年齢とともに増加するクローナル造血は歯周病を悪化させる(6月4日 Cell オンライン掲載論文)

2024.06.23

老化を図る生物学的な指標の一つに幹細胞システムのクローン増殖が挙げられる。研究しやすい血液で調べられることが多いが、突然変異の結果増殖能が高まったクローンを高頻度に特定できることがわかっている。そして、このようなクローン増殖は白血病の頻度を高めるだけでなく、機能異常の血液細胞が増えて動脈硬化を助長したりすることが知られている。

 

本日紹介する論文

今日紹介するペンシルバニア大学歯学部からの論文は、血液クローン性増殖が認められる人に歯周病が多いという観察を、マウスを用いて実験的に確かめた研究で、6月4日 Cell にオンライン掲載された。

 

タイトルは「Clonal hematopoiesis driven by mutated DNMT3A promotes inflammatory bone loss(DNMT3A 変異によるクローン性の造血は炎症性の骨喪失を促進する)」だ。

 

解説と考察

まず4946人の52歳から74歳までの動脈硬化リスクを調べる米国の地域コホート研究参加者の血液を調べると、年齢とともに増加するクローン性造血を3.9%の人で認め、なんとその61.8%が de novo メチル化酵素 DNMT3A の変異を持っており、しかも重症の歯周病が多かったという結果から始まっている。

 

これを実験的に確かめるため、DNMT のドミナントネガティブ変異をヘテロで持つ骨髄幹細胞を10%、正常骨髄幹細胞を90%の割合で移植したキメラマウスを作り、歯周病と骨の欠損が見られるリューマチ性関節炎で調べている。

 

まずこの DNMT3A 変異を持つ血液細胞幹細胞は正常細胞より増殖能が高く、3ヶ月も経つと、最初10%だったのが5お%にまで増加する。これとともに、血中 IL-1β、IL-6、TNF が増加し、自然炎症が進行していることがわかる。そして、自然に歯槽骨がむき出しになっているのを認めている。

 

そこで、実験的歯周炎を誘導すると、DNMT3A 変異を10%持つ個体では、歯周炎の悪化が強く、また歯周での炎症が強く起こっていることを確認する。同じように、骨吸収を伴うリューマチ性関節炎でも、病理的な所見と、症状の悪化が見られる。すなわち、クローン性造血が特に骨吸収を伴うような病気で悪化することを明らかにしている。

 

あとは歯周組織の single cell RNA sequencing などを用いて、特に歯周病の悪化の原因を探っており、DNMT3A 変異細胞が増えることで、特に白血球の浸潤と炎症性サイトカインの分泌、抑制性 T 細胞の機能不全、そして破骨細胞の分化促進がこの原因であることを突き止める。

 

DNMT3A の機能を考えると、de novo メチル化が低下することで遺伝子発現異常が起こっていると考えられるので、目血ロームを調べると、全体的に強くDNAメチル化の程度が下がり、多くの遺伝子で発現が高まっていることが認められる。中でも、mTOR を核とする代謝ネットワークに関わる遺伝子の発現が強く認められたので、mTOR 阻害剤ラパマイシンを投与すると、歯周病の悪化を抑えることに成功している。

 

DNMT3A の機能から考えると、示されたことは、不思議のない納得の話だが、歯学部ということもあり歯周病に焦点を当てた点が面白い。今後高齢者の難治性歯周病は、クローン性造血のサインであるという話になる気がする。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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