#5 カイコから作られる有用タンパク質が人や動物の医薬品原料へ

2021.10.01

2020年、世界中で新型コロナウイルス(COVID19)が流行し、”スパイクタンパク質"、"経口ワクチン"といったこれまで聞き慣れなかった言葉が一般に知られるようになりました。ワクチン開発や創薬について、メディアで取り上げられる機会も増え、様々なタンパク質の製造が医療分野で求められているということをご存じのLabBRAINS読者も多いのではないかと思います。今回ご紹介するKAICO社は従来の工業的生産とは異なり、社名の通りカイコから独自の技術でタンパク質を生産する今注目の大学発ベンチャー企業です。

カイコ・バキュロウイルス発現とは?

弊社は九州大学農学部と工学部の技術を基にした大学発ベンチャーです
近年の創薬市場はバイオ医薬品のタンパク質製剤がメジャーとなり、治療薬がなかった疾病にも効果をもたらしていますが、それでも求められるタンパク質全てが生産できるわけではありません。この課題を解決できる組換えタンパク質の生産系にカイコ・バキュロウイルス発現法がありますが、この方法は容易にアクセスできないこともありメジャーな生産方法になっていません。
カイコ・バキュロウイルス発現方法は、目的タンパク質DNAをバキュロウイルスに挿入し、このバキュロウイルスをカイコ体内に注入することにより、ウイルスの増殖に従い目的タンパク質が発現されます。発現された目的タンパク質を体内から回収・精製します。

 

なぜ蚕を使って九州大学発ベンチャーが出来たのか?

九州大学は文部科学省のナショナルバイオリソースプロジェクトにおいてカイコ系統保存組織に選定され、機能性タンパク質生産における宿主としての視点から、世界に先駆けて系統整備と体系的な選抜育種を行ってきました。その結果、世界一般に存在する系統以外に豊富なカイコ系統を保持し、それら唯一保有の系統の中には、標準系統より高発現な系統や、標準系統では発現困難であるタンパク質を発現可能とする系統など存在します。多くの系統は、半世紀以上の交配記録(血統書:系図)が管理され、近交系として確立しており、宿主としての品質すなわち、均一性、安定性が担保されている上に、将来にわたって安定な供給が保証されています。
弊社はこの近郊系カイコの利用して、世の中にないKAICOでしか作れないような新しいタンパク質の開発、生産を目指し2018年に創業しました。

 

どんなものが作れるの?

カイコ-バキュロウイルス発現系は、真核細胞で最も効率の良いタンパク質生産系と言われています。またカイコはあらゆる動物の中でもっとも家畜化されたものであり、多くの利点があります。
①古来から大量飼育が可能な唯一の昆虫種であり、一頭一頭が小さなバイオリアクターとして機能します。そのため大量生産が、スケールアップまでの煩雑な条件検討なしに実施可能です。
②カイコは、哺乳類に近い修飾を受けた組換えタンパク質を得られる上に発現量が多い特徴があります。
③昆虫細胞発現に比べて昆虫個体を用いる生産系は、微生物汚染が少なく、生産条件の制御が容易です。
当社のカイコ-バキュロウイルス発現系は、分泌性タンパク質、膜タンパク質、細胞質、オルガネラ局在タンパク質などのタンパク質や抗原、抗体タンパク質の生産もできます。

 

COVID19 ワクチン開発

弊社は研究用試薬タンパク質、診断薬用タンパク質、動物用ワクチンの開発を進めてきました。その中にはノロウイルスVLP(ウイルス用粒子)も完成しており流行型の5タイプを試薬として販売しています。
また以前から豚のコロナウイルスワクチンを開発していた経緯から、昨年の新型コロナウイルス(COVID19)の世界的な流行に何か出来ることがないかと考え、COVID19のワクチン開発にトライしました。九州大学主導の共同研究により、3月の開始から2ヶ月後の2020年5月には 、本プラットフォームにてCOVID19のスパイクタンパク質を開発完成しました。
現在開発したCOIVID19スパイクタンパク質は試薬として販売していますが、そのスパイクタンパク質を利用し「新型コロナウイルス抗体測定サービス」を2021年9月から開始しました。
またワクチンの開発を目指し、更に研究開発を進めており、将来的には経口摂取でのワクチンを目指しています。

経口ワクチン

経口ワクチンは今までのタンパク質ワクチンでは前例がなく、以下のような注射による摂取に比較して多々のメリットがあると考え、開発しています。
・今回米国で開発されたCOVID19ワクチン注射剤は極低温での冷蔵保管・輸送が要求されており、使用時には専門的教育を受けた医療従事者が必要でです。そのためインフラの整っていない地域でのロジスティック(流通・管理)や摂取に課題がありますが、経口摂取ワクチンの場合は、ドライカーゴで対応できるため簡易輸送が可能であり、また医療関係者がいなくとも自己接種可能です。
・継続的かつ定期的にワクチンを摂取する必要がある場合に、注射接種より経口ワクチンは人々への負担が少なく、また継続的かつ効率的に免疫を獲得することへ貢献できる。
そして、動物用ワクチン数種類とノロウイルスに対してマウス実験で経口ワクチン効果が確かめられたので、本年4月に「経口ワクチン」の特許を大学と共同で出願しました。

 

カイコ・バキュロウイルス発現方法はなかなか馴染みがないと思われますが、この発現方法は多くのタンパク質を生産できる可能性があります。弊社の事業は開発・生産プラットフォームなので企業、大学の研究者方々の欲しいけど手に入らないタンパク質を一緒に開発・生産をさせて頂き、世間の役に立つことを目指しています。
また自社開発案件として経口ワクチンの開発を進めるとともに、動物配合飼料や配合養殖餌としての活用を検討しています。ご興味をお持ちの方は是非お気軽にお問合せください。