月の標準時「協定月時」策定が開始される!

2024.04.08

協定月時 サムネ

(画像引用元番号①②⑧)

 

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説の主題は、アメリカ政府が他国と連携して「協定月時 (CLT; Coordinated Lunar Time)」の策定に乗り出した、というお話だよ!

 

地球外の天体としては初めてとなる標準時になるわけだけど、なぜこのタイミングかというと、近年の月探査に関する色々な背景が関係しているんだよね。

 

実際のところ、協定月時がなければ、将来の月探査や恒久的な月滞在に大きな問題が生じる、という意味で、これは地味だけどとても基礎的で重要なものになるんだよ!

 

月は立ち寄り地点から恒久的な滞在地へ

月探査の過去と未来

人類は1972年のアポロ17号を最後にしばらく月に行ってないけど、2026年の有人月面探査を目指したアルテミス計画が始動しているよ。恒久的な月面基地や観測機器の設置も、あまり遠い将来の話ではなくなってきているよ。 (画像引用元番号①③④⑤⑥⑦)

 

地球唯一の恒久的な自然衛星である「」は[注1]、他の天体と比べるとずっと近所にあることから、宇宙開発の初期の段階から目標にされ続けてきた天体だよね。

 

1969年の「アポロ11号」では、歴史上初めて人類が地球以外の天体に降り立ったように、距離が近いことは人類を直接送り込むことへの大きなアドバンテージとなってくるんだよ。

 

1972年の「アポロ17号」を最後に、しばらく人類は月に行ってないよ。これは月面着陸を含む宇宙開発競争が幾分か軍事的側面があったことと、費用の割に科学的成果が伴わないなど、複数の理由があるんだよね。

 

しかし、2017年からアメリカ政府が「アルテミス計画」を開始したように、人類が再び月を訪れることが計画されているなど、最近になって再び人類が月を訪れることが現実的になってきたよ。

 

そして近い将来、無人や有人の恒久的な月面基地が建設され、科学的研究や観測を行うための半永久的な月面の拠点が整備されることは、けっして非現実的な夢物語とは言い切れなくなっているんだよね。

 

これは、月が相変わらず科学的研究の興味深い対象というだけでなく、月面に望遠鏡を設置したり、月から別の天体へと行くための中継基地とするなど、更なる展望を見据えての計画となっているわけだよ。

 

月で流れる時間は地球と異なる!

ただ、一時的に月面を訪れるのと、恒久的に月面に居続けることは、単に期間が何倍にもなる以上の重大な問題を抱えているんだよね。その技術的課題は色々あるけど、意外と基本的な部分でも問題があるよ。

 

それは「月で流れる時間は地球とは異なる」という問題だね。もちろん、太陽の昇り降りで観た場合の月の "1日" は、地球の29.5日に相当する[注2]、という意味でも1日の長さが全然違うけど、それ以外にも問題があるよ。

 

良く知られているように、月の重力は地球の6分の1だよね?実は、時間が進む速さというのは、時間を計る場所の重力の強さによって全然違うんだよ!

 

これは一般相対性理論で予言されている効果で、実際に測定もされているんだよ。例えば東京スカイツリーの特別展望台 (452.6m) は、24時間で10億分の4秒だけ時間が速く進んでいることが実測されているよ。

 

これは、展望台が地球の表面から少しだけ遠いことで重力が弱くなり、地上と比べて相対的に時間の進みが速くなっているんだよね!

 

現在では、計測する時計の精度が向上したことにより、たった1cmの高度差による重力の変化で生じる時間が進むスピードの違いすら分かるようになったんだよ!これはものすごいよね!

 

ましてや、地球の6分の1と、とても重力が弱い月ではもっと時間の進みが速いよ。具体的には、地球と比べて24時間当たり58.7マイクロ秒だけ時間が速く進むことになるんだよね!

 

小さいながらも重大な時間のズレ

月の時間の流れの速さ

月は重力が弱いので、地球と比べて24時間あたり58.7マイクロ秒時間が速く進んでいるんだよね。小さく思えるけど、GPS衛星がこれより小さなズレでも問題になっているように、実は深刻な問題なんだよ! (画像引用元番号①⑧⑨⑩)

 

さて、ここまで聞いてみて「何が問題なんだろう?」って思う人もいるかもね。24時間当たり58.7マイクロ秒ということは、1年で20ミリ秒のズレということだから、大したことないように思えるよね?

 

でも、これは実際には大問題だよ!これとスケールが近いものとして既にあるのが、地球の周りを周回しているGPS衛星での時間のズレだね。

 

GPS衛星は地球の上空に位置している、つまり重力が弱い場所にいるわけだから、地上と比べて時間の進みが速いんだよね。他の影響もあるので補正すると、24時間あたり38マイクロ秒のズレ[注3]が生じることになるよ。

 

GPS衛星は、地上の機器に対して電波を送信することで位置を特定するようにできているわけだけど、電波は光の速さで進むわけだから、わずかな時間のズレが大変な結果を生み出すことになるんだよ。

 

具体的には、これだけ時計のズレをそのまま放置すると、位置に1kmものズレが生じる計算になってしまうんだよ!これは位置を見るという意味では全く役に立たなくなってしまうね!

 

仮に、地球からのサポートで月でGPSのようなナビゲーションをしたとしても、月では数kmものズレが起きちゃうわけだから、全く役に立たない上に、月面で迷子はめっちゃ怖いことになるよね。

 

あるいは、月の周りにGPS衛星を配備する段階に入る前、例えば恒久的な観測機器を設置する段階でも問題が生じることになるよ。

 

例えば、月面に電波望遠鏡のような観測機器を置いた場合、機器同士の時刻が正確に一致していることが大事になる訳だけど、地球と時間の進み方が違うとなれば、これはとてつもない問題を生み出すことになるのよね!

 

他にも、現状の月面着陸は着陸予定地点から数kmズレて着陸することは普通なんだけど、よりピンポイントな着陸や、あるいはドッキングを考えると、そんなズレでは何の意味もないよね。

 

特に、月面基地との物資のやり取りを考えれば、正確な場所に着陸してくれないと、イチイチ取りに行くのが大変な上に、万が一基地の上に落ちたら大変だもんね!

 

地球からナビゲーションすると、これくらいのズレは普通に起きちゃうから、その意味でも月で時刻補正を行わないことは、将来の計画に支障をきたすことになるのよね。

 

「協定月時」策定開始へ!

協定月時策定開始

アメリカ政府は、他国と連携して「協定月時」を作るということを発表したよ! (画像引用元番号①②③)

 

こんな感じで、近い将来に月面の利用が広がることを見据えるなら、基本となる時刻の基準を改めて作ることが必要になってくるわけだね。

 

2024年4月2日 (エイプリルフールを避けた?) 、アメリカ合衆国科学技術政策局は、この問題に対する本格的な検討に入ることを発表したんだよね!この発表では、月での標準時である「協定月時」を作るとしているよ。

 

計画では、NASAとアメリカの商務省、国防省、国務省、運輸省が協力し、2026年12月31日までに協定月時を作ること、必要に応じて他国と連携することを柱としているよ。

 

より具体的には「協定世界時と変換可能にする」「ナビゲーションを行えるほど精度が高い」「地球からの同期が途切れても回復できる」「地球-月系より遠い場所でも拡張可能な方法にする」というのを目標としているよ。

 

まず、協定月時を作る動機でもある、ナビゲーションを行えるほど精度が高いものを作ることは間違いないんだけど、一方で協定世界時と変換可能にできるかとの整合性はかなり大変になってくると思うよ。

 

地球でも、協定世界時は複数の原子時計の時刻を平均化して算出しているわけだけど、実際には地球の自転のブレによる補正が必要だったりして、既に大変なことになってるからね。

 

ましてや、デフォルトで時間が速く進んでいる協定月時と変換可能にするのはかなり大変だと予想されるけど、でもこれをやらないと使い勝手が悪いからね。

 

何より、有人での火星探査や、その先の火星基地を見据えると、この程度の変換ができないってなってしまうと大変なことになるというか、異なる星々で時刻という基本的な部分で不整合が生じるのは事故の元になるからね。

 

逆に、苦労はするけど地球と月で時刻を変換可能にするシステムを構築すれば、将来的に作る必要があるであろう "協定火星時" にも同じようなルールを整備することになるだろうから、遠い将来でも役に立つはずだよ。

 

また、地球と月の時計の同期は定期的に行いつつも、同期が切れても独立して時間を刻み続けるシステムを構築するのは、火星やそれより遠い場所で時刻システムを作る場合で重要になるよ。

 

実際にどのように協定月時を作るかについてもこれからになるけど、科学的には少なくとも3つの原子時計を月面か月の周回軌道に乗せ、同期させなければいけないよ。

 

ってなると一番現実的なのは、原子時計を載せた月周回衛星を最低3機維持することになりそうだね。この辺はこれから具体的に詰めることになるだろうね。

 

その他、例えば月の一昼夜が地球の29.5倍も長いことの対応については、適切な時刻システムができた後にルールを定めることができるね。

 

人間は24時間に近い概日リズム (体内時計) で生きているので、月の一昼夜に対応して寝起きするのはさすがにムリだから、どのようにカレンダーを進めるのかは考えないといけないよね。

 

約29.5と、キリの良い倍数でシステムを組めない以上、例えば日常の時計は実際の1秒より少しだけ早くすることで、キリよく30で割り切れるようなシステムを作るのかもしれないね。

 

いずれにしても今回のタイミングで協定月時を作ると決めたは、人類が本格的に月に進出する時代に先手を打つ形で定められるから、地味ながらもとても重要な決定となるんだよね!

注釈

[注1] 地球唯一の恒久的な自然衛星
自然と但し書きしなければ、地球には無数の人工衛星が飛び交っています。また、自然の天体でも一時的に地球の周回軌道に乗った小惑星がいくつかあるため、厳密には恒久的なという表現が必要となります。本文に戻る

[注2] 月の "1日"
月の自転周期は27.3日ですが、その間に地球が太陽に対して動いているために、太陽の昇り降りで定義する、より感覚的に近い1日は29.5日となります。本文に戻る

[注3] GPS衛星のズレ
GPS衛星は地球から離れている場所を公転しているだけでなく、地表に対して速い速度で公転しているため、高速で移動することによって時間が遅く進む影響も受けています。重力が弱い所での時間が速く進む影響を差し引きすると、24時間あたり38マイクロ秒時間が速く進む、という影響が生じます。本文に戻る

文献情報

<参考文献>

 

 

<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

  1. 月面に建設された居住棟による村の想像図引用元 (Credit: SOM)
  2. アメリカ政府の協定月時策定開始のプレスリリース: プレスリリースよりキャプチャ
  3. 月の写真: 引用元 (Credit: NASA Goddard)
  4. アポロ17号のロゴ: WikiMedia Commons (Credit: NASA / Public Domain)
  5. アルテミス計画のロゴ: WikiMedia Commons (Credit: NASA / Public Domain)
  6. 月面居住棟の想像図: 引用元 (Credit: SOM)
  7. 月面電波望遠鏡の想像図: 引用元 (Credit: Saptarshi Bandyopadhyay)
  8. 時計のイラスト: いらすとやより
  9. GPS衛星のイラスト: いらすとやより
  10. 月のイラスト: いらすとやより

     

    彩恵 りり(さいえ りり)

    「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
    本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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