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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、サーモンの缶詰のアニサキスを40年分測ってみた、という研究だよ!
いったいどうしてそんなことしたの?な内容だけど、測ってみた結果として海棲哺乳類が増えているという結論はもっとよくわからんかもね!
でも、一見するとアニサキスが増えているというネガティブな結果は、生物多様性という観点から見るとポジティブな結果が出ている証拠となると、中々に興味深い結果なんだよね。
加えてこの研究では、博物館の標本とかではなく、身近な缶詰でアニサキスが増えているかどうかを計測しているという面白さもあるよ!
CONTENTS
地球は生命が発見されている、今のところ唯一の星だけど、その本当の豊かさには多くの謎があるよ。特に、小さくて目立たない生物は、数も種類も総質量も地球の多数派であるにも分からず、ほとんど分かってないよ。
そんな例の1つが線虫と呼ばれる「線形動物門 (Nematoda)」だね。種類数は推定100万種、生息域も非常に多様で、多細胞生物全体の内、普通の土壌なら80%、深海底なら90%を線虫が占めるとすら言われているよ!
それどころか、環境的に厳しい砂漠や高山、栄養に乏しく温度が低い深海、金鉱山の深さ3.6kmの坑道という重金属まみれの場所にすら生息しているんだよ!
また、生物としても非常にタフであり、乾燥した休眠状態になっているなら、最長で4万6000年も前に休眠したものが復活できるくらいだよ!これも多細胞生物としては最長記録になるよ!
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また、線虫は寄生虫としても有名だね。ヒトに寄生する蟯虫や回虫、病気の原因となるバンクロフト糸状虫やマレー糸状虫、そして今回の解説の主役で知名度もある「アニサキス」などが含まれるよ。
線虫が自然界のあちこちにいて、さらに様々な生物の臓器に寄生するということから「宇宙から線虫以外の物質を消し去ったとしても、地球や生物の細かい形が何となくわかる」という例え表現すらあるくらいなんだよね!
ただ、それほどまでに豊富な線虫だけど、過去にどの程度の数がいて、現在起こっている気候変動や生物の絶滅の影響を受けているのか、という点はかなり謎なんだよね。
線虫はミリメートル以下のサイズもザラにいて、見た目には細長い身体を持つ生物という特徴が似すぎているので、専門家ですら種を同定するのが困難、という事情があるからなんだよね。
そして、動物に寄生している線虫の数とかいうピンポイント情報は、博物館に収蔵されているわずかな標本でしかカウントされていないので、過去数十年に渡る変化、なんてのは誰も知らないんだよね。
それでも例えば、カレイの1種に寄生する線虫の数が、1930年から2016年までに8倍も増えている、という研究があるなど、実は知られていないだけで相当に個体数が変動しているらしいという研究もあるんだよね。
線虫は地球の動物の多数派であることを考えれば、個体数の増減は生態系全体にかなり影響を及ぼしそうではあるんだけど、こんな感じで実態はほとんど分かっていないんだよね。
アニサキスは知名度の高い線虫の1つで、本来はイルカやアザラシなどの海棲哺乳類を終宿主とするよ。しかし人間が誤って食べてしまうと、本来の宿主ではないため体内で移動してしまい、腹痛や吐き気などのアニサキス症を引き起こすよ。 (画像引用元番号①②③④⑥⑦⑧⑨)
さて、前章でチラッと触れた通り、今回の研究の主役は「アニサキス」だよ。これはアニサキス科 (Anisakidae) [注1]に属する線虫の総称で、海に生息する魚類の内臓に寄生していることで有名な寄生虫だね。
で、誤って生きたアニサキスを含む魚を食べてしまうと、人間は宿主になれないので、逃げ出そうと胃や腸の壁を破ろうとするんだよね。この時に激しい痛みや吐き気を起こすのが「アニサキス症」なんだよね。
ただ、じゃあアニサキスは本来ならどんな風に一生を終えたいのかというと、海で完結しているんだよね。初めは卵が海中で孵化し、オキアミなどのプランクトンに寄生するよ。
で、プランクトンは魚が食べるので魚の内臓に寄生し、今度はその魚をイルカやアザラシなどの海棲哺乳類が食べるので、その内臓に寄生し、そこで有性生殖と産卵をするよ。つまり海棲哺乳類が終宿主というわけだね。
あまり知られてないというか、私も情報収集の過程で初めて知ったんだけど、代表的なアニサキスの種であるAnisakis simplexには「イルカウミカイチュウ」という和名が付けられていることからも、終宿主の想像がつくよね。
そして、卵は糞と共に排出され、海中で孵化する、という生活環 (ライフサイクル) があるんだよね。本来海に関わらない人間が魚を食べちゃうので、人間も迷惑だけど、ある意味ではアニサキスも迷惑してると言えるかもね。
一応、アニサキスは宿主の魚が死んで時間が経つと、内臓から筋肉、つまり魚の身の部分に移動するので、水揚げから加工まで低温保存し、鮮度がいい内に内臓を除去してしまえば、そもそもアニサキスを防ぐことができるよ。
ただ、どうしても水揚げから加工されるまでの間に完璧な処置を行うことは困難で、どうしても少数は身の部分に移動してしまうというのがあるよ。生食用の場合、通常は冷凍で殺す処理を行い、あるいは目視で除去しているよ。
そして生食用ではない場合には、きちんと加熱調理をすればアニサキスを殺せるので、これでも安全性を確保できるんだよね。[注2]魚が生食用と加熱用に分かれている理由の1つでもある感じだね。
今回の研究では、最も古いものでは1979年に製造されたサーモンの缶詰を開封し、アニサキスを地道に見つけ出してカウントする、という大変な作業を行ったよ。その結果、サケとカラフトマスで数の増加を発見したよ! (画像引用元番号⑩⑪⑫)
では、アニサキスの個体数は過去と現在を比較すると増えたり減ったりしてるのかな?ワシントン大学のNatalie Mastick氏などの研究チームが、アニサキスを数えるためにちょっと変わったアプローチを試みたよ。
変わったアプローチとはサーモンの缶詰!サーモンはアラスカ湾で漁獲される代表的な魚のグループだね。で、缶詰業者は品質管理や将来的にデータを取るために、消費期限をはるかに越え、何十年も保管してるんだよね。
缶詰は、魚の切り身が加熱以外の処理をほとんど受けずに保存されているわけだから、これは役に立つデータだね。1匹丸ごとだとかなり大きくて、博物館にほとんど収蔵されていないことを考えてもいい着眼点だよね!
先述した通り、アニサキスが内臓から筋肉へ移行するのを完全に防ぐことは難しいことから、加熱してアニサキスを殺しているんだよね。裏を返せば、どうしても少量のアニサキスの死骸が含まれていることになるよ。
また、アラスカ湾のサーモンで寄生虫として見つかる線虫はアニサキス科しか知られていないこと、近い地域で採集されたアニサキスに寄生されている確率はほぼ100%であることから、分析にはうってつけだね。
さらに、アニサキスの外殻は熱や冷凍でもほとんど破壊されないし、古くなって腐敗や分解が進んだ缶詰でも構造が残りやすいことから、古い缶詰でも正確なカウントがしやすいんだよね。
そして、缶詰工場も寄生虫の数は統計を取っているけど、数年後には破棄されちゃうデータだから、やっぱり実物を数えてみよう、という感じにはなるんだよね。
なので今回は、1979年から2021年に製造された、サーモンの切り身が入った缶詰を178缶開封し、アニサキスを1つ1つ数え、サーモン1gあたりのアニサキスの数を数えるというかなり大変な作業を行ったよ!
サーモンと言っても生物学的には種類があるから、今回はサケ (Oncorhynchus keta) 、ギンザケ (Oncorhynchus kisutch) 、カラフトマス (Oncorhynchus gorbuscha) 、ベニザケ (Oncorhynchus nerka) の4種類を同定して調べたよ。
また、鮮度を保つために、漁船に冷蔵庫を備え付けることが十分に定着したのが1990年代半ばであることから、船内で冷却が行われたのは1995年製造分より後であると仮定して統計処理を行ったよ。
アニサキスは海棲哺乳類の体内で繁殖する以上、海棲哺乳類が増えないとアニサキスは卵を産めないよ。今回は中間宿主であるサーモンの缶詰でアニサキスの数が増えていることから、海棲哺乳類の数が増えているという間接的な証拠を得たことになるよ! (画像引用元番号①③④⑥⑦⑧)
開封の結果、50.6%の缶から、合計372個体の線虫が見つかり、同定可能だった127個体は全てアニサキス科と同定されたことから、全てがアニサキスであると仮定し、サーモンの種ごとのアニサキスの数の増減を推定してみたよ。
その結果、ギンザケとベニザケではほとんど変化していない一方で、サケとカラフトマスではアニサキスの数が増加している、という結果が出たんだよ!
この結果だけを聞くと、寄生虫が増えているということでネガティブだと思えるかもしれないね。しかし大局的に物事を見れば、これはネガティブどころかポジティブに解釈することができるよ!
少し前を思い出してほしいんだけど、アニサキスは魚に寄生すると言ってもそこで終わりじゃなくて、海棲哺乳類に寄生し、そこで卵を産んで繁殖する、というライフサイクルを行っているよ。
ということは、終宿主である海棲哺乳類の数が減ってしまうと、アニサキスも繁殖できないことから、中間宿主であるサーモンに寄生するアニサキスも減ってくる、ということになるよね?
ところが実際には、サケやカラフトマスではアニサキスが増加していることから、これはサケやカラフトマスを食べるイルカやアザラシなどの個体数も増加しているという証拠だと観ることができるんだよね!
実際、アメリカでは1972年に海洋哺乳類保護法が成立し、積極的に海棲哺乳類を保護してきたことから、Mastick氏らは、アニサキスを通じて個体数が増加したというポジティブな結果を見ていると考えているよ!
食物連鎖の頂点にいる海棲哺乳類が増えているということは、人為的な理由で一度壊れてしまった海洋生態系が再び回復しつつあるという証拠でもあるから、これはポジティブに解釈できるよね!
一応、Mastick氏らは気候変動による海水温上昇や、缶詰工場側の製造方法の変更などの可能性も考えてみたけれども、一部のサーモンでだけアニサキスが増えていることから、これである可能性は低いと考えているよ。
今回の研究では、缶詰の中のアニサキスを数えることで、生態系が回復しつつあるという間接的な証拠を得られたということで、結構面白いよね!
もちろん、これは間接的な手法なので、実際に生態系が回復しているかどうかは他の方法でも調べないといけないわけだけど、こんな方法もあるんだよというのが分かった点は中々ユニークだよね。
一応、この研究に問題がないわけじゃないよ。例えば今回は、線虫をアニサキス科だと分類することはできても、加熱の過程で内部構造や遺伝子が破壊された結果、属や種などの細かい同定がほとんどできなかったんだよね。
アニサキスは種によって終宿主が細かく分かれているので、これが同定できれば生態系に関してかなり深掘りできたわけだけど、缶詰を使っているのだからどうしても限界があるというわけだね。
また、ギンザケとベニザケではアニサキスが増えていないけど、これも理由が分からないよ。種が特定できない以上、終宿主も特定できず、ましてや海棲哺乳類の生息数と結びつけることができないわけだからね。
ただ、アニサキスは他の魚にもいるわけだし、そして缶詰にされる魚もたくさんいるわけだから、今回の研究手法を他の魚類に拡大することもできなくはないと思うよ。
今回の研究は、線虫という目立たないながらも生態系に重要な生物について、変わったアプローチで個体数を推定できるという、かなり面白い内容だね!
[注1] 「アニサキス」が指す生物の分類
国立感染症研究所や内閣府食品安全委員会は、アニサキスという言葉を「アニサキス亜科」に当てています。一方で原著論文ではAnisakidという語をFamily (科) と説明しているため、厳密にはズレがあることになります。今回の記事では原著論文の記載を優先し、アニサキスという言葉は「アニサキス科」を指す言葉として説明します。 本文に戻る
[注2]アニサキスの加熱処理
ただし、過去にアニサキス症になった人の中には、アニサキスを構成するタンパク質にアレルギーを起こす場合があり、稀にアナフィラキシー症状を引き起こすこともあるようです。加熱や冷凍ではアレルゲン物質のタンパク質は変質しないため、加熱や冷凍でアニサキス本体を殺しても安全性を確保できない場合もあることになります。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<関連研究>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)