ポカポカぽわわわ〜ん……。のぼせるってなんだ?

2024.02.05

 寒い日が連日続き、暖かいお風呂が一層恋しくなる季節になった。冬の寒気で冷えた身体を、熱めの湯船にゆっくりと沈めていく快感は、何物にも代え難い心地よさがある。それを反映して、という訳ではないらしいが、毎年2月6日は「2(ふ)」と「6(ろ)」の語呂合わせで「お風呂の日」だ。暖かいお風呂にゆったりと浸かる気持ち良さを、今一度再確認しても良いかもしれない。

 お風呂は、体の汚れを洗い流す衛生の場であるとともに、その日の疲れを癒すリラクゼーションの場だ。とはいえこの時期、ついつい長湯してしまいがちでもある。のぼせてしまわないように注意しなくてはならない。しかしながら、そもそもなぜ私たちは暖かいお風呂に浸かっていると、のぼせてしまうのだろう? そこで今回は、お風呂でのぼせてしまう仕組みについて解説していく。

 

 

少し詳しく 〜のぼせと体温

 そもそものぼせているとはどういう状態なのだろう?

 のぼせ症状は熱刺激に対する応答の一種で、顔や体に熱を感じ、意識がボンヤリとする状態だ[注1]。これが行きすぎると熱中症になってしまう。

 とはいえ私たちの体には、汗を掻く事で上がりすぎた体温を冷却する機構が備わっている筈だ。なぜ熱を感じるのだろう?

 確かに汗は、体の優れた冷却システムだ。しかしながら汗による冷却は蒸発する際に熱が奪われる現象によるものなので、しっかりと湯船に浸かってしまうと、体温を下げられる箇所が減少してしまう。

 何より、冷却の根源である水の量には限度がある。長風呂や脱水状態のまま高い温度に曝されると、やがて冷却システムが弱ってしまうのだ[注2]

 こうして冷却が不十分な状態に陥ると、お湯や体温で温まった血液が体内を巡ることになる。これにより体や顔に熱を感じるというわけだ。

 のぼせによる火照り感は、温められた血液が体内を循環することで生じるという事がわかった。それでは、意識への働きかけも温かい血液によるものなのだろうか? 

 続いて意識がボンヤリしてしまう仕組みについて解説していく。

 

 

さらに掘り下げ 〜のぼせと血圧

 のぼせによる意識の低下は、脳の働きが低下するために生じる現象だ。

 入浴により温められた血液は当然、意識の中枢である脳にも運ばれる。脳は体の中でも特に高温に弱い臓器のため、暖かい血液が送られると脳の働きは弱くなる[注3][注4]

 しかしながら原因は、暖かい血液だけではないと考えられている。

 実は入浴中の体は、血圧が低下する事が知られている。

 血圧とは血管内の圧力のことだ。ここでは血液を送り出すための力、あるいは一度に送られる血液の量と言い換えても良い。したがって血圧が低下するという事は、一度に送られる血液が減るという事を意味している。

 ご存知の通り脳は、人間の臓器の中でも最も高い位置にあり、血液循環の起点である心臓よりも高い。一方で私たちは普段、重力という下向きの力がかかっている環境で生活している。そのため、脳に血液を届けるためには、重力に逆らう大きな力をかける必要がある。つまり血圧が一定以上に高い必要がある。

 しかしながら、入浴により血圧は低下してしまう。すると脳に届く血液の量も減少してしまい、血液の量が減少する。

 これにより脳の働きが十分に発揮できなくなるというわけだ。脳が貧血のような状態を引き起こし、意識がボンヤリしていると考えれば、わかりやすいかも知れない。

 のぼせによる意識の低下は低血圧によって引き起こされることがわかった。しかしちょっと待ってほしい。液体は普通、温めた方が圧力が高くなるはずだ。体温が上がっている時だって、心拍は早くなる。それなのになぜ、暖かいお風呂に入ると、血圧は下がるのだろう?

 続いて、お風呂で低血圧になる仕組みについて解説していく。

 

 

もっと専門的に 〜入浴と低血圧

 突然だがこんな事を考えてほしい。

 同じ量の水が出るように調整した水道管がある。この水道管の先端に、口径の太いホースと細いホースをそれぞれ繋げた時、水がより遠くまで勢いよく出るのはどちらのホースを繋げた時だろう?

  •  水が出ているホースの先端を指で潰した事はないだろうか? その時、水の勢いや水の出口の大きさはどう変化しただろう?

 

 正解は「細いホースを繋げた時」だ。

 ホースの口径が細くなるという事は、同じ量の水が同じ時間で出るのに、より大きな力をかける必要があるからだ。

 このホースの口径と力の関係が、入浴時の低血圧を理解する上で重要だ。

 当然の話だが、お風呂に入るということは体をお湯に沈めるという事である。水は空気より密度の大きい物質のため、湯船に体を沈めると体は水圧でギュッと締め付けられることになる。これに連動して血管は細くなり、血圧は上昇することになる。

 さて、「血圧が低くなる話しの筈なのに、むしろ上がっているじゃないか」と思われただろう。たしかに、入浴すると私たちの血圧は上昇する。ただし、一時的にだ。

 入浴時間中は多くの人にとってリラックスの時間でもある。リラックスをすると、副交感神経の働きによって顔面血管は拡張するように働く。血管が拡張するという事は、血圧が低下するという事だ。

 さらに、血管が拡張した状態のまま湯船から出るとどうなるだろう? リラックス中の血管拡張は副交感神経の働きによるものだったが、入浴中の血管収縮は物理的な力によるものだ。それが解放されるのだから、湯船から出ると血管は強制的な収縮を解かれ否が応でも拡張してしまう。

この副交感神経と物理刺激による二重の血管拡張が、のぼせの原因となる低血圧を引き起こすというわけだ[注5]

 ここまで、お風呂でのぼせる仕組みについて解説してきたが、いかがだっただろうか? 冬は暖かいお風呂に入ったり、大気が乾燥していたりして、夏場以上に自覚のない脱水に注意しなければならない時期だ。水分補給をこまめにして、楽しいお風呂ライフを過ごしていただきたい。

 最後に、記事の趣旨からは少し外れるが入浴に関する研究について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。

 

 

ちょっとはみ出し 〜研究はお風呂から

入浴剤でポカポカ

 毎日のお風呂ライフに変化を与えるものといえば、オモチャに泡風呂、新しいボディソープ、そして何と言っても定番なのが入浴剤だ。色や香りの変化でお風呂のひと時に彩りを与えてくれるだけでなく、薬用成分による温泉さながらの湯治効果まで期待できてしまうという1粒で2度美味しい存在だ。葉月は発泡系の入浴剤が溶けていくのを見るのが好きです。

 発泡系入浴剤の泡は二酸化炭素CO2によるもので、天然の炭酸泉の発汗促進効果を期待したものだ。しかしながら、実際に入浴剤で発汗が促進されるものなのだろうか? そんな入浴剤の効果に対する疑問を検証した研究がある。乳化油剤と炭酸ガスを組み合わせた入浴剤を溶かしたお風呂に2週間入ってもらった所、発汗量や発汗中枢の興奮が増加したという事だ。

お風呂掃除をお任せ

 お風呂での時間を快適に過ごすために欠かせないものといえば、日々の掃除だ。浴室は水場、高い断熱性、扉が開く時間が限られているなどの条件で、家の中でも特に湿気がこもりやすくカビの温床になりやすい環境だ。お風呂は身体を清潔にして衛生状態を保つ場所でもあるため、カビや汚れがそのままになっているというのは、衛生的にも気分的にもあまりよろしくない。

 面倒な日々のお風呂掃除を、お掃除ロボットに任せられないかという研究がある。精密機械が耐えられる防水性や隅々まで磨き残しなく動作できるブラシの条件、浴室・浴槽の壁面も安定して清掃できる方法やそもそも浴室内で無理なく動き回れるサイズまでの小型化など、一般の清掃ロボットにはない浴室清掃ロボット特有の課題は多い。お風呂掃除が家事から消える未来も、そう遠くないようだ。

参考文献

  • 嶋田正和ら. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 生物図録』. 数研出版.
  • Abraham L. Kierszenbaum, Laura L. Tres. 『組織細胞生物学 原書第5版』. 南江堂.
  • 岡田 泰伸ら. 『ギャノング生理学 原書26版』. 丸善出版.
  • Bruce Alberts, et al. 『Essential 細胞生物学(原書第5版)』. 南江堂.
  • 中田 光俊. 『脳機能入門』. メディカ出版.
  • 永坂 鉄夫. 『ヒトの選択的脳冷却機構とその医学·スポーツ領野への応用』. 日本生気象学会雑誌 2000年 37 巻 1 号 3-13.
  • 樗木 晶子ら. 『入浴の人体に及ぼす生理的影響: 安全な入浴をめざして』. 九州大学医療技術短期大学部紀要. 29, pp.9-15, 2002-02.
  • 一般財団法人 日本健康開発財団
  • 一般社団法人 銚子医師会
  • 森本 佑子ら. 『人工炭酸泉入浴剤の連用による発汗機能への影響』. 日本温泉気候物理医学会雑誌2020年 83 巻 2 号 45-53.
  • 橋本 智己. 『浴室清掃 (風呂掃除) ロボットの小型化』. ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集 2022年 2022 巻 1A1-T01.

脚注

[注1] 同様の症状は、更年期の女性にも見られる症状でホットフラッシュと呼ばれている。女性の方にはおなじみの症状なのかもしれないが、恥ずかしながら葉月は初めて知った。 (本文へ戻る)

[注2] とはいえ、あまり怖がる必要もない。熱すぎるお風呂や長風呂を控えて、水分を十分に摂れば良いのだ。 (本文へ戻る)

[注3] 脳は頭蓋骨の中にあるため、体表と同じように体温を下げていたのでは排熱が追いつかない。そのため脳には、選択的脳冷却機構と呼ばれる独立した冷却システムが備わっている。スパコンなどの高性能のPCには温度が上昇しすぎないように冷却されているが、脳もそうだったとは! (本文へ戻る)

[注4] 細胞は高温に弱い存在だが、同時に高温に対抗する機能も備わっている。例えば分子シャペロンと呼ばれるタンパク質は、熱などの理由で機能が失われたタンパク質を、元に戻す役割を持っている。葉月のいた研究室では、この分子シャペロンを大きなテーマにして研究していた。葉月のテーマは違ったけど。 (本文へ戻る)

[注5] 特に湯船から出る際の低血圧は深刻で、立ちくらみやそれによる転倒を引き起こす原因にもなっている。これを回避するためにも、湯船から立ち上がる際には時間をかけてゆっくりとを心がけてほしい。 (本文へ戻る)

 

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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