色とりどりに世界を照らせ! LEDってなんだ?

2024.05.30



 皆さんは陽が落ちた後、どんな部屋で過ごしているだろうか? 灯りの点いた明るい部屋だろうか。あるいは月明りだけが頼りの暗い部屋だろうか。眠りに就くまでの時間を、部屋を明るくして過ごしているという人がほとんどだろう。現代の私たちの生活は、色とりどりの鮮やかな光に支えられている。そんな光を放つ発明品の1つが、発光ダイオードLEDだ。



 LEDの役割は今や、照明だけにとどまらない。ディスプレイや信号機など、身の回りのあらゆる光源に欠かせない存在だ。それでは、LEDはどのように鮮やかな光を発しているのだろうか? 身近にありふれた存在でありながら、いざ説明を求められるとよく分からないという方が多いだろう。そこで今回は、発光ダイオードがどのように鮮やかに光るのかについて解説していく。

少し詳しく 〜鮮やかに光る〜

 LEDの主な用途は光源だが、ゲーム機やモニター画面にも使用されている。これらの商品は驚くほど幅広く繊細な色を、多種多様なパターンで表現することが出来る。抜けるような青い空や海も、戦慄するようなおどろおどろしい血の赤も、思うがままだ。

 なぜこのようなことが出来るのだろうか? 以下の中から少し考えてほしい。



 1つのLEDであらゆる色を光らせられるように設計されているから。

 青用・水色用・紺色用など一色だけ光らせるLEDのバリエーションが無数にあるから。

 バリエーションは少ないが、同時に使う色の組み合わせで見え方が変わるから。

 ①~③以外の方法。





  • 1. それぞれの問題点は何だろうか?

    2. と②はアプローチの方法が違うだけで、同じ方法だ。

    3. は絵具を混ぜて色を作るようなものを想像してほしい。

    4. 実は私たちの目は、ある色しか見ていない。

 



 考えはまとまっただろうか? 正解は……「③」だ!



 LEDは種類によって放つ光の色が決まっている。赤いLEDは赤い光のみを、青いLEDは青い光のみを発することが出来る。赤いLEDが紺色を出したり、緑色のLEDがピンク色を出したりすることは出来ない。したがって、LEDの光を鮮やかに認識するためには、複数のLEDの光を混ぜる必要がある。

 これを実現するため、ゲーム機やモニター画面では赤色・緑色・青色の3色のLEDを細かく並べている[注1]。そして、表現したい色に応じて、それぞれのLEDの発光量を調節しているのだ[注2]

 なぜたったこれだけで、鮮やかな色が見られるのだろうか?





 私たちの眼球にある、色を感じる細胞は、赤色・緑色・青色の3色の光に強く反応する。そして私たちの脳は、赤色の光と青色の光に反応すると紫色、赤色の光と緑色の光に反応すると黄色に見えている、というように処理を行う。

 したがって、赤色・緑色・青色の3色の光源さえあれば、私たちの脳内ではそれぞれの光の強さと比率に応じた色を認識することが出来る。この赤色・緑色・青色の3色の光を、全ての色の原色という意味で、光の三原色という。





 LEDが放つ鮮やかな色の光は、光の三原色を利用して作っていることが分かった。LEDが光の三原色を始めとした、様々な色の光を作ることが出来るおかげだ。それではなぜ、LEDは様々な色の光を作ることが出来るのだろうか?

 続いて、LEDが様々な色に光る仕組みについて解説していく。



さらに掘り下げ 〜光を放つ〜

 LEDの話しの最中で申し訳ないが、穏やかにゆったりと流れる川を想像してほしい。

 この川の一部を垂直に切り崩した時、流れは一体どうなるだろう?



 当たり前の話だが、切り崩した部分だけ水が勢いよく落ちる。川の一部が滝になるからだ。そして、これも当たり前の話だが、大きく切り崩せば、より勢いのある滝になる。



 この当たり前が、LEDが様々な色に光る事を理解するのに大切だ。どういうことだろう?





 LEDp型半導体n型半導体という、2種類の半導体を組み合わせた道具だ。それぞれの半導体を接合し、p型半導体の方に正極、n型半導体の方に負極の電極を繋げた基本構造をしている[注3][注4]

 LEDに電圧をかけると、二つの半導体の接合面でエネルギーの落差が生じる。電子が、エネルギーが大きく不安定なn型半導体から、エネルギーが小さく安定したp型半導体に移動する際に、2つのエネルギーの差は不要になるため放出される。

 この時放出されるエネルギーが、光という形で私たちの目に届くというわけだ。



 放出されるエネルギーの大きさは、そのまま光の波長と相関する。

 放出されるエネルギーが大きければ、青や紫、紫外線などのエネルギーの大きい短い波長の光になる。反対に、黄色や赤、赤外線などのエネルギーの小さな長い波長の光は、放出されるエネルギーが小さいときに発せられる[注5]



 それぞれの半導体のエネルギーの大きさは半導体の種類によって固有のため、エネルギー差が任意の値になる半導体を組み合わせることで、任意の光を放つLEDを作ることが出来るというわけだ。





 LEDの光は、エネルギーが高い方から低い方に移るとき生じるエネルギー差を利用していることが分かった。けれどもLEDを使うとき、私たちはLEDを温めたり、あるいは冷やしたりしない。やることと言えば電気を通すだけだが、なぜそれでエネルギー差が生じるのだろうか?

 続いて、LEDがエネルギーの差を作る仕組みについて解説していく。



もっと専門的に 〜エネルギー差を作る〜

 突然だが、こんな状況を考えてほしい。

 まずは10人が一列に並び、1人に1つのボールを渡す。先頭にはバケツを置いておき、バケツにボールが入ると最後尾にボールが1つ渡される。この状態で、後ろから前にバケツリレーのようにボールを送っていく。これについては問題ないだろう。



 それでは、前半分の5人に「5人で4つのボールになるようにしてください」と、ひっそりと言ったとしたらどうなるだろう?

 先頭の1人は大慌てでボールをバケツに入れ、2人目以降は先頭がすぐにボールを手放しやすいようにボールを前に送るはずだ。そして、5番目の人は6番目の人からボールを受け取るのを拒否するだろう。やがて、6人目が苛立って無理やりボールを押し付けてくると、先頭は慌ててボールを手放し、前半分の合計を4つに戻す。そしてまた2人目以降ボールを前に送り、というサイクルが繰り返されるはずだ。



 このやりとりが2つの半導体の間でも行なわれている。どういう事だろうか?





 実は、p型半導体は電子を手放すように、n型半導体は電子を保持するように設計されている。これらの特性は、電圧をかけた時の電子の挙動に影響を与える事になる。



 p型半導体は電子を保持していたくないため、接合面付近の電子を電極に次々と送り出す。すると接合面付近に電子の数が少ない領域が生じる。この領域を正孔という。

 反対にn型半導体は電子を多く持っているため、電子の運搬役キャリアとして振舞う。



 LEDn型半導体からp型半導体に向かって電子が移動しているため、接合面の電子は正孔へと飛び込むことになる[注6]

 この、正孔に電子が飛び込むという流れの際に、押し付ける方と受け取る方とでエネルギーのギャップが生じる。ちょうど、ボールを拒否する方が無理やりボールを押し付けられたのと同じだ。



 そして、このエネルギーのギャップが解消されるときに放たれる光を利用したものこそ、LEDというわけだ。





 ここまで、LEDが光る仕組みについて解説してきたが、いかがだっただろうか? LEDは省電力・長寿命という特徴がよく知られているが、従来の光源に比べて低温という特徴も持っている。そのため、電球を熱源として利用するような場面では、今でも白熱電球が使用されていたりするので、電球には無闇に触れないよう注意しよう。



 最後に、記事の趣旨からは少し外れるが光を利用した研究について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。



ちょっとはみ出し 〜光を利用する〜

癒しに包まれる

 焚火というジャンルの動画があるのだが、見たことがある方はおられるだろうか? そのままの意味の動画で、キャンプや暖炉にくべられた炎の様子がひたすら垂れ流されている。特別何かが起きるわけでもないのだが、静かな環境でパチパチと小さな音を立てて燃えている炎の様子が、癒しを求める人にとって人気らしい。どうやら暗闇で淡く輝く光には、癒しをもたらす効果があるようだ。



 焚火を毎夜毎夜用意するのは面倒くさいが、私たちが意識せずとも毎日肌身離さず使っているものがある。ご存知、着衣だ。蓄光糸で作った布でも、焚火のようなストレス軽減効果があるのかを確かめた研究がある。たくさん光を吸収させた布を、暗闇で光らせ、ストレスの度合いを測定したものだ。暗闇での目印にもなるだけでなく、人を癒す効果もある一石二鳥の研究だ。



本物を守る

 ブランド品に芸術品、そして貨幣。世の中にはニセモノを作られては困るものがたくさんある。けれども偽造する側にとって、ニセモノを作ってはいけない物ほど価値が高く、偽造のし甲斐があるのもまた事実だ。そのため本物を作っている人は、偽造するのが困難で、仮に作れたとしても「絶対にこれは本物だ」と主張できる根拠を、本物に仕込んでおく必要がある。



 偽造防止のための技術として、蛍光体で本物に印をつけておくという手法がある。日常生活の中では目立たないが、特定の波長の光を当てると、あらかじめ刻印された印が見えるというものだ。これをセラミックス製品に応用しようという研究がある。ガラス化する蛍光体の絵の具で刻印して焼成することで、セラミックス製品の偽造を困難にしようという試みだ。



参考文献

・数研出版編集部. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 化学図録』. 数研出版.

・数研出版編集部. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 物理図録』. 数研出版.

・村田 滋. 『光化学 ─基礎と応用─』. 東京科学同人.

・アダム・ハート=デイヴィス 総監修、日暮雅道 監訳. 『サイエンス大図鑑【コンパクト版】』. 河出書房新社.

・谷 明日香ら. 『蓄光布のりん光がヒトの生理・心理反応に及ぼす効果』. 被服衛生学 (39), 2-8, 2020-03.

・藤川 真樹ら. 『新しいガラス蛍光体の開発と評価』. 情報処理学会論文誌 61 (9), 1542-1551, 2020-09-15.



[注1] ところで当然のように「ゲーム機や」と書いているが、switchの有機EL版以外にもLEDを使ったゲーム機ってあるのだろうか? アーケードのゲーム機はLEDを使っているかもしれない……が、最近全然ゲームセンターに行ってないからわかんないや。 本文に戻る

[注2] とはいえ、この世界に存在するLEDが赤色・緑色・青色の3色しかないのかというとそういう訳ではない。紫色のLEDや黄色のLEDも存在するし、単に紫色や黄色を表示したいだけなら、これだけでも構わない。様々な色のパターンを表現するためには赤色・緑色・青色の3色が必要という話しだ。 本文に戻る

[注3] 実際には、光の拡散する方向をするためのミラーや、封入しておくための樹脂などの部品も使われている。とはいえ、そのあたりを全部解説していては文量がエライことになるので割愛! 基本構造が2種類の半導体と電極だということだけ覚えて帰っていってください。 本文に戻る

[注4] は発光ダイオードの略称だが、p型半導体とn型半導体を繋げて電極を繋げたものの事をダイオードという。ダイオードの中でも特に発光を目的としたものが発光ダイオードLEDということだ。へぇ~。 本文に戻る

[注5] 赤外線と紫外線でなぜ紫外線の方がエネルギーが大きいと言えるのだろう? なんとなく温かい赤外線の方がエネルギーが大きそうだが、紫外線はDNAの二重らせんを開いてガンを引き起こす原因にもなっている程エネルギーが大きい。葉月が大学一年生の頃に受けた説明だ。 本文に戻る

[注6] それでは電極の向きを反転させてp型半導体に負極、n型半導体に正極を繋げるとどうなるだろう? この時、正孔と電子は互いに遠ざかるように移動するため、正孔と電子が出会わず、結果として電流は流れなくなってしまうのだ。 本文に戻る

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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