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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、 "DNAダイヤモンド" で「フォトニック結晶」を合成した、というものだよ。これはより高精細な回路や、将来的には量子コンピューターに欠かせない技術に繋がるものだよ。
フォトニック結晶は合成が難しいという課題を抱えていたんだけど、今回は「DNAオリガミ」という技術を使うことで、簡単に構造を作ることに成功したんだよ!
今回のフォトニック結晶は近紫外線を全反射するという、今まで困難だった領域にも踏み込んでいるから、フォトニック結晶を回路に使う道筋が見えてきた発見だよ!
CONTENTS
近年注目されている先端材料の1つに「フォトニック結晶」というのがあるよ。フォトニック結晶とは、その結晶中に微細な構造があり、その中を通る光 (電磁波) の経路に影響を与えるような物質のことを言うよ。
フォトニック結晶自体は、天然にも鱗粉やオパールの形で存在するけど、近年は特定の機能を持つフォトニック結晶を合成し、具体的に利用しようという研究が盛んに行われているんだよね!
例えば、フォトニック結晶は特定の波長の光を全て反射する性質[注1]を持つので、これを使えば光の経路を厳密に制御できたり、光を特定の場所に閉じ込める、なんてことすらできるようになるよ!
これの応用として、例えば導線も半導体も使わずに、光そのものを回路やメモリに使う超小型光回路や、極めて効率の良いファイバーや太陽電池、量子コンピューターに欠かせない量子材料などへの利用が期待されているよ!
その一方で、フォトニック結晶の合成には課題が多いんだよね。実用が見込めるような構造をしていて、それをなるべく欠陥を少なくして大量生産する、となると課題が山積しているのが、研究ブームの理由の1つでもあるからね。
フォトニック結晶は、光の波長と同じくらいの非常に小さな隙間を無数に持つ構造をしているんだけど、従来の結晶の成長法では隙間が埋まってしまうので、意図した構造を作るのが難しい、という問題があったんだよね。
特に、実用の幅が広がるであろう、厚みを持つ3次元フォトニック結晶の合成は難題で、まだまだ模索が続いているんだよね。従来の方法では極めて製造速度が遅い上に、対応する波長も赤外線より長い光に限定されてきたよ。
フォトニック結晶の実用を考えると、対応する波長は可視光線や紫外線であるのが理想的なので、対応できる波長を短くすることは、フォトニック結晶の合成と同じくらい難題だったんだよ。
ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンのGregor Posnjak氏などの研究チームは、フォトニック結晶の中でも最も注目されている「ダイヤモンド格子構造」のフォトニック結晶の合成を試みていたよ。
ダイヤモンド格子構造は、炭素原子が結合したダイヤモンドの結晶構造と同じような構造をしているものだよ。これがなぜ注目されているのかといえば、フォトニック結晶として面白い性質を持つからなんだよね。
例えば、フォトニック結晶は特定の波長の光を全反射する性質を持っているけど、ダイヤモンド格子構造の場合、外から来た光を180度正反対に反射したり、結晶の中に光を閉じ込めるのに理想的な構造をしているんだよね!
だから、光回路などを作る際にはダイヤモンド格子構造が最も理想的だと言えるんだけど、その構造は結構複雑なので、これまで欠陥の少ないフォトニック結晶を作ることが難しかったんだよね。
そこでPosnjak氏らは、「DNAオリガミ」という技術を応用してフォトニック結晶を作ることを試みたよ!英語でも "DNA Origami" と呼ぶこの技術は、かなりユニークなナノテクノロジーだよ。
DNAというと遺伝情報を刻む物質として生命科学のイメージが強いけど、一方でDNA自体は化学的にも物理的にも強い高分子であり、しかも塩基配列によって結合を制御できるという、とても扱いやすいヒモの側面も持っているんだよね。
DNAオリガミでは基本的に、骨組みとなる長い人工DNAと、骨組みを束ねたり端をくっつけたりする「ステープル鎖」という短い人工DNAを組み合わせて使うよ。
骨組みのDNAとステープル鎖は、どちらも塩基配列によって結合場所が限定されるように設計されているので、変な場所で気ままにくっついたりせず、自然と狙った形になるんだよね。
これは例えていうなら、パズルのピースと同じ原理だよ。ピース同士はデコボコの形が合わなければ噛み合わないように、DNAオリガミも塩基配列というデコボコを利用して、特定の配列同士のみが噛み合うように工夫されているよ。
DNAオリガミの技術を使えば、単に溶液を混ぜて調整するだけでも、非常に複雑な立体構造物を作ることすら可能なんだよね。DNAオリガミの名は、1枚の紙から見事な立体造形を組み立てることができる折り紙に準えているんだよ。
Posnjak氏らはDNAオリガミの専門家で、今回行った実験も基本的にはDNAオリガミの従来の技術を使っているよ。まず、特定の配列を持つ人工DNA (p8634) を用意し、その一部に意図的な欠陥を作ったよ。
この意図的な欠陥は、用意したステープル鎖と組み合わさると、24本 (8本×3単位) のDNAがダイヤモンド格子構造の基本となる109.5度で折れ曲がったくの字型の構造を作る、という誘導がされるように設計されているんだよね。
そして、このくの字型構造同士が、折れ曲がった部分でくっつくと、1つの足に24本のDNAがくっついた、とても小さなテトラポッド型の構造物ができるんだよね。これがダイヤモンド格子構造の最小単位となるよ。
次に、このDNAテトラポッドとでもいうべき構造物同士を、足の先端でくっつけるように別のステープル鎖を入れるよ。ここにも一工夫があって、テトラポッドが適切にくっつくような設計となっているよ。
ここがきちんとしていないと、意図した方向と逆向きにくっ付いてしまい、ダイヤモンド格子構造にならないからなんだよね。Posnjak氏らは、足の先端の塩基配列を工夫して逆向きの結合を防いだよ。
最後に、DNAオリガミで出来った "DNAダイヤモンド" の骨組みを丈夫にするために二酸化ケイ素 (SiO2) を、フォトニック結晶としての性質を持たせるために二酸化チタン (TiO2) をそれぞれ表面にコーティングしたよ。
これ自体は、半導体の製造などでよく使われている「原子層堆積法」を使ったものだよ。そして最終的には、長さ約35nm (0.000035mm) の腕から成る基本単位から、直径約10µm (0.01mm) の大きさの "DNAダイヤモンド" ができたよ!
今回合成された "DNAダイヤモンド" は、先述の通り二酸化チタンの表面を持ち、格子の単位は約170nmとなるよ。そして実験の結果、約300nmを波長を持つ近紫外線を全反射する性質を示したんだよ!
先述の通り、3次元のフォトニック結晶は合成自体が困難で、特に可視光線や紫外線というのは未開拓な分野だったんだよね。DNAオリガミという簡便な技術で紫外線のフォトニック結晶ができるのはとてもスゴいことだよ!
また、今回の実験はDNAによってダイヤモンド格子構造のテンプレートができたという点も重要だよ。例えば二酸化チタンを別の物質に置き換えれば、反射できる光の波長を自由に変化させることができるからね!
特定の波長に対するフォトニック結晶が欲しい時、DNAオリガミという簡便な技術でダイヤモンド格子構造という便利なテンプレートができる。この意義は実験でも実用でもとても大きなブレイクスルーだよ!
また、骨組みを強化する二酸化ケイ素だけでなく、DNA自体も結構強いので、フォトニック結晶としてある程度の耐久性を持っている、という点も追加で評価できる点となるよ。
Posnjak氏らは、今回の工程は工業スケールへとボトムアップができると考えていて、さらに実験を繰り返し、実用化に向けた工夫や課題を検証することを目指しているよ!
[注1] フォトニック結晶の、特定の波長の光を全て反射する性質
フォトニック結晶は、特定の波長の光が結晶内に存在することができない「フォトニックバンドギャップ」という性質を持ちます。これは半導体の電子における「バンドギャップ (禁制帯)」と似たような性質です。結晶内に光が存在できないので、光は結晶内に入り込めず、強制的にルートを変更されます。これが全反射の理由です。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)