1原子分の厚さの "金箔" 「ゴルデン (Goldene)」の合成と単離に成功!

2024.05.03

Goldene サムネ

(画像引用元番号①②)

 

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説の主題は、厚さがわずか原子1個分しかない "極薄の金箔" である2次元物質「ゴルデン (Goldene)」の合成報告についてだよ!ゴールデンウィーク中にゴールドなお話だよ!

 

これは元々偶然の発見と成果だけど、「金属原子の2次元物質で単離できた世界初の事例」という、かなりスゴい成果とセットなものだよ!

 

これは単にユニークな構造を持つ物質を合成できただけでなく、貴重で高価な元素の使用量を減らしたり、触媒効率を高めたりと、とてもすごい発展が見込めるんだよね!

 

ところで冒頭で普通に「ゴルデン」と呼んでるけど、実は「Goldene」のカタカナ表記についても相当に迷ったから、これについては後に解説を加えるね!

 

1原子分の厚さしかない「2次元物質」

2次元物質の例

1原子分の厚さしかない物質は「2次元物質」と呼ばれるよ。1種類の元素でできた2次元物質には複数の例があるけど、金属元素かつ単離された2次元物質の実績はなかったよ。 (画像引用元番号①③④)

 

私たちが普段使用している物質は、たとえ肉眼で厚さが観察できないほど極薄であっても、無数の原子が積み重なった、立体的な物質なんだよね。「バルク」と呼ばれるこのような物質は、どんな厚さであっても化学的には同じ性質を示すよ。

 

一方で、物質の厚さが原子何個分と数えられるくらい薄くなると、その性質は大幅に変化することがあるよ。特に、薄さの極限と言える原子1個分の物質は、その薄さから「単原子層物質」や「2次元物質 (2Dマテリアル)」と呼ばれるよ。

 

2次元物質が注目されるのは、同じ化学的組成や結晶構造を持っていたとしても、バルクと比較して大幅に変化した性質を持っているからなんだよね。中には別の "元素" と言えるくらい、代替の効かないユニークな性質を示すものもあるよ。

 

その代表例が、炭素の2次元物質である「グラフェン」だよ。鉛筆の芯などとして身近にある黒鉛 (グラファイト) のほんの1層だけでできた物質で、様々な性質から注目されているんだよね。

 

例えば、グラフェンは銀に匹敵するほど電気や熱を通しやすいし、引っ張る力に対する抵抗力はダイヤモンド並に硬いよ!他にもユニークな性質を持ち、これらは黒鉛を含め、どの元素でも代替が効かない性質なんだよね。

 

グラフェンに関する研究は、2010年のノーベル物理学賞の受賞対象になったけど、これはグラフェンの容易な合成法や単離方法が確立された2004年からの話で、異例の早期受賞からも、その注目度が分かるよね。

さて、グラフェンの合成と研究で、2次元物質がユニークな性質を持つことが明らかになると、科学者たちはすぐに他の元素でも同じような2次元物質ができるかどうかを試みたんだよね。

 

そして、炭素と似たような元素であるケイ素でできた「シリセン」をはじめとし、今ではゲルマニウム、スズ、鉛、ホウ素、リン、アンチモン、ビスマスでの合成が報告されているよ。

 

こんな感じで、これまでに様々な元素で2次元物質の合成に成功してきたわけだけど、意外とできていなかったのが金属の2次元物質、特に金属シートを単独で取り出す方法なんだよね。

 

確かに、スズや鉛のような金属元素での2次元物質の報告がないわけじゃないけど、それらは他の物質の表面にくっついた状態で合成されたもので、うまく剥がして単独のシートとして取り出す、というのができてなかったんだよね。

 

うまく行かない理由はいくつかあるけど、その1つとして、金属の2次元物質は不安定というのがあるんだよね。丸まって塊を作った方が安定という関係性から、剥がしてもすぐに丸まってしまい、シートではなくなってしまう、というのがあるんだよね。

 

じゃあくっついたまま使えばいいじゃん?って思うかもだけど、同じ2次元物質であっても、単独のシートである場合と、何か別の物質にくっついている場合とでは性質が大幅に変化するということから、そう簡単な話にはならないんだよね。

 

注目されてきた “極薄の金箔”

そんな背景がある中で、2次元物質の合成や単離が試みられてきた物質の1つに「」があるよ。この前提として、金をナノスケールの小さな粒子にすると、化学反応を促進する触媒の効果が表れることが近年明らかにされているよ。

 

しかも、金ナノ粒子が示す触媒としての性質は、その直径によって大きく変化するんだよね。ってことは、粒子とは異なる形状の物質、つまり1原子分の厚さしかない極薄の "金箔" が触媒としてどうなるのかも気になるところだよね。

 

ただ、人が叩いて作る金箔はどんなに薄くても原子数百個分の厚さを持つので (それでも十分すごいけど) 、もっと薄い "金箔" を作るには他の方法が必要になってくるよ。

 

そしていくつかの研究では、結構惜しいところまでは行ってるんだよね。まずは「1原子分の厚さの "金箔"」は、合成ができてたけど、単離ができてなかったんだよね。

 

例えば、2015年のある研究では、別の物質の間に金を挟み込むサンドイッチ構造として合成ができてたけど、化学的に分離する過程で丸まってしまい、単独のシートとして取り出すことに失敗したよ。

 

別のアプローチとして、溶液中に漂う単独の "金箔" を合成する方法が試されたこともあるよ。2019年には2原子分の厚さまで合成に成功したんだけど、今のところこれが一番成功に近づいた研究なんだよね。[注1]

 

偶然の発見と長年使われてきた試薬で “極薄の金箔” の取り出しに成功!

Goldeneの合成方法

セラミックスに金をくっつける実験で、偶然1原子分の厚さの金の層が合成できたよ!そこで村上試薬と界面活性剤を使うことで、1原子分の厚さを持つ極薄の金箔を単離することに成功したよ! (画像引用元番号①②⑤⑥)

 

リンショーピング大学の柏屋駿氏などの研究チームは、これらの課題を克服した物質の合成を報告したよ!と言っても、これは最初から合成を目的に実験していたわけではなく、別の実験中に得られた偶然の成果を応用したものだよ!

 

柏屋氏らが当初取り込んでいたのは、MAX相セラミックスという電気や熱を通しやすく、しかも頑丈な物質の研究だよ。今回使ってたのは「Ti3SiC2」という、チタンとケイ素の炭化物で、よく実験されているよ。

 

柏屋氏らは、Ti3SiC2に金を高温で被覆することを試みていたよ。金属とセラミックスをくっつければ、電気を流す接点ができるからね。ところが実際にやってみると、全く予想外の結果が得られたよ!

 

というのは、MAX相セラミックスを構成する元素のうち、ケイ素が抜けて金に置き換わる「インターカレーション」という反応が起こり、組成がTi3SiC2からTi3AuC2へと変わったんだよね!

 

このセラミックスは層状構造で、ケイ素は1原子分の厚さしかないから、金に置き換わっても相変わらず1原子分の厚さを持っている……つまり先述した1原子分の厚さの "金箔" になっている可能性があるということだよね!

 

と言っても、他の物質に引っ付いている状態ならば合成できた先例があるので、これを取り出さないといけないよ。ということで柏屋氏らが検討したのは「村上試薬」という物質だよ。

 

村上武次郎という人が発明したこの試薬は、フェリシアン化カリウム (赤血塩) と水酸化カリウムの混合物で、鋼などの金属組織を浮かび上がらせ、性質を調べるのに100年以上使われてきた需要な試薬として知られているよ。

 

この応用として、物質の表面を強アルカリ性で反応させて溶解・除去するエッチングにも使用されるよ。そして金は村上試薬に反応しないので、理屈上はセラミックスから金以外を除去できるということになるね。

 

とはいえ実際に実験をしてみると、濃い村上試薬を使えば良いという単純な話ではないことが分かったよ。実験をしてみると、どうにも薄い方がうまく余計な物質を除去できるらしい、ということが分かったんだよね。

 

また、光がある環境だと、村上試薬に含まれるシアン化物が金と反応してしまうので、光のない環境で実験をする必要があることもすぐに分かったよ。そして最も難しかったのは、取り出した金の安定化なんだよね。

 

先述の通り、金を2次元物質として取り出しても、そのままでは不安定で、すぐに丸まってナノ粒子を作ろうとするんだよね。ということで、丸まることを防止する物質を村上試薬に添加する必要があったよ。

 

柏屋氏らは実験を繰り返し、光が当たらない暗闇の環境下で、0.2%から1%の濃度まで薄めた村上試薬に168時間 (7日間) 漬けると、金だけを2次元物質として取り出せることを突き止めたよ!

 

また、2次元物質として安定化させるには、CTAB (臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム) またはシステインを界面活性剤として添加することでうまくいくことも突き止めたよ!

 

“Goldene” をどう読むのか問題

Goldeneのカタカナ名称

「Goldene」の読みは案外ややこしいんだよね。私も色々悩んだ末に「ゴルデン」と書いたけど、この辺の複雑な事情があるのよ。 (画像引用元番号①②)

 

さて、今回の "世界一薄い金箔" の合成成果は「金属元素の2次元物質を合成し、かつ単独で取り出すことに成功した世界初の事例」でもあり、柏屋氏らはこれを「Goldene」と名付けたよ。

 

私が最初にこのニュースに触れた時、最初に思ったのは「どう発音するの?」なんだよね。ちなみにこの悩みをTwitterにぶつけたりしたら、なんとまぁ柏屋さん自身に連絡をいただいてびっくりしちゃったのよ! (氏じゃ堅苦しいのでこの章ではさんで呼ぶよ) 

 

さて、なぜこれに迷ったのか。それは2次元物質において先駆的に研究された「グラフェン (Graphene)」があるからなんだよね。日本語では良く知られている通り、この物質はグラフェンと書かれるよ。

 

このカタカナ表記は、化学物質の和名を定める日本化学会の化合物命名法の中にある字訳基準に基づいたもので、それを参照すれば確かにGrapheneはグラフェンと読めるのよ。

 

そしてグラフェンに倣い、他の2次元物質も末尾に "-ene" がつくので、例えば「シリセン (Silicene)」や「フォスフォレン (Phosphorene)」のような表記が考えられるんだよね。

 

ところが、Grapheneの英語の発音をカタカナにすると「グラフィーン」や「グラフィン」に近く、末尾の-eneの発音が違うと言えるんだよね。これを踏まえて金に戻ってくると、一挙に問題が出てくるよ。

 

まず、Goldeneをそのまま英語読みすれば「ゴールディーン」や「ゴールディン」になるわけだけど、グラフェンを初めとした今までの発音の傾向を外すわけだから、なんか統一感がないよね。[注2]

 

じゃあ字訳基準にすればいいじゃんってなる訳だけど、そうすると「ゴルデン」がベストとなるよ。それでいいじゃんと思えば、私的にはそうでもないのよ。

 

というのは、「Gold」をカタカナでどう書くかといえば「ゴールド」になるわけじゃん?確かに字訳基準に従えば「ゴルド」になるとはいえ、習慣的にされていない発音にするのもどうなの?と思うのよ。

 

かといって、そこにこだわりすぎると、Goldeneの表記は「ゴールデン」となり、黄金色の字訳と完全に被ってしまい、それはそれで困るわけだよね?だからこうやって悩んでいたわけ。

 

ちなみに、一部の2次元物質はラテン語の元素名に因んだ名称もあることから「オーレン (Aurene)」や「オーレメン (Auremene)」も検討したらしいけど、とりあえずはGoldeneのみが論文で使用されているよ。

 

ここら辺の背景その他を柏屋さんにもメールで正直にぶつけて色々話し合い、私としては最終結論として、「Goldene」を「ゴルデン」というカタカナ表記にすることを提案してみるよ。

 

本当のところを言うと被りを恐れず「ゴールデン」にしたかったんだけど、それはまぁ色々問題があるよねと言うことで、日本化学会の字訳基準という大綱があるならとりあえずこれで行くかなという感じだね。

 

ゴルデンの未来は金ぴか?

Goldeneの将来

表面しか存在しない2次元物質は触媒として効率が最大だよ!そして金は触媒としての効果が見つかっているし、他の貴金属元素にも応用されるかもしれないから、ゴルデンの未来は金ぴかかもしれないよ! (画像引用元番号①②)

 

さて、そんな感じで名前で回り道をした極薄の金箔であるゴルデンだけど、単独で取り出すことにようやく成功したわけだから、これから用途などを具体的に検討したいところだね。

 

塊の状態の場合、1個の金原子は12個の金原子と結合しているんだけど、ゴルデンの場合には上下に原子がないせいで、結合している金原子の数が6個まで半減しているんだよね。

 

このように化学結合に必要な手が余っているような物質は、化学反応に対して興味深い特性を示すことが多いので、当然ながらゴルデンにも何か面白い性質がないかなと気になる所になるよ。

 

金は既にナノ粒子が直径によって異なる触媒の性質を示していることから、手が多く余っているゴルデンについても、何かユニークな触媒の性質を持っていることは十分に考えられるよ。

 

そして、ゴルデンの構造そのものが触媒にとってとても重要かもしれないよ。他の化学反応を促進する触媒となる物質は、最も表面の原子のみが化学反応に関与し、奥にある原子は関与しない、ということがしばしばみられるよ。

 

これはつまり、奥にある原子はムダになるということなので、なるべく薄く広げた触媒を使えば、同じ重さの触媒であっても、触媒に関わる面積を最大化し、触媒に関与しない原子を最大限節約できる、ということになるよ。

 

ゴルデンは1原子しか厚みしかないので、面積は最大で、無駄な原子がないと言えるよね。そして金は知っての通り高価な貴金属なので、ゴルデンを触媒にすることは、高価な元素を大きく節約できることを意味するよ!

 

ゴルデンがどんな触媒効果を持つのかはこれから調べるところだけど、色々と効率化されているゴルデンの使い道は結構興味深い所だよね!

 

そして柏屋氏らは、今後の研究課題として、ゴルデンのフレークを100nmより大きく合成するとともに、白金やパラジウムのような他の貴金属でも、ゴルデンと同じような2次元物質の合成を試みる予定だよ。

 

白金やパラジウムも、やはり貴金属でその触媒効果が知られているので、ゴルデンの手法を応用して2次元物質を合成することができれば、資源の節約や思わぬ応用が広がるかもしれないね!

注釈

[注1] 今回の研究以前の記録
今回の報告と同じような物質の合成と単離は、2022年にも主張されています。しかしこの研究は、実際には複数の層の重なり合いであると見られ、1層だけでできていることの証明が不十分であるとされています。 本文に戻る

[注2] Goldeneの英語読み
柏屋氏によると、英語読みでも全く問題がないわけではないとのことです。例えば、ポケットモンスターのポケモンの1種である「トサキント」の英語名は「Goldeen」であり、Goldeneと同じくゴールディーンと発音します。 本文に戻る

 

文献情報

<原著論文>

  • Shun Kashiwaya, et al. "Synthesis of goldene comprising single-atom layer gold". Nature Synthesis, 2024. DOI: 10.1038/s44160-024-00518-4

 

<参考文献>

 

<関連研究>

  • Liang Wang, et al. "Two-dimensional gold nanostructures with high activity for selective oxidation of carbon–hydrogen bonds". Nature Communications, 2015; 6, 6957. DOI: 10.1038/ncomms7957
  • Sunjie Ye,et al. "Sub-Nanometer Thick Gold Nanosheets as Highly Efficient Catalysts". Advanced Science, 2019; 6 (21) 1900911. DOI: 10.1002/advs.201900911
  • Sudhir Kumar Sharma, eta al. "Synthesis of Self-Assembled Single Atomic Layer Gold Crystals-Goldene". ACS Applied Materials & Interfaces, 2022; 14 (49) 54992-55003. DOI: 10.1021/acsami.2c19743

 

<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

  1. ゴルデンの構造予測図 : 原著論文Fig. 4aよりトリミング
  2. ゴルデンの構造模型 : 原著論文Fig. 1dよりトリミング
  3. 黒鉛の構造模型: WikiMedia Commons (Autor: Benjah-bmm27 / Public Domain)
  4. グラフェンの構造模型: WikiMedia Commons (Autor: Benjah-bmm27 / Public Domain)
  5. 村上武次郎のポートレート (1956) : WikiMedia Commons (Autor: 朝日新聞社『アサヒグラフ』 / Public Domain)
  6. ゴルデンのHR-STEM画像: 原著論文Fig. 2bよりトリミング
  7. 様々な触媒の写真: WikiMedia Commons (Autor: Shubhrapdil / CC BY-SA 4.0)

     

    彩恵 りり(さいえ りり)

    「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
    本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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