小さな分子の大きな力! 燃料電池自動車ってなんだ?

2024.04.17



 春になり、年度が替わると、初々しいものを目にする機会が増える。萌え出る草木の新芽は言うに及ばず、新入生や新入社員といった若々しい集団もあちこちで見かける。新しいのは何も、人や動植物だけではない。路上を見れば「仮免許練習中」や若葉マークの自動車がちらほらと目に入る。

 そのためかは知らないが、毎年4/6 4/15の十日間は春の交通安全運動だ。



 自動車は私たちの生活を支える重要な移動手段だが、排気ガスによる大気汚染が国際的な問題になっている。そのため、排気ガスがクリーンな自動車として電気自動車と共に注目を集めているのが、燃料電池自動車だ。とはいえ、燃料なのに……クリーン? 一体どういう事だろう。

 そこで今回は、燃料電池自動車とは何なのかについて解説していく。

少し詳しく 〜水素ガスで走る〜

 そもそも燃料電池自動車とはどのような車なのだろう? 燃料電池自動車以外の自動車と比較してみよう。

 自動車の動力源をザッッッッッッッックリと分類すると、3種類に大別される。

 ガソリンなどの燃料を燃やしてエンジンを回すガソリン車の方式と、電気の力でモーターを回転させる電気自動車の方式、そしてエンジンとモーターの両方を取り入れたハイブリッド車の方式だ。



 それでは燃料電池自動車はどうなのだろう? 「燃料」と付くくらいだからガソリン車と近いようにも思えるし、「電池」と付くくらいだから電気自動車に近いようにも思えてしまう。どちらとも取れるのでハイブリッド車のような気もする。



 一番近いのはどれだろうか?





 わざわざ問いかけておいてなんだが、実はどれに一番近いというのは少し難しい。

 というのも、動力源という面で見ると、燃料電池自動車に最も近いのは電気自動車だが、構成という面で見るとガソリン車が近くなってしまうためだ。

 どういうことだろうか?



 燃料電池自動車はモーターの力で動く自動車だ。燃料電池という電池から電気を取り出して、モーターを動かしている。これは、コンセントで充電する電気自動車や、太陽光で動くソーラーカーなどと変わらない[注1]

 そのため、燃料電池自動車の動力源は電気自動車に近いという事になる。



 けれども、燃料電池は水素ガスH2という燃料から電気を取り出す電池だ。水素ガスは天然にはほとんど存在しないため、燃料電池を送りこむ水素ガスは事前に仕込んでおく必要がある。ちょうど、ガソリン車のタンク内に、ガソリンを入れておくのと同じ理由だ。

 そのため、電気自動車には無い燃料の貯蔵タンクがある燃料電池自動車の構成は、ガソリン車に近いという事になるわけだ。

 

 燃料電池自動車は、動力としては電気自動車、構成としてはガソリン車に近い自動車だという事が分かった。しかしながら、水素ガスを燃料にしているのに、エンジンを回すのではなく、発電するとはどういうことだろうか[注1]

 続いて、燃料電池がどのように発電しているのかについて解説していく。



さらに掘り下げ 〜水素ガスで発電する〜

 水H2Oに電極を浸けて、電圧をかけてやる。しばらくすると、陽極と陰極の両方から、ブクブクと泡が立つのが観察されるようになる。ご存知、水の電気分解だ。

 この時、陽極からは酸素ガスO2が、陰極からは水素ガスH2が発生する。



 さて、「水と電気から水素ガスと酸素ガスを作る」ことが出来るのなら、その逆はどうだろうか?

 すなわち、「水素ガスと酸素ガスから水と電気を作る」というわけだ[注3]。これこそが、燃料電池の基本原理だ。



 果たしてそんなことが、本当にできるのだろうか? もう少し詳しく見てみよう。





 電池は普通、電解質と二つの電極の組み合わせで構成されている。

 燃料電池でも、電解質と二つの電極の組み合わせで構成されているという点では、普通の電池と違わない。

 けれども、内部で起きる反応が少々違う。



 普通の電池では、片方の電極が電解質に溶けるときに生じた電子e-が、もう片方の電極に移動して電解質と化学反応を起こす。導電内を電子が移動するときに生じるのが、電流というわけだ。

 しかしながら燃料電池では、主たる反応に電極や電解質は登場しない。

 燃料電池ではまず、電池内部に吹き込まれた水素ガスが、電極と電解質の境目で水素イオンH+と電子に分かれる。電子は導線を通って、水素イオンは電解質内を通って、反対側の電極の酸素と合流し水を作る。



 すなわち、電極や電解質は、水素イオンや電子を運ぶための運搬役という訳だ。

 この事が、燃料電池が作ることのできる電気の量(電池容量)に深く貢献している。



 電極の大きさも電解質の量も有限なため、普通、電池容量は有限だ[注4]

 しかしながら燃料電池の場合は電極や電解質が消費されないため、電池容量は水素ガスと酸素ガスが供給される限り無制限となる[注5]

 


 燃料電池は、水の電気分解を反対向きに反応させて、水素ガスから電気を作っているという事が分かった。しかしながらそもそも、その燃料である水素ガスはどのように調達しているのだろうか?

 続いて、水素ガスがどのように供給されるのかについて解説していく。

もっと専門的に 〜水素ガスを届ける〜

 水素ガスを燃料電池自動車に使用するためには、まずは水素ガスを作らない事には始まらない。とはいえ、一口に水素ガスを作るといっても、その手法は多岐にわたる。



 分類の方法の一つとして原料を想像してみよう。水素ガスはそもそも何から作られるのだろうか?

 

  •  水素ガスは天然の存在量があまり多くない分子だが、水素原子Hは至るところに存在している。水はもちろん、私たちの細胞や食品、プラスチック製品にだって水素原子を欠かすことは出来ない。

     H2は珍しいがHはありふれているのだ! なんせ全宇宙で一番多い元素だからね。

 



 水素ガスの作り方を原料別に見ると、石油や天然ガスなどの化石燃料、木材などのバイオマス資源、そして水に大別される。いずれも、水素原子Hを含む物質だ。

 物質内に水素原子があるのだから引きはがせばよい。化石燃料に対しては化学反応や沸点の違いを利用して、バイオマスに対しては化学反応や微生物による発酵を利用して水素ガスを取り出す。水は、お察しの通り電気や熱などを利用した分解だ。



 こうして方法も原料も様々だが、水素ガスを作る事が出来る[注6]

 しかしながら、水素ガスは気体なので必然的に体積が大きい。自動車のタンクという限られた空間で使うためには、体積が大きいままなのはあまりにも勿体ない。

 そのため精製された水素ガスは、高い圧力で圧縮されて体積を小さくされる。ゴミ袋のゴミを踏んで、少しでも多く入れてやるのと同じだ。



 こうして圧縮された水素ガスを車体のタンクに供給することで、燃料電池自動車が走行するというわけだ。

 

 

 ここまで、燃料電池自動車や燃料電池について解説してきたが、いかがだっただろうか? 燃料電池自動車に限らず、温室効果ガス排出削減を目指して開発された自動車を次世代自動車というらしい。安い買い物ではないが、次の新車購入の際に検討してみてはいかがだろうか?



 最後に、記事の趣旨からは少し外れるが水素エンジンに関する研究について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。





ちょっとはみ出し 〜水素ガスを燃やす〜

燃焼を制御する

 水素ガスはガソリンに比べて小さなエネルギーで着火し、5倍以上の速度で燃焼するという特性がある。そのため水素エンジンはクリーンなだけでなく、熱効率の高いエンジンとしても期待が持てる動力だ。一方で、燃えやすいという事は、意図しないタイミングでも着火しやすく、制御が難しいという事だ。このような意図しない燃焼を異常燃焼といい、エンジンの故障や破損の原因にもなっている。



 水素エンジンの異常燃焼を解決するため、異常燃焼の発生メカニズムの解析を試みようという研究がある。空気との混合、エンジンへの吸気、点火の方式などの項目を、ガソリンエンジンと比較して、どのような場合に異常燃焼が生じるかを確かめていった研究だ。技術の改良は、小さな事の積み重ねで出来ているようだ。





空に飛ばす

 インターネットを通じて世界中の情報と瞬時に繋がることのできる現代でも、物を運んでお金をやりとりするというのは私たちの生活の基盤だ。特に飛行機による運輸は、世界各地とすばやく繋がることのできる大切な手段である。一方で、飛行機は輸送量当たりのCO2排出量が最も多い運輸手段だ。したがって、飛行機のエンジンをクリーンにすることは、CO2排出量を大きく減らすことに繋がる。



 ご存知の通り、水素分子は宇宙で最も軽い分子だ。原子量が最も軽い水素原子わずか2つで出来ている分子だからである。そのため、液体水素を燃料にした水素エンジンを飛行機に搭載することは、クリーンなエネルギーであるだけでなく、飛行コストの低減にも繋がることが期待されている。

 しかしながら、従来のジェット燃料に比べてエネルギー密度が1/4程度しかないと課題も多いようだ。

 

参考文献

・水素エネルギー協会. 『水素エネルギーの事典』. 朝倉書店.

・数研出版編集部. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 化学図録』. 数研出版.

・松原 直義ら. 『水素エンジンにおける異常燃焼の発生メカニズムの解析』. 自動車技術会論文集, 2023, 54 , 1 , p. 100-105.

・大崎 博之, 寺尾 悠. 『航空機のゼロエミッション化』. IATSS Review(国際交通安全学会誌), 2022, 47 , 2 , p. 116-125.

[注1]エンジンは使うとどうしても振動するため音が出るが、モーターで走る電気自動車は振動が小さく従って音も小さい。音が小さすぎて、背後から近づかれても気付かないほどらしい。そのため、電気自動車には、わざわざ音を発生する機構が搭載されているのだとか。音って社会を構成する一部だったんだ。本文に戻る

[注2] 実際、水素から電気を作る燃料電池ではなく、水素を燃やして動力に変換する水素エンジンというものも存在している。こちらは、構成だけでなく動力の仕組みもガソリン車に近いが、ガソリンほどの出力が得られないという課題があるようだ。本文に戻る

[注3] 水素ガスと酸素ガスで水を作る、というと爆発を連想する方も少なくないだろう。けれどもこれは、水素ガスに火をつけた場合の反応だ。実際の所、水素ガスと酸素ガスは25 くらいの温和な温度でも、自然に反応して水になる。へぇ~。本文に戻る

[注4]反応が一方通行で電気を一度きりしか作れない電池を一次電池、電流を外部から逆向きに流して元の反応と逆向きの反応を起こすことで繰り返し使えるようにした電池を二次電池という。どちらの電池でも、反応の度に電極や電解質は消費されていくため、電池容量には限界がある。本文に戻る

[注5] さらにこの反応、電解質や電極、容器等を除けば、登場人物は電子の供給を行う水素ガス、電子を受け止める酸素ガス、そして生成物である水しか出てこない。温室効果ガスの二酸化炭素CO2や、酸性雨の原因である窒素酸化物NOX等が発生しないため、クリーンと言われている所以だ。本文に戻る

[注6] とはいえ、こうして作られた水素ガスを直接燃料電池として利用するわけではない。種々の不純物が混じっており、万が一、空気でも混入していた日には爆発事故が発生してしまうからだ! そのため貯蔵する前に必ず精製を行なうわけだが、そこまで含めていると記事が無尽蔵になるので今回はパス!本文に戻る

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

このライターの記事一覧