交通騒音は鳥の生殖に深刻な影響を及ぼす(4月26日号 Science 掲載論文)

2024.05.23

騒音は物理的刺激と同時に脳を介する精神的刺激にも転換される。そのため、単純に暴露される音の量で量ることは難しい。これまでも騒音が鳥の生態に及ぼす作用については研究されてきたが、音そのものの質と量が及ぼす影響を調べた研究は多くなかった。

 

本日紹介する論文

今日紹介するオーストラリアDeakin大学からの論文は、交通騒音の鳥の生態と言うより、生理や生殖に及ぼす影響を調べた研究で、4月24日 Science に掲載された。

 

タイトルは「Pre- and postnatal noise directly impairs avian development, with fitness consequences(ふ化前とふ化後の騒音は鳥の発生に影響して適応を低下させる)」だ。

 

解説と考察

実験は簡単だけに、説得力は大きい。まず、母親への影響を避けるために、ふ化後常に親を必要としないオーストラリア・フィンチの卵と雛を使って実験している。すなわち、騒音に晒すときには、親はほかの足に映す。

 

騒音だが、65dbの録音した交通騒音と母親の声を用意している。ふ化前5日間、ふ化後5日間をセットにして、それぞれの録音を4種類の組み合わせで夜通しきかせ、その結果を調べている。この研究のすごいのは、効果を2年後、4年後に実験した個体から生まれた健康な子孫の数で評価している点だ。すなわちまさに進化でのフィットネス、生殖優位性ををテストしている。

 

結果だが、産む卵の数は交通騒音でも、母親の声でもほとんど違いはない。しかし、卵から正常にふ化する子孫の数となると、ふ化前、ふ化後いずれの場合も交通騒音を聞かせたときは数が減少する。効果としてはふ化前の方が影響大きく、ふ化前、ふ化後両方に交通騒音でさらすと、正常数の半分を切っている。

 

面白いのは、全く音を聞かさずにふ化前ふ化後5日間過ごした場合も、親の声を聞かせた場合と比べると少しふ化確率が低下することで、ただの音圧ではなく、脳を通した音の影響を調べていることがわかる。

 

この差の原因を調べる目的で、今度は音を聞かせた個体自体の身体について調べると、騒音を聞かせたグループの初期の成長が抑えられる。ただ、この低下は40日間の間に正常に追いつくことができる。ただ、音を聞かせた個体の血液で調べる、テロメアの長さや、ヘマトクリットは騒音で低下し、さらに40日間でもこの異常はそのまま持続する。

 

まとめと感想

以上が結果で、残念ながらメカニズムは全くわからない。いずれにせよ、ただの音圧で異常が起こるわけではないので、今後脳の認識機構を含めて面白い研究に発展する可能性がある。もちろん世の中への警告としては十分だと思う。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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