時間栄養学ってなんだろう?“いつ”食べるかを考えてみよう。

2024.02.21

管理栄養士の栄 養太郎です。

 

みなさんは、「時間栄養学」という学術分野を聞いたことがあるでしょうか?

 

食事や栄養の話は、量や質の内容になりがちで、『いつ食べたら良いか』のタイミングについてはあまり触れられないことが多いように感じています。

 

近年、栄養学の中でも、「時間栄養学」という分野が非常に盛り上がっており、新しい知見が様々発表されています。

 

今回のコラムでは、はじめに体内時計について、次に体内時計に深く関わる時間栄養学の基礎的内容について書いてみようと思います。

 

 

体内時計の発見

ヒトの身体は、地球の自転による約24時間の周期に同調していることから、朝に起き、昼に活動し、夜に寝るという生活リズムが形成されています。そして、24時間(1日) の周期合わせて、体内の環境、例えば、代謝、体温やホルモン分泌などを変化させる機能を持っています。

このような約24時間周期のリズムを、概日リズム (サーカディアンリズム) と呼びます。

 

概日リズムは、光や温度の外部環境の変化によって調整されていますが、これらの変化がない条件下においても、体内の環境が周期で変化することが認められました。したがって、ヒト (生物) は体内に時計を持っているとされ、体内時計 (生物時計) と呼ぶようになりました。(本コラムでは今後、体内時計と表記)

 

体内時計の発見をもう少し詳細に書くと、1970年代にハミルトン大学の研究グループによって、ハツカネズミを用いた研究で視交叉上核という部分に体内時計を調節する遺伝子、時計遺伝子が存在することが発見されました。

 

この時計遺伝子は、1994年に他の研究グループ(ジェフリー・ホール教授とマイケル・ロスバッシュ教授)によって、ショウジョウバエから初めて同定されました。その後、哺乳類の時計遺伝子も発見され、体内時計の調節機構が徐々に明らかになりました。

 

もう7年前になりますが、2017年には、ジェフリー・ホール教授とマイケル・ロスバッシュ教授、そしてハミルトン大学のマイケル・ヤング教授が、体内時計の研究テーマでノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

 

実は、体内時計は、中枢(脳)だけではなく、末梢 (各種臓器、皮膚など) にも存在することがわかっています(図1)。

 

中枢時計: 脳(視交叉上核)、光によってリセット
末梢時計: 各種臓器、筋肉、脂肪組織、末梢白血球など、食事、運動などによってリセット

 

 

この2つの体内時計は、どちらも24時間のリズムではありません。つまり、概日リズムを正しく整えるためには、バラバラな体内時計を毎日リセットして揃えることが必要です。

このリセット方法として重要なのが、中枢時計では光(朝の光)、末梢時計では食事(朝食)なのです。

 

 

体内時計と健康の関わり

体内時計と健康はどのように関連しているのでしょうか?

 

私たちの体内時計は、光や食事などの外的要因によって調整されていますが、不規則な生活や人工的な光の影響で乱れやすくなると考えられます。

体内時計の乱れは、肥満や生活習慣病を代表として、がんなどの健康リスクを高めるという研究結果が多数報告されています。

その研究例が、シフトワーカーを対象としたものです。

 

シフトワークは、いわゆる夜勤などの交替制の仕事を指し、シフトワークをする人をシフトワーカーと呼びます。シフトワーカーの例としては、看護師、介護士、警備員、製造工場勤務者などが挙げられます。

 

シフトワーカーは、昼と夜が逆転した時間で勤務するため、体内時計が乱れやすいことが明らかになっています。このことに着目をして、シフトワーカーの健康について疫学研究を実施したところ、肥満やメタボリックシンドロームのリスクが高いことが明らかになりました。

さらに、睡眠時間が乱れたり、不眠になることにより、糖尿病、高血圧、心血管疾患などの発症を促進することも明らかになりました。

これらのリスクは、シフトワークを長期間続けることによってさらに高まると報告されています。

 

体内時計は、時計遺伝子によってを制御されており、細胞分裂や代謝、ホルモン分泌などの細胞機能にも関連しています。体内時計と深く関連するホルモンには、脳の松果体から分泌されるメラトニンがあります。

 

メラトニンは、睡眠や体温、ホルモン分泌などの体内時計の調節に関わっているホルモンでり、体内時計の調節だけでなく、抗酸化作用や免疫調節作用などがん予防に重要な働きを持っています。

 

シフトワークや昼夜が逆転するような生活活動は、時計遺伝子に異常を生じさせ、メラトニンの分泌を抑制し、がんの発症や進行に悪影響を与えると考えられています。

 

シフトワークは、体内時計が乱れてしまい、食事時間、睡眠時間、活動時間の形成が難しくなります。さらに、生活パターンが変則的であるため、家族との生活パターンと一致しないなど含め、社会生活への不適合なども重なり、健康に重大な悪影響を及ぼすと考えられています。

 

体内時計の乱れは、様々な健康障害のリスクを高めてしまいます。健康の維持、向上のためには、体内時計を整えることが重要です。

 

 

時間栄養学とはなにか?

前置きが長くなりましたが、時間栄養とはなにか?に触れていきましょう。

 

『時間栄養学とは、食べる時間や食事の間隔、睡眠や活動のリズムなど、体内時計に関連する要素 (時間生物学) を考慮した栄養学のこと』を指します。体内時計の研究から派生したのが、時間栄養学と言っても良いかもしれません。

これまでは、健康の維持増進や病気の予防のために、「何をどれだけ食べるか」に重点が置かれていましたが、時間栄養学では、「いつ(何を)食べるか」といった、量と質に加えてタイミングを新たな視点として加えています。

 

時間栄養学は、みなさんの身近にあって、「夜食べると太る」「寝る前にカフェインを飲むと眠れない」のようなお話は、その一端といえます。

 

時間栄養学は、人々の健康の維持増進に対して重要な学問であることは言うまでもないでしょう。働く世代の睡眠不足、誤ったダイエット方法の蔓延、朝食を食べない若者など、体内時計に関わる健康課題が多い現代だからこそ、時間栄養学に触れて頂きたいと思います。

今回は、時間栄養学に関わるテーマを3つに絞って概略をお伝えします。

 

 

① 体内時計のリセットには朝食が重要

中枢時計と末梢時計は、どちらもぴったり24時間の周期ではないため、1日過ごすと少々のズレが生じることは先述したとおりです。

 

中枢時計は、光によってリセットされるため、朝に太陽光を浴びる (光依存刺激) ことが重要とされます。一方、末梢時計は非光依存刺激 (食事、運動、環境など) によってリセットされます。そして、末梢時計のリセットには、朝食をしっかりと食べることが重要です。

 

末梢時計のリセットには、血糖値を下げる効果を持つインスリンの分泌が必要です。インスリンは、時計遺伝子の調節、リセットのトリガーになります。

つまり、朝食で炭水化物、ごはんやパンなどをしっかりと摂取し、適度にインスリンを分泌することで、末梢時計がリセットされます。

 

さらに、魚油に含まれているドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)といった不飽和脂肪酸も体内時計のリセットに関わります。

魚油が体内時計をリセットする機序は、【魚油を摂取→魚油が大腸内の受容体に作用→小腸からGLP-1分泌→GLP-1が膵臓に働きかけてインスリン分泌→体内時計リセット】となっています。

 

★GLP-1はホルモンの一種で、インスリン分泌を促す効果を持つ。GLP-1作動薬は、糖尿病の治療薬であるが、近年「痩せ薬」のように処方することも散見され、不適切な使用方法として注意喚起されている。

 

日本の朝食といえば、「ごはん、味噌汁、焼き魚 (鮭、めざしやししゃも)、納豆、漬物」が思い浮かびますが、体内時計のリセットを考えると、とても優れた組み合わせであると言えるでしょう。

 

 

② たんぱく質は朝食でしっかり摂取する

近年は、たんぱく質ブームで、たんぱく質を摂取できるレシピ集が多く販売されたり、たんぱく質をたくさん摂取できることをうたった食品がコンビニ等に溢れています。

たんぱく質の摂取は、基本的に1日単位で考えますが、1食あたり、そして、どのタイミングの食事が重要かを考えることが、効率の良い摂取につながります。

 

一般的に、日本人の食事では、朝食にたんぱく質量が少なく、夕食にたんぱく質を多く摂取する傾向があります。しかし、このような偏ったたんぱく質摂取パターンは、骨格筋量の維持や増加には有効でないことが示されています。

 

除脂肪体重を維持増進するためには、1食のたんぱく質摂取量が、体重1kgあたり0.24g以上(体重60kgであれば14.4gのたんぱく質)必要と言われています。

健康な若年者を対象とした研究では、3食すべてで体重1kgあたり0.24g以上のたんぱく質を摂取していると、そうでないグループと比較して、除脂肪体重(筋量)が多いことが明らかになっています。

 

高齢者を対象とした調査研究では、朝食にたんぱく質をたくさん摂取している人は、夕食にたんぱく質をたくさん摂取している人よりも、筋量、骨格筋指数および握力が高いことが示されています。

 

近年の研究報告から、朝食に十分なたんぱく質を摂取することは、除脂肪体重の維持増進に欠かせないといえるでしょう。

これまでに「トレーニング後の30分はゴールデンタイム」と言われたりしましたが、トレーニングをしない人にとってはあまり響かない言葉だったでしょう。

これからは、「朝(朝食)がたんぱく質摂取のゴールデンタイム」と考えて頂ければと思います。

 

毎朝食べる食事だからこそ、たんぱく質の量にこだわってみてはどうでしょうか?
そして、朝食を抜いている人は、たんぱく質を含む食品だけでも摂取してみてはどうでしょうか?

 

たんぱく質をたくさん含む食品の摂取ばかりに気を取られて、本来目を向けるべき筋量を効率的に増やす機会を逸しているかもしれません。

 

 

③ 夕食と血糖変動の関係

血糖は、血液中に含まれるブドウ糖のことを指し、血糖値は、血液中のブドウ糖の濃度のことをいいます。食事をすると、食品に含まれる炭水化物が消化吸収され、ブドウ糖に分解され、小腸で吸収され血中に入ります。

血糖値は、空腹の状態であれば70~100mg/dlの範囲くらいにあり、食後には120〜130mg/dlくらいまで上昇します(上昇の程度は個人で異なる)。

 

この血糖値ですが、夕食の摂取時間でピークが異なることが明らかになりました。

健常者を対象として、1日の血糖値を測定したところ、18時に夕食を食べたときと比較して、21時に夕食を食べたときの血糖値ピークがより高いことがわかりました。

さらに、遅い時刻(21時)に食事を食べた場合、食後の血糖値が高いだけでなく翌朝まで高血糖の状態が持続することも明らかになりました。

 

遅い時刻に食事を摂取することが、高血糖を引き起こす機序については、

 

①夕食時刻が遅くなり空腹状態が持続すると、血中の遊離脂肪酸が上昇し、インスリン抵抗性が増大する
 →健常者でもインスリンが効きづらくなる

②食事誘発産生熱は昼間と比較すると夜間は50%低下する
 →同じ栄養素量の食事であっても遅い時刻に摂取すると血糖値が上昇しやすい

 

ことが要因として考えられています。

遅い時刻の食事摂取は、高血糖状態を引き起こし、太りやすい要因となるだけでなく、糖尿病のリスクも上げると理解してよいでしょう。

 

働き盛りの年代では、夕食が遅くなってしまうことは往々にしてあると思います。

健康のことを考えると、できれば19時くらいまでには夕食を済ませてしまうのが良いでしょう。もし、夕食が遅くなってしまいそうなときには、分食をしてみると良いかもしれません。

 

注意をして欲しいのは、「血糖値を上げたくないから夕食は食べない」は、誤った考え方ですので絶対にやめてください。

 

 

時間栄養学を考慮した食事の考え方の例

 

<朝食>

  • 5-8時の間に食べる
  • 主食(炭水化物源: 米など)、主菜(たんぱく質源: 肉、魚、大豆製品、卵、乳製品など)を揃える→副菜はできれば加える
  • 朝食に魚類(魚油の摂取できる)、納豆、卵、乳製品を入れるとたんぱく質を増やしやすい→目標は20g以上
  • 朝食はたくさん食べても太りづらい→体脂肪になりづらい

 

朝食は、たんぱく質を摂取することを意識しながら、主食もモリモリ食べると良い。

もし、朝食をたくさん食べられないときには、たんぱく質をメインとする。

→昼食で炭水化物をしっかりとる

 

<夕食>

夕食が遅い時刻(おおよそ20時以降)になりそうなときには、分食を勧めます。

例えば、

 

18時前: 主食(炭水化物源となる食品: 米、麺類など)を食べておく

その後(帰宅後など): 主菜(たんぱく質源となる食品: 肉類、魚類、大豆製品、卵など)と副菜(野菜、きのこ、海藻など)を食べる

 

分食をすることで血糖値のピークを下げることができます。

 


さいごに

時間栄養学は、比較的新しい学術分野ではありますが、ヒトの健康に強く関わる知見が多くあります。

食事リズムが乱れることによって生じる中枢時計と末梢時計のズレは、身体に様々な悪影響を及ぼします。

 

日々の生活に時間栄養学を取り入れて、体内時計を整えるような食事を実践することで、健康づくりのみだけでなく、スポーツであればパフォーマンスの向上、そして美容にも役立つことが期待できますので、今後注目をして頂ければと思います。

 

(今回紹介したコラムは、時間栄養学のほんの一端です。また、動物実験の知見も含むため、さらなる研究の実施、エビデンスの蓄積が必要な内容も含まれることをご了承ください)

参考文献

<WEB>

  1. 時間栄養学 (Chrono-nutrition): 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
  2. e-ヘルスネット 体内時計(たいないどけい): 厚生労働省
  3. e-ヘルスネット メラトニン(めらとにん): 厚生労働省
  4. e-ヘルスネット 血糖値(けっとうち): 厚生労働省
  5. ノーベル賞で話題の「体内時計」は「時間栄養学」でコントロール: 早稲田大学
  6. 時間栄養学的視点で健康な食生活リズム: 公益社団法人日本生化学会
  7. 体内時計に合わせた朝のタンパク質摂取タイミングが筋量増加に効果的: 早稲田大学
  8. 骨格筋量の維持・増加に向けたたんぱく質摂取の重要性: 独立行政法人 農畜産業振興機構

 

<論文>

  1. HANSEN, Johnni; STEVENS, Richard G. Case–control study of shift-work and breast cancer risk in Danish nurses: impact of shift systems. European journal of cancer, 2012, 48.11: 1722-1729.
  2. JIA, Yijun, et al. Does night work increase the risk of breast cancer? A systematic review and meta-analysis of epidemiological studies. Cancer epidemiology, 2013, 37.3: 197-206.
  3. FURUTANI, Akiko, et al. Fish oil accelerates diet-induced entrainment of the mouse peripheral clock via GPR120. PloS one, 2015, 10.7: e0132472.
  4. AOYAMA, Shinya, et al. Distribution of dietary protein intake in daily meals influences skeletal muscle hypertrophy via the muscle clock. Cell reports, 2021, 36.1.
  5. 柴田重信; 平尾彰子. 時間栄養学とはなにか. 日本薬理学雑誌, 2011, 137.3: 110-114.
  6. 山岡正弥; 下村伊一郎. 4. 生体リズム障害と肥満症. 日本内科学会雑誌, 2015, 104.4: 710-716.
  7. 藤田聡. 骨格筋量の調節におけるタンパク質摂取の役割. 体力科学, 2017, 66.1: 11-11.
  8. 柴田重信; 古谷彰子. 時間栄養学と n-3 系脂肪酸. 日本薬理学雑誌, 2018, 151.1: 34-40.
  9. 大石勝隆. 生活習慣病の予防や改善を目指した時間栄養学. オレオサイエンス, 2021, 21.4: 121-127.

 

 

Ayane_icon
【著者紹介】栄 養太郎

管理栄養士、公認スポーツ栄養士。
専門分野は、スポーツ栄養、健康科学、学位 [博士 (学術)] 取得後、栄養系の大学教員になりました。
現在は、ジュニアアスリートを中心に、スポーツ栄養教育の実施と選手から得られたデータを評価・分析する研究を行っています。
スポーツ栄養に関する情報を様々な形で発信したいと思い、活動しています。