神経伝達因子に対するアストロサイトの反応とシグナル伝搬(4月17日 Nature オンライン掲載論文)

2024.05.20

アストロサイトは神経活動の支持細胞として神経回路の維持に関わるとされてきたが、シナプスを囲むように神経と接して、そこで分泌される神経伝達物質に反応することで、伝達物質の取り込みや、血管の制御による酸素供給、そしてシナプスの可塑性調節など複雑な機能を持つことが徐々に明らかになってきた。

 

本日紹介する論文

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、脳スライスや生体脳の Caイメージングを用いて、アストロサイトのグルタミン酸や GABA に対する反応とともに、反応の伝搬について詳細に観察した研究で、4月17日 Nature にオンライン掲載された。

 

タイトルは「Network-level encoding of local neurotransmitters in cortical astrocytes(脳皮質アストロサイトでの局所神経伝達物質のネットワークレベルのエンコーディング)」だ。

 

解説と考察

アストロサイトがシナプスで分泌されるグルタミン酸や GABA に対する受容体を発現しており、これが刺激されると神経のようにチャンネル開放による膜電位の変化は起こさないが、Gタンパク質活性化、IP3の合成を介して細胞内で貯蔵されていたカルシウムが細胞質に放出されることで、一種の興奮状態を誘導できる。

 

これまで、アストロサイトの興奮は、細胞や脳スライス全体に伝達因子を加える実験で調べられてきたが、この研究ではレーザーを当てた場所だけで刺激物質が活性化される「ケージ化合物活性化」と呼ばれる方法を用いて、アストロサイトを局所的に刺激し、細胞内のカルシウム放出をカルシウムセンサーを用いて追跡している。

 

伝達因子に対する神経の反応は大体ミリ秒単位の反応だが、アストロサイトの場合、100秒以上続く細胞内カルシウム上昇を観察することができる。そして、グルタミン酸受容体刺激の方が GABA 受容体刺激より強い反応が起こる。脳スライス培養でこれを確認した後、実際の脳で同じことが起こることをマウス脳のイメージングで確認している。脳内で、刺激場所からカルシウム放出が方向性を持って細胞内を広がる写真は感動ものだ。

 

次に、細胞上の局所刺激が、細胞を超えて周りの細胞へと伝搬する過程を追跡している。刺激されると150秒の間にほぼ200ミクロンに存在する細胞に興奮が伝搬する。すなわち、同じような細胞内カルシウム放出が他の細胞でも誘導される。この伝搬も神経とは全く異なり、細胞間にできた GAP 結合を通ってカルシウムや IP3 が伝達されるためで、この結合を切ると伝搬は強く抑制される。

 

最後に、グルタミン酸刺激と GABA 刺激でのシグナル伝搬の様式について調べ、強い反応を誘導するグルタミン酸刺激は、周りの細胞の興奮レベルを全般的に上昇させるとともに、強く反応する細胞が順番にシグナルを伝える一方、GABA 刺激では周りの細胞全体の反応性は上がるが、強く反応した細胞が現れてシグナルを伝達する様式は見られないことを明らかにしている。

 

まとめと感想

以上が結果で、これらの結果がシナプスの可塑性維持にどう関わるのかなど機能的な面はわからない。しかし、シナプスでの神経刺激が数百ミリ秒続いた後、同じ刺激がアストロサイトの興奮として200秒近く維持されることは、神経伝達の重み付けにはかなり重要な働きをしているように感じる。

 

このようにゆっくりした反応を組み合わせることで、脳回路の省エネも実現しているのだろう。これにさらに血管の制御が加わるとなると、アストロサイトの機能は、人工知能研究にとっても鍵になるかもしれない。

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著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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