性決定の共通性と多様性(3月22日号 Science 掲載論文)

2024.04.15

生物学的な性の定義は遺伝子情報の交換が個体間で行われることで、大腸菌でも性は存在する。すなわち、遺伝子組み換えを通して、個体の持っている遺伝情報を交換することが、多様性を高めて種の保存を保証している。

 

単細胞動物では比較的簡単な性の維持も、高等動物になるにつれ複雑になり、精子や卵子といった配偶子だけでなく、オスとメスの分化が必須になってくる。

 

本日紹介する論文

今日紹介するドイツチュービンゲンのマックスプランク研究所からの論文は、褐藻類の性決定機構を調べることで、オスとメス決定の進化を展望した研究で、3月22日号 Science に掲載された。

 

タイトルは「Repeated co-option of HMG-box genes for sex determination in brown algae and animals(褐藻の性決定に HMG BOX 転写因子が繰り返し流用された)」だ。

 

解説と考察

褐藻は巨大ケルプを含む海藻の仲間で、この研究ではその性決定に関わるマスター遺伝子を探すところから始めている。この時、他の生物での性決定に関わる遺伝子の共通性に着目している。

 

すなわち、我々哺乳動物では SRY のような HMG ボックスを持つ転写因子で、おそらく褐藻も同じ HMG ボックス分子を持つ筈だと、オスとメスの配偶子を調べ、予想通り新しい HMG ボックスを二つ有する転写因子(MIN)を特定する。すなわち、褐藻は我々オピストコンタから10億年近く離れているが、その性決定に HMG ボックス分子が使われていることになる。

 

次に、この遺伝子のノックアウト実験を通じて褐藻の性がどう変化するか調べている。結果は期待通りで、我々の SRY と同じで、オスを決めるマスター遺伝子であることが示される。といっても、褐藻の形態はオスも、メスもほとんど違わない。ただ違いは配偶子がメスの配偶子のフェロモンを察知して融合する機能が欠損することで、オスの機能とはこれだけかと寂しくなる。それでも、MIN の下流では280種類の遺伝子の転写が変化している。

 

まとめと感想

以上が結果で、あとは生物進化の過程で性決定メカニズムを HMG ボックスとの関わりで見直している。ここが一番面白いのだが、酵母から褐藻、そして我々まで HMG ボックス転写因子をマスター遺伝子として使うのは共通している。しかし、進化過程を辿ると、ひとつの先祖 HMG 遺伝子が進化するのではなく、それぞれの進化でオスメスが生まれる時、独立して HMG 遺伝子が使われることがわかる。実際、褐藻の進化でも今回 明らかになった MIN とは全く別の、しかし HMG 転写因子が使われていることもわかる。

 

以上のことから、HMG ボックスという特殊な機能を持つ転写因子は、性決定という多くの遺伝子を同時に変化させる必要性に合致しているため、性決定の進化で何度も何度も、流用が繰り返されたことがわかる。性決定を考える面白い切り口が示されたようだ。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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