研究をしている秤谷隼世(はかりや・はやせ)と申します。生命現象の営みを、化学の力で理解し、制御しようとする学術領域にいるつもりです。今は名古屋大学で研究員をしていて、近い将来は海外で研究しようと企んでいる最中です。これまで研究室や大学・学部を渡り歩いてきたので、視点は他の研究者より多く持っていると自負しています。ご自身の専攻分野/キャリア/進路に迷っている方の力になれるかもしれません。

なお趣味は、マッチ棒1本から始めている「物々交換」です。将来的にオフィスとか有名な投資家の前でピッチする権利とかを手にして、若手世代の活躍の機会なんかに繋げられたらなと思いながらのんびり交換を続けています (交換者を常に探してます!)。
Twitter:https://twitter.com/hayase_hakariya
Blog: https://h-hakariya.blogspot.com/

【田舎の高校生、東京へ:学部のドラッグ・リポジショニング研究】

私は高校を卒業する18歳まで、三重県伊勢市という田舎の街で生まれ育ち、いわゆる「都会」で得られるような情報には一切触れないまま受験戦争に突入しました。何も知らない高校生ながら、「志」だけは人一倍大きかったので、進路の選択を迫られた自分は、「未来永劫人類を救い続けることのできる薬を創る」ことを生涯の目標にし、都内薬学部への進学を選択しました。どうせなら、人々の役に立ち、社会に大きな影響を与えられる研究者になりたかったのです。
そうした高校時代の野望は大学に入ってからも変わらずでした。学部での研究室選択では、最も創薬(薬を創って世に出すこと)に近い研究をしていた「創薬科学講座」という講座への配属を希望しました。幸い、私は学部生時代に同じ学部の誰よりも勉強していたので、あっさりと希望する研究室への配属が決まりました。
そこで私が取り組んだのは、ドラッグ・リポジショニングと呼ばれる研究開発領域です。簡単に言えば、既存薬(すでに承認されて市場に出ているお薬)を、別の疾患に対して適用しようという考え方の創薬手法で、①すでに承認されているので人に対する安全性が新規の化合物と比べて高い ②これに伴い、開発に伴う経済的・時間的コストが大幅に短縮可能 ③製造方法までもが確立されている場合がある といった観点から当時注目され始めていました。私の場合、「胃薬」を肺に関連する疾患(COPD)に適応する取り組みを展開し、試験管・細胞レベルで化合物の評価を行なっていました。

ドラッグ・リポジショニング研究の利点


当時、研究室の見出した化合物がPhase2の臨床試験に入る/入らないくらいの段階だったと記憶しています。大学の研究室からここまで持っていけるというのはほとんどないと思うので、今思えば貴重な経験でした。確かに、その化合物はとても活性が高く、かつ、再現性よく、試験管・細胞レベルで効いていて、「このレベルの化合物がお薬になるのか!」という手触り感は今でも鮮明に覚えています。

学部生の時は、産業技術総合研究所(産総研)に出向してIT創薬の一助を担うなどもした

【「研究室が、なくなります」:2週間の受験勉強で京大の医学研究科へ】

学部時代の研究が大変輝かしい経験に見えますが、実は諸般の事情により、学部生時代の研究室が4年生の夏に解体されました。推薦でそのまま慶應義塾大学大学院薬学研究科から合格を頂いていたのですが、研究室がなくなってしまって急遽、別大学の受験を余儀なくされました。
既に出願が終わっている大学院が多かったのですが、京都大学大学院 医学研究科と東京大学 農学生命科学研究科は出願数日前でギリギリ間に合いそうでした。やっぱり人の命を救うという志がどうしても捨てきれず、京都大学(医学研究科)の方が自分には合っている!と思いました。そんな調子ですから、慌てて新幹線に乗って京都へ飛び、「研究室がなくなりました。受け入れていただけないでしょうか。」と教授の前で直談判して、その場で受け入れ承認のハンコをもらいました。
そうして修士・博士では、学部生時代とは少し異なる分野、ケミカルバイオロジーという領域に入り込みました。ケミカルバイオロジーとは、有機化合物をツールとして用いて生命現象の営みを解釈しようとする学問領域を指します。私はそこで、研究室の有していたユニークな生理活性分子を用いて、細胞表面に機能性タンパク質を修飾するという研究を行い、再生医療の新たな可能性の1つを示しました[1,2]。

博士課程での筆者の研究概要. 細胞をタンパク質コーティングすることで、転移がん細胞特有の機能である ①免疫回避、②組織浸潤、③血管新生 の能力を付与することに成功した.

【高校生のキャリア支援:高大連携事業で、京都大学人気No.1の講師に!】

さて、ここで脱線です。学部生の時は超真面目に学問に励んでいたので、大学院(修士・博士)での5年間は、「意図的に」けっこうな寄り道もしていました。そこで、寄り道プロジェクトの一部を少しお話しさせてください。

博士課程に進学した頃、京都大学の「入試企画課」と呼ばれる部署とご縁があり、高大連携事業のお手伝いをさせていただけることになりました。具体的には、学びコーディネーターとして授業を希望する高校に対して1コマ約60分の出前授業(コロナ禍においてはオンライン授業)を行なっていました。自らの主専攻である研究テーマのほか、副専攻で取り組んでいたLINE上のチャットボットによる途上国での旅行者下痢病の課題解決事業[3]、探求学習のノウハウなど、多岐にわたるテーマを日本全国の高校生たちに向けてお話するという、大変貴重な経験をさせていただくことができました。手前味噌で恐縮ですが、研究内容が注目されていたのと、テーマのキャッチーさなんかもあり、私の授業は大変評判をいただいていたらしく、受講いただける高校の数が京都大学のコーディネーターの中でもNo.1だったそうです。
こうした経験もあり、教育に対する自分の視座を高めることができました。教育現場に直に触れることで、若者の力で事業なりモノなり未来社会を創っていく「熱」の大切さを再認識し、教育は自分のライフテーマの一つになるだろうなと身をもって感じる経験となりました。大変栄誉なことに、現在も高校や学習塾などから講演依頼をいただくことがあります。

京都大学の講堂で、高校生に対して講義をする秤谷さん

【現在の研究:核酸医薬のデリバリープラットフォーム構築に向けて】

そうこうしてちょうど1年ほど前の2021年3月、ついに博士号をとりました。同年4月からは名古屋大学大学院 理学研究科で核酸医薬の研究を始めています。
現在私が取り組んでいるのは、核酸医薬の中でも、オリゴ核酸と呼ばれる比較的分子量の小さい「アンチセンス核酸」や「siRNA」の研究です。比較的分子量が小さいといっても、20塩基程度の長さを有しますので、一般的な低分子医薬と比べると10-20倍くらい大きな分子になります。
分子量が大きいと当然問題になってくるのは、その化合物が細胞の中に入るかどうかです。現在、核酸医薬の分野では数多の製薬会社・研究者らが凌ぎを削って「核酸医薬の細胞内送達手法」を研究しています。私もその一人で、特に研究室の強みである化学的なアプローチによってオリゴ核酸の細胞膜透過性を向上させる取り組みを行なっています。具体的には、オリゴ核酸の末端にジスルフィドのリピート構造を付与すると、その細胞膜透過性が向上することが過去の研究からわかってきていて[4]、現在は構造最適化に取り組み、さらなる膜透過性の向上と物性の改善を行なっています。

ジスルフィドのリピート構造によるオリゴ核酸の直接取り込み


研究室内では有機合成化学者と生物学者が半々くらいで毎日コラボレーションしながら実験をしているので、合成されてきた世界に唯一の新規物質を、すぐに生物学者たちが細胞レベルで評価し、うまくいきそうだったら医学部の先生に動物実験をお願いするといったようなことが日常茶飯事で行われています。イノベーションを社会へ還元するためのパイプラインが確立されつつある環境で、毎日が非常にエキサイティングです!

【今後挑戦したい「RNA編集」】

現在個人的に、核酸分野の中でも特に「RNA編集」という現象に興味を持っています。
CRISPR-Cas9のノーベル賞受賞なんかで一般的に話題になることが多いのはゲノム編集ですが、それとは別に、生体内の機構でRNAレベルでも塩基の編集が起きることが、1980年後半くらいから知られ始めています。遺伝子編集では、ゲノムに永続的な変化を引き起こしてしまうことの安全面/倫理面での是非が問われたりします。一方、RNAレベルで塩基に変化を引き起こすことは一時的であるため、より安全かつ倫理的だと考えられています。
加えて、細胞がもともと有している酵素が塩基置換を担っているので、これをうまいこと「目的とする部位(疾患標的のmRNA)」に誘導することのできるguideRNAと呼ばれる比較的短いRNAを導入するだけで、細胞内の機能を制御できるようになるかもしれないのです(!)。まだ「RNA編集」を機構とした核酸医薬は世に出ていませんが、10年後くらいにはかなり現実的な技術になっていると思っています。自分も面白いことができないかとあれこれ画策しており、現在ある海外の研究室と受け入れについて打ち合わせをしているところです。

【最後に】

今回の企画を通して自分のような若手にお声がけいただけたのは光栄でした。まだまだキャリアの道半ばですので、ぜひ読者の皆様とも一緒に今後の生命科学の未来を切り拓いていければと思います。
もし、記事を読んで気になったことやディスカッション・お話してみたいこと、キャリアの相談・講演依頼などがあれば何でも気軽にTwitter・SNS等からご連絡いただければと思います。今回書けなかったことも多いので色々お話しできると思います。

参考文献
[1] Hakariya, H.; Takashima, I.; Takemoto, M.; Noda, N.; Sato, S.; Uesugi, M. Non-Genetic Cell-Surface Modification with a Self-Assembling Molecular Glue. Chem Commun 2021, 57 (12), 1470–1473.
[2] Takashima, I.; Kusamori, K.; Hakariya, H.; Takashima, M.; Vu, T. H.; Mizukami, Y.; Noda, N.; Takayama, Y.; Katsuda, Y.; Sato, S.; Takakura, Y.; Nishikawa, M.; Uesugi, M. Multifunctionalization of Cells with a Self-Assembling Molecule to Enhance Cell Engraftment. Acs Chem Biol 2019, 14 (4), 775–783.
[3] 公益財団法人KDDI 財団, タイ王国の薬剤耐性菌問題の解決に向けて
https://www.kddi-foundation.or.jp/interview/case03.html
[4] Shu, Z.; Tanaka, I.; Ota, A.; Fushihara, D.; Abe, N.; Kawaguchi, S.; Nakamoto, K.; Tomoike, F.; Tada, S.; Ito, Y.; Kimura, Y.; Abe, H. Disulfide‐Unit Conjugation Enables Ultrafast Cytosolic Internalization of Antisense DNA and SiRNA. Angewandte Chemie Int Ed 2019, 58 (20), 6611–6615.

いかがでしたでしょうか。
研究室が急になくなるというピンチを乗り越えて、学びや自分が目指すものへ貪欲に活動される姿に、背中を押された方も多いのではないでしょうか。今後は海外での研究活動も視野に入れられているということで、グローバルなご活躍も楽しみですね。
さて、次回はどのようなキャリアのお話を聞くことができるのでしょうか・・・。
次の更新をお楽しみに!