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海とくらしの史料館(通称海くら)は、鳥取県境港市にある水産生物の剥製を多く展示している博物館だ。私は2018年からこの海くらでほぼ毎年開催されている企画展「マンボウ祭」で講演をしたり、展示に協力してきた。今年も「マンボウ祭2025」として、2025年4月26日~5月25日の期間、約一ヶ月に渡り、マンボウ特化型企画展として開催される。本サイト「ラボブレインズ」でも、2023年に行われたマンボウ祭、2024年に行われたマンボウ祭の様子を過去の記事で紹介してきた。今年の「マンボウ祭2025」開催告知も兼ねて、先日4月中旬に事前打ち合わせに行ってきたので、今回の「マンボウ祭2025」の見どころを紹介しよう。
改めて、海くらは日本最大のマンボウの剥製が大きな目玉の一つである博物館だが、他にも水産生物の剥製を多数展示している。境港観光ガイドのサイトでは、「水のない水族館」と称されているように、水槽で飼育している生物はいないが、魚類を中心とした躍動感のある様々な水産生物の剥製を観察することができる。剥製の点数は約700種4000個体! 天井から釣り下がっている剥製もあるので、是非天井も見ながらじっくり歩き回って欲しい。
少し話は変わるが、X(旧Twitter)上では2025年4月中旬に、「トゲトゲした魚を軒先に吊るす地域がありその理由は何だ?」という疑問ポストに対して、「魔除け」の風習があるというリプライが多数来て話題になった。確かに蒲原(1955)の116ページには「マツカサウオやハリセンボンは形がいかめしいので魔除けとして玄関に吊り下げることもある」との記述があった。海くらはハリセンボンの剥製を数百個体天井から吊るしているので、魔除けの効果は絶大かもしれない……?
「マンボウ祭2025」の期間、1階と2階の一部がマンボウ祭仕様に変更される。1階はマンボウに関する現代の知識を知ることができ、2階は江戸時代における古いマンボウの知識を知ることができる。江戸時代のマンボウ絵図は毎年少しずつ増えており、今年も3点展示物が増える。江戸時代のマンボウ絵図は他では見られない資料も多く、来館者からの評判も高い。
マンボウ入りタコ無したこ焼きの試食は、マンボウ祭ですっかり定着したイベントで、今年は4月の26日、27日、29日、5月の3~6日、11日、18日、25日の各日14時から30名前後限定で振舞われる。海くらに来られる時は、是非この日この時間を狙ってマンボウ入りのたこ焼きを試食して欲しい。たこ焼きの中に入っているマンボウの体のパーツは腸である。弾力があり、魚っぽくない食感だ。今回の打ち合わせではマンボウ入りたこ焼きのPRのために、カメラマンによる撮影も行われた(写真は中の具材であるマンボウの腸を撮影中)。
海くらは剝製の展示がメインの博物館なので、生鮮物は基本的に扱わないのであるが、今年は幸運にも手頃なサイズのヤリマンボウが入手できたので、その個体の形態・解剖調査の実演を私が2025年5月10日に行うことになった。このヤリマンボウは、館長がヤリマンボウが売られているとの連絡を受け、即購入。2024年10月に隠岐諸島の沖で漁獲された個体だ。海くらには大きな冷凍ストッカーは無いので、私はてっきり漁協に協力してもらって保管させてもらっているものと思っていたら、なんと館長の自宅で冷凍しているという。家族に怒られたと聞いたが、イベントを面白くするために自宅でヤリマンボウを冷凍保存した館長の本気度が窺える……!!
私自身、日本近海に出現したヤリマンボウはあまり調査したことが無く、持っているデータも少ないので、これは良い機会になる。ホルマリン漬けになっていない生鮮個体なので、色々調査したいと考えている。形態調査・解剖調査の実演と上述したものの、実際は私がいつものように調査をするだけである。もしお客さんから質問などがあれば、その都度解説したいと思っている。調査したい項目は、外部形態の計測・計数・計量、解剖して内部形態の観察、コバンザメ類探し、寄生虫採取、食べられそうな感じだったら料理して食べる(これをお客さんに振舞うかどうかは未定)。また、軟骨ボール実験も行いたいと考えている。以前、探偵ナイトスクープから依頼があり、マンボウの軟骨を丸く削ってスーパーボールのように跳ねるのか?という実験を行ったことがある。その実験結果は澤井・吉原(2020)として論文にしたのであるが、マンボウ以外のマンボウ科の他種の軟骨でも、同じように軟骨ボールを作って床に叩きつけたら弾むかどうかは未解明のままだった。今回、別属のヤリマンボウでも検証してみようと思い、私はとてもわくわくしている。もしこの日に来られる方がいれば、是非、ヤリマンボウの軟骨ボールで遊んでみて欲しい。
翌日の5月11日は、私の講演イベントがあり、また今回は鳥取県境港市の水産系YouTuberのさかひこさんとコラボトークも行う。さかひこさんはYoutubeで、主に地元の水産食材を使った料理などを配信されている。さかひこさんの本職も水産関係で、養殖に詳しいとのことから、館長の提案で、マンボウの養殖ができるならどういうことが考えられるだろうか?ということについて議論を行うことになった。マンボウの養殖は私もあまり考えたことがないテーマであり、実際の魚を育てる現場の人と議論することは面白いと感じた。今回の事前打ち合わせとして、私(以下の写真の真ん中)と館長(右)とさかひこさん(左)の三者の顔合わせも行った。当日、どんな議論が展開するのか私にも全く分からない。興味を持った方がいれば、是非、イベント当日に聞きに来て欲しい。
海くらの
マンボウ祭
8年目
実演解体
養殖議論
【参考文献】
・蒲原稔治.1955.原色日本魚類図鑑.保育社,大阪,135 pp.
・澤井悦郎・吉原もも乃.2020.昔の漁村における子供の遊び文化の再現―マンボウの軟骨から作られたボールの検証.Biostory, 33: 102-107.