骨髄造血の全像(3月20日 Natureオンライン掲載論文)

2024.04.12

増血研究では、骨髄移植、in vitro コロニー法と長期培養、表面マーカーとセルソーターなどを組み合わせて観察が行われるが、実際の骨髄は骨に閉ざされて観察が難しい。それでもさまざまな工夫を重ね、骨髄の切片を作成する組織学的検討は繰り返し行われてきた。ただ、どうしても単一の造血幹細胞に焦点が当たるため、造血ダイナミックスを観察することは難しかった。

 

本日紹介する論文

今日紹介するシンシナティ子供病院からの論文は、主に胸骨骨髄を用いて、そこで起こっている造血全体を観察することで、試験管内で観察するのとは全く異なる造血ダイナミックスが存在することを示した研究で、3月20日、Nature にオンライン掲載された。

 

タイトルは「Resilient anatomy and local plasticity of naive and stress haematopoiesis(定常およびストレス下での造血は高い解剖学的安定性と局所的可塑性に支えられている)」だ。

 

解説と考察

この研究では247種類の細胞表面マーカー、セルソーティング、骨髄移植、コロニー法など、従来の造血研究を組み合わせて各種造血幹細胞特定法を確立した後、表面マーカーの多重染色により、それぞれの幹細胞の骨髄中での分布をまず調べている。

 

その結果、細胞に焦点を当ててみるともちろん全ての幹細胞を特定することができ、白血球や赤血球造血は類洞で、リンパ球造血は小動脈に近接して起こっているのが確認される。そしてこの研究のハイライトと言えるのが、それぞれの幹細胞は局所でコロニーを形成していないと言う発見だ。これは各系統へ分化した幹細胞でも同じで、この結果それぞれの系統は骨髄の別の場所で独立して形成されることになる。

 

幹細胞は当然増殖を続けている。なのに幹細胞が単独で存在し、局所的なコロニーを作らないと言う事実は、分裂した相手側がすぐにその場所を離れる事を意味する。実際、これを確かめるために、頭蓋骨にラベルした幹細胞を一個だけ導入し、24時間後に観察すると、分裂した娘細胞はその場所から移動している事を確かめている。

 

赤血球造血についてこの過程をさらに調べているが、分裂した細胞の片方で c-Kit の発現が低下しその場を離れる事を観察している。神経幹細胞の分裂によりできた娘細胞が上部へと速やかに移動するのと似たイメージだ。

 

細胞のオリジンを調べる標識法を用いてさらに確認実験を行い、赤芽球まで分化した後はクローナルな増殖がはっきりと捉えられるが、それ以前の幹細胞ではクローン増殖は見られない事を確認している。

 

最後に、個体が出血、感染、あるいはG-CSF投与といったストレスにさらされた時、この骨髄造血を支える構造はどう変化するのかを調べ、基本構造には変化がない事を特に幹細胞の分布から示している。すなわち分裂後娘細胞がニッチを離れると言うシステムが、造血構造の安定性を保証していることになる。ただ、骨によっては類洞や小動脈の構造が異なるため、増殖した細胞が移動する速度が変化する。そのため、それぞれのストレスに対して、腸管骨と胸骨では反応が違って見えることも示している。

 

まとめと感想

結果は以上で、木を見て森を見ずというが、森全体を見ることで造血にも新たな発見がもたらされている。とはいえ、全体を見るために画像解析は欠かせない。将来さらに AI を組み合わせればさらに新しい構造を見ることができるかもしれない。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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