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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、神経に接続可能な金ナノワイヤー製の電線の開発に関するお話だよ!
神経を通る電気信号を捉えれば、様々な疾患の理解に繋がると言われているよ。このために、神経に直接接続可能な電線を開発する研究が進んでいるんだよね。
しかしこれを実現するには「柔らかい」「生体に安全」「電気をよく通す」という、全てを成り立たせるのが難しい三拍子を解決しないといけないよ。
今回の研究では、全ての課題を解決すると見られていたけど、今まで合成が困難だった、長い長さの金ナノワイヤーを安定して作る方法の確立に関する研究だよ!
CONTENTS
私たちの身体は、色んな感覚を感じ取ったり、脳などからの指令で身体を動かしているわけだけど、その信号は神経を通る電気信号 (インパルス) によるものだ、という話は聞いたことあるかな?
1771年にルイージ・ガルヴァーニ (1737 - 1798) が、電気を流すと死んだカエルの筋肉が痙攣することを発見して以降、生体を流れる電気というのはいろんな角度から研究されているよ。
近年、この神経を通る電気信号を直接読み取ることで、神経に関わる疾患、例えば神経障害性疼痛、麻痺、てんかん、パーキンソン病などの仕組みを理解し、治療や予防に繋がる研究を行う、というのが検討されているんだよね。
このような研究では、身体を傷つけない非侵襲的な方法も検討されているけど、やはり神経に直接電線を接続した方がより読み取り精度が高いということで、直接接続する方法も並行して検討されているよ。
神経を通るのが電気なわけだから、私たちが身近でイメージする電線をくっつければ、神経を通る信号を直接読み取ることができる、というのは、簡単な発想に見えて割と正しいんだよね。
ただ、この方法にはいくつもの課題があるよ。まず、患者の負担を少なくするためには、少なくとも数年、理想的には一生涯、電線と神経が接続した状態を維持する方が望ましいよね。
しかしこれを実現するには、神経としっかりと接続しており、かつ柔らかい神経組織を傷つけてはならないという、一見すると矛盾しているような要件を満たさないといけないよ。
しっかりと固定するという意味では、何か糊のような物質で電線をくっつけるのではなく、神経を巻いて包むように電極を接続する「カフ型電極 (cuff electrodes)」という形式にすることで、ある程度改善するよ。
ただ、完全に固定しているわけじゃなく、身体の動きである程度ずれ動いてしまうので、それによる摩擦が神経組織を傷つけてしまう恐れがあるよ。これを防ぐには、なるべく柔らかい物質で作る必要があるよ。
また、体内はやや酸性であり、活性酸素種や酵素などで色んな物質が分解する条件が整っているよ。なので電線はこれに耐えられる物質で作らないと、何かしらの有害な作用が出てしまうことも考えられるわけだね。
そういった感じで、これまで電線として「炭素材料」「導電性ポリマー」「金属ナノワイヤー」が提案されていたんだけど、どれも一長一短だったんだよね。
炭素材料はカーボンナノチューブやグラフェンなど、炭素の単体で、化学的に安定していて物理的にも強靭、かつ柔らかいので神経組織を傷つけにくいんだけど、他の材料と比べてあまり電気を通さない弱点があるよ。
導電性ポリマーはいわゆる電気を通すプラスチックの事で、主にPEDOT (3,4-エチレンジオキシチオフェンのポリマー) の派生材料だよ。これも炭素材料と同じく柔らかくて安定性が高いけど、やはりあまり電気を通さないんだよね。
残りの1つである金属ナノワイヤーは文字通り金属なので、電気の通しやすさは最高なんだよね。ただ、多くの金属ナノワイヤーは硬い金属でできており、神経組織に接触させるという利用目的には適していなかったんだよね。
数少ない解決策は「金」を使うことだよ。金は全金属で3番目に電気を通しやすい金属で、柔らかい上に化学的安定性が高いので、神経組織に直接接触しても物理的・化学的に傷つけるリスクが低く済むんだよね。
ただし大きな弱点として、金はナノワイヤーに加工することが困難だという課題があるよ。これほど細いワイヤーになると、単に叩いて延ばして作る、とかはできないので、金ナノワイヤーは化学合成で作り出すことが求められるよ。
ところが、化学合成でできる金の結晶は、その成長方向から、工夫なしにはナノワイヤーとして成長してくれないのよね。なので金ナノワイヤーの製造は一工夫が必要になってくるよ。
リンショーピング大学のLaura Seufert氏などの研究チームは、製造に弱点のある金ナノワイヤーの弱点を改善する研究を行ったよ。
当初Seufert氏らは、二酸化チタンのナノワイヤーの表面に金を付着させる方法で解決を図ったんだけど、これは太くて短い上に品質も良くないので、もっと違う方法が必要だと考えたんだよね。
着目したのは、金とよく似た化学的性質を持つ「銀」でできたナノワイヤーだよ。金と違って銀は、五角形の断面形状を持つ銀ナノワイヤーにうまく成長してくれるので、合成がずっと容易なんだよね。
そして、銀ナノワイヤーに化学反応を与えることで、金に置き換える置換反応をすることもできるよ。ただこれまでの場合、銀が完全に抜けきらず、銀が不純物として混ざった金ナノワイヤーしか合成できないという弱点があったよ。
銀イオンが抗菌作用の宣伝文句に使われる事からも分かる通り、銀は金と違って化学的に安定な元素ではなく、しかも溶けだしたイオンが細胞にとって有害なんだよね。
また、これまでの研究では、反応させた後にできた金ナノワイヤーは、短くブツ切りになってしまうんだよね。なので純度が高く、かつ長い金ナノワイヤーを作るには、改善策が求められていたよ。
そこでSeufert氏らは、銀ナノワイヤーを金に置換させる反応のステップを分けることで、徐々に銀を抜き出す方法を確立したんだよね。
まず、合成した銀ナノワイヤーに亜硫酸金錯体、PVP (ポリビニルピロリドン) 、アスコルビン酸を入れたよ。これは反応を制御することで、銀ナノワイヤーがブツ切りになってしまうことを防ぐよ。
この反応により、銀ナノワイヤーの周りに金銀の合金ナノワイヤーが成長し、銀の含有量は13%まで低下するよ。次に塩化金とPVPを混ぜることで、合金ナノワイヤーから銀を塩化銀の形で抽出するよ。
最後に、60℃のアンモニア水溶液に2時間晒すことによって塩化銀を溶かし出し、かつ金ナノワイヤーを成長させることで、99%以上の純度を持つ長い金ナノワイヤーを作ることに成功したよ!
金属のナノワイヤーはくっつきやすいことが難点になる場合もあるけど、この金ナノワイヤーはかなり安定していて、水やエタノールの中では1ヶ月以上くっつかずに安定化していることが分かったよ!
また、合成した金ナノワイヤーの周りで細胞を増殖させても、全く害を示さなかったことから、金ナノワイヤーは化学的に安定しており、有害になる銀が除去されていることを示したよ!
最後に実用を見据えた実験を行ってみたよ。今回の実験では、ラットの坐骨神経にカフ型として巻き付け、電気が流れるかどうかを測ってみたよ。
この実験では、金ナノワイヤーをシリコーンゴムに包み、神経組織と接する接点部は白金メッキをした電線を用意したよ。シリコーンゴムは絶縁と取り扱いのしやすさ、白金メッキは化学的な安定性を図ったものだよ。
その結果、ラットに特定の刺激を与えると、その刺激を送ることが想定される神経に巻き付けた電線のみが、刺激から予想されるタイムラグを持って電流を計測したんだよね!
つまり今回の金ナノワイヤーは、神経を流れる電気信号を捉え、きちんと測ることができるという、当初目標としていた実用を示したわけだね!
最後に、体内に入れたことを想定した耐久性の実験を行ったところ、少なくとも3年間は劣化せずに使えることが示されたよ!これは加速劣化試験[注1]による推定ではあるけど、実際にはさらに長く使える可能性があるよ!
今回はあくまでプロトタイプを作ったという感じで、実用化されるにはさらに多くの試験を重ねる必要があるよ。とはいえ、将来有望な予感のする研究だよ。
金の安定性はよく知られていて、シリコーンゴムも医療で頻繁に使用されるものだから、今回製造されたシリコーンゴムで包んだ金ナノワイヤーというのは、体内に適合する可能性が高そうな電線となるわけ!
また、加速劣化試験で最低でも3年ということは、試験を繰り返して製造を工夫すればさらに長く使える可能性も十分考えられるよ!だからこその期待ができる研究結果というわけだね!
とはいえプロトタイプはプロトタイプだから、Seufert氏らはさらに実験を繰り返し、より細く、より神経組織に結合しやすい電線の開発にむけた実験を繰り返す予定だよ!
[注1] 加速劣化試験
年単位で物質の劣化を測るには、実際にその時間をかけて試験を行うことが理想的ですが、時間がかかり過ぎます。そこで、化学反応は温度が高いほど早く進むという性質を利用し、温度を上げることで劣化速度を速めることを加速劣化試験と呼びます。今回は体内での劣化を再現するため、80℃の過酸化水素水に8週間漬ける試験が行われました。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)