アカデミックから民間企業へ転職について考えてみる 第三回

2021.07.26

アカデミックから民間企業へ転職した場合、入社後にギャップを感じる人が少なからずいます。もちろん、どんな転職でも慣れるまで戸惑うのは当然ですが、特にアカデミアで長く研究に従事されていた方にとっては、職場環境や組織文化が大きく変わるため、選考段階で企業側とよくコミュニケーションをとっておくことが重要になります。

 

はじめに、選考中に求職する側が確認しておくと良いことについてまとめます。求人票で基本的な事項は確認できますが、入社後に期待される役割や実態について知るためには、積極的に情報を収集していきたいところです。例えば、今回の募集が「低分子医薬品候補化合物の分子設計、及び、合成に関する研究員」の募集であったとします。

 

まずは今回の募集背景について聞いてみましょう。社内に経験者がいないからなのか、新規のテーマでゼロからの募集なのか、社内に人材はいるが事業拡大をするためなのか、そこには何が自分に期待されているのかを知る大きなヒントがあります。また、部署の人数やメンバーのバックグラウンドについても同様です。

 

新卒生え抜き社員が多いのか、中途採用者が多いのか、同様の専門性を持った人材が揃っている環境なのか、部門長はこの分野の専門なのかそうでないのか、このあたりも企業風土や状況理解に役に立ちます。事業内容や研究テーマが自分の専門とフィットしていること以上に、その会社の求めるものと自分のキャラクターがあっていることがハッピーな転職であるため、選考中に十分にコミュニケーションをとってみてください。

 

次に、アカデミアでの職位と、その役割の説明について考えてみたいと思います。職務経歴書をみると、「講師」や「博士研究員」、「特任助教」など、ご自身のポストを書くことになると思います。ただ、民間企業では見慣れない職位のため、企業の人事担当者も何となくイメージはあるものの、はっきりとどのような役割なのか伝わっていないことがよくあります。

 

「講師」と「助教」がどう違うのか、「博士研究員」と「任期付き教員」がどう違うのか、説明できる人は少ないのではないでしょうか。また、いわゆるポスドクのことをある大学では「特定研究員」と呼ぶが、別の大学では「博士研究員」と呼ぶなど大学ごとに呼称が違っていたり、「日本学術振興会特別研究員」というポストもあったりするため、アカデミアの組織に詳しくない人にとってはなかなか理解するのが難しいということは踏まえておいたほうが良いと思います。

 

 

そうした前提のもと、職務経歴書にはご自身の職位が担っていた役割を分かりやすく記載することが望ましいです。例えば、現在は助教として大学にいらっしゃる場合、「〇〇大学の助教として主には〇〇の研究に従事し、一部、学生の授業も担当しておりました」等、ご自身の従事される業務には「研究」と「学生の教育」があり、比重としては「研究」が主であるということを明確にするというイメージです。

 

更に、同じ助教であっても、研究室の大きさによっても担う役割は異なるため、所属される研究室の全体人数や、「研究」は何名のプロジェクトチームなのかなど、規模感が分かる数字も入れておきたいところです。「研究室は20名ほどで、〇〇教授の指導のもと、〇〇というテーマのプロジェクトで5名のチームで行っています。私以外には博士研究員が1名、研究員が1名、技術員が2名で、このプロジェクトチームでの役割としては、全体の進捗管理と教授へのレポーティング、技術員の方のシフト管理も行っています。」というような内容で伝えていくのが良いと思います。

 

続いて、「マネジメント」経験の伝え方についてです。マネージャーの募集ではなくても、求人票の中の歓迎する要件の中に「マネージャー経験」と記載してあることはよくあります。その際、マネジメントという言葉が独り歩きしてしまい、お互いにその意味を誤解したまま入社してしまうケースがあり、注意が必要です。繰り返しになりますが、アカデミアと民間企業では組織の目的や役割が異なるため、「マネジメント」が担う役割が変わってくるのは当然のことです。そもそもマネジメントとは何でしょうか。

 

マネジメントは日本語では「管理」と訳されることが多いのですが、管理とは「ある基準などから外れないように全体を統制する』という意味をもっており、ニュアンスが異なります。(中略)そして、成果こそがマネジメントには求められます。(「人材マネジメント入門 人事の基礎をゼロからおさえておきたい人のための理論と実践」100のツボ/2020.株式会社ディスカバー・トゥエンティワン)

 

 

つまり、マネジメントには「ある基準から外れないように全体を統制すること」と「組織が成果を出すためになんとかすること」の2つの側面があります。現在はどの組織においても後者のマネジメントである場合が多いのではないかと思います。

 

「組織が成果を出すためになんとかする」のがアカデミアであっても民間企業であっても、マネジメントの役割であることは変わりありません。ただ、この成果の考え方が、アカデミアでは「研究での成果」であり、民間企業では「利益や売上」という違いがあります。

 

アカデミアの場合は、大学や研究室にもよりますが、組織が研究成果を出すためのマネジメントの多くの部分は教授や准教授が責任を持ち、役割を担う場合が多いのではないでしょうか。研究室に所属している研究員は教授や准教授の運営方針やルールを理解した上で、実務的な指示や、ラボメンバーや試薬・備品の管理を行うスタイルの方が、全体としては多いように思います。

 

むしろ、若手が多いポスドクなどの博士研究員や助教にはマネジメントよりも、研究者としての成果が求められる環境であると思いますので、研究成果をだすのが目的のアカデミアという組織においてはそれが当たり前なのかもしれません。多くの大学の場合、研究者の評価基準の中に論文などの研究業績以外に、「ある基準などから外れないように全体を統制する」マネジメントである、後輩の人材育成やフォローアップなどは個人に委ねられている場合も多いのではないでしょうか。

 

もちろん最終的に研究業績を残すためには、協調性やメンバーのマネジメントも必要になってくるのだと推測しますが、あくまで研究業績という結果があってこその評価なのではないかと思います。

 

このように組織設計が異なるため、民間企業にてマネージャーとしての経験を伝える場合は、ご自身の経験を「管理」と「(組織が成果を出すためになんとかするという意味での)マネジメント」に分けてお話するのが良いのではないかと思います。そのようなマネジメント経験がない場合でも、研究室全体が良くなるような改善提案や、後輩やメンバーへのフォローアップなどを自主的に実施した等の実績があれば、伝えられるように準備しておくことをお勧めします。

 

また、企業がアカデミア出身者を中途採用で探している場合、マネージャー募集の枠であったとしても、その分野の深い知識や経験が社内に不足しているために、外部に求める場合が多いです。その際、面接官はその分野の専門家としての回答を期待していると思いますので、自分の研究だけでなく、その研究の国内外の動向や最新技術情報、注目している論文などについては事前に調べて整理しておくことが良いと思います。

 

また、ポイントしては「その研究経験が企業の利益にどのように繋がるのか」というストーリーでお伝えするということも重要です。面接官はその分野の専門ではない場合も多いので、学会発表のような専門的な話だけをするのではなく、他分野の人が理解できるように表現を工夫し、相手の企業にどう貢献できるかを具体的にイメージさせるような伝え方をすることが大切です。

 

以上、アカデミアからの転職を考えるときの参考になれば幸いです。