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(画像引用元番号①②③)
みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、キノコが「シロシビン」を持つようになった理由を探った研究だよ。いわゆる "マジックマッシュルーム" という通称でも知られているキノコだね。
これまでの研究ではその辺のところがはっきりしてなかったんだけど、今回の研究により、もしかするとカタツムリ除けじゃないか?というのが示されたよ。
今回の研究はそれだけでなく、多種多様な標本を収集・保管する意義も示した研究だよ!
CONTENTS
"マジックマッシュルーム" という通称のキノコの名前を聞いたことがあるかな?これは「シロシビン」と呼ばれる成分を含んでいるキノコの総称だよ。
シロシビンはセロトニン[注1]と構造が似ているので、幸福感を与える向精神薬として作用し、メソアメリカ地域などの一部の地域では伝統的なシャーマニズムで長年使用されていた歴史もあるよ。
世界中で使用例がみられるのは、シロシビンを含むキノコが世界に何十種類もあるからだよ。マジックマッシュルームという通称も特定の種のキノコを指す名称ではなく、シロシビンを含むキノコの総称だからね。
シロシビンはこれまで「向精神薬だけど医療用途がない」という扱いで、日本を含め世界中で麻薬として禁止されているけど、近年では鬱病やPTSDの治療や終末医療の緩和の用途に関する研究も進んでいるんだよね。
キノコがシロシビンを持った理由として、哺乳類や昆虫の食害を防止するためという考えがあったよ。ところが、めったに出会えないという状況や、一部は明らかに反する状況が見つかっているなど、この説は弱みがあったよ。 (画像引用元番号①⑤⑦⑧)
さて、人間に対して向精神薬として作用するシロシビンだけど、なぜキノコはシロシビンを持つようになったのか?という疑問については、実はあまりよくわかっていなかったよ。
シロシビンが濃度の違いはあれど多種多様なキノコに存在することを考えると、キノコが食べられることを防ぐための防御策、分かりやすく言えば毒であると考えれば、一見するとその説明はつきそうだよね?
ただ、「じゃあ誰に対する毒なのか?」という疑問に答えるのはかなり難しいよ。どのような物質が毒になるのかは生物によって全然違う上に、そのキノコを食べる機会に恵まれているのかは別問題だからね。
シロシビンが中枢神経に作用して行動を変化させること、毒としての強さそのものはあまり強くないことを考えると、まず最初に考えられるのは哺乳類の捕食を免れるための手段というものだよ。
ただ、シロシビンを含むキノコは野生環境では比較的稀な存在なので、果たして覚えてくれるほど出会う機会に恵まれているのか、という点で、この仮説はあまり支持を集めていなかったよ。
シロシビンの副作用として下痢や嘔吐が誘発される場合もあるので、消化されにくい胞子を広げるためという説もあるけど、出会うのが稀だという状況を考えると、これもいまいちピンとこないよね。
また、哺乳類と同様に捕食者になり得る存在と言えば、昆虫やその他の節足動物で、確かに一部の昆虫やクモにシロシビンを与えると、同じように行動が変化することが観察されているよ。
ただし、この観察や実験はまだまだ数が少ない上に、一部の昆虫の幼虫は明らかにシロシビンを含むキノコを宿として成長していることが確認されているので、この説も疑問と言えば疑問なんだよね。
ユタ大学のAlexander J. Bradshaw氏などの研究チームは、シロシビンを含む代表的なキノコである「シビレタケ属 (Psilocybe)」を集中的に調査する研究を行ったよ。
シロシビンが医療目的に使えるのかを調べる意味でも、キノコがなぜシロシビンを持つようになったのかを知る意味でも、いろんな面を深く理解するためには、生物の基本設計図である遺伝子を調べる必要があるよ。
キノコがシロシビンを持つということは、合成する生体内の機構が遺伝子によって定義されているはずで、そしてその遺伝子は進化のどこかの段階で出現したと考えることができるよ。
となると、いつシロシビンを合成するのに必要な遺伝子が出現したかを知ることができれば、シロシビンを持つようになった理由を知ると共に、より正確な作用に関する理解が深まると思うんだよね!
ところが、シビレタケ属は165種も確認されているのに、遺伝子がきちんと調べられているのはたったの5種類だったよ!しかも5種類中4種類が、2つあるうちの1つのグループ (分岐群[注2]) に含まれていたよ。
これではとても見通しが立たないよということで、Bradshaw氏らはもっと多くのシビレタケ属のキノコの遺伝子を調べることにしたよ。
今回の研究では、最終的に56種類ものシビレタケ属のキノコの遺伝子を調べられたよ。このうち39種類は今回の研究まで、遺伝子が詳細に調べられたことがなかったものだよ。
そして遺伝子の解析結果を元に、その遺伝子がいつ頃出現したのかを予測する「分子時計」の手法で分析すると、シビレタケ属がいつ頃シロシビンを合成するようになったかが分かったよ。
それによれば、シビレタケ属がシロシビンの合成能力を獲得したのは約6700万年前で、約5600万年前には2つのグループに分かれ、多様化していることが分かったよ。
約4000万年前から約900万年前の間では、遺伝子の水平伝播[注3]という現象が4回から5回発生し、更に多様化が進んだと考えられているよ。
では、シビレタケ属にとってキーポイントとなる時代、シロシビン合成能力を獲得した約6700万年前と、2つのグループに分かれた約5600万年前には、一体何が起こったんだろうね?
まずシロシビン合成能力を獲得した約6700万年前。これは分かりやすいね。恐竜を含めた多くの生物が絶滅した白亜紀末の大量絶滅があった時期だよね。
とはいえ、この大量絶滅を生き残った生物がいるのもまた確かで、中にはこの直後に数が増えたグループもいると。それが、まさにキノコなどの菌類、およびカタツムリなどの腹足類 (陸生貝類) なんだよね。
天体衝突が原因と言われているこの大量絶滅では、光合成が壊滅状態となる長い暗闇の期間があったと考えられているので、裏を返せば暗闇に強いキノコやカタツムリの数が増えたのは納得だよね。
そして、腹足類は菌類を食べるよ。そう考えると、生息域が近い上に数を増やした腹足類に食べられることを避けるために、毒であるシロシビンを作るようになった、という可能性は十分考えられるよ!
また、もう1つのキーポイントである約5600万年前の多様化は、その頃の地球環境の変化で、生態系が豊かになったことに対応した結果だと考えられるよ。
分子時計から考えると、シビレタケ属は木材を分解するグループを起源としていて、その後に糞を苗床にする「ミナミシビレタケ (Psilocybe cubensis)」などの仲間が出現したようだよ。
この時代は「暁新世-始新世温暖化極大」[注4]という、地球全体が極めて高温だった時代で、生態系が豊かになったのでこれに対応した進化をしたとしても何もおかしくないよね?
ちなみに、糞への適応は少なくとも2回独立して起こったらしいことが分かったよ。この辺も、それぞれが独自に生態系の変化に対応した痕跡であると見ることができるね。
今回の研究は、シビレタケ属がシロシビンを合成するようになった歴史を探ることに重点を置いた研究だけど、同時にこれは多数のキノコの標本が存在することによって成り立った研究だよ。
今回の研究のように、多数の種同士で遺伝子を比較するには、確実にその種であることが分かるキノコの標本が必要だよね。それらの中には珍しい種もいて、確実な標本が博物館にしかないことも多いよ。
実際、世界中の博物館に標本の貸し出し依頼を行ったことはもちろんのこと、その中には「タイプ標本」[注5]という、その種の基準となる重要な標本が23種類分も含まれていたんだよね!
これらの多数の貴重な標本を元に成り立つ今回の研究は、まさにBradshaw氏が「何千人分もの力と時間を費やした巨人たちの肩の上に立っている」と表現した通り、積み重ねが大事なんだよね。
今回の研究は、キノコとシロシビンとの関係に留まらず、これらの収集物が維持されるのがなぜ重要なのかを示す分かりやすい事例として重宝されるかもしれないね!
[注1] セロトニン 本文に戻る
脳における神経伝達物質の1つ。神経内分泌、睡眠や体温の調節など、極めて多種多様な役割があり、セロトニンの分泌量は鬱病や統合失調症、薬物依存などの病態に関連している。
[注2] 分岐群 本文に戻る
英語名からクレードとも。ある共通の祖先から進化した生物全てを含む生物群のことを指す。
[注3] 遺伝子の水平伝播 本文に戻る
通常、遺伝子は細胞分裂した同士での移動、つまり母細胞から娘細胞へと移動する。一方で異なる個体間でも遺伝子が移動することが知られており、これを遺伝子の水平伝播と呼ぶ。異なる生物種で遺伝子が移動することから、生物の進化を考える上で重視されている。
[注4] 暁新世-始新世温暖化極大 本文に戻る
約5500万年前の古第三紀の暁新世と始新世を分ける、地球全体が温暖化していた時代。全地球の平均気温が5℃から9℃も上昇していたとされている。
[注5] タイプ標本 本文に戻る
ある生物の種を定義するための記述の根拠となった標本のこと。正基準標本をホロタイプ、副基準標本をアイソタイプと呼ぶなど、更に細かく分かれる。
<原著論文>
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)