4000年以上前のがん切除跡を発見!? 頭蓋骨から見る古代エジプト人の医学

2024.06.07

4000年以上前のがん切除跡

(画像引用元番号①②)

 

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説の主題は、4000年以上前の古代エジプト人の頭蓋骨にがん[注1]を除去する外科手術の痕跡が見つかったというお話だよ!

 

頭蓋骨の一部を溶かした後として残るがん (古代エジプト人としては最古の証拠) の周辺に、硬いもので削ったような傷があることから、これはがんの除去手術の試みであると考えられるわけ!

 

残念ながら、今回の研究では「生前に行われた除去手術」なのか「死後に行われた除去」なのかを確定することはできなかったけど、がんに対する当時の古代エジプト人の知識を推し量る上で重要な発見となるよ!

 

古代エジプト人の医療は高度!でもがんを認識していたのかは不明

私たちは日々の暮らしで医学にお世話になっているわけだけど、その高度な医学はいつ頃から発生し、洗練されてきたのだろうね?これは素朴な疑問であると同時に、考古学に絡む形で探られている研究テーマでもあるよ。

 

実はこれについては、大量出血や感染症を防ぐ必要があるために、より高度な医療であると区分される外科手術でさえ、2022年には3万1000年前の手術の痕跡が見つかるなど、起源がかなり古いことが示されているんだよね。

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一方で、文字情報として疾病の内容が具体的に書かれているものとなると、最も古いのが古代エジプトになるんだよね。これは、内容が容易に読めるほど保存状態の良いパピルスが多数見つかっていることに由来しているよ。

 

例えば紀元前1600年ごろに書かれた「エドウィン・スミス・パピルス[注2]は、身体の部位や臓器の外傷に対する診断方法や治療方法などを、具体的な症例と共に解説していて、世界でも最古級の外科分野の医学書と言われているよ。

 

この内容は非常に具体的かつ科学的に合理的な内容で、いくつかは現代医学でもほぼ同様の診断方法が採択されている物すらあるよ!約1000年後の古代ギリシャの医学を凌駕するほどだよ!

 

このような詳細な医学書は他にもいくつか見つかっていて、古代エジプト人は歯の詰め物や義歯などの歯の治療、骨折への対処、脳圧を下げるための穿頭術[注3]など、様々な外科手術を行っていたことが分かるよ!

 

ただし、古代エジプトの1つが「がん」に対する認識だよ。がんに相当するであろう腫瘍に関する記述はいくつも見つかるけど、具体的にどう対処していたのかがよく分からなかったんだよね。

 

一応、最も古くから知られているがんである乳がん[注4]については、エドウィン・スミス・パピルスにも記載があるけど、残念ながら治療法などの文言が書かれていなかったんだよね。

 

他の症例に治療法等の言及があるのに、乳がんの記載がないのは、当時の医学の限界であると認識していたのかもしれないけど、とはいえはっきりとしたことは分かっていなかったんだよね。

 

4000年以上前のがんの切除跡を発見!?

E236のがん切除跡

(画像引用元番号①②④⑤)

 

エバーハルト・カール大学テュービンゲンのTatiana Tondini氏などの研究チームは今回、ケンブリッジ大学に保管されている、古代エジプトの頭蓋骨を観察し、知識の空白を埋める研究を行ったよ。

 

今回の研究で特に興味深かったのは、分類番号「E236」とラベルされた頭蓋骨だよ。E236は紀元前2686年から紀元前2345年[注5]の間に死亡した、推定年齢30歳から35歳までの男性のものとみられる頭蓋骨だよ。

 

E236の頭蓋骨で興味深い点は、後頭部の一部に黒ずんだ点があることだよ。調査した結果、これは長年地中に埋まっていたことによる変質などではなく、骨を溶かして成長した腫瘍、つまりがんに一致していることが明らかになったよ。

 

実際、大きな点の周りには、同じように骨の表面に見られる病変が約30ヶ所、表面的には分からない骨の内部に見られる病変が4~5ヶ所あるなど、転移していることが分かったんだよね。これは古代エジプト人としては最古のがんの痕跡になるよ!

 

Tondini氏らは、頭蓋骨のみからがんの重症度や健康への影響を決定するのは困難だという前置きをしつつも、このがんはE236の人物の直接の死因になるほど深刻であった、と推定しているよ!

 

さらに驚くべきは、病変の周辺に、いくつかの溝が刻まれていた事なんだよね。これは金属のような鋭い刃物で骨を削った時に一致するような形状をしていたよ。

 

Tondini氏らはこれにとても驚いたよ。このような傷が観察された前例はなく、まるで頭部にできたがんを外科的に除去しようと試みたように見えるからね!もし本当なら、4000年以上も前にがん切除手術が行われていたことになるよ!

 

ただし、Tondini氏らは、現時点ではこれを世界最古のがん切除手術の証拠とは強く主張してないよ。骨に刻まれた傷はその特徴から、E236の人物の生前ではなく、死亡した後に付けられたものである可能性を否定できないからだよ。

 

ケガの治療はやはり高度だった!

E270の外傷の治癒

(画像引用元番号①⑥⑦⑧)

 

一方で、今回の研究で調べられたもう1つの頭蓋骨である「E270」もまた興味深いよ。この頭蓋骨はE236より新しく、紀元前664年から紀元前343年[注6]の間に死亡した、推定年齢50歳以上の女性のものだと分析されたよ。

 

まず目につくのは頭頂部からやや右目側にある大穴だね。これは周辺の骨がギザギザしている部分も合わせ、より深刻ながんの性質を示しているよ。

 

ある程度高齢な人に発生したがんということで、古代の人々にもがんが珍しくなかったという証拠であると同時に、これほどの病気が放置されていたという点で、古代エジプト人ががんを正しく診断できたか疑問を抱かせるんだよね。

 

とはいえ、別の部分では、古代エジプト人の医学がスゴいことが分かるよ。E270の頭蓋骨には、左目の上側には鋭利なもので刺されて生じた穴と、頭頂部のやや左目側には鈍器で殴られてできたと思われる陥没があるんだよね。

 

書いているだけでも痛々しいこの傷なんだけど、現代でも結構重症に分類されるであろうこの傷跡に、その後骨の成長を伴う再生が起きていた痕跡が見つかったんだよね!

 

特に、骨折の一部は明確に骨の成長で融合しており、これは頭蓋骨が損傷するほどの重度の外傷を受けた後、何らかの治療を受けて助かったということになるんだよね。

 

また、骨肉腫の一部は骨折との因果関係が示唆されていることから、頭蓋骨に大穴を開けることになったがんの発生原因が、この骨折を負うようなケガに由来している可能性は十分に考えられるよ!

 

いずれにしても、これほどの重症を負うほどのケガから回復し、ある程度生存していることから、古代エジプト人は頭部の外傷についてはきちんと正しい治療を行っていたであろうことが分かるんだよね!

 

ところで、E270は女性であるという点が、ちょっと気になるんだよね。特に目の上の骨折は、意図的な刺し傷であることがほぼ確実なことから、相当暴力的な状況にあったことが示唆されるよ。

 

ただ、このような暴力的な状況は、特に戦争に従事している男性の頭蓋骨には珍しくないけど、従事していない女性の頭蓋骨にはめったに見られないという点で、この外傷は珍しいんだよね。

 

E270のケガは、これまでの考えを覆し、女性が戦争において何らかの立場や役割を果たしていた根拠となるのかもしれないけど、残念ながらこれだけでは証拠不足で、まだ大きなことは言えないんだよね。

 

人類がかなり古くからがんを理解しようとしていた重要な証拠!

さてそんな感じで、骨にできるがんについて古代エジプト人がどのように認識していたのかは、もやもやするかもしれないけど、きちんとした結論を出すには証拠不足だというのが今回の研究なんだよね。

 

ただし、4000年以上前の頭蓋骨であるE236に見られるキズは、いずれにしても興味深いよ。まず、生前の手術であるかどうかは確定できないけど、仮にこれが死後に行われた解剖であっても重要性があるんだよね。

 

実際のところ、古代エジプト人はミイラの作成のように遺体の解剖や加工の技術を持っていたので、その中で頭部やその他の場所にできる異常な塊としてがんを認識していたとしても不思議じゃないよね?

 

また、先述したように、古代エジプト人にとって乳がんは治療ができない病気だという知識があったわけだけど、だからこそどうにかして治療できる病気にしようとする、ということは考えられるわけだよね?

 

そういった医学的手法を模索する中で、E236のがんが見つかった場合、たとえ死後だとしてもそれを取り除く外科手術を行うのは、今後の治療方針を確立するための練習として行った可能性があるというわけだね。

 

この手術が献体のような形で行われたかは分からないけど、たとえ死後に行われたがんの除去手術であっても、古代エジプト人の医学ががんを理解しようとするほどのレベルに達しているという、かなり重要な発見となるよ!

 

いずれにしても、古代エジプト人では最古となるがんと、その除去を試みた外科手術の痕跡の発見は、人類ががんをどのように理解したのか、という歴史に一石を投じる発見だと思うよ!

注釈

[注1] がん

この記事では国立がん研究センターの用例に基づき、「がん」という用語を、悪性腫瘍全般を指すものとして使用します。 本文に戻る

[注2] エドウィン・スミス・パピルス

「エドウィン・スミス・パピルス」と同じころの時代に古代エジプト人が著した医学書としては、「エーベルス・パピルス」 (紀元前1600年頃) 、「カフン・パピルス」 (紀元前1850年頃から紀元前1700年頃) 、「ハースト・パピルス」 (紀元前1600年頃) などが知られています。 本文に戻る

[注3] 穿頭術

穿頭術の跡はかなり古い人骨でも見られますが、その中には "悪い気などを追い出す" といった呪術的な側面のある措置も見られるため、脳圧を下げるための医学的な措置であったかどうかは他の証拠を元に推測する必要があります。 本文に戻る

[注4]乳がん

乳がんは様々な文明でがんとして調べられた歴史のあるがんであり、語源にもなっています。英語でがんを表す「Cancer」はギリシャ語でカニを意味する「καρκίνος」に由来しますが、これはヒポクラテス (紀元前460年頃から紀元前370年頃) が、進行した乳がんから四方八方に広がる静脈がカニのように見えることを表した言葉です。また漢字表記の「癌」は、岩の異体字である「嵒」に病を表す「疒」を組み合わせたものですが、これは進行した乳がんを触診すると岩のように硬い感触が返ってくることに由来しています。 本文に戻る

[注5] E236の時代

E236の人物の推定死亡年代はエジプト古王国時代、第3王朝から第5王朝の時代に当たります。 本文に戻る

[注6] E270の時代

E270の人物の推定死亡年代はエジプト末期王朝時代、第26王朝から第30王朝の時代に当たります。 本文に戻る

文献情報

<原著論文>

  • Tatiana Tondini, Albert Isidro & Edgard Camarós. "Case report: Boundaries of oncological and traumatological medical care in ancient Egypt: new palaeopathological insights from two human skulls". Frontiers in Medicine, 2024; 11. DOI: 10.3389/fmed.2024.1371645

 

<参考文献>

 

 

<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

  1. 頭蓋骨E236の全体外観写真: プレスリリースより (Credit: Tatiana Tondini, Albert Isidro & Edgard Camarós)
  2. E236の創傷拡大写真1: 原著論文 Figure 4 a よりトリミング
  3. エドウィン・スミス・パピルス: WikiMedia Commonsより (Autor: Jeff Dahl / Public Domain)
  4. E236の創傷拡大写真2: 原著論文 Figure 4 b よりトリミング
  5. E236の溶骨部拡大写真: 原著論文 Figure 4 1 よりトリミング
  6. 頭蓋骨E270の全体外観写真: プレスリリースより (Credit: Tatiana Tondini, Albert Isidro & Edgard Camarós)
  7. E270の溶骨部拡大写真: 原著論文 Figure 1 E よりトリミング
  8. E270の骨折治癒跡: 原著論文 Supplementary Data Figure 3 b よりトリミング

     

    彩恵 りり(さいえ りり)

    「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
    本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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