体長12mmの魚からジェットエンジン並の爆音!その発生理由は結構複雑

2024.03.01

ダニオネラ・セレブラムから147dBの音 サムネ

【サムネイル】 (画像引用元番号①)

 

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説の主題は、「ダニオネラ・セレブラム」という12mmしかない魚から、147dBというジェットエンジン並の爆音が出ているという発見についてだよ!

 

魚は静かなイメージがあるかもだけど、実際には音を鳴らす種がそこそこいるよ。でも大人になっても12mmという最小級の魚が、ジェットエンジン並の爆音を出しているとは驚きだよね!

 

更に調べてみると、音の発生を行う音響システムは結構複雑で、脊椎動物ではなかなか見られないシステムを構築していることがわかったよ!

 

今回の研究は、単に爆音を出すという面白さだけじゃなく、「脊椎動物の行動は筋肉の速度に縛られている」という概念を打破する発見として、結構重要な感じだよ!

 

見つかったばかりで大注目の「ダニオネラ・セレブラム」

ダニオネラ・セレブラム概説

【図1】ダニオネラ・セレブラムは身体が小さくて透明などいろんな特徴があるから、2021年に記載されたばかりだけど注目されている魚だよ! (画像引用元番号①)

 

今回紹介する硬骨魚類の「ダニオネラ・セレブラム (Danionella cerebrum)」は、2021年に発見された (論文に新種として記載された) ばかりだけど、とても注目されている魚だよ。

 

ミャンマーのペグ山脈付近の小川や河口で発見されたダニオネラ・セレブラムは、成体になっても体長12mmと、知られている世界最小級の魚、かつ脊椎動物になるよ[注1]

 

身体ですらこの小ささなので、脳の体積はたった0.6mm3しかないよ!これは知られている中で、魚に限らず脊椎動物の中で最小の脳ということになるよ。

 

しかも、ダニオネラ・セレブラムは成体になっても身体の大部分が透明で、内臓が透けて見えるよ。そして小さい分だけ、飼育や繁殖が簡単になるよ。

 

これらの特徴は、内臓や細胞の働きを、特別な遺伝子操作や解剖をせずにみられるということを意味しているよね。だから例えば、脳や神経の働きを、生きたまま観察するなんてことができるんだよね!

 

しかもダニオネラ・セレブラムは、これまでモデル生物[注2]として多用されてきたゼブラフィッシュ (Danio rerio) と近縁だから、これまでの研究ノウハウを生かすことができるよ。

 

そんな感じで、ダニオネラ・セレブラムは2021年に見つかったばかりながら、かなりの注目を集めていて、様々な研究所で飼育と新規の研究が行われているんだよね!

 

12mmの魚からジェットエンジン並の爆音が出ると判明!

ダニオネラ・セレブラムは147dBの音を出す

【図2】水槽から変な音がしたので調べたところ、1cmの距離で147dBという爆音を出していたことが分かったよ! (画像引用元番号①②)

 

ベルリン医科大学のVerity A. N. O. Cook氏などの研究チームも、研究室に設置した水槽でダニオネラ・セレブラムを飼育していたよ。ところが最近になって、奇妙なことに気づいたんだよね。

 

というのも、水槽の前にいると、何か変な音が聞こえたんだよね。よく調べてみると、なんと音は魚自身から出ていたことが確認されたよ!こんな小さな魚から出てるとなると、元は相当大きな音なはずだよ。

 

下の動画 (動画S1) は、論文に添付されている資料から引用した音なんだけど、こんなガリガリした音がちっちゃな魚から出ているなんてのは、ちょっとびっくりだよね!

 

ダニオネラ・セレブラムのオスが出す音と、そのスペクトル画像

 

そこでまず、水中マイクを置いて音を測定したところ、オスのみが音を発し、35mm離れた距離で135dBという驚きの音量 (音圧レベル) [注3]を記録したよ!これは1cm (成体魚の体長) の距離で147dBに相当することになるよ!

 

この音量は、100m離れた距離にある旅客機のジェットエンジンの音に匹敵するよ!幸い、魚の身体が小さいから鼓膜が無事で済んでいるけど、それにしたってとんでもない爆音を出していることになるよ![注4]

 

ダニオネラ・セレブラムから発せられる音は、1m離れると108dBまで低下するけど、これは相変わらず工事現場のブルドーザー並の騒音だよ。水槽の近くで音が聞こえるには十分な音量だよね。

 

では、ダニオネラ・セレブラムはどのようにそんな爆音を出しているのか。実はこの点が研究者を悩ませたんだよね。その前に、音を出す動物についてちょっとおさらいしてみるね。

 

交尾中のカカポ (フクロウオウム) は最大130dB、ゾウは最大で125dBで鳴くように、陸上動物は大声を出すものがいるよ。ただしこれは、空気を振動させているという点で、水中の動物には当てはまらない行動だよ。

 

では硬骨魚類はどうしているかというと、歯や鰭などの骨格組織をこする、音を鳴らすように特殊化した筋肉を使う、あるいは筋肉で浮き袋 (鰾) を叩くという方法で音を鳴らすよ。

 

浮き袋は浮力調整のためにある器官だけど、特殊化した筋肉で浮き袋を叩くことによって、まるで太鼓を叩いているかのように大きな音が鳴るんだよね。これを利用した魚はそこそこいるよ。

 

しかし、ダニオネラ・セレブラムが鳴らす音はかなり不思議だったよ。音の1つ1つは極めて短い時間だけ鳴る一方で、1秒あたり60回または120回鳴るという規則的なものだったんだよね。

 

短いパルス状の音は骨格組織を擦って出す音に似ているけど、あまり規則的ではないよ。一方で筋肉を使った音は規則的になるけど、短い音になりにくいという特徴があるよ。

 

つまりダニオネラ・セレブラムの音は、これまでのどのメカニズムでも説明ができず、何らかの特殊な機構が音を鳴らしている、と予想することができるわけだよ。

 

そこでじっくり観察をしてみると、まずダニオネラ・セレブラムが音を鳴らしたと同時に、浮き袋の前側が潰れていることが分かったよ。これは浮き袋が音源であることを示す強力な証拠だね。

 

さらに、1回の音に対し、浮き袋の片側の小さな領域だけが潰れていること、浮き袋に接している第5肋骨が動いていること、音を鳴らしていない時には肋骨が静止していることが分かったよ。

 

オスとメスでは肋骨の形状が大きく異なり、オスしか音を鳴らさないことを考えると、特殊化した肋骨が浮き袋を叩くバチとして機能しているのではないか、というのは予測がつくね。

 

実際、シミュレーションでは1mの距離で93dBから112dBの音を出すと計算され、実測と合致したよ。また、浮き袋の変形度合いから音波の微妙な形状を説明できたので、この説は非常に理にかなっているよ。

 

音を鳴らす機構はめっちゃ複雑!

ただ、この謎が解明されると、次の謎が浮かんだよ。それは、肋骨が浮き袋を叩く速度があまりにも速すぎて、脊椎動物の身体構造では一見すると説明ができないという点だよ。

 

なにしろ、1秒間に8000フレームを撮影できるハイスピードカメラを使っても、浮き袋が潰れている様子が写っていたのはたったの1フレーム、つまり0.000125秒間しかなかったんだよ!

 

下の動画 (動画S2) は、1秒間に8000フレームで撮った動画の一部を100分の1倍速で写したものだけど、画面左寄りにある黒い丸っぽい浮き袋がちょこっと変形しているのが分かるかな?これが浮き袋の変形の様子だよ!

音を出しているダニオネラ・セレブラムを身体の下側から撮影した動画 (光源は上側) 

 

この短時間で動く浮き袋は、重力の2000倍もの加速度を経験していることになるよ!このスピードは、筋肉が動く速度 (0.004秒) より数十倍も速いので、いったいどうやってるのかさっぱり見当がつかないんだよね!

 

ダニオネラ・セレブラムが浮き袋をたたく仕組み

【図3】身体の内部を詳しく調べたところ、浮き袋を叩いて鳴らす魚としてはかなり複雑なシステムを作っていることが分かったよ! (画像引用元番号③)

ダニオネラ・セレブラムが浮き袋を叩く仕組み

【図4】ダニオネラ・セレブラムは、浮き袋を高速で叩いて爆音を出すために様々な工夫をしていることが分かったよ! (画像引用元番号④)

 

そこで更にじっくり観察すると、面白いことが分かったよ。肋骨やそれを動かす筋肉は直接浮き袋に接しておらず、その代わり2個1組の軟骨が浮き袋に接していることが分かったよ。

 

また、この軟骨には溝があり、肋骨が動くと一旦はこの溝に引っかかるものの、限度を超えると外れることが分かったよ。そして軟骨の溝から肋骨が外れると、軟骨は急速に元の位置に戻ることが分かったよ。

 

つまり、肋骨は軟骨を溝に引っかけて張力を蓄え、限度を超えると溝から外れることになるよ。軟骨は元の位置に戻ろうと急速に動くので、その勢いで浮き袋を思いっきり叩いているということになるね!

 

だから、浮き袋を叩くバチは、特殊化した筋肉でも肋骨でもなく、肋骨によって動かされた軟骨だということになるよ!軟骨の動きは筋肉よりも高速なので、浮き袋の表面の動きが筋肉よりずっと高速な理由にもなるね!

 

下の動画 (動画S9) は、論文で出ているより分かりやすい動画だよ。筋肉は緑色、肋骨は赤色、軟骨は水色、浮き袋は紫色に塗られているので、よく見比べてみてね!

ダニオネラ・セレブラムの音の発生メカニズムのモデル

 

そして、音を鳴らす周期が1秒間に60回または120回なのは、肋骨を動かす筋肉の片方を交互ずつ、または片方だけを周期的に動かしている、という形で説明がつくよ。

 

このようなクラッチやバネを思わせる機構は、主に無脊椎動物にあり、例えばテッポウエビやシャコのハサミや、一部のアリの顎が筋肉よりずっと高速で動く理由ともなっているよ[注5]

 

ただ、これが骨格筋ベースの脊椎動物で見つかるのはとても珍しいし、何より高速で閉じる代わりに1回限りの動きとなるハサミではなく、反復して音を鳴らす機構になっているという点でスゴくユニークだよ!

 

では、軟骨を動かす肋骨を動かす筋肉はどうなっているのかというと、これもかなり特殊だよ。全部で3つの部位に分かれるんだけど、他の筋肉と比べて筋肉細胞に含まれるミトコンドリアがかなり多いことが分かったんだよ。

 

ミトコンドリアはエネルギーを生産する細胞内小器官で、これが多いということはより疲れにくいということになるね。これは、高速で肋骨を動かさなきゃならない筋肉としてはピッタリなものだよね。

 

一方で、筋肉細胞のミトコンドリアの量が増えると、筋肉が力を出すための収縮するスペースが減るよ。このような筋肉は速筋と呼ばれ、スピードが出て疲れにくい一方で、力が出なくなってしまうよ。

 

ダニオネラ・セレブラムが筋肉⇒肋骨⇒軟骨⇒浮き袋という複雑な音響システムを作ったのは、筋肉で直接浮き袋を叩いても力が足りないので、もっと大きな音を出すシステムを作り出した、と考えることができるわけだね!

 

鳴らす理由や他の種はどうなのかなど、研究課題は山積!

ダニオネラ・セレブラムのように、筋肉を交互に動かして音を鳴らす硬骨魚類は他に1種類しか報告されていないから、複雑なメカニズムも合わせて、今回の発見はかなり興味深いよ!

 

ダニオネラ・セレブラムの音響システムは、脊椎動物の動きは筋肉の動きを超えることができないという従来の概念を覆す発見であり、他にもそういう生態システムがないかどうか、探索する動機になるね!

 

そして、ダニオネラ・セレブラムはどうしてそんな大音量を鳴らすのかな?って疑問だけど、これは恐らく濁った小川や河口に生息しているという点に関連していると考えられるよ。

 

濁っていれば視覚的に見通しが利かない一方、非常に大音量かつ鋭いパルス状の音は水中でも遠くに届くから、遠くにいるかもしれない仲間に聞かせるためには合理的と言えるよね!

 

また、音はオスしか鳴らさないという性差があるし、複数のオスを同じ場所に入れると、特定のいくつかの個体のみが音を鳴らし、他の個体は音を鳴らさない、ということが観察されたよ。

 

これは、オスがメスに対するアピールとして音を鳴らしているとか、オスの中で序列があり、強いオスが鳴らす権利を持つ、などの理由が考えられるけど、詳しいことは不明だよ。

 

いずれにしても、音の正確な役割や、性差や個体差の理由を調べるには、近縁種が音を鳴らしているのか、鳴らしているとしたらシステムが同じなのか、という点を詳しく研究する必要があるよ。

 

そしてまさにこの研究において、生涯に渡って身体が透けて見えるダニオネラ・セレブラムは、研究においてうってつけだということになるわけだね!

注釈

[注1] 世界最小級の魚、かつ脊椎動物  本文に戻る

ダニオネラ・セレブラムの成体の体長は10mmから13.5mmと言われています。これに対し、最も小さな硬骨魚類はパエドキプリス・プロゲネティカ (Paedocypris progenetica) の7.9mm、最も小さな脊椎動物は両生類でカエルの仲間のパエドフリン・アマウンシス (Paedophryne amauensis) であると言われています。

 

[注2] モデル生物  本文に戻る

生物学の研究においてよく使われる生物のこと。多くの研究で使われ、比較可能なことから、標準として使用されます。モデル生物として多用されるのは、世代交代が早くて繁殖がしやすい、身体が小さいことやシビアな環境を求められず飼育がしやすい、身体が透明などの理由で観察しやすいなどが挙げられます。

 

[注3] 音圧レベル  本文に戻る

音の波である音波は、空気や水の密度の波 (疎密波) であり、圧力の差である音圧で大小関係が比較されます。この音圧レベルを表すものとしてdB (デシベル) という単位が使用されます。一方で一般的な音の大きさのイメージで使用される音量は、同じ音圧レベルでも周波数や発生源の大きさなどで変わってくるため、単純に音圧レベルを音量とするのは厳密には誤りとなりますが、厳密な比較以外ではあまり差が無いため、実際にはほとんど同義で使用されます。

 

[注4] ダニオネラ・セレブラムの音が147dB  本文に戻る

1cm離れたダニオネラ・セレブラムの音圧レベルは100m離れたジェットエンジンに匹敵しますが、後述するように音源となる浮き袋が小さいため、音量としてはかなり小さくなります。また、空気中での音圧レベルをデシベルに変換する際、基準となる音圧は20µPaですが、水は1µPaを基準としています。

 

[注5] シャコやテッポウエビのハサミ、アリの顎の加速度  本文に戻る

モンハナシャコ (Odontodactylus scyllarus) のハサミが閉じる時の最大加速度は1万G、アギトアリ属の1種 (Odontomachus bauri) の顎が閉じる時の最大加速度は10万Gを超えるという研究結果があります。

 

文献情報

<原著論文>

  • Verity A. N. O. Cook, et al. "Ultrafast sound production mechanism in one of the smallest vertebrates". Proceedings of the National Academy of Sciences, 2024; 121 (10) e2314017121. DOI: 10.1073/pnas.2314017121

 

<参考文献>

       

      <画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

      1. ダニオネラ・セレブラムの写真: プレスリリースより (Photo: Senckenberg, Britz)

      2. 音の単一パルスの波形: 原著論文Fig 1Eよりトリミング (CC BY 4.0)

      3. ダニオネラ・セレブラムのµCTスキャン画像: 原著論文Fig 3ABDよりトリミング (CC BY 4.0)
      4. 音を出す仕組みのモデリング: 原著論文Fig 4よりトリミング (CC BY 4.0)

       

      <挿入動画の情報> (全ての動画は原著論文Supporting Informationにあり (CC BY 4.0) )

      • Movie S1: ダニオネラ・セレブラム (Danionella cerebrum) のオスが出す音と、そのスペクトル画像。音を出すのはオスのみで、複数個体がいると音を発します。
      • Movie S2: 音を出しているダニオネラ・セレブラム (Danionella cerebrum) を身体の下側から撮影した動画 (光源は上側) 。音を鳴らすと同時に浮き袋の片側 (動画左寄りの球形構造) が変形していることが分かる。フレームレートは8000fpsで、100分の1倍速で回しているが、浮き袋の変形は1フレームしか写っていない。
      • Movie S9: ダニオネラ・セレブラム (Danionella cerebrum) の音の発生メカニズムのモデル。筋肉が肋骨を動かし、肋骨は軟骨の溝に引っかかって連動して軟骨を動かす。やがて溝から肋骨が外れると、軟骨が元に戻って浮き袋を叩いている。筋肉 (緑色) 、肋骨 (赤色) 、軟骨 (水色) 、浮き袋 (紫色) 。

       

      彩恵 りり(さいえ りり)

      「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
      本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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