リボゾームを使わないペプチド合成過程をデザインする(3月22日号 Science 掲載論文)

2024.04.22

このペプチドは、遺伝子からリボゾームで作られるのではなく、微生物が持っているさまざまな酵素活性が集まった酵素システムによって作られる。とすると、この過程を解明して、様々な薬剤を新たにデザインできないか考えるのは当然の帰結だ。

 

本日紹介する論文

今日紹介するドイツ・マーブルグにあるマックスプランク研究所からの論文は、現在知られている多くのリボゾーム非依存的ペプチドを合成する酵素を進化系統樹的解析を行い、これらの酵素が組み換えを起こしているサイトを明らかにし、この組み替え部位を用いて異なる酵素のユニットを組み合わせることで、異なる生産ラインを持った新しいペプチド合成システムを構成できることを示した研究で、322Scienceに掲載された。

 

タイトルはEvolution-inspired engineering of nonribosomal peptide synthetases(進化にヒントを得たリボゾーム被依存的ペプチド合成酵素のエンジニアリング)」

 

解説と考察

隠れマルコフモデルを用いたペプチド合成システムの構造解析から、複雑な酵素の並びが共通部分と、変化が大きい部分のユニットの組み換えにより形成されており、ゲノムレベルで組み換えが起こっている特定の部位が六種類存在することを明らかにしている。すなわち、この部位でユニットを交換しても、それぞれの機能に影響を及ぼさない。

 

この結果に基づき、異なる微生物由来で、異なるペプチド合成に関わるユニットを組み合わせた43の異なるエンジニアー酵素を作成し、それぞれ大腸菌に導入して同じ基質から合成を行わせると、様々な構造のペプチドが期待通り形成されることを確認している。

 

これらの解析に基づき、プロテアゾーム阻害に利用できるペプチドを作成するため、5種類の由来の異なる合成アッセンブリーユニットを組み合わせた生産システムを構成すると、アミノ酸が11−13並んだペプチドが合成され、プロテアソームを阻害することを確認している。

 

まとめと感想

結果は以上で、詳細をすっ飛ばして紹介したが、リボゾームに依存しないペプチド合成システムは、あたかもベルトコンベアでの生産ラインのように、アデニル化、濃縮、チオエステラーゼなど、数種類の酵素活性が並んでいる。したがって、それぞれの活動を並べ替えることで、新しい有効ペプチド化合物が作れると考えられ、その可能性が追求されてきた。

 

この研究は、このような生産ラインの入れ替えを進めるために重要な組み替えサイトを決定することで、今後自由に様々な微生物から選んできた酵素を組み合わせた生産ラインがデザインできることを示している。

 

専門でないので、一度 RNA に戻してペプチドとして合成する方法と、リボゾーム非依存的合成系をエンジニアする方法と、どちらが利用しやすいのかよくわからないが、いずれにせよペプチドエンジニアリングが創薬のトレンドになり、急速に進んでいることは確かだ。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

このライターの記事一覧