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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、「硬い材料」と「柔らかい材料」とを接着剤なしでくっつける「電気接着」の技術確立に関する解説だよ!
この電気接着は、接着する時だけ電流を流せばよくて、電流を切っても数ヶ月間くっつくほど耐久性があり、水中でも使えるよ。何より、電流を逆向きに流すとすんなり剥がれてくれるというメリットもあるよ!
今回の電気接着は、従来の接着剤の課題や、先行する研究における課題を解決するもので、ソフトロボティクスや、場合によって医療分野に応用できるかもしれない、かなりスゴい可能性を秘めているよ!
CONTENTS
硬い材料と柔らかい材料の複合体である「ソフトロボット」が注目されているけど、どうやって接着するのか?という課題があるよ。特に一度接着すると剥がれない、というのは結構大きな問題だね。 (画像引用元番号③)
近年注目されているロボット工学の分野の1つに「ソフトロボティクス」というものがあるよ。ソフト、つまり柔らかい材料を使ったロボットを作ることで、繊細な材料を扱う分野や、介護医療などの応用が期待されているよ。
この時、ソフトロボットは部分的に柔らかい材料を使うけど、駆動部や骨組みは硬い材料を使うので、設計的には硬い材料と柔らかい材料をくっつける、という設計思想になる訳だね。
そして工学者が参考にしているのが実際の生物だよ。例えばヒトのような動物は、筋肉のような柔らかい組織と、骨のような硬い組織が結びついているので、まさにソフトロボットと同じ設計だとみなすことができるよね。
ソフトロボットをイチから作るという意味では、貝が岩に付着するように、後付けで塗ることのできる接着剤のような物質も注目されるよ。例えばムール貝の接着剤は、水中でも使える頑丈さからかなり注目されているね!
一方で難題もあるよ。接着剤は粘着性が強力であるほど剥がれにくくなるけど、一方でこれは一度くっついた状態から再び剥がすことが難しいことと表裏一体になっているから、困ったことにもなるんだよね。
ソフトロボティックスにおいては、異なる材料を何回もくっつけたり剥がしたりすることができれば使用の自由度が上がるんだけど、それができないことが大きな難題の1つになっているんだよね。
この辺の難しさを表すものとして、「じゃあ生物をそのまま使えばいいんじゃない?」って発想で、クモの死体をマジックハンドにする「死体ロボット工学」なんてものがあるくらいだよ!
その意味で注目されている接着方法の1つが「電気接着」だよ。一見すると下敷きをこすると髪の毛やホコリが引きよせられる静電付着のようにも思えるけど、実際には全く違うよ。[注1]
電気接着をする時には、材料同士をくっつけた後に10V程度の直流電流を数秒流すと、電流を切った後も接着状態を維持するんだよね。面白いのは、接着が頑丈なのに、電流を逆向きに流すと再び剥がれるという点だよ!
電気接着で最も研究が進んでいるのは、柔らかい材料同士を接着する場合だよ。例えばゼリーや寒天のような「ゲル」[注2]同士は、電気接着で強力に接着し、逆向きに電流を流すと簡単に剥がれてくれるよ。
ある程度の時間だけ電流を流すということで、どうもゲルを構成している分子の移動 (電気泳動) と再配列によって、ある方向に流すと接着され、逆方向に流すと剥がれる、というのが実現しているっぽいんだよね。
では柔らかい材料同士をくっつけられるなら、次は柔らかい材料と硬い材料を電気接着できれば、となるところだけど、いまのところこれは上手く行っていなかったんだよね。
例えば「電流を流した時だけ接着する」というのは実現しているんだけど、これは電流を切るとすぐに剥がれてしまい、物理的にも全く違う現象が起きることが分かっているよ。[注3]
一応、電流を切っても硬い材料と柔らかい材料が接着した状態が維持される成功例は皆無ではないけど、どうも他の材料へ応用することができなさそうな原理でくっ付いてるみたいなんだよね。これは注釈に詳しく書くよ。[注4]
ということで、色んな材料で硬い材料と柔らかい材料を電気接着でくっつけ、逆向きに電流を流せば好きなように剥がせる、ということは、今のところできてなかったんだよね。
メリーランド大学カレッジパーク校のWenhao Xu氏、Faraz A. Burni氏、およびSrinivasa R. Raghavan氏の研究チームは、この電気接着に関する課題を解決する研究を行ったよ。
過去の研究を踏まえ、直流電流を流す電極に直接ゲルを挟み込むことで電気接着がうまくいかないか、という点を色々試してみたんだよね。
最初の実験では、アクリルアミドをベースとしたゲルを、黒
5Vの直流電流を3分間流してみたところ、向かってプラス側の電極に強く付着したよ!この結合はとても強く、引っ張って剥がそうとすると、柔らかいゲルが先に切れてしまうほどだったよ!
単にくっつけた瞬間だけじゃなく、ゲルを乾燥させないように密閉容器に入れておくと、数ヶ月間保管してもまだくっ付いているくらい、期間を置いてもくっ付いているという強みがあるよ!
そして、今度は逆方向に電流を流してみると、ゲルとくっついていた電極が簡単に剥がれたよ!その一方で反対側の電極にはくっついたので、アクリルアミドのゲルはプラス側の電極とのみくっつくことが予想されるよね?
そして、ゲルや電極の種類を色々変えてみたところ、物質によってくっつきやすさが変化すること[注5]、塩化ナトリウムのように電流を流しやすくするイオン性物質が含まれているとよりうまくいくことが分かったよ。
最初の実験では3分間電流を流すという条件で接着したけど、ゲルの組成などの条件さえよければ、たった数秒間電流を流しただけで十分に接着することも分かったよ!
面白いことに、試してみたゲルの中には、ゼラチンのようなタンパク質性のものが含まれており、電極の種類によってはプラス側にもマイナス側にもくっつくことが分かったよ!
タンパク質がメインで塩分を含むゲルといえば、植物や動物の体組織も同じなので、今回の研究では様々な肉や野菜や果物でもくっつくかを実験してみたんだよね!
すると、種類によって電極との相性が変わるものの、全ての生体組織が片方又は両方の電極にくっ付いたんだよね!これはかなり面白い応用例を考えさせられるけど、そこはもう少し後に説明するね。
ところで、なんでゲルと電極はくっついたんだろう?いくつかの金属では電流を流してもくっ付かなかったことや、くっついた面のみが化学変化を起こしていることから、これは電気化学的な現象が起きたみたいだよ。
残念ながら、今回の研究では完全に詳細まで突き止めることはできなかったけど、電流を流す前後でくっついた面の組成が変化していることから、単純な酸化還元反応に加えて何かが起こっているらしい、とわかったよ。
これ以上のところは、今のところ想像に留まるところなので、更なる分析研究が待たれるところだね!
今回突き止められた電気接着は、いくつかの興味深い用途を想像できるよ。最初はやはりソフトロボティックスで、接着剤を使わずに硬い材料と柔らかい材料をくっつけられることが期待できるよね。
今回の実験では、接着面はゲルが破損するまで耐えたことから、これは機械にかかる荷重を計算する上でも結構重要と言えるよ。
次は電池の開発だね。電池は2つの電極の間に電気を通す電解質が挟まっている構造だけど、これは液体に限らず、ゲルのような半分固体の物質でもOKだよ。
今回は接着剤を使わずに、ゲルを直接電極にくっつけられるということで、もっと効率の良い電池や、設計思想が自由な電池を作れるかもしれないね。
さらに、電流を流しっぱなしにしなくてもくっつきっぱなしになる一方、電流を流す方向を変えることで簡単に剥がれることから、ゲルを輸送する工場のラインにシステムを組み込める可能性もあるよ。
ユニークなのは、電気接着は水中でもできるということ。電気接着は水中でも剥がれないばかりか、電流を流せば水中でも接着することができるんだよ!
市販されている接着剤の多くは、水中で接着作業ができなかったり、水没した環境で長時間持たないという課題があるので、電気接着が本領を発揮するのは、もしかすると水中用途、という可能性も見えてくるよ。
湿った環境という意味では、生き物の身体の中もそれは同じだよね?そして今回の実験では豚肉や鶏肉もくっついた、ということは、原理的には筋肉組織の接着にも使えることになるね!
もちろん、医療分野の応用は環をかけて難しいけど、ゲルと硬い組織がくっついてできている人体のことだから、もしかしたら将来的には人工関節と人工筋肉をくっつける方法として採用されるかもしれないよ!
[注1] electroadhesionを電気接着と訳したことについて
論文では電気に関連した接着については "electroadhesion" という用語を使用しており、直訳すれば「静電付着」となります。ただし、それぞれ全く異なるメカニズムで発生する現象について、同じelectroadhesionの用語が使用されている点は論文中でも指摘されています。静電付着と訳すと、静電気力 (クーロン力) で付着しているという語弊があることから、本記事では「電気接着」と訳しています。また、今回は硬い材料と柔らかい材料を付着させる技術であり、柔らかい材料同士では先に実現していることから、論文中では "hard–soft electroadhesion" 、そのt略語として "EA[HS]" が使用されています。 本文に戻る
[注2] ゲル
液体の中に固体が分散しているゾルのうち、その固体の性質や割合によって流動性を失い、固体状になっている物質のこと。別名ジェル。ゼラチンや寒天の他、こんにゃく、ところてん、豆腐、かまぼこ、ゼリーなど、身近にも無数の例があります。 本文に戻る
[注3] 電流を流した時だけ接着する電気接着
主に半導体を金属の電極で挟んだ時に起こる現象であり、ジョンソン・ラーベック効果と呼ばれています。化学反応ではなく静電気力で付着していること、電流を遮断すれば直ちに剥がれることから、電気接着とは大きな違いがあります。 本文に戻る
[注4] 硬い材料と柔らかい材料の電気接着に関する以前の成功例
2022年の研究では、ゲルをガラスと鉄の電極に挟み、6Vの直流電流を数時間流すと、電極ではなくガラスにゲルが付着していました。これは電極の鉄が電気化学的に酸化された結果、微細な酸化鉄の層がガラスとゲルの間に生じる接着効果であると考えられています。電極もゲルも材料が限定され、また通常の接着剤と同じく不可逆的であると考えられます。 本文に戻る
[注5] 物質によってくっつきやすさが変化する
今回の研究では、アクリルアミドのゲルに対してくっついた電極は黒鉛、銅、鉛、スズであり、ニッケル、鉄、亜鉛、チタンの電極にはくっつきませんでした。このことから、アクリルアミドのゲルについては標準電極電位がE°>-0.2Vを満たす電極でのみ電気接着ができると考察されます。このような性質も、電気接着が電気化学的に起きていることを示唆し、また電流を逆向きに流すと剥がれる理由にもなります。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<関連研究>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)