夏至到来なのに「夏らしくない」のはなぜ? その秘密を解説します|カッパと学ぶ身近なカガク

2024.06.21

……暑い。まだ6月だというのにすでに暑い。こんな調子で、夏を乗り切れるのだろうか? と毎年思っては、毎年乗り切れているので、今年もまぁ何とかなるのだろう。多分、きっと、メイビー。

 

とはいえ皆さんにおかれましては「去年平気だったから」と過信せず、冷房と栄養補給で充分に対策してこれから迎える暑い夏を乗り切っていただきたい。慢心ダメ絶対!

 

さて、毎年6月22日前後は夏至だ。夏至といえば、一日で最もお日様の出る時間が長い日として知られている。けれども少し待ってほしい。夏の本番はまだまだこれから、7月や8月の筈だ。日が一番出ている日の筈なのに、なぜ夏らしくないのだろう? そこで今回は、夏至の頃に夏らしい天候にならない理由について解説していく。

 

少し詳しく 〜夏至と夏と空模様〜

そもそも夏至の頃はどんな天気だろう?

夏至の頃、すなわち6月といえば梅雨が本格化し、寝ても覚めても雨が降り続ける頃だ。けれども、そのわずか1か月後には、打って変わって青い空が広がる夏らしい空模様になる。まずはこの変化についてみていこう。


そもそも夏の空が青く晴れ渡るのは、太平洋高気圧と呼ばれる巨大な高気圧が、南東の海上から列島を覆うように広がっているからだ。太平洋高気圧の働きによって、近くの雲は周囲に吹き飛ばされ、列島全体に雲の少ない領域が広がる[注1]

 

しかし、この高気圧の広がる領域は、ほんの1カ月前まで、すなわち梅雨の頃には長雨の雲が停滞していた領域でもある。つまり梅雨の雲を呼んでいた何者かが去っていった結果、代わりに太平洋高気圧が居座るようになったという訳だ。それではその何者かとは何だろう?

 

梅雨の雲を呼んでいた何者かの正体をジェット気流(亜熱帯ジェット気流)という。ジェット気流は寒気と暖気の境界に生じる速い西風で、梅雨の時期は北からの冷たい空気と南からの湿った空気を合流させて雨雲を形成させる。

 

この雨雲がちょうど日本列島のあたりを覆うため、夏至の頃には日本は長雨に見舞われるという訳だ。けれどもジェット気流は、寒気と暖気の境界に生じる風だ。暖気が大きくなればそれだけ北へ北へと追いやられることになるし、寒気が温かくなればそれに応じて勢いも弱くなる。

 

そのため夏至が過ぎて北半球が温かくなっていくのに従って、ジェット気流と梅雨の雨雲は北上しながら勢いを落とし、代わりに太平洋高気圧の湿った空気が日本を覆うという訳だ。

 

夏至の頃に長雨になるのは、北半球が十分に温かくなっておらず、ジェット気流がせっせと雨雲を作っているためだという事が分かった。しかしながら、そもそもなぜ日照時間が一番長い夏至の頃に気温のピークが来ていないのだろう?

続いて、夏至の頃に気温が最高にならない理由について解説していく。

 

さらに掘り下げ 〜夏至と夏と気温〜

突然だが、台所でこんなことを考えてほしい。まずは食材の下ごしらえを終えて、フライパンをコンロに置く。続いてコンロに火を点け、すかさず食材を投下する。さて、食材に火は通っただろうか?

 

もちろんそんなことはない。どれだけ高温を作れるコンロだろうと、フライパンを温めるためには多少のタイムラグが生じるからだ。

そう、どんな熱源だって何かを加熱するには時間がかかるのだ。


地球は太陽という熱源を持つ物体だ。冬至を過ぎた12月頃から夏至のある6月頃まで、北半球では日射量が日に日に増していく。これに伴って、北半球も徐々に温められることになるのだ。グリルを使って遠火でじっくりという感じだろうか。

 

しかしながら、夏至が過ぎて日射量が減少した後も、この加熱はすぐには止まらない。地球という物体が熱しにくく、冷めにくいためだ。そのため、北半球が冷却を始める1~2か月程度の間、地球の温度は上昇し続けることになる。

このタイムラグにより、北半球では暑さのピークが8月ごろになるというわけだ[注2]

夏至と暑さのピークがずれるのは、地球が温まりにくく冷めにくいためだからという事が分かった[注3]

 

そこで新しいギモンが1つ生まれた。太陽から放射されているのは熱ばかりではない。お肌の大敵である紫外線だって含まれている。熱と違って溜めこむことが出来ないはずの紫外線まで、夏至の頃より夏本番の8月の頃の方が多いのはどういう事だろう?

 

続いて、紫外線量の変化について解説していく。

 

もっと専門的に 〜夏至と夏と紫外線〜

紫外線量は7月と8月にピークを迎え、12月と1月頃に最少になる。当然、周期的に何かが変化しているから紫外線量も変化しているのだが、それはなんだろう?

次の中から考えてほしい。

①太陽との距離  ②太陽の活動  ③大気の状態  ④実は6月の方が紫外線量は多い

  • ①と②は太陽に関する変化、③は地球に関する変化だ。
  • ④については……まぁ、真面目に考えてもらわなくても良い。

 

考えはまとまっただろうか?


正解は「④実は6月の方が紫外線量は多い」!!

 

……ではもちろん無い。すまない。それでは改めて──

正解は、紫外線量が変化するにあたり「③大気の状態」が変化しているのだ!今度は本当。

しかしながら、大気の状態が変化していると言われてもいまいちピンとこない。一体何が変化しているのだろう?


そもそも「紫外線量が変化」していると言ったが、正確には「地表に到達する紫外線量が変化」しているのだ。太陽の活動によって一時的に増減することはあれど、太陽が放射している紫外線量はある程度の範囲で一定だ[注4]

従って、太陽から地表に到達するまでのどこかで、紫外線がブロックされているという事になる。それでは、6月頃には多いが7月や8月になると少なくなる、大気に関係したものと言えばなんだろう?

 

1つはだ。6月から7月にかけて、日本は梅雨に見舞われる。この時発生する大量の雲が、上空から降り注ぐ紫外線を防ぐ壁として働いている。そのため梅雨が明けて空が晴れる7月や8月になると、途端に紫外線量が増えるというわけだ[注5]

 

それでは雲が全ての紫外線を吸収しているのかというと、実はそうでもない。雲のほかにもう1つ、紫外線を防ぐ大切な要素がある。それはなんだろう?

 

夏至を過ぎて日照時間が減ると、紫外線を吸収していたあるものが作られなくなる。オゾンO3だ。

オゾンは紫外線を受けて酸素 O2 から作られ、紫外線の大部分を地表に到達する前に吸収している。しかしながらオゾンの生成には日射が必要なため、日照時間が減少した7月や8月頃には減少してしまう。このオゾンの減少も、紫外線量の増加に影響しているのだ。

ここまで、夏至と天候との関係について解説してきたが、いかがだっただろうか? 既に暑い日が続いているが、夏至はまだまだ夏の入り口だ。既に暑い日が続いているが……。既に暑い日が続いているが!!

水分・塩分補給と冷房を充分にして、これから来る本番にしっかり備えてほしい。

 

最後に、記事の趣旨からは少し外れるが日光に関する研究について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。

ちょっとはみ出し 〜日の光と書いて日光〜

体を作る紫外線?

紫外線はエネルギーの強い光だ。私たちに対する作用で言えば、日焼けやシミの原因として知られている。さらに、過度な照射を繰り返しているとガン化のリスクも高めることも良く知られているところだ。そのため、帽子やサングラス、日傘や日焼け止めなどを上手に使って、なるべく浴びないようにしたいところだ。けれども、浴びなすぎるのも、それはそれで問題かもしれない。

 

紫外線の働きの一つに、体内でビタミンDを生成するというものがある。ビタミンDは、骨密度の維持にも関係するため、不足すると骨が脆くなってしまう。そんな、体を維持するために欠かせないビタミンDが、日光浴時間の日焼け止めの使用などの影響で作られなくなっている。日焼け止めの適切な使い方についても、改めて考えた方が良いのかもしれない。

 

日光は日光でも?

『日光』は「日の光」の意味とともにもう一つ、広く知られた意味を持つ。日本で3番目の面積を誇る「市」、栃木県の自治体こと日光市だ。日光市は日光東照宮や華厳の滝など、多くの観光スポットで知られており、国内外問わず観光客に人気の観光地だ。けれども、私たちは「なにが観光地として珍しいのか」キチンと把握できているだろうか?

 

日光市を舞台に、観光用のアプリケーションが研究・開発されている。季節特有の見物や、観光では見落とされがちな地元の人だから知る情報など、検索性に乏しい情報をいかにして観光客に届けるかを目的にしたアプリケーションだ。研究の舞台こそ日光市だが、日本各地の観光地が多少なりとも抱える問題の解決に一役買いそうだ。地元の魅力を再発見する機会なのかもしれない。

 

参考文献

・数研出版編集部. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 地学図録』. 数研出版.
・山岸 米二郎. 『気象学入門』. オーム社.
・小倉 義光. 『一般気象学[第2版補訂版]』. 東京大学出版会.
・小倉 義光. 『日本の天気 その多様性とメカニズム』. 東京大学出版会.
・ジョン・エディ. 『太陽活動と地球──生命・環境をつかさどる太陽』. 丸善出版.
気象庁
環境省
・中島 英彰. 『日光によるビタミンDの生成』. ビタミン, 2020, 94 巻, 9 号, p. 469-491.
・平松 裕子, 伊藤 篤. 『日光を舞台とした興味を誘発するアプリケーションの開発及び調査研究―情報化社会における新奇性欲求の追求―』. 経済学論纂 61 (1), 231-250, 2020-07-30.

 

脚注

[注1] ちなみに太平洋高気圧はその名の通り太平洋の海水をたくさん吸い上げて出来た高気圧だ。水をたくさん吸っているため空気の密度が重くなる(=気圧が高くなる)のだが、水をたくさん吸っているためそれはそれは湿っている。夏の晴れ渡った空の正体であり、ウンザリするような湿度の正体でもある。  本文に戻る

[注2] 北半球が夏至の時、南半球では冬至を迎える。そして北半球の加熱が収束するまでに1カ月程度要するという事は、南半球の冷却が収束するまでにも同程度の時間を要するという事だ。砂時計のような関係性だなとふと思った。  本文に戻る

[注3] 岩石で出来た地球という物体が1年のスパンで温度変化する一方で、地球という惑星には大気がある。大気は地球本体に比べて温まりやすく冷めやすい。これにより、24時間という短いスパンでの温度差と、1年という長いスパンでの温度差のサイクルが生じるという訳だ。  本文に戻る

[注4] 実は太陽との距離も変化しており、地球に与える影響もと割と大きい。けれども、太陽が最も近づくのは1月で遠ざかるのは7月と想像とは違う。太陽の活動は北半球にも南半球にも平等に影響を与えているので、日常生活のイメージだけで答えを出すのは危険なのだ。  本文に戻る

[注5] この紫外線量と雲の量の関係は、当然だが雲の変化量が大きいほど、すなわち梅雨の影響が大きいほど大きく出る。従って沖縄や鹿児島など、南の方ほど紫外線量は大きく変化し、北海道など北の方では6月頃~8月頃まで横這いになっている。夏に日焼けしたくなければ北に行こう!  本文に戻る

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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