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バイオ系研究所で働くテクニシャン(技術員)でありながら漫画家として活躍するAyaneアヤネさんによる「ラボりだな日々」(※ラボりだ…ラボから離脱すること。ラボから帰ることの意を持つ造語)。
第11回のテーマは「(遺伝子名の)ネーミングセンス」です。
こんにちは!
ラボりだな日々、第 11 回のテーマは「(遺伝子名の)ネーミングセンス」です。
4 コマ漫画では Dr.F 先生や Ayane たちの研究チームで発見した、とある表現型を示す新規遺伝子変異の名前決めのお話をテーマに描いてみました。Ayane の案はあまりに中二病的な発想で絶不評だったのですが(当時はイケる!と思っていました…)、今回は遺伝子の名前がどうやって決まるのか?や、面白い遺伝子名について、少しお話ししようと思います。(いろいろな事例があるため、ここに記すことがすべてではありません)
※表現型…生物が示す形質、観察可能な特徴のこと。
遺伝子の名前は、科学者たちのユーモアと科学的意味が交錯する面白い世界です。遺伝子は生物の成長や機能において非常に重要な役割を果たしており、名前がその機能を示すケースもあれば、変異したときの特徴を反映したユニークな名前もあります。遺伝子名の決まり方には、生物種ごとに命名規則や慣習があり、発見者が創造力を働かせてユーモラスな名前をつけることも多く、その背景にはさまざまなストーリーが存在します。
遺伝子の命名には、機能や変異の表現型が重要な要素となります。例えば、「BRCA1」という遺伝子は、乳がんに関連することから「Breast Cancer Susceptibility Gene1」の略で命名されました。また、ショウジョウバエの「white」という遺伝子は、この遺伝子に変異が起きると目が白くなるため、そのまま「white」と名付けられています。このように、遺伝子の機能や変異による目に見える変化が直接名前に反映されることがあります。
また、同じ名前が異なる種で混乱を招かないよう、既知のヒトの遺伝子については、ヒトゲノム命名法委員会(HUGO Gene Nomenclature Committee ;HGNC)によって公式名と略称が指定され、命名法に関するガイドラインが公表されています。
ユニークな遺伝子名の例として、 ショウジョウバエの「Sonic hedgehog」があります 。hedgehog 遺伝子は、発生過程で細胞の増殖や分化、成長に関与するタンパク質をコードしており、この遺伝子の変異個体が示す、幼虫の剛毛が規則正しく配置されずハリネズミの毛のように体表面全体に散らばる突起を持つ独特の表現型が「ハリネズミ(hedgehog)」を思わせるため、このファミリー名がつけられました。さらに、哺乳類で相同遺伝子が発見された際に発見者がファンであったテレビゲームのキャラクターである「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」にちなんで、「Sonic hedgehog」と命名されました。ちなみに、この遺伝子に変異が入っても、音速ハリネズミにはなることはありません。
また、テレビゲームつながりで「Pikachurin」という視覚の神経伝達に関与するタンパク質をコードする遺伝子もあります。おそらく、とあるゲームの主人公の肩の上にのっている電光石火の黄色い生物、ピカチュ…が名前の由来と言われています(が、公式では明言されていないかも?)。
また、「fumin」という遺伝子も面白い名前の 1 つです。これはショウジョウバエで発見され、変異株では「不眠」という名前の通り、睡眠時間の減少がみられます。漫画でも睡眠関連の変異について名前を考えていたので、もし同じような表現型を示していたならば、名前の被りを気にしなければいけなかったかもしれませんね。
今回、挙げた 3 つ以外にもたくさん面白い名前を持つ遺伝子は存在します。遺伝子名の名づけ方1つとっても、背景にユニークな着想元や、ユーモアがあるエピソードがあったりして、楽しいですね!
「♰ クロノス ♰」にはならなかった Dr.F 先生チームが発見した遺伝子変異は、その後、別の名前がつけられて、研究成果をまとめた論文が公表されました。
一体どんな遺伝子名になったのでしょうか…?