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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、毛虫が電気を通じてハチなどの捕食者を探知しているらしい、という研究結果についてだよ!
周辺の状況を電気で感知する「電気感覚」を発達させた動物は、多くは水中の魚類の例が知られているけど、近年では陸棲の動物でも見つかっていて、今回の研究はその延長線上にあるんだよね。
陸棲の捕食者と被食者との間で、電気を通じて探知するという例は初めての発見であり、この能力はより多くの生物においてもありそうということから、この発見は動物全般の研究において重要になる可能性があるよ!
なお、今回の研究は毛虫がダイレクトに登場することから、今回の説明画像についてはイラストで代用したよ!元資料に当たる論文やプレスリリースではばっちり写真があるので、そこは注意してね!
CONTENTS
電気を通じて周辺の状況を感知する「電気感覚」は、従来は水棲の魚類に限られたものだけど、最近では魚類以外の生物、そして陸棲の動物や無脊椎動物にも存在する感覚であることが分かってきたよ。 (画像引用元番号①③④⑤⑥)
生物が電気を利用しているというと、神経細胞を流れるシグナルとか、デンキウナギのように攻撃に使うなんていう例が思い浮かぶと思うけど、一方で電気を通じて周辺の状況を感知する能力を進化させた生物も良くいるよ。
「電気感覚」とも呼ばれるこの能力は、サメやデンキウナギのような魚類が持つのが有名だけど、最近ではギアナコビトイルカ[注1]のような哺乳類、カモノハシ[注2]のような半水棲、ハリモグラ[注3]のような陸棲の生物でも見つかっているよ。
そして直近では、マルハナバチが植物が帯びている静電気を探知して花を探す例が見つかったように、電気を感じるのは無脊椎動物にもあるようだ、というのが分かってきたんだよね。
そうなると気になるのは、静電気を感じる生物はもっといるんじゃないか?という点だよ。ここで振り返ると、ハチは羽 (翅) を激しく動かすために、他の生物と比べても静電気をめっちゃ帯びやすい動物なんだよね。
そして、ハチは多くの生物を捕獲する優秀なハンター、ということを考えると、逆に食べられる側にいる動物が、ハチの静電気を感知して行動する、というのは考えられなくもないよね?
その観点で注目してみると、一番可能性があるのが毛虫となるよ。毛虫の毛は毒を持つという化学防御を備えていることはよく知られているけど、実はこれ自体がスゴく敏感で、わずかな空気の振動も感知できると分かっているよ。
それほど敏感ならば、毛虫の毛がハチの帯びている静電気を感知するアンテナとして機能することは考えられることだけど、そもそも無脊椎動物に関するこの手の研究がされていない、という問題があったよ。
ブリストル大学のSam J. England氏とDaniel Robert氏の研究チームは、この仮説を検証するため、3種類の毛虫[注4]を用意して、ハチ (キオビクロスズメバチ; Vespula vulgaris) が近づいた時の状況を再現した実験を行ったよ。
まずは、ハチと毛虫のそれぞれが帯びている静電気の量を測定したところ、ハチはかなりの静電気を帯びているのに対し、毛虫はほとんど静電気を帯びていない、と測定されたよ。
これにより、ハチと毛虫との距離が数cmに近づいた場合、数千ボルトの強度を持つ電界が生じるよ。この時、主だった静電気は羽に蓄積されている関係上、羽ばたきで毛虫と羽との距離が変化すると、電界の強度も周期的に変化するよ。
つまり、毛虫がハチからの静電気を感じていると証明するには、羽を動かす周期と同じ周期で変化する電場を人工的に作り、捕食者が来たときに身体を丸めたり頭を振ったりする防御反応が見られるかどうかを調べればいいわけだね!
この考えに基づき、次の実験では、羽の羽ばたきに相当する電界の変化を人工的に再現し、毛虫が防御反応をするかどうかを調べたよ。その結果、羽ばたきの周期にほぼ一致する、1秒間に180回の電場の変化に反応したことが分かったよ!
さらに調べてみたところ、この電場の変化を検知するためにあるであろう、電場の変化に共鳴する毛の候補が見つかったので、今度はそれに絞って反応を測定してみることにしたよ。
その結果、毛が電場に共鳴するのは、1秒間に50回から350回の変化であると分かったよ。これはほとんど全ての昆虫の羽ばたきの周期に一致するものであり、今までの仮説を補強するね!
特に敏感だったのは、1秒間に220.3回変化する電場に対してであり、これはスズメバチのような、まさに毛虫が天敵とする昆虫の電場の変化に対応する数値だったよ!
今回の発見は、食べられる側である毛虫が、食べる側である昆虫を電気によって検知するということが分かった点でとても興味深いよ!
冒頭で書いた通り、電気を検知する感覚機能は水中では珍しくなくて、陸上でも少しだけ見つかっているよ。ただ今回は、捕食者と被食者との間で、かつ陸上の生物で見つかったという点は前例がないので、今回が初めてのケースとなったよ!
しかも、今回調べた毛虫は、系統的には約1億年前に分岐していること、また捕食者検知という例ではないけど、ハチやクモの仲間で電気を感知する能力を持つものが見つかっていることから、この能力はかなり古くからあったことが予測されるよ。
ということは、私たちが全然知らないだけで、実は節足動物という非常に広い区切りにおいて、電気を感知する能力を持つ動物が一般的に存在するという、実は当たり前な能力である可能性すらあるよ!
しかし逆に、これが節足動物の一般的な能力であるとすると、逆に困ったことにもなるんだよね。今回実験で人工的な電場を用意したように、何も捕食者ばかりがこの電場を作り出すわけじゃないよ。
特に、送電線や電子機器のような電気が通る人工物は、このような変化をする電場を放出するので、毛虫などはそれを感じてしまう可能性は十分にあるんだよね。
これは電場じゃないけど、毛虫に音を晒すとストレスを感じて食べる量が減るなど、発育に影響することが分かっているんだよね。とすると、毛虫が電場によっても捕食者がいると勘違いしてストレスを感じるかもしれないよね。
実はこれ以前に、肥料を散布する機械から放出される電場によって、花粉を受粉させるマルハナバチが影響を受けているらしいことが分かっているので、この良くない可能性は十分に考えられるよ。
昆虫は生態系の根幹を支える非常に重要な存在なので、人工的な電場が毛虫にストレスを与えたり、逆に本物の捕食者なのか単なるノイズなのかを区別しにくくすることは、生態系のバランスを崩しかねない影響を与えていることになるよ。
もちろん、現段階でのこれはあくまで仮説であって確定した話じゃないけど、でも生物多様性の観点からは十分に流しなければならない話ということになるよ。これからも注視したいところだね!
[注1] ギアナコビトイルカの電気感覚
2011年の研究で、ギアナコビトイルカ (Sotalia guianensis) の口の付近にある、元々はヒゲに関連づいていた器官が電気に敏感であることが判明しています。これは後述するカモノハシより後の研究であり、感度はカモノハシに匹敵します。単孔目以外の哺乳類で電気感覚が発見されたのは初めての事です。 本文に戻る
[注2] カモノハシの電気感覚
カモノハシの特徴とも言えるくちばし状の口には電気感覚があることが1986年に示されています。魚類以外では初めての発見であり、かつ単孔目は独立して電気感覚を進化させていることが示唆されています。 本文に戻る
[注3] ハリモグラの電気感覚
ハリモグラはカモノハシと同じく単孔目ですが、完全に陸棲ながらも電気感覚を発達させています。これは湿った地面の中を伝わる電気を通じて、シロアリやアリなどの餌を探知していると考えられています。 本文に戻る
[注4] 3種類の毛虫
今回実験で使用された毛虫は「Tyria jacobaeae (和名無し、英名Cinnabar moth) 」、「Telochurus recens (和名、英名Vapourer moth)」、「Inachis io (和名クジャクチョウ、英名European peacock butterfly)」の3種類です。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)