メンタライジングとは?育児やセルフメンタルケアに使える理論とは!

2024.03.27

メンタライジング、もしくはメンタライゼーションという言葉は知っていますか?

今記事ではメンタライジングを理解してそれを意識して育児や対人援助、また自分自身のメンタルをケアするセルフケアに活かし、精神的に健康的な生活を送るためのちょっとした技法をお伝えしたいと思います。

 

メンタライジングとは?

メンタライジングとは「自己や他者の言動、行為を心理状態に基づいた意味のあるものとして理解すること」と定義されます。[※1]

 このままだと分かりづらいので、すこしほぐして解説していきます。
例えば職場の人や家族が特に理由もなくイライラしている、表情が険しいという「状態」を見た時、私達は大体の場合「今疲れているのかな?」「なにか嫌なことがあったのかな?」という風になにか理由があってこのような状態になっている、と認識することができます。これをメンタライジングといいます。

言葉の使い方としては「メンタライジングする」などと使います。ですので、まずひとつとしてメンタライジングは特別なことではなく、私達が日常的に行っていることに名前をつけているようなものです。

メンタライジングが弱い状態とは?

 前章でメンタライジングの対象は「自己・他者」というように定義していますので、他者はもちろん自分自身の言動についても理由があると察することができます。

しかし、想像するとわかりやすいように自分自身がイライラしている時、自分自身の心理状態について客観視することが難しいことは多いと思います。

また、生きている中で「なにか理由はわからないけどイライラしている」状態や「わかっているけど自分の言動を抑えることができない」という状態になることがあると思います。その時がメンタライジングが弱くなっている状態です。メンタライジング不全というように言い表すこともできます。

 なぜイライラしているときはメンタライジングが弱くなってしまうのでしょうか?

動物はストレスが高まっているときに、色々と思いを巡らせる前に自分自身を守る「闘争逃走行動」が働きます。それは人も同様です。例えば自分が銀行にいる時に銀行強盗が現れたとして、その時に「この人はどうして強盗をしているのだろうか、お金が必要なのかな」というような想像を巡らせることは不可能に近く、とにかく自分自身の命が助かることしか考えられなくなります。

この例えは極端な話になりますが、日常的なストレスが強く、慢性的にかかっている時にはこのようなメンタライジング不全モードに陥ることがあります。[※2]

 

 そして、このメンタライジング不全モードに陥るきっかけやタイミングは人それぞれです。それに関わるのは愛着不全やPTSDなどの強いトラウマ、などが関係しています。どちらも傷つき体験や安心することが難しい状態が慢性的にあった、という昔の出来事が関係しています。

しかし、この知識がないと昔あった出来事が今の心の安定につながっていることは想像できないので「どうして自分はこんなに心が不安定なんだろう」という気持ちに繋がってしまいます。

また、境界性パーソナリティ障害(BPD)という、感情調整が苦手なパーソナリティ障害もあります。これに関しても、原因などが特定されているわけではありませんが、症状としては同様に自分の感情を調整することが難しく、自分自身も周りの人からもなかなか理解が難しい状態にあります。

育児やセルフケアに活かすメンタライジング

 メンタライジングの能力は、幼少期における養育者との関わりの中で醸成されていきます。この中でのポイントは「自分の心的、身体状態をできるだけ早く理解する」ということです。自分の感情、不快感に名前がついていなかったり正体が不明だったりすると、人は不安になります。

しかし、それに名前がついていると対処法もつながりやすいものです。
例えば腹痛、という不快感がある時小さな子どもは身体の真ん中あたりが痛いけどそれをどう伝えればわからない、という状態で泣くことしかできなくなっています。そんな時に、その正体を養育者と一緒に分析していくことでその不快感の正体を認知することができます。そして次回からは「お腹が痛いの」と伝えることで自分自身の健康をコントロールすることができます。

 これを踏まえると、育児に活かせるメンタライジングとは「メンタライジングをうまく育てる」ということであり、その方法は「不快感の正体を探っていく」というようなやり方になります。そして自分の中で感じていることを他者も感じている、という感覚が発達した時に「この子も悲しいのかもしれない」「お腹が痛いのかもしれない」という自分の中にある感覚を他者に当てはめて考えることができます。この自分の中にある感覚を増やしていくことが子どもの心の安定につながる、という形になります。

 ただ、子どもは生まれ持った気質が人それぞれ違います。メンタライジングの力が育ちやすい人、育ちにくい人、他者にも自分と同じような感情があるという認識の発達が早い人、遅い人様々です。そこも踏まえたうえで、なにか気になることがあったら周りの専門家に相談してみるのもいいでしょう。[※3]

 

 そして、メンタライジングはその理論を知ること自体がメンタルケアにつながります。

自分自身の言動には必ず理由がある、この考え方を当てはめることができると少しだけ自分自身のことを客観視することができます。なんかイライラしている…と感じた際にそこに「どうしてだろう?」と省みることで、例えば最近睡眠が少なかったな、とか上司に怒られてばっかりだったな、とか今日何も食べていなかったな…などと考えることで原因を掴むことができます。

原因を掴むことができないと、自分自身のことを責めてしまうことも少なくありません。最初のうちは自分自身を客観視することが難しいのでうまくいきませんが、少しずつ練習することでうまくできるようになります。これも、自分自身のメンタライジングの醸成ということができると思います。

また、相手のメンタライジング不全に気づくことができるとより自分自身の精神を守ることもできます。誰かに強く当たられた時、理不尽だと感じる時に「もしかしてこの人自身の精神状態が良くないのかもしれない」「今は聞き入れてもらえる状態にない」といった事を想像できると不要な争いを避けられるかもしれません。

まとめ

以上、メンタライジングについてお話してきました。

自分や相手の言動にはその理由、心の動きがあると思い巡らせることがメンタライジングです。精神的に健康な状態ではメンタライジングは可能ですが、高ストレス下にいる時はそれがうまく働きません。育児、メンタルケアについてはこのメンタライジングを意識することで自己・他者の心の安定につながるという話をさせてもらいました。

苦手だと感じている人は、常日頃から意識することで上手にコントロールできるようになるので、意識的にやってみるのがいいですね。

参考文献等

※1 自己構築におけるナラティヴとメンタライジングの関連 (本文へ戻る)

※2 ストレス防衛反応を制御する中枢自律神経系 (本文へ戻る)

※3 子ども支援者支援におけるメンタライゼーションアプローチの有用性 (本文へ戻る)

 

永⽥ 良介(ながた りょうすけ)

保育⼠、社会福祉⼠、精神保健福祉⼠。
主に、児童期における精神的な悩みや疾患などを主に取り扱う実践家。