ガンのゲノム不安定性が免疫反応を誘導する意外なメカニズム(5月15日 Cell 掲載論文)

2024.06.13

SWI/SNF は ATPase を中心に多くの分子が集まった複合体で、ヒストンと DNA が形成するヌクレオソーム構造を ATP 依存的に調節している。ガンゲノム研究が進んだことで、SWI/SNF 複合体を形成する遺伝子変異が20−25%のガンに見つかり、転写と複製のミスマッチの解消、DNA 修復促進機能などが傷害されることで、発ガンが促進されることが明らかになってきた。

 

ただ面白いことに、SWI/SNF変異が発ガンを促進効果を持つ一方、最近ガン免疫を高めることがわかってきて、ガン治療の標的として注目を集めている。

 

本日紹介する論文

今日紹介するソーク研究所からの論文は、SWI/SNF の機能ユニットの一つ ARID1a の変異がガン免疫を誘導するメカニズムについての研究で、5月15日 Cell にオンライン掲載された。

 

タイトルは「ARID1A suppresses R-loop-mediated STING-type I interferon pathway activation of anti-tumor immunity(ARID1A は R-loop による STING-1 型インターフェロン経路活性化によるガン免疫を抑える)」だ。

 

解説と考察

ARID1A と結合した SWI/SNF 複合体は、ゲノム安定性を維持し、DNA修復を促進するガン抑制効果を持つことがわかっている。従って ARID1A の変異はゲノム不安定性を誘導して発ガン過程を促進するが、逆にガンのネオ抗原を増やしてガン免疫を誘導する。これが、ARID1A の変異がチェックポイント治療に反応する理由だと考えてきた。

 

この研究の結論の全ては、タイトルに込められており、このタイトルを見るだけで ARID1A 変異=ネオ抗原増加という考えが砕かれ、全く異なるメカニズムの存在に気づかされて驚くことになる。

 

まず、ARID1A の機能が失われたガンでは、これまで示されてきたように強い免疫反応が誘導され、CD8キラー細胞がガン局所に多く浸潤していることを確認している。

 

そして、この原因を追及するため、single cell RNA sequencing でガン細胞及び反応するT細胞側の ARID1A による変化を調べ、ガン側ではインターフェロン(IFN)反応に関わる遺伝子の上昇、T細胞側では IFN により誘導される遺伝子の発現が高まり、この結果ガン抗原特異的T細胞が増殖していることを突き止める。

 

すなわち、ARID1A 変異によるガン免疫増強の背景にはまずガンの IFN 分泌と反応性の亢進があることを明らかにする。

 

次に、ARID1A 変異が IFN 反応をガン局所で誘導するメカニズムを解析し、転写 DNA 複製が衝突する際に発生する DNAのR-loop をうまく解消できないため、一本鎖の DNA が切り出されてしまい、これがウイルス DNA を検知する STING 経路を刺激し IFNβ を誘導されること、そして IFNβ は腫瘍自体に働いてケモカイン分泌やガン抗原提示を促すとともに、T細胞にも働いてガン局所での増殖、キラー活性を促進することを明らかにしている。

 

まとめと感想

結果は以上で、ひょっとしたら他のミスマッチ修復異常でのガン免疫促進にも同じようなメカニズムが存在するかもしれない。実際のガンの症例でも、ARID1A 変異があって IFN 反応遺伝子が上昇している場合は予後がよいことがわかっているので、ARID1A 変異はチェックポイント治療の最優先対象になると思う。

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著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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