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アカデミスト株式会社は2021年9月1日、若手研究者を対象とした月額支援型クラウドファンディングのプロジェクト「academist Prize」を開始しました。アズワン株式会社は日本の未来を支える若手研究者を応援したいという思いに共感し、今回のプロジェクトにスポンサーとして参画しております。
「academist Prize」に採択された若手研究者の研究内容や研究に対する思いなどをインタビューしましたのでその内容をお届けします。
今回は老化のメカニズムを研究し、健康長寿社会の実現を目指されている坂本さんの研究のお話を伺いました。
CONTENTS
まず老化とは何か?についてご説明しますと、“個体の老化”と、“細胞老化”の2つの切り口があります。
“個体の老化”は、生物が個体としてどんどん老化していくというもので、その生物が生まれてから高齢になるにつれ徐々に生存率が下がっていく状態を指します。一方、“細胞老化”は、生物を構成する細胞自体の老化のことで、細胞は分裂して増えていきますが、その細胞分裂が不可逆的にとまってしまう状態のことを指します。
通常、細胞は細胞分裂という現象が細胞周期というサイクルによって周期的に繰り返し、新しい細胞を分裂して増やしていきますが、何らかの原因でこの分裂が止まってしまい再開されずにそのまま細胞周期が止まってしまうと“細胞老化”の状態になります。この“細胞老化”を起こしている細胞が組織や臓器に蓄積していくことで、臓器などが衰えていく、またはその部位が癌化していくと言われており、結果的に“個体の老化”につながっていきます。
この“細胞老化”を引き起こすメカニズムは色々と研究が進んでいますが、まだ明らかになっておらず、私の研究では、DNAのゲノム(遺伝子情報)に着目して老化のメカニズムの解明を進めています。一般的に、細胞分裂をする際のDNAの複製時のストレスやDNAがダメージを受けた時の修復過程でたびたびDNAの組換えが行われますが、その組み換えを安定化する特定の遺伝子があり、それを増やしてあげると細胞分裂の回数が増え寿命が延びるといった事象も発見されています。
このような事例からも、ゲノムの不安定性という異常がおこりやすい状態が、老化を引き起こしているのではないか?と考え、老化のモデル生物として“出芽酵母”を利用し、ゲノムの異常が老化を誘導する機構を明らかにしようとしております。
“出芽酵母”は、ヒトと比べ単細胞生物で遺伝子情報も単純なのですが、だからこそ生物に昔から備わっている非常に重要な部分、つまり細胞が分裂を繰り返していく細胞周期の制御や、DNAの複製・修復など、生命の根幹にかかわることがヒトを含む多くの生物と共通している部分が多いことが分かっています。今までヒトの細胞について明らかになったことは、実は“出芽酵母”を利用した研究で判明したことがかなり多く、現在も様々な研究で出芽酵母は頻繁に使用されています。
では、ヒトの老化研究で、なぜ“出芽酵母”に着目したのかというと、2つの理由があります
出芽酵母の寿命の測り方は2つあり、1つは経時寿命という、細胞分裂が止まってから、死ぬまでの時間を測る方法で、もう1つが複製寿命という、生まれてから死ぬまでに何回複製・出芽したか(子供が出来たか)を測る方法です。
現在所属研究室では主に複製寿命を年齢の指標として、特定の遺伝子のはたらきを変化させて複製の回数を数えることで、出芽酵母の寿命が延びた・短くなったを判定しています。
出芽酵母は短命で、細胞にもよりますが1.5~2時間で出芽し、平均して20回程度出芽したら死んでしまいます。もし何かのサプリメントでヒトの寿命が延びるかどうか研究する、といった場合、ヒトで検証すると80歳~90歳になるまで結果が分からず事実上検証が難しいですが、出芽酵母は長くても数日の寿命なので結果がすぐにわかります。
つまり、出芽酵母は年齢がかぞえやすく寿命が短い、という点で老化の研究に適しています。
現在、出芽酵母を利用し、“ゲノムの不安定性”という特徴に着目し、老化のメカニズムを研究しています。“ゲノムの不安定性”とは簡単に表現しますと、DNAに傷や変異がおこりやすい状態のことをいいます。とりわけDNAの中でも、リボソームDNAという領域があり、ゲノムが最も不安定化しやすい場所として注目されています。
体の中には、タンパクを作る為に非常に重要な物質であるリボソームRNAという物質があります。このリボソームRNAの設計図がリボソームDNAという遺伝子配列としてDNAの中に存在しており、出芽酵母ではその遺伝子配列が平均150回程度、同じ配列が繰り返しコピーされています。その反復の中で、コピー数が増えたり減ったりする特徴的な機構があり、その増減がリボソームDNAの不安定化につながり、その不安定化と寿命が密接に関係していることが分かってきています。
そして実際の実験でも、出芽酵母の老化細胞から、DNAを大きさごとに電気で分離する実験でなぜか分離できないDNAが確認されました。このことから、そのDNAが未知の異常構造を有していることが考えられ、さらにそのDNAを解析するとリボソームDNA領域のDNAであることが分かったのです。
なぜ分離できなかったか?はまだ解明されていませんが、老化した細胞ではリボソームDNAを複製するときに組換えが起こるとDNAの鎖があちこちに侵入し、その組換えのステップが完了しないままでいることにより、異常なDNA構造となり、電気で分離されない未知の状態になっているものかもしれないと考えています。
そこでDNAを観察できる特殊な顕微鏡によってDNAの異常構造の正体を明らかにし、得られた構造をヒントにその発生機構を調べることで未知の老化メカニズムの解明に取り組んでいます。
老化メカニズムを解明し、人類の健康寿命を延伸させ、病気にならず元気に老いていくことができる真の健康長寿社会を作り上げることです。
我々の平均寿命はこの50年間で男女共に10歳以上も延びていますが、健康でストレスなく病気にならずに生活できる健康寿命はそれほど伸びておらず、男女平均で10年以上の乖離が平均寿命と健康寿命の間にあります。
現在取り組んでいる研究で得られた知見を、マウスやヒト等の哺乳類細胞に応用し、早期老化症やがん等の加齢性疾患のメカニズム及び治療法の解析に向けて研究を進めていきたいと考えています。
そして、創薬が視野に入ってきたならば、企業との共同研究を積極的に推進し、研究を社会に還元致します。このようなプロセスで最終的には老化の予防創薬を実現し、人々の健康寿命の延伸に貢献したいと考えております。
DNAを顕微鏡で見ることはできますが、老化して異常化したDNAを顕微鏡で明らかにしたという事例は恐らく世界のどこにもありません。私がやろうとしている実験のやり方、研究のアプローチに関してきわめて斬新ではある一方、予想外のことが起きた時に失敗なのか?新しいデータなのか?を見極めていくのが大変です。
例えば、特殊な分析装置を使って測定する場合、その結果が正常なのか偶然そう見えただけなのか、はたまた機器の故障なのか、判別が難しいことがあります。
このような時に、同じ装置を取り扱ったり同じような実験をしたりしたことがある研究者と情報交換が出来るといった“コミュニティの場”があると便利だと思います。
クラウドファンディングに挑戦する意義として、研究を広め研究の社会的価値を向上させることがあります。これまでアカデミア以外の方向けの講演活動に積極的に取り組んでおりましたが、その活動で伝えた思いは一過性で終わってしまいがちです。
一方でクラウドファンディングを通じた活動は支援者の方々に定期的に進捗を報告することができ、シェアホルダーのような存在として研究を見守ってくださる為、真に研究を知ってもらうにはこのような活動への挑戦が不可欠と考えました。
そして、アカデミア以外の方々が応援したい研究を支援することが当たり前な世の中となれば研究者という存在の社会的価値が高められ、待遇が向上されるのではないかと期待しております。
いかがだったでしょうか?
老化のメカニズムを研究し、健康長寿社会の実現を目指されている坂本さんの研究は非常に興味深いですね。老化のメカニズムが解明されることで多くの人の命が救われる未来の実現に期待したいです!
坂本さんの研究を応援したい!という方はぜひアカデミストのサイトより支援をお願いいたします!
坂本さんのTwitterはこちら ⇒https://twitter.com/kohshirohskmt