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【サムネイル】 (画像引用元番号①)
みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、野生の「アフリカゾウ」は会話の中で相手の名前を呼ぶことが分かった、というものだよ!相手の鳴きまねではなく、固有の音声として名前を呼んでいる動物は、ヒト以外では初めの発見だよ!
個体の識別子としての名前がいつ頃発生したのか?というのは動物のコミュニケーションを研究する上で興味深い疑問で、今回はかなり大きな発見をしたと言えるね!
まだ、具体的な "アフリカゾウ語" を理解できるだけの水準ではないものの、将来的にはもっと深い理解ができるかもしれないという点で、今回の研究はとても興味深いよ!
CONTENTS
【図1】動物が名前を呼ぶというのは、例えばイルカやインコの仲間にもそれっぽいものが見つかっているけど、あくまで鳴きまねっぽい感じなんだよね。相手と無関係な音声を名前として使っているのは、今のところヒトだけだったよ。 (画像引用元番号②③④⑤⑥)
私には「彩恵りり」という名前があり、この記事を読んでいるあなたにも名前があるよね?名前というのは、他の誰でもない自分自身を識別するものとして、会話というコミュニケーションにおいてとても重要だよね?
この名前という個体の識別子は、人ならばどの言語であっても見られるものだけど、じゃあ鳴き声を出すヒト以外の動物でも名前に相当する音声があるのか?という疑問は、言語の成り立ちを考える上で結構重要な問題だよ。
もちろん、人が飼育している家畜やペットが、人が呼びかける声に反応しているという例はあるけど、動物の研究者が関心を持っているのは、人為的な介入なく発生したと考えられる、野生動物同士の言語なんだよね。
野生動物の声を録音することは大変だし、膨大な録音データから意味のある音声を抜き出すのはさらに大変なので、このような研究はなかなか進んでいなかったよ。
一応、2012年にはEupsittula canicularis[注1]というインコの仲間、2013年にはハンドウイルカ[注2] (Tursiops truncatus) において、特定の個体だけが反応する音声を発していた事は分かっているよ!
ただこれは、その個体が良く出す鳴き声を真似しているような雰囲気なので、名前というかというと微妙なんだよね。これがヒトの場合、名前で呼ばずに口癖で呼び出しているようなものだから、ちょっと違うのは分かるよね?
ということで、野生動物が名前で呼び合うかどうかは、その個体が発している音とは無関係な音声で証明しないといけないわけだけど、これは未知の言語から名前だけを抜き出すということで、かなり大変なことだよ。
コロラド州立大学のMichael A. Pardo氏などの研究チームは、野生の「アフリカゾウ (Loxodonta africana)」[注3]を対象に、音声の録音と分析、そして実験を通じた研究を行ってみたよ。
アフリカゾウは高齢のメスの個体を頂点に、その娘や子孫で構成された複数の家族で構成された群れを作っているけど、家族の中だけでなく群れの中でも、お互いに連携する行動が確認されているよ。
アフリカゾウの鳴き声は、性別や年齢などの基本情報や、感情や行動、あるいは危機的状況などを伝えることが分かっているので、相当に複雑な "言語" を操っている可能性は以前から指摘されていたんだよね。
Pardo氏らは観察を通じて、アフリカゾウの特定の個体だけが、別の個体の鳴き声に反応する状況をしばしば見てきたので、アフリカゾウの "言語" の中には、単に相手の鳴きまねだけではない名前の情報が含まれているのではと予想したよ!
そこでPardo氏らは、ケニアにあるアンボセリ国立公園とサンブル国立保護区にて、調査機関だけでも14ヶ月、全体では4年にも渡って、アフリカゾウの鳴き声を録音する調査を実施したよ!
もちろん、野生のアフリカゾウは素直にマイクの前に立ってくれないので、車で追跡しながら録音するなど、かなりの苦労を伺わせるような状況で録音を行ったみたいだよ!
このような調査の結果、469の鳴き声のサンプルの録音に成功したよ。これは101個体が発した声で、これに応答したのは117個体なので、この中に名前に相当するような情報が含まれている可能性があるね。
Pardo氏らは次に、機械学習モデルで名前かもしれない音声を抜き出す作業を行ったよ。もし特定の個体に呼び掛ける名前のようなものがあった場合、機械学習モデルは音声と個体の結びつけを正しく行えるはずだね?
その結果、機械学習モデルは、声に対応する個体を27.5%の確率で正しく識別したよ。あまり高くないように思えるかもだけど、全くランダムなデータを入れた場合の識別率が8%であることを考えれば、十分に有意なんだよね!
【図3】音声の分析によって得られた "名前っぽい音声" を聞かせると、狙った個体だけが反応を返してくれたよ!この結果は、聞かせた音の中に名前が含まれている可能性が高いことを示しているね! (画像引用元番号①⑧⑨)
さらに、この名前が含まれているであろう音声を、実際にその個体、全17頭に聞かせてみる実験も行ってみたよ。すると、全く無関係な音声を流した時と比べて、個体を識別できる音声を流すと、その個体はきちんと反応したんだよね!
名前と思われる音声で呼びかければ、鳴いて答えるだけでなく、音がした方向に歩き出す……。これはアフリカゾウの鳴き声の中に、単なる鳴きまねを越えた名前が含まれていると解釈してもおかしくないよね!
ちなみに、音声を流したアフリカゾウは最初は戸惑うようなしぐさを見せたけど、最終的には元の活動に戻ったよ。いわば、私たちが空耳として名前を呼ばれた気がするのと同じような反応をしたということだね!
アフリカゾウが録音に反応している様子は、コロラド州立大学も公式の動画として挙げているから、下記動画も見てみてね!0:40付近で録音を流したところ、0:43で反応を示しているよ!
(0:35から再生されます)
今回の研究では、アフリカゾウがヒトと同じような名前を使ってる可能性が高いということで、かなり興味深い研究結果だよ!何しろアフリカゾウとヒトとの分岐は、1億年前とかそれくらい古い時代に遡るからね!
これは言語を操る動物の中で、個体を識別するために名前を使っている可能性のある動物が、見つかっていないだけでもっといてもおかしくない、というのを期待させる実験結果だからね!
一方で、今回の研究をさらに進めて、もっと様々な単語を理解できる、いわば "アフリカゾウ語" を理解できるようになるのかと言えば、それはまだまだ遠い話だよ。
何しろ今回の研究でさえ、名前と思われる音声が含まれる部分を特定しただけで、この音声の全体が名前なのか、それとも名前は一部分だけで他は関係ない単語が含まれているのか、今のところ分からないくらいだからね。
水とか食べ物とか敵とかに相当する単語を抜き出すには、まだ相当データが必要であり、野生動物の声を録音する難しさから、これはかなり時間のかかる課題になってくると思うよ。
また、アフリカゾウの発する鳴き声には、私たちの耳には聞こえないほどの低周波音も含まれていることから、録音そのものやデータの解釈にも注意が必要になってくるよ。
それでも、アフリカゾウの言語を解読することはとても重要だと思うよ。アフリカゾウはその頭数が減っており、保護が呼びかけられている動物だけど、一方で地元住民のコミュニティとの衝突も問題視されているよ。
アフリカゾウを保護しようというのは簡単だけど、地元住民の農作物を荒らされるのはもちろん困るわけで、共存を考えていく上では重大な問題となるんだよね。
アフリカゾウの言語を理解すれば、例えば農地の周辺に「ここに来ないで、殺されるよ」と警告するようなこともできるわけだから、保護動物との共存を考える上でも、この研究は注目していきたいね!
最後に、この研究についてはコロラド州立大学も動画で詳しい説明をしているから、ぜひこちらも参照して、さらに深い所を知ってみてね!
[注1] Eupsittula canicularis
和名なし (検索ではメキシコインコがヒットするものの裏取りができない) 。英語名はOrange-fronted parakeetが代表的なので、直訳すればダイダイヒタイインコ (parakeetは小型又は中型のインコを指す語) となります。 本文に戻る
[注2] ハンドウイルカ
標準和名は「ハンドウイルカ」または「バンドウイルカ」であり、一般的にはバンドウイルカで通用します。しかし、バンドウイルカは水族館などの飼育環境下で使われる傾向にあるのに対し、野生個体についてはハンドウイルカを使う傾向にあるため、この記事ではハンドウイルカとしました。 本文に戻る
[注3] アフリカゾウ
Loxodonta africanaの和名はアフリカゾウが一般的に使われますが、サバンナゾウという和名もあります。これは近縁種 (別種か亜種かは意見が分かれる) のマルミミゾウがシンリンゾウとも呼ばれる事との兼ね合いです。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
Gemma Conroy. (Jun 10, 2024) "Do elephants have names for each other?". Nature. DOI: 10.1038/d41586-024-00797-z
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)