「マンボウ祭2024」の様子をマンボウ研究者がレポート|5月に海とくらしの史料館で開催

2024.06.18

 海とくらしの史料館(海くら)は、鳥取県境港市にある魚類を中心とした水産物の剥製を多く展示している博物館である。私は2018年から、この海くらで開催される企画展「マンボウ祭」(年によって名前が少し違っていたりするが)で講演をしたり、展示に協力してきた。今年でもう携わって6年目になるが、今年も5月に開催された。そんな「マンボウ祭」はどんな感じだったのかを紹介しよう。

 

これまでの「マンボウ祭」

 2018年からコロナ禍に入る前までは今回同様、現地講演を中心にグッズを提供したり、マンボウ研究を紹介する資料を提供したりして協力してきた。コロナ禍に入ってからは社会的な情勢によって現地講演は中止し、マンボウ祭も小規模で行っていた。

 そして、2023年の「マンボウ祭」 は、マンボウ系VTuberのChumuNoteさんとコラボし、企画展の間、コラボ動画を館内で流す形で協力していた。

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 去年はコラボ動画を全面に推し出し、「マンボウ祭」で講演はしなかったため、私は現地には行っていなかったのだが、今年は講演をすることになったため、2024年5月18日~5月19日にかけて現地に足を運んできた。

 

 私にとって今年初の現地講演イベントということもあり、とても楽しみにしていた。やはり自分の研究成果を発表できて、聞きに来て下さった方と情報交換をしたり、感想を頂けるのは研究活動への大きな活力になると改めて実感した。

 

大阪から高速バスで米子へ

 2024年5月18日。前日早めに寝た私は午前1時半頃に目を覚ました。始発の電車に乗らなければならないため、遅れないようにそれからずっと起きていた。

 無事始発の電車に乗り、JR難波駅のOCATの高速バス乗り場に辿り着く。OCATから米子駅までは直通の高速バスが出ており(約4時間前後で新幹線より安い、バスにトイレも付いている)、事前に予約して(当日の空きがあれば予約しなくてもすぐ乗れる)、高速バス乗り場で発券して乗るというシステムだ。

 バスは予定通り来たのだが……交通事故で渋滞しており、予定より50分ほど遅れて米子駅まで到着することになった。米子駅で海くら館長の車と合流し、13時からの海くらでの講演時間に間に合わせようと急ぎつつも……何とか間に合うことができた。できれば予定外のことは起きて欲しくはないが、旅にハプニングは付き物である。

こちらが2024年4月27日~5月20日にかけて「マンボウ祭」の企画展が行われた海とくらしの史料館である。


 海くらは今年、開館30周年を迎えたばかり。今年はいつもより豪華なゲストとして、プリキュアやおしりたんていのアニメを作られている東映アニメーションとのコラボを実施。東映アニメーションは、「すいぞくかんのペイコン」というマンボウの子どもを主役としたオリジナルアニメを作っており、今後、少しずつ認知度を上げていく予定をしている。今「すいぞくかんのペイコン」を知っている方は、古参を名乗れると思うぞ!

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 今回のコラボは子供向けに、ペイコンの仲間達と、海くらにあるチョボリンと呼ばれるマンボウの大型剥製標本をキャラクター化した塗り絵コーナーが設けられていた。チョボリンがアニメに出る時はいつか来るだろうか……?


 標本のコーナーでもチョボリンとペイコン(模型)のコラボが実現していた。「マンボウ祭」を見に来て下さった方は気付かれただろうか? 実際のマンボウの稚魚はもっともーーっと小さいが、イメージとしてマンボウの稚魚と成魚の体サイズの違い、形態の違い(実際のマンボウの稚魚はピンク色ではない)が伝わればいいなと思う。

 今回は鳥取県立博物館から借りたヤリマンボウとクサビフグの剥製も展示されていた。さすがに大き過ぎてウシマンボウの剥製は展示されていなかったが、この企画展では日本近海に出現するマンボウ科3属を一度に見ることができるという非常に貴重な機会が設けられていた!

 入り口ではマンボウグッズを購入できるコーナーができていた。私の作ったグッズはもちろんのこと、他にも様々なマンボウグッズがあり、まさに「マンボウ祭」にふさわしいマンボウ尽くしの空間が展開されていた。


 さて、私の講演は今回2日に渡って2回あるため、後半の内容を少し変えたプレゼンを準備していた。1日目である5月18日は、今年出版した最新の論文である、隠岐諸島・中ノ島でおそらく初めて学術的に記録されたマンボウについての話をした。

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 隠岐諸島は海くらの対岸に位置する島々であるため、隠岐諸島と境港近海を比較することで、この海域に出現するマンボウ類の生態の違いや共通点を見出すことができる。しかしながら、私が調べた限りでは、この海域に出現するマンボウ類の情報は非常に少ないため、さらに情報を収集する必要があることを来館者に強調した。そういう意味でも、今回報告した中ノ島で漁獲されたマンボウの記録は貴重なものとなるのだ。


 1日目の講演後、来館者の中に、近畿大学時代の同級生が私の講演を聞きに来てくれているのを見つけた。大学を卒業してから一度も会っていないので、非常に驚いた。実に17年ぶりの再会である! 私がインターネットで発信しているのを見付けて会いに来てくれたのは非常に嬉しい。お互い年を取ったなぁと笑い合った。こういう予期せぬ再会があることもイベントの醍醐味である。

 

 講演後は「マンボウ入りタコ無したこ焼き」が来館者に振舞われた。この独特なたこ焼きは、来館者になんとかして一口でいいからマンボウを実際に味わって欲しいとの想いから考案され、2019年から始まった。コロナ禍に入って一時中断した年もあったが、今となっては最早「マンボウ祭」名物である。

 

 至ってシンプルなマンボウ料理で、タコ焼きのタコの代わりにマンボウの腸が入っている。マンボウの腸は弾力があるコリコリした食感で、「マンボウ入りタコ無したこ焼き」の中でタコの代わりとして十分にその歯ごたえや食感を発揮する。

 現代で新たに誕生したマンボウ料理として、今後広めていってもいいのではないかと私は考えている。


境港市民図書館へ

 1日目のメインイベントが終わったら、個人的に食べたかった海藻のクロモの試食会を海くら職員の方々と行い、その後、境港市民図書館へ。境港市民図書館でもマンボウ祭の宣伝をして下さっているとのことで、その挨拶と来年図書館でも講演イベントができたらいいなという相談を兼ねて、海くら館長と図書館に訪問した。図書館は2022年にリニューアルオープンしたばかりで、広くて綺麗であった。

 海くらの「マンボウ祭」に合わせて、入り口近くにマンボウの本がずらりと並んでいる。私の著書も置いて下さり、嬉しい限りである。


 図書館の館長と話をし、私のマンボウ研究へのこだわりと熱意を理解して下さった。一瞬でも境港をマンボウで盛り上げることができたら、私としては嬉しい限りである。久々にサインも書かせて頂いた。来年は図書館の方でも講演を行いたいところである!

小休止:皆生温泉レポート

 今回は皆生温泉の方に宿を取って下さっていたので、温泉に入ることにした。ホテルで驚いたのは、自分で卵を買ってきて、籠に入れて垂れ流しの温泉に漬けて温泉卵を作るコーナーと、温泉の水を3倍に薄めて飲むコーナーがあったことだ。温泉卵は作ってみたかったが、近くのスーパーでも1個単位での卵は売っていなかったので断念した。飲泉所の温泉を水で割って飲むのは実際にやってみたが、ほんのりと硫黄のニオイの味がする独特な飲み物であった。

 翌日、朝から温泉に入れるとのことで、楽しみにしていたのだが、ファミリー向けの個室で、露天風呂ではなかった。しかし、個室なのでこれはこれでゆっくりと温泉に入ることができた。

 

講演2日目:「学名」にフォーカスして解説してみた

 2日目は11時から講演を行った。この日は講演の後半を1日目と変え、ウシマンボウの学名に疑義を唱えられたことに対し、反論した論文を出したことについて解説した。

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 しかし、この説明がなかなか難しく、来館者の方に理解してもらえたかどうかは定かではない。とりあえず、生き物の学名一つについても、ものすごく労力がかかって議論されており、大変そうなのだというイメージが伝わればいいなと思った。

 1日目の講演もそうだったのだが、講演後の質疑応答の時間で、来館者の方から色々質問をして下さるのはとても嬉しかった。普段は家の中に引き籠っているため、こういう機会でもないとマンボウについて他人と直接議論する機会はほとんどない。来館者の中には、2018年の最初のマンボウ祭で購入してくれた、私が作ったフグ目トートバッグをまだ使ってくれている方もいた。少し年季が入っているのを見てエモい。今年も講演を聞きに来て下さったことに感動した。

 

 また、2日目の講演には、高知県の地方名の記事でマンボウの写真を提供して下さったもっちょさんも来て下さっていた。

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 リアルで会うのは初めてだ。東京とか大勢の人が集まる場所でなくとも、私の講演に興味を持って聞きに来て下さる方々がいること、そういう講演する場があることに感謝したい。とても充実した二日間であった。

 

マンボウとの異色コラボ

 今回、実は密かに異色のコラボも行われていた。そのコラボ相手は……宇宙航空研究開発機構 (JAXA)である。マンボウと飛行機の共通点をパッと思い付く人はほぼいないと思われるのだが、マンボウの形態は次世代型飛行機開発のヒント に使われているのだ。

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 また海くら館長によると、今年の「マンボウ祭」は2階の古文献コーナーが好評だったという。毎年少しずつ古い時代のマンボウに関する文献を増やしている。まさにこの展示こそ、史料館の名にふさわしい展示と言えることだろう!

 

 そんな海くらも建物の老朽化が起き始め、5年後にはリニューアル計画が持ち上がっている。平成時代にオープンした今の海くらは、もう5年以内に見られなくなってしまう。「マンボウ祭」は来年も開催予定なので、今まで気になって現地を訪れたことが無かった方は、是非、来年の「マンボウ祭」の時にでも足を運んで欲しい。



 最後に、今回の講演は、奇しくも私の誕生日に話題になったフェリシモのマンボウ服を着て行った。商品を初めて見た時はなかなか衝撃を受けた。着心地は結構さらさらしている。来館者の受けが良かったので、今後のイベントでも活用したいと思う。

 

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  マンボウ祭
   6年目
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     グッズに史料

参考文献

Sawai, E. & Nyegaard, M. 2023. Response to Britz (2022) regarding the validity of the giant sunfish Mola alexandrini (Ranzani, 1834) (Teleostei: Molidae). Zootaxa, 5383 (4): 561-574.

澤井悦郎・大池明.2024.写真に基づく中ノ島(隠岐諸島)から得られたマンボウの確かな記録.Nature of Kagoshima, 51: 15-18.

【著者情報】澤井 悦郎

海とくらしの史料館の「特任マンボウ研究員」である牛マンボウ博士。この連載は、マンボウ類だけを研究し続けていつまで生きられるかを問うた男の、マンボウへの愛を綴る科学エッセイである。

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