洞窟に住まう竜の幼生ホライモリ~洞窟の外にも出る~

2024.02.19

 昔、ウーパールーパーって流行りましたよね!

 正式な和名をメキシコサンショウウオといってとあるテレビのCMによって世間一般に広く知れ渡りました。

 

 今回はそんなウーパールーパーに見た目は似ている……けど全く違う動物であるホライモリを最新の知見を交えつつご紹介します!

 ちなみに彼ら、昔は竜の赤ちゃんだと考えられていたんですよ!

 

ホライモリとは

 

まさしく竜のようで美しいのです[WikimediaCommons Credit: Arne Hodalič / CC BY-SA 3.0]

 

 ホライモリProteus anguinusはオルム(Olm)などとも呼ばれる美しい両生類の一種であり洞窟性で白い皮膚 20 cm から 30 cm体重はたった 20 g ほどのニョロリとした長い体が特徴的な希少な生き物です。

 ヨーロッパで唯一洞窟性の既知の脊椎動物とされて、バルカン半島のイタリアの一部、スロベニアクロアチア及びボスニア・ヘルツェゴビナに跨る洞窟群にのみ生息しています。

 

 ホライモリ、とありますがホライモリはホライモリ科の、イモリはイモリ科ですので別の動物ですね!

 

 洞窟性の動物は基本的に安定した環境である洞窟から外にへと出ないため、皮膚に暗い色の色素がないことが多く、本種もその例に洩れません!

 太陽光をガードしたり暗い洞窟で視覚を使うことがないので色素を作る能力はあるものの真っ白な体をしているんですね。

 

 両生類は基本的に幼体は外鰓(がいさい)によって水中でエラ呼吸をし、成体になると空気から肺や皮膚呼吸を行うものが多いですが、本種は性成熟しても外鰓があり一生を水中で過ごします。

 これを幼形成熟(ネオテニー)といいまして、ウーパールーパーもまた幼体の特徴を残しながら性成熟をする一例ですね!

 

 さて、ホライモリは前述のとおり洞窟性の生き物で洞窟内では視覚に頼ることはできません。そのため水中での聴覚や水流への反応、磁気や嗅覚などの視覚以外の感覚が発達しています。

 また、詳しくは後述しますが彼らの幼体には機能する目が存在しています。成長するにつれて皮膚の下に埋まっていくのですが、彼らの皮膚は色素がないためつぶらな目が少し見えます

かわいい![iNaturalist Credit: Gabriele Vaudano / CC BY 4.0]

 

 さてそんな彼らの驚くべきところは見た目だけではないのですよ。

 

もっとも気長な両生類?

 

 

 ホライモリと他の両生類との一線を画す特徴がその寿命

 本種の平均寿命は68歳ほどと推定され、最大では約102年生きると予測されています。

 

 体重と寿命には正の相関があるとされ、世界最大の両生類のひとつであるオオサンショウウオは最大で 25 kg 以上寿命は飼育下で約55年以上なのですが、たった 20 g 前後のホライモリが最大でその倍ほどの時を生きる、と考えるとホライモリの寿命の外れ値っぷりが伝わるでしょうか!

 

 また飢餓や低酸素への耐性も強く、18か月から96か月と最大8年もの間の絶食に耐えることができます。

 さらに活動性も低いために7年間(2569日間)も同じ場所にとどまる個体が発見されているほどに、いうなれば気長な動物なんですね!

 

 そのメカニズムは肝臓のグリコーゲンや脂質、タンパク質を貯蔵することや糖新生による糖質以外の物質からもグルコースを作り、その量の恒常性を維持するなどによって長期間の絶食に耐えられると考えられています。

 これはホライモリの住まう洞窟という環境において食べ物を得られる機会が少ないがゆえの適応なんですね。

 

 加えてホライモリは性成熟年齢が約15.6歳、それから平均して約12.5年周期で35個の卵を産みます。

 その卵から約4か月で孵化し、もちろんそのうちの全てが成熟できるわけではないので彼らは非常にゆっくりと個体数が増えていくわけですね。

 

 ホライモリが生息する洞窟は上記した通り安定した環境ですが、繁殖の間隔が長い彼らは環境汚染に弱いとされ、IUCNレッドリストでは絶滅危惧される危急種(VU)に選定されています

 そのため水族館などで人工飼育下での繁殖も試みられていて、スロベニアのとある水族館では2016年には22匹のホライモリの赤ちゃんが孵化しました!

 

 次はそんなホライモリの赤ちゃんについてとホライモリの実は……な部分に最新の知見を交えてご紹介します!

 

ホライモリの実は~目がある、外に出る、黒いのもいる~

 

 ホライモリの幼体は機能する目を持っています

 しかし、ホライモリは洞窟の暗闇の中にいるため機能する目を持っている必要はあるのでしょうか

 

 ホライモリは洞窟性の生き物で基本的に洞窟から出ることはまず偶然と考えられてきました。

 しかしイタリア北東部で行われた調査によるとサンプリングされた10つの洞窟と地表にある69個の水源地のうち、すべての洞窟と15個の水源地において昼夜問わずホライモリは確認されたのです!

 ホライモリは外に出ているのです!!

 

 これまでも稀に地表にいるホライモリは確認されていたのですが、洪水などによって偶然にも地表に出てきてしまった個体だと考えられていて、地表の水源地を積極的に利用する可能性はほとんど提唱されておらず経験的証拠もありませんでした。

 

 しかし、今回の調査においてホライモリが積極的に地表の水源地を利用していることを繰り返し発見したんですね!

 

 さらにその調査においてホライモリの幼体が地表の水源地で確認されました。

 この個体は地表で発見された最小の個体であり、洞窟の外で発見された唯一のホライモリの幼体であり、イタリアで発見された唯一の幼体でもあるのです。

ホライモリの幼体。黒い目がはっきり確認できる![“Wandering outside of the Styx: Surface Activity of an Iconic Subterranean Vertebrate, the Olm (Proteus Anguinus).” Credit: Raoul Manenti / 改変済み]

 

 前述したとおりホライモリの幼体には機能する目があるため洞窟と地表の水源地との境界の薄暗い場所では獲物や捕食者を認識するのに役立つ可能性があるのです!

 当然、地表の水源地では地下の洞窟に比べて捕食者が多いため繁殖は地下で行われ一部の幼体が地表に彷徨い出る、と考えられるんですね。

 

 地表の水源地を利用する理由として挙げられるのは食料の確保産卵場としての利用のふたつです。

 

 食料の利用、というのはある洞窟及び水源地から捕獲された12個体中の5個体が地下環境ではなく地表に生息するミミズを吐き戻した、すなわち食べていたことが仮説を裏付ける証拠になっています!

 

 産卵場としての利用、というのは調査時に干ばつが発生していたことから水源地の隙間が繁殖に適している可能性があるのでは、と推測されました。

 しかし前記した通り当然リスクが高いため地下で起こることの方が通常であると考えられます。

 

 ただ、上記した通りホライモリは絶食に強く繁殖の周期も約12年ごとと非常に長いサイクルですのでどちらの説であっても頻繁に訪れるというわけでもなさそうです。

 

 今回の調査によって真洞窟性とされる動物であっても地表の環境が重要な役割を果たすということが確認されました。

 洞窟性の動物を研究するには柔軟なアプローチが必要であることを示唆する非常に面白い研究だと言えますね!

 

 最後にもうひとつ、ホライモリの面白い特徴をご紹介します。

 実はホライモリには今まで紹介したものとは異なる特徴……黒い色素のある体成体でも機能する目を持つ亜種が存在するんです!

ホライモリの亜種(Proteus anguinus parkelj)[“Crime-solving technique maps the underground lair of the Slovenian dragon.” Credit: G. ALJANCIC]

 ホライモリはふたつの亜種に分けられます。

 これまでご紹介したホライモリは基亜種(記載されたものと同一の亜種)であるProteus anguinus anguinusに見られる特徴であり、もう片方の亜種であるProteus anguinus parkeljはまったく別の姿をしているのです。

 英名をBlack olm、便宜敵にクロホライモリと仮称します!

 

 このクロホライモリはスロベニアのチュルノメル市の近くの9つの水源地のみからしか知られていない希少なホライモリよりもさらに希少な亜種なのです。

 

 ただし、クロホライモリについて知られていることはホライモリよりも遥かに少ないのが現状です。

 ホライモリが洞窟性によく見られるような白色なのになぜ本亜種は黒いのか、を説明する仮説も選択圧が弱かったという説や比較的最近に洞窟に移ったからという説などがありますが依然として不明です。

 

 未知な部分が多くを占める、というのも希少な生き物の魅力ですね!

 

まとめ

 

 今回はホライモリと亜種クロホライモリについてをご紹介しました。

 僕自身、ホライモリが割と地表を利用しているという情報を知ったときは驚いたものです!

 

 未だ未知な生態も多いホライモリについては今後も情報がアップデートされていくことでしょう!

 今後の研究にも注目していきましょう!

 

 また世界には不思議で魅力的な生き物が数多くいますので今後も紹介していければ幸いです!

 

 最後に雑学!

「ウーパールーパーは和製英語。由来には諸説あり!」

 

 それではまた!

 

 

<参考論文>

Manenti, Raoul, Matteo Riccardo Di Nicola, Veronica Zampieri, Giorgio Grassi, Thomas Creanza, Edgardo Mauri, Gentile Francesco Ficetola, and Benedetta Barzaghi. 2024. “ Wandering outside of the Styx: Surface Activity of an Iconic Subterranean Vertebrate, the Olm (Proteus Anguinus).” Ecology e4252. https://doi.org/10.1002/ecy.4252

Balázs, G., Lewarne, B. and Herczeg, G. (2020), Extreme site fidelity of the olm (Proteus anguinus) revealed by a long-term capture–mark–recapture study. J Zool, 311: 99-105. https://doi.org/10.1111/jzo.12760

Voituron Yann, de Fraipont Michelle, Issartel Julien, Guillaume Olivier and Clobert Jean 2011Extreme lifespan of the human fish (Proteus anguinus): a challenge for ageing mechanismsBiol. Lett.7105–107 http://doi.org/10.1098/rsbl.2010.0539

F. Hervant, J. Mathieu, J. Durand; Behavioural, physiological and metabolic responses to long-term starvation and refeeding in a blind cave-dwelling (Proteus anguinus) and a surface-dwelling (Euproctus asper) salamander. J Exp Biol 15 January 2001; 204 (2): 269–281. doi: https://doi.org/10.1242/jeb.204.2.269

Sket, B., & Arntzen, J. W. (1994). A black, non-troglomorphic amphibian from the karst of Slovenia: Proteus anguinus parkelj n. ssp. (Urodela: Proteidae). Bijdragen tot de Dierkunde, 64(1), 33-53. https://doi.org/10.1163/26660644-06401002


<参考文献>

E. Pennisi. Crime-solving technique maps the underground lair of the Slovenian dragon. Science. 2016.

The Birth of Baby Dragons. Postojna Cave Park.

 

【著者紹介】三日月 あかり(みかげ あかり)

生き物大好きなあかり君。生き物の情報を求めて日夜ネットの海を漂っている人。動物の研究について紹介して、みんなが少しでも興味を持ってくれるといいな。

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