眠りは"どう作られるのか"を解説!|春眠暁を……ぐ~すかぴ~zzz 

2024.03.18

3月に入り、日が沈むのが着実に遅くなっているのを実感するようになってきた。気温も寒さの底を越え、暖かさを感じる日が増えていっている。一方で、朝の布団の心地よさはいまだ衰えることを知らず、「春眠暁を覚えず」とはよく言ったものだと思う。

 

皆さんちゃんと起きて、この記事を読んでいるだろうか? 眠ったまま読んでいる方は、ぜひ一報入れてほしい。その技術、葉月も欲しい。

 

私たちは眠る。時間も間隔も十人十色だが、一切の眠りを必要とせず生きていける人はいない。睡眠は、私たちの生活に組み込まれたありふれた日常のワンシーンだ。

当然、私たちが眠りに就くときに何が起きているのか、誰もが知っている……なんてことはない。私たちは、眠るときの事をよく知らないのだ。

 

そこで今回は、どのようにして私たちが眠るのかについて解説していく。

 

少し詳しく 〜眠りと温熱〜

皆さんが眠るとき、どんな環境だとよく眠れるだろうか? 暗い場所、明るい場所、静かな場所、騒々しい場所、暖かい場所、冷たい場所など、様々な条件が考えられる。香りや寝具の固さなどにこだわる人もいるだろう。

 

光・音・温熱・匂い・触感。これらはいずれも睡眠に影響を与える物理的な要因だ。もっと考えれば、さらに出てくるかもしれない。それでは全ての要因が等しく睡眠に影響を与えるのだろうか? もちろんそんなわけはない。睡眠に強く影響を与えるものとそうでないものがある。

 

それでは次のうち、睡眠に与える影響が最も強い要因は、いったいどれだろうか?

 ① 光  ② 音  ③ 温熱  ④ 匂い  ⑤ 触感

  • 昼食後に、猛烈に眠たくなった経験は無いだろうか? その時、周囲はどんな状況だっただろう。

 

 

 

予想はできただろうか? 正解は「③ 温熱」だ。

睡眠に与える物理的環境要因のうち、光・音・温熱の3つは特に睡眠への影響が大きいと考えられている。中でも、温熱の要因は最も影響が強いと考えられている。どういうことだろう?

 

私たちの体は、体内で熱を作ることで、日中の活動をしている。一方で作られた熱は、表皮から逃がすことで深部に熱がこもりすぎないようにしている。しかしながら、眠りに就く30分程度前から深部では熱産生が減少し、対する表皮では血管が拡張することで熱が放出される[注1]

そのため私たちは、身体が温まると眠気を感じるようになっている。そして、この体温の状態が維持されることで、私たちは眠りに就いているというわけだ[注2]

睡眠環境には大きく3つの要素があり、特に温熱が重要だという事が分かった。それでは、3つの要素が欠けている環境であれば、私たちはずっと起きたままでいられるのだろうか?もちろんそんなことは無い。それでは、ある程度の時間が経つと、眠くなるのはなぜだろう?

 

続いて、私たちの体にまつわるリズムについて解説していく。

 

さらに掘り下げ 〜眠りとリズム〜

突然だが、気温20 ℃の日を想像してほしい。


冬の間であれば、間違いなく暖かい日だろう。暑いと感じる人もいるかもしれない。

それでは夏の間はどうだろう? 同じように感じられるだろうか? 涼しいか肌寒く感じる筈だ。この違いは何だろう?

実は私たちの体は、1年を通じて常に一定ではない。冬であれば熱をため込みやすいように、夏であれば熱を放出しやすいように、体内の機能が周期的に変化している。

 

このような、体内環境の周期的な変化を生体リズムという。生体リズムには様々な周期の種類がある。冬から夏を経て冬に至るような1年を周期としたものや、月経のような約30日を周期としたもの。などだ

 

生体リズムのうち、1日を周期とする生体リズムを概日がいじつリズムという。概日リズムは睡眠にはもちろん、大脳とも深くかかわっている。どういう事だろう?

 

私たちの身体は、覚醒の少し前から低下した深部体温が上昇を始める。これに伴って、全身の機能が徐々に活発になっていく。

例えば、寝起き直後は意識がぼんやりしているのは、意識を司る大脳の活動が起床直後は充分ではないからだ。そのため時間が経過して、大脳の温度が上昇すると、私たちはハッキリと意識を自覚できるようになる。

けれども、大脳は熱に弱い臓器だ。そのくせ、何もしなくても身体が消費するエネルギー全体の20%近くをも消費している。さらに分厚い頭蓋骨に覆われているため、熱放出も容易ではない。

大脳は熱に弱いのに熱が逃げにくい臓器なのだ。連続で稼働しては、熱々になってしまう。

 

これを回避するため、覚醒から16時間程度経過すると、私たちの体は大脳の熱を放出するように変化する。大脳をはじめとする、全身の機能を低下させるのだ。これにより熱産生が低下し、同時に大脳の機能も低下する。この体温の周期的な変化が、概日リズムだ。

大脳の冷却中は、当然意識も消失する。この意識の消失こそ、私たちが睡眠と読んでいる現象だ[注3]

 

睡眠によって、大脳の冷却が終わると、私たちの意識は再び覚醒する[注4]

概日リズムによって大脳をはじめとする全身の機能が低下することで、眠りに就くことが分かった。しかしながら、全身の機能が低下しているにも関わらず私たちは朝になると目が覚める。それでは起きたり眠ったりのコントロールは、一体どこでどのようにされているのだろう?

続いて、眠りをコントロールする仕組みについて解説していく。

 

もっと専門的に 〜眠りと覚醒〜

実は、起きたり眠ったりのサイクルがどのようにコントロールされているのかについては、ハッキリと明らかになっていないことが多い。睡眠サイクルには年齢や性別、時期や環境など様々な要因が関係するからだ。

しかしながら、明らかになっていることもある。その一つが、メラトニンというホルモンの関与だ。

 

メラトニンは睡眠を誘導するホルモンとして知られている。

日中、メラトニンはほとんど放出されていない。だが、覚醒から14~16時間程度経過すると血中濃度が増加する。14~16時間といえば、ちょうど大脳が睡眠を欲する頃合いだ。

メラトニン量の増加を受けて、大脳をはじめとする各組織は機能を低下させる[注5]。つまり、メラトニンが概日リズムのタイマーになっているというわけだ。

 

それでは、メラトニン量はどのように調節されているのだろう?

メラトニン放出の調節は、視交叉しこうさ上核という領域が担っている。視交叉は、左右の眼球から伸びる視神経が交差している箇所の事だ。視交叉上核はその直上にある。当然、光刺激を受けると反応する。

 

睡眠を誘導するホルモンの調節が、目の神経のそばで行なわれている。となれば、なんとなくお分かりいただけるのではないだろうか? そう、メラトニン量は光を受けると減少し、概日リズムがリセットされるのだ[注6]

 

概日リズムがリセットされたことで、私たちは覚醒し、日中の活動を行なえるようになるというわけだ。

ここまで、私たちが眠りに就く仕組みについて解説してきたが、いかがだっただろうか? よりよい睡眠は、リズムを守ることが大切だ。日中をぼんやりして過ごすことのないよう、規則的な眠りをとるように心がけていきたい。

 

最後に、記事の趣旨からは少し外れるが夢に関する研究について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。

ちょっとはみ出し 〜夢のような〜

病は夢から?

「病は気から」という言葉がある。心が弱っていると体の病気にもつながってしまうという意味のことわざだ。このような精神的な負荷からくる体調不良を心身症という。心身症の予兆を発見し、改善を進めるためにはメンタルの状態を把握することが重要だ。

しかしながら、メンタルの状態を把握するには自身の状態を整理し、時には誰かに話す必要がある。疲れた心には中々の重労働だ。

 

眠っている時に起きた夢の出来事から、精神状態を把握できないかという試みがある。夢という、現実的で荒唐無稽こうとうむけいなものに焦点を当てることで、実体験について訊ねるより小さな負担で打ち明ける事が出来るのではないかという狙いだ。夢について把握することは、心や体を守ることにも繋がっているのかもしれない。

 

刺激が夢を作る?

皆さんはどんな夢を見たいだろうか? 楽しい夢。奇妙な夢。愉快な夢。懐かしい夢。一口に夢といっても、その姿は様々だ。しかしながら、悪夢を見たいという人は少ないだろう。多くの人が、どうせ見るなら気分が上がる夢を見たいと思っているはずだ。それでは、楽しくて気分が上がる夢を見るにはどうしたら良いのだろうか?

 

夢の内容と、外部からの感覚刺激に相関があるのかを調べた研究がある。睡眠中に匂いや音、光や皮膚感覚など、外部の環境を変化させることで、夢の内容に変化が生じたかどうかを調べようという試みだ。

 

睡眠時間を楽しみなものへと変えるだけではなく、夢が原因で十分な睡眠が取れていない人を助けられる研究だが、夢のメカニズムの解明や評価法など達成すべき課題も多いようだ。

参考文献

・宮崎 総一郎ら. 『睡眠学Ⅱ 睡眠障害の理解と対応』. 北大路書房.
・井上 雄一, 林 光緒. 『眠気の科学 そのメカニズムと対応』. 朝倉書店.
・日本睡眠環境学会. 『睡眠環境学入門』. 全日本病院出版会.
・Leila Salvesen, et al. “Influencing dreams through sensory stimulation: A systematic review”. Sleep Med Rev. 2024 Feb 15:74:101908.
・田村 隆一. 『夢フォーカシングの理論と実践』. 福岡大学研究部論集 B:社会科学編 13 17-35, 2023-12.

 

[注1]乳幼児や小児ではこの傾向がより顕著らしい。眠る寸前の子供は体がポカポカするというが、これは表皮からの熱放出が大きくなることで、表皮体温が上昇するためだ。なお、葉月に子育ての経験は……まぁ、うん。本文に戻る

[注2]暑苦しさや寒さで目が覚めた経験は無いだろうか? 実は周囲の環境温度が24 ℃以下や33 ℃以上になると、私たちは覚醒するように変化する。心地よく睡眠出来る環境温度は、29 ℃前後らしい。衣類や寝具でしっかり調整しよう。本文に戻る

[注3]時間の経過ではなく、周囲が暗くなるから眠くなったのではないかと考える人もおられるだろう。実は、室温・湿度・光量を一定にした部屋で40時間あまりに渡って座り続けるという実験が行なわれたそうだ。この実験でも、眠気は概日リズムに従って訪れたのだという。……とんでもない実験だな。本文に戻る

[注4]誰しも一度はこんなことを考えたことがあるだろう。「たくさん眠っておいて、昼間の活動時間を増やしたい」。いわゆる寝溜めというやつだ。もちろん寝溜めは出来ないのだが、睡眠が大脳の冷却という事を知っていると、出来ない理由も納得だ。いや、人は出来ないけどカッパならもしかして……無理か。本文に戻る

[注5]大脳をはじめとする各組織が機能を低下させているなら、睡眠時の体はどのように維持されているのだろう? 実は睡眠の根本的な中枢は、脳幹にある。脳幹は、生命維持の中枢として普段から心臓を動かしたりしているわけだが、睡眠中は眠りの深さのコントロールまでしているのだ。恐るべき司令塔!本文に戻る

[注6]メラトニン調節に限らず、視交叉上核は各種生体リズムの中心的な役割を担うと言われている。一日も一か月も一年も、私たちは意外と目でとらえることで認識しているのかもしれない。本文に戻る

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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