「アンティキティラ島の機械」は354日の太陰暦設計とほぼ確定! 従来の365日説はほぼ可能性ゼロに!

2024.07.05

アンティキティラ島の機械は太陰暦 サムネ

(画像引用元番号①)

 

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説の主題は、「アンティキティラ島の機械」が354日の太陰暦に基づいて設計されている可能性が高いという分析結果についてだよ。

 

アンティキティラ島の機械は、紀元前200年から紀元前100年ごろに製造された精巧なアナログコンピューターだけど、暦という実に基本的な情報について、これまでずっと謎だったんだよね。

 

今回の研究結果は、アンティキティラ島の機械について従来強く信じられてきた365日説を大きく否定しているので、これから復元やその役割の考察について影響すると思うんだよ!

 

さらにおまけで、アンティキティラ島の機械を製造した2200年前のギリシャ人の加工技術がとんでもないことも判明したので、工学技術の歴史に関する考察にも影響しそうだよ!

 

2200年前のアナログコンピューター「アンティキティラ島の機械」

アンティキティラ島の機械の概要

図1: アンティキティラ島の機械は、2200年前に製造された、月や惑星の位置を知るための青銅製の機械だと考えられていて、世界最古のアナログコンピューターの1つとして有名だよ。 (画像引用元番号①②)

 

アンティキティラ島の機械」という遺物を知っているかな?最近では2023年の映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』に登場する「アルキメデスのダイヤル」の元ネタにもなったこれは、実際にとてつもないものだよ。

 

アンティキティラ島は、エーゲ海のクレタ島の近くにあるギリシャの島だよ。1900年、カイメンを採集する船の船員が、順風を待つ停泊中のダイビングで偶然に、古代の沈没船と多数の大理石製の人物像を発見したよ。

 

船からの連絡を受け、1901年までの間に、ギリシャ海軍の支援で遺物が多数引き上げられたよ。当初は石像や銅像、宝石やガラス製品など目立つ者が注目され、腐食した青銅と木の塊は博物館の倉庫の中に眠ってたんだよね。

 

このガラクタが実は非常に重要であることに気づいたのは、考古学者のヴァレリオス・スタイス (1857 - 1923) で、1902年のことだよ。よく見ればそれは、複数の歯車によって構成された複雑な機械部品だと分かったんだよね!

 

ただ、長年海水に使っていたことで一部しか残っておらず、お互いが融合した状態では、それが何の機械であるかまでは分からず、何十年も正体が不明のままという状態は続いたよ。

 

正体が判明したのは1974年、物理学者のデレク・J・デ・ソーラ・プライス (1922 - 1983) の20年以上に渡る研究によるもので、これは太陽系の天体の動きを計算するためのアナログコンピューターであると最終的に行きついたよ!

 

これはいくつか残されている歯車の歯の数や、わずかに残された文字を解読することで実現したもので、ハンドルを手回しして動かすことで、当時知られていた5個の惑星の位置や、正確な日食の予測をするために作られたものらしいよ。

 

驚くべきはその古さだよ。沈没船に積まれていたことから、間違いなく紀元前60年から紀元前70年よりは古くに製造され、おそらく紀元前100年から紀元前200年ごろに製造されたのではないか?と考えられているんだよね。[注1]

 

紀元前2世紀というヘレニズム時代に作られたにしては非常に精巧な作りで、14世紀にウォリンフォードのリチャード (1292 - 1336) が製造した天文時計に匹敵するほどの複雑さは、当時の工学技術の高さの証拠品として注目されているよ!

 

アンティキティラ島の機械は1年を何日で計算している?

アンティキティラ島の機械の暦は何日?

図2: ダイヤル部分の裏側には、日付を表すための穴が存在するので、これを数えれば1年が何日で設計されていたかという暦が分かるはずなんだよね。ところが長年の腐食などで一部しか残されておらず、何個なのかが正確に数えられないという問題があったよ! (画像引用元番号①③)

 

ところでアンティキティラ島の機械には、発見から1世紀、正確な機能の判明から半世紀経っても解決しない基本的な謎があったよ。それは、アンティキティラ島の機械はどの暦を参照して作られていたのか?ということだよ。

 

これまで主力だった説は、現在と同じような1年を365日とする暦だという説なんだよね。正確には、当時使われていたであろう古代エジプト文明のエジプト暦に基づくもので、1年を365.25日とする暦になるね。

 

もちろん、365.25日は整数ではないので、4年分の計算をしたら1日分の補正を加えないといけないけど、それを示すかのように、日付が書かれていた外側の環はくっ付いておらず、ダイヤル式に回る仕組みだったみたいなんだよね!

 

また、エジプト暦は紀元前45年から始まるユリウス暦の元となるなど、当時としては非常に正確に分かっていたことも、アンティキティラ島の機械がエジプト暦に基づくという根拠なんだよね。

 

ただし、暦の決定的証拠となる、日付を表す外側のダイヤルが腐食・変形して、部分的にしか残っていないことが、暦という基本的な謎を解くことができない理由となっているよ。

 

重力波を解析する手法の応用で暦を算出!

アンティキティラ島の機械の穴の数をベイズ統計学で推定

図3: 今回の研究では、重力波の解析のような天文学で多用されている統計学的手法を使って、穴の数を推定したよ。その結果、アンティキティラ島の機械は1年が354日の太陰暦でできている可能性が高く、365日説が正しい可能性はほぼゼロだと分かったよ! (画像引用元番号①③④)

 

グラスゴー大学のGraham Woan氏とJoseph Bayley氏の研究チームは、この長年の謎の解決に取り組むために、比較的新しい手法も盛り込んだ推定を行ったよ。

 

カギとなるのは、部分的に残っている外側のダイヤルだよ。裏側には等間隔で穴が空いていて、これは日付を合わせるために必要な穴だから、穴の数はそのまま1年の日数、つまり暦に対応している可能性が高いんだよね!

 

穴はその一部しか残っていないけど、等間隔の穴が円形に並んでいるとなれば、数を推定することは可能だよね?ただこれまでは、部品の変形などで正確な推定に難があったんだよね。

 

今回に先行する2020年の研究では、いくつかの仮定に基づいて、穴の数を346.8個から367.2個であると推定し、おそらく354個が最も正しいであろうとする結果が出てたんだけど、Woan氏とBayley氏は別の手法で推定ができると考えたよ。

 

具体的には「マルコフ連鎖モンテカルロ法」と「ネスト化サンプリング法」という手法だけど、まぁ詳しい所は複雑するので割愛するとして、どちらもベイズ統計学と呼ばれるジャンルに属する数学的手法なんだよね。

 

これはものすごく簡単に言えば、あることが起きる確率を事前に決めておく主観確率を設定した後、取り込んだデータからその確率を修正することによって、最終的に尤もらしい答えを導く、という方法なんだよね。

 

勝手に確率を決めちゃっていいの?って思うかもだけど、正しく行えば最も正しい答えを高い確率で導き出すことができるということが数学的に証明されていて、結構強力な統計学的手法だよ。

 

Woan氏とBayley氏は、重力波望遠鏡「LIGO」のデータから本物の重力波とそれ以外のノイズを区別するために使われてきた上記2種類の手法を応用し、アンティキティラ島の機械の穴の数の推定をしたよ。

 

すると、全ての穴を対象に計算して推定された穴の数は355.24+1.39-1.36、データ処理に影響を与える可能性がある、亀裂に隣接する穴を除外して推定された穴の数は354.08+1.47-1.41だったよ。

 

穴の数は当然整数だし、暦に使われる以上は何かしらの暦の1年に一致する、ということを考えると、これは1年が354日であるギリシャの太陰暦である可能性が極めて高いと考えられるよ!

 

現在では日常的には主流に使われていない太陰暦だけど、月を基準にしているという点で、日食などの現象を予測したいという観点からすれば結構合理的な暦の選択なんだよね。

 

次点として考えられる、360日の暦である確率でさえ、354日の歴の可能性と比べて229分の1だから、かつて提唱されてきた365日の暦である確率はもっとずっと低く、可能性はほぼゼロと考えて間違いないはずだよ!

 

今回とは別の手法で穴の数を推定した研究でも、365日の暦である可能性は否定されつつあるから、アンティキティラ島の機械は354日の太陰暦で設計された可能性はほぼ間違いないと考えられるよ!

 

並外れた加工精度も判明!

アンティキティラ島の機械の加工精度

図4: 今回の研究では、穴の位置の正確さについても研究がされたよ。その結果、穴の位置はとんでもなく正確であることが分かったんだよね!2200年前のギリシャ人の技術レベルの高さがうかがえるね! (画像引用元番号①③⑤)

 

今回の研究では、アンティキティラ島の機械がやはりとんでもないことを示す別の側面も見えてきたよ。例えば今回調査されたダイヤルについて、穴が開いている部分の半径は約77.11mmだと測定されたよ。

 

機械が円滑に回るには、まさに真円に近い加工がされているのが理想だけど、今回の研究では半径の歪みが0.30mm以内だと推定されたんだよね!これはかなりの加工精度だよね。

 

おまけに、穴の配置もとんでもなく正確だったよ。穴が配置される理想的な位置に対し、半径の方向にはわずか0.028mm以内、より誤差の大きい円周の方向にも0.129mm以内の誤差で正確に配置されていることがわかったんだよね!

 

これは、当時の古代ギリシャ人が非常に高い加工精度を持っていた新たな証拠の1つだよ。私たちはアンティキティラ島の機械を通じて、2200年前のスゴい技術を目の当たりにしているというわけだね!

 

今回の研究結果は、古代ギリシャ人がどれほど優れた天文学を持っていたのかを示すと同時に、高い技術も持っていたことを伺い知るとても重要な内容であると言えると思うんだよ!

注釈

[注1]アンティキティラ島の機械の製造時期

1974年にアンティキティラ島の機械の正確な機能に初めて行きついたプライスは、製造時期を紀元前87年と予測していますが、2000年代に入ると製造時期は紀元前150年から紀元前100年とする説や、紀元前205年とする説が登場しています。また、製造時期ではなく校正された年代として、紀元前178年であるとする説や、紀元前204年とする説があります。少なくとも本文の通り、船が沈んだ紀元前70年から紀元前60年より古いことは確実です。  本文に戻る

文献情報

<原著論文>

  • Graham Woan & Joseph Bayley. "An Improved Calendar Ring Hole-Count for the Antikythera Mechanism: A Fresh Analysis". Horological Journal, July 2024. (本誌) (arXiv)

 

<参考文献>

 

<関連研究>

 

<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

  1. アンティキティラ島の機械の主要な3つの構成物: プレスリリースより
  2. アンティキティラ島の機械の復元モデルの一例: Tony Freeth, et al., 2021より
  3. ダイヤルの裏側の穴のCT画像: C. Budislic, et al., 2020 Figure 2 より
  4. ベイズ統計学による穴の数の推定のグラフ: 原著論文 Figure 4B より
  5. セクション別の穴の数と位置のズレを表した図: 原著論文 Figure 1 より

     

    彩恵 りり(さいえ りり)

    「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
    本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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