角度を変えても色が変わらない! 極薄の構造色インクを作成!

2024.02.09

(画像引用元番号①②)

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説の主題は、見る角度を変えても色が変わらない、極薄の構造色インクの作成に関する研究報告だよ!

 

従来のインクの色の素である顔料には、あっちが立てばこちらが立たずみたいな弱点があって、それを解決することが期待されていたものの、実用化に様々な壁があったのが構造色なんだよね。

 

今回は、構造色に関する現状の課題のいくつかを克服しただけでなく、従来のインクよりも使用量を減らせる、という点でもとても優れているよ!

 

例えば航空機に今回の構造色インクを使えば、インクの重量を10分の1以下に減らすことも可能になるかもしれないよ!

 

現在使われている「顔料」は一長一短

従来の顔料の種類と特徴

旧石器時代から現代にいたるまで、色を付けるために使われてきた顔料は無機顔料と有機顔料に大別されるよ。そしてそれぞれに、中々克服が難しい利点と難点があるよ。

 

私たちが日常的に使っている様々な製品には色があるよね。色は、製品を作っている材料が元々持っている色ということもあるけど、塗料やインクを塗りつけて別の色を出している、ということもよくあるよね。

 

塗料はそれこそ旧石器時代から人類とおつきあいがあったわけだけど、歴史的に最も古く、そして今でもしばしば使われるのは、鉱物などの無機物を粉末化した「無機顔料」だよね。

 

無機顔料の多くは熱や紫外線に強く、色褪せしにくいという性質を持つことから、野外の紫外線に晒される場所など、環境的にあまりよろしくないところでは今でもよく使われるよ!

 

ただ、こうした顔料の中には水銀 (赤) 、カドミウム (黄) 、ヒ素 (緑) など、人体に有害な重金属を含んでいるものも珍しくなくて、近年では使用されない、あるいは使用が減らされている物も珍しくないよ。

 

また、重金属を使わない同じような色の無機顔料は、発色や耐久性が悪かったり、天然ではレア物、合成するにしてもコストが高すぎて高価になる、ってこともしばしばあるんだよね。

 

だから、無機顔料に代わって使われるのが、有機物できた「有機顔料」だよ。かつては天然物から抽出するしかない関係でとても高価だったけど、合成技術が確立した現代では結構安くなっているんだよね。

 

有機顔料はほとんどの場合で有害な分子や元素を使わないので、無機顔料と比べると安全性が高いという別の側面もあることから、近現代ではとても重宝されているよ。

 

ただ、有機顔料は環境に弱くて、特に紫外線では分解や構造変化で退色しやすいよ。野外の注意書きで重要な文言が赤色で書いてあったので日焼けで消えて正しく読めない!はSNSでもあるあるネタで使われるよね。

 

そんな感じで、タフだけど環境面で問題を抱えている無機顔料、環境面は優しいけど耐久性が低い有機顔料、そのどちらも一長一短という感じで、新しい塗料がないか模索が続いているんだよね。

 

「構造色」は長年の課題

構造色の特徴と利用の課題

従来の顔料の弱点を克服するため、「構造色」が注目されているよ。ただ、様々な理由で実用化が難しいので、これまで広く実用化することが難しいという課題があったんだよ。

 

そこで注目されているのが「構造色」と呼ばれるものだよ。これだけ聞いてもピンとこないかもだけど、例えばシャボン玉、昆虫や鳥類の羽の色、CDやDVD、レアカードのキラキラなど、結構身近にあるよ。

 

構造色の原理は、そもそも私たちが色を認識する理由と関係があるよ。私たちは目の細胞が光を受け取ることで周りを見ているわけだけど、その中には光の波長によって反応が変わる細胞もあるよ。

 

つまり、私たちが見ている色というのは、光の波長に対応しているというわけ。普通の顔料の場合、特定の波長の光のみを反射し、残りは吸収してしまうことから、差し引きで届く波長の光を色だと見ているわけだね。

 

一方で構造色はちょっと違うよ。構造色を持つ物体の表面は微細なデコボコや多層構造があり、当たった光はそれぞれの平面で複雑に反射や屈折を繰り返すよ。

 

この時、ある波長の光は外からやってくる光と反射した光との波長が打ち消し合う一方で、別の波長の光は強め合う、ということが起きるよ。結果として、強め合った光以外は目に届かなくなるよ。

 

このような現象は「干渉」と呼ばれていて、物質表面の微細な構造によって生じることからこれを「構造色」、あるいは干渉によって生じる色だから「干渉色」と呼ばれることもあるよ。

 

重要なのは、構造色が生じる原因は物質表面の構造という点で、元の色はあまり関係しない、という点だね。だから原理的には、元がどんな色の物質であったとしても、別の色を作り出すことが可能だよ。

 

実際、昆虫や鳥の羽のような天然物でも、物質としては全く一緒でも、色は全く異なる例がしばしばあるので、これの応用をすれば、原理的には安全な材質で全ての色を出せる、なんてことも可能になるということだよ!

 

ただ、アイデアが簡単に思いつくものが実用化してないってことは、何か難しい点があるということだよね?構造色はまさにその一例で、実用化には様々な困難があったよ。

 

構造色の色の原因は微細な構造にあるので、微細な構造を安定して製造しなきゃいけないということになるけど、これが技術的に難しく、安定かつ大量生産が困難なんだよね。

 

しかも、微細な構造を物質の表面に直接刻んだり、粒子を厳密に配置する配置するという方式は、後でインクを塗るみたいな感覚でできるものじゃないことも、構造色の利用があまり広がらない理由なんだよね。

 

そして、構造色の表面はあちこちで反射や干渉が起こり、それはほんのちょっとの距離の差で起こるんだよね。これの何が問題かと言えば、見る角度を変えると色が変わって見えてしまうということだよ。

 

実際、タマムシの色が玉虫色という慣用句となるように、見る角度によって様々に変化してしまうんだよね。キラキラした虹色の表現を目指すならそれでいいんだけど、狙った色を作りたい場合には困っちゃうよ。

 

そういうわけ従来の構造色による着色は、一部の高級車のようなハイエンドな用途にとどまり、一般的な用途に使われるのはまだまだずっと先という感じだったんだよ。

 

ケイ素のナノ粒子で「構造色インク」を作成

ケイ素ナノ粒子の色

今回の研究で作成された構造色インクは、ケイ素のナノ粒子でできているよ。ケイ素は塊だと灰色だけど、構造色が出るようにナノスケールの大きさにすると、様々な色が現れるよ。 (画像引用元番号①③)

 

神戸大学の田中悠暉氏などの研究チームは、以前からこの問題を解決する、塗ることが可能な「構造色インク」の開発に取り組んでいたよ。そして今回、それに関する一定の成果が得られて公表した感じだね!

 

今回開発された構造色インクは単体のケイ素でできているよ。単なる塊なら金属光沢の強い灰色の塊だけど、これを直径100 - 200nm (1万分の1 - 2mm) のナノ粒子に加工すると、構造色が出現して色がつくよ。

 

これは、ケイ素のナノ粒子が光の波長とほぼ同じ大きさになることによって生じる「ミー共鳴[注1]と呼ばれる現象によって起きるもので、簡単に言うと、雲の切れ間から光線が見える現象の応用といった感じだよ。

 

ケイ素の単体そのものは半導体製造で普通にあるけど、構造色インクとして使うには、極めて小さなナノ粒子を、出したい色に合わせてほぼ均等な大きさに合成しないといけないよね。

 

この研究以前に、球体の形状にケイ素を成長させてナノ粒子とする技術や、大きさを揃える方法、お互いにくっ付いて団子にならないようにする分散、そして異なる直径のナノ粒子を排除する選別などの工程を確立したよ。

 

次に必要な作業は、この構造色インクをどれくらいの厚さに塗るべきかという点。ある程度の厚みがあっても色が見えているけど、薄く塗っても色が出せるなら、インクの節約になるからね。

 

事前に計算すると、わずか1粒子分という極めて薄い層でも、うまく色がついてくれることが分かったよ。しかも、粒子をミッチミチに詰めず、間隔を開けても、十分に色を出せることも分かったよ!

 

では、そんなに薄く塗るにはどうするか?まさかハケで塗る訳にはいかないからね。これには「ラングミュア-ブロジェット法 (LB法)」と呼ばれる手法が使われたよ。

 

聞いたことないって人も多いかもだけど、これは水面に薄く拡がった油を掬い取るような方法で、今回の場合はブタノールの表面にケイ素のナノ粒子を拡げ、掬い取るものに塗ることができる、という方法だよ。

 

原理自体は割と簡単だけど、塗った物質の厚さがナノスケールにできるのがLB法で、これを使えばナノ粒子1粒分の厚さに塗り拡げることができるんだよね。

 

ケイ素ナノ粒子構造色インクの特徴

今回の構造色インクは、ナノ粒子1粒分というとても薄い厚さでも色が付き、角度を変えても色が変わらないよ!また、粒子同士の間隔を開けても色が保たれるので、重量を薄くすることもできるよ! (画像引用元番号①②④⑤)

 

今回の実験ではガラスで掬い取ることで塗布したけど、予想通りそれでも十分すぎるほど発色をしたんだよね!事前の予測通りとは言え、インクが1mmの1万分の1の厚さとは信じられないね!

 

今回の実験では、ケイ素のナノ粒子を部分的に酸化させることで粒子の間隔を広げる、つまりあんまり詰めない状態でも実験を行ったけど、これも予想通り発色が良くなったよ。

 

薄く塗れるだけでなく、その薄い部分でも面積当たりの粒子の数を減らせるってことは、トータルのインクの使用量を減らせるということだから、これはかなり重要だよね!

 

そして、ナノ粒子1粒分の厚さで色を出せるということで、実は角度を変えても色が変わらないという、構造色の長年の課題を克服しているのも強みだよ!

 

塗った通りの色を出せる、というのが中々できなかったのが構造色だったので、今回開発された構造色インクはこの点がすごいということだね!

 

極薄で重量の節約も!

さて、今回開発されたケイ素のナノ粒子の構造色インクは、さっき上げた通りの特性を持っているわけだけど、他にも強みがあるよ。

 

例えば、ケイ素は資源的に豊富なので原料には比較的困らないし、熱や紫外線、化学薬品にも強いので褪色しにくいよ。また毒性も低いので、人体や環境に悪影響を与える恐れが低いのも利点になるね。

 

そして何より、今回はナノ粒子1粒分の厚さ、しかも間隔を開けても発色が良かった、という点が優れているよ。これはインク自体を減らせるということで、実はかなり大きいよ。

 

今回の実験結果からすると、理論上は1m2あたり0.3~0.5gで色を塗ることができるよ。これって例えば航空機のような面積の大きな対象の場合、数百kg必要なインクを10分の1にまで減らせるということになるよ!

 

資源的に節約できるだけでなく、インクの分だけ重さが減らせるので、それだけ重量が減り、燃費が改善するということになるよね!これは色んな場所に直接応用ができることになるよ!

 

いずれにしても、今回の研究はまだ初期段階と言える感じで、工業的に大量生産できるかとか、本当に安全かとかは、これからの研究にかかってくるよ。これからがむしろ楽しみな研究だね!

注釈

[注1] ミー共鳴  本文に戻る

光の波長とほぼ同じ粒子が存在する場所を光が通過すると、全ての波長が散乱されて白っぽい光線上の直線が見えます。これは「ミー散乱」と呼ばれており、雲の切れ間や埃っぽい部屋に差す光が見えるのと同じ現象です。ミー共鳴は、粒子が一定の性質 (高い屈折率を持つ誘電体) を持っている場合に起こる現象で、散乱される光の波長が限定されるため、白色ではなく特定の色が出ます。発色は粒子の直径で制御可能です。

 

文献情報

<原著論文>

  • Haruki Tanaka, et al. "Monolayer of Mie-Resonant Silicon Nanospheres for Structural Coloration". ACS Applied Nano Materials, 2024. DOI: 10.1021/acsanm.3c04689

 

<参考文献>

       

      <画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

      1. 大きさの異なるケイ素ナノ粒子による発色: プレスリリース (2022) より

      2. 構造色インクをガラス面に塗布した様子: プレスリリース (2024) より
      3. 大きさの異なるケイ素ナノ粒子を光学顕微鏡で観察したもの: プレスリリース (2022) より
      4. 構造色インクの塗布方法: プレスリリース (2024) より
      5. 構造色インクの電子顕微鏡画像: プレスリリース (2024) より

       

      彩恵 りり(さいえ りり)

      「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
      本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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