同じ人物の異なる指紋同士は似ている!? 100年前からの法医学的「常識」を覆すかも

2024.01.19

 

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説の主題は、「全ての指紋は唯一無二」ではないかもしれないという発見だよ!

 

と言っても、異なる指紋同士の形はもちろん違うし、違う人物同士で比較すれば、相変わらず指紋は唯一無二だよ。

 

ただし、同じ人物で異なる指紋を比較すると、完全ランダムではなくある程度類似している、ということが見つかったんだよね!

 

100年以上の法医学的知見を覆すかもしれない発見はどうして見つかったのかな?これも含めて解説するね!

 

「指紋」は同一人物で比較しても本当に一意的?

指紋は本当に一意か?

指紋は唯一無二であり、個人を特定する強力な証拠となるよ。これまでの法医学的知見は、例え同じ人物であっても個々の指紋は異なる上に、特徴や関連性はないというものだったよ。 (画像引用元番号①)

 

個人を見分ける方法として使われるものの1つとして「指紋」があるね。指紋は遺伝的に全く一緒である一卵性双生児の間でも異なることから、確実に個人を見分けるものとして法医学的に長く使われてきたよね。

 

指紋が人によって異なることは、古代から19世紀にかけて徐々に理解され、1892年には初めて殺人事件の証拠に使われる[注1]など、法医学の歴史だけで見ても100年以上の歴史があるよ。

 

そして長年の研究によってよく知られていることとして、同一人物の指紋であっても、10本の指のそれぞれが異なる指紋を持ち、どれもが特徴や関連性など、似ている要素が見つからないというものだよ。

 

これは、指紋が一意的 (唯一無二) であることを示す強力な状況証拠ではあるんだけど、同時にこれは、異なる指紋を同一人物に結びつけることが困難であるという問題にもつながっているよ。

 

なので例えば、1つ目の犯行現場に右手の指紋、2つ目の犯行現場に左手の指紋が残されているような状況だと、指紋だけでは同一の犯人による犯行かを特定できない、などの問題があるよ。

 

あるいは、指紋でロックを解除する機能を使う際に、登録している指紋と同じ人物であっても、異なる指では解除できないことになるね。指を怪我したりした時、これでは困っちゃうよね。

 

実は、指紋のパターンがどのようにして生成されるのかというのは長年の謎で、未だにきちんと分かっている状況ではないよ。2023年の研究では、3つ遺伝子と数学的パターンで決定しているらしいことが分かったよ。

 

この研究を前提にすれば、同じ個人は明らかに同じ遺伝子によって決定されているので、これは同じ人物では似たような指紋のパターンがあることを示唆しているよね。

 

また、スマートフォンなどに搭載されている指紋認証システムは、カメラの視野の関係から部分的な指紋しか読んでないこともあり、より識別パターンが少なくなってくるよ。

 

ということで、一定の特徴を捉えることで認証システムを騙すマスターキーのような指紋パターンを作成できるというアプローチの研究もあるよ。つまり、同じ個人では何らかのパターンがあるかもしれないことになるよ。

 

指紋6万個を深層学習で解析!

指紋の分析方法

今回の研究では6万個の指紋画像を元に深層学習を行い、様々な特徴を元に、本当に指紋は一意的な性質があるのかを調べたよ。 (画像引用元番号②③)

 

そんな感じの背景がある中で、コロンビア大学のGabe Guo氏などの研究チームは、指紋に関する過去の研究を参照しながら、同じ個人の異なる指の指紋が本当に一意的なのかを検証する研究を行ったよ。

 

研究では、大量の指紋データを人工知能に対して深層学習させて、同一人物の異なる指の指紋、および異なる人物同士の指紋の画像を元に、類似性を比較・評価するシステムを作ったよ。

 

するとその結果は驚くべきものだったよ。同じ個人の異なる指の指紋同士の比較は、異なる人同士で比較した場合と比べて類似している傾向があるみたいだよ!その信頼度は99.99%である、というものだったよ!

 

つまり、同じ個人の異なる指同士で比較する限りにおいては、指紋は決して一意的ではなく、ある程度の類似性や特徴が見つかることになる、ということになるよ!

 

この結果は、100年以上の法医学の知見からすると全く反対であり、とても受け入れられるものじゃなかったよ。研究が始まったのは2021年だけど、2度も論文誌掲載を却下されていることがある意味では証拠となるね!

 

もちろん、常識外れな結果は中々信じてもらえないのも無理もないので、Guo氏らは研究データを積み重ねることで、最終的には約6万個もの指紋をデータセットに加えたよ!

 

そして、本当に識別できるのかをテストする上では133人から約7000個の指紋を使ったんだけど、とても高い確度で同一人物かどうかを見極めることに成功したよ!

 

なぜ今まで見逃されていた?

指紋の曲線の類似性

今回の深層学習では、指紋の曲線というアプローチで類似性を見つけたよ。一方で従来の方法である特徴点を調べると、確かに一定の傾向を見つけることはできなかったよ。これが長年見逃されてきた理由だね。 (画像引用元番号②④)

 

では、長年の研究実績があるにも関わらず、今までの法医学的な知見では「同じ人の異なる指の指紋は似ている傾向にある」と見抜けず「指紋は唯一無二である」って判断しちゃったんだろうね?

 

これは、コンピューターが存在しない時代から指紋を区別してきた、人間の目線での指紋の見分け方と、今回の人工知能が深層学習で使用した指紋の区別方法が違うことが原因と思われるよ。

 

現在の法医学において、指紋が同じか違うかを区別するには、指紋の線がどこで始まっている・終わっている・どこで分岐しているかという「特徴点の一致する数」を数えるよ。

 

例えば日本の司法の場合、特徴点が12点以上一致する場合に同じ指紋であると判断するよ[注2]。今はもちろん機械で判断するけど、根本的には人が目で観て判断していた時代と基本設計は変わらないよ。

 

そして長年のデータの蓄積をもってしても、特徴点の配置に傾向は見られず、ランダムに見えることから、同じ指紋はなく唯一無二である、という風に言われてきたわけだね。

 

一方で今回の研究の場合、4つの評価方法で類似性を判断したよ。その中で「指紋の線がどんな曲線を描いているのか」を見比べると、同じ人物の異なる指紋に、最も高い類似性を見出した、というわけ。

 

曲線という性質を使っている関係上、指紋の中心付近の比較はより類似性が高く、外側に向かうに従って類似性が減ってくる、という状況も見つけることができたよ。

 

指紋の線の曲率は、特徴点ほど視覚的にはっきりしないので、区別するのが難しいもの。これまでの研究で類似性が分からなかったとしても無理もないことと言えるんだよね。

 

一方で特徴点を基準として類似性を比較すると、今回の研究においても一定の特徴や傾向を見つけることはできなかったよ。つまり、今まで法医学的知見で見逃された背景を裏付けた、というわけだね。

 

将来的な応用に期待!

指紋の分析結果の応用例

(画像引用元番号⑤⑥)

 

今回の研究がもし正しい場合、指紋に基づいた犯罪捜査や、指紋認証システムに変更をもたらすかもしれないね。類似する指紋を見抜くことで、違う指紋同士が同じ人物に由来するかどうかを決定できるわけだからね。

 

もしこのシステムが法医学的に使用されれば、未解決事件の解決や冤罪の解消、そこまで大げさでなくても同一人物の検索をしやすくするなど、色々な改善が見込めるね!

 

ただし、今回の研究成果は、まだ研究の初期段階と言える形であり、仮に正しいとしても実用化にはまだまだ遠いものと考えられるよ。一番の問題は、指紋データが約6万個しかないという点だよ。

 

これは現実に存在する指紋データと比べて明らかに少ないので、データセットが巨大になっても同一人物であるかを見抜けるかどうかは今のところ未知数だよ。

 

また、どうしてもこういうデータセットは国や人種によって偏りが出てくるので、結果にバイアスがかかる可能性は留意しないといけないよね。

 

そして、採集される指紋は多くの場合部分的で、かつボヤけているので、現場で採集された指紋が今回の研究のように識別可能かどうかはまた別問題だよ。

 

今回の研究では一応、こういう情報が不完全な指紋でも判別するテストを行い、同一人物かどうかを見抜くことにはある程度成功したけど、一番精度が低いという結果になったよ。

 

ここら辺はどうしても精度の限界があるので、万能な指紋認証システムになるかといえばそうではないんだけど、ここら辺は研究によって改善していくのかなぁ、という期待もあるよね。

 

そしてもちろん、誤った前提で "証拠" とされれば、逆に冤罪を招いてしまうところだから、法的な証拠として確立するには、更に慎重な研究と評価が必要になってくるよ。

 

いずれにしても、この研究が進むことで、これまで100年以上常識とされてきた指紋の一意性に関する考えが変わるかもしれないね!

注釈

[注1] 1892年の事件  本文に戻る

世界で初めて、指紋の証拠によって有罪判決を受けたとされている事件は、1892年6月29日に発生した殺人事件であると言われています。フランシスカ・ロハス (Francisca Rojas) が自身の2人を子供を殺害した上で自分自身もケガを負い、隣人の仕業に見せかけようとしましたが、寝室のドアに付いた血痕による指紋が決め手となり、有罪となりました。

[注2] 特徴点が12点以上一致  本文に戻る

これは、指紋が主な物証として使用される場合での一致数であり、目撃証言や録画のような他の物証がある場合には、それ以下の一致数でも証拠として採用される場合もあります。

文献情報

<原著論文>

  • Gabe Guo, et al. "Unveiling intra-person fingerprint similarity via deep contrastive learning". Science Advances, 2024; 10, 2. DOI: 10.1126/sciadv.adi0329

 

<参考文献>

 

<関連研究>

  • Aditi Roy, Nasir Memon & Arun Ross. "MasterPrint: Exploring the Vulnerability of Partial Fingerprint-Based Authentication Systems". IEEE Transactions on Information Forensics and Security, 2017; 12 (9) 2013-2015. DOI: 10.1109/TIFS.2017.2691658
  • James D. Glover, et al. "The developmental basis of fingerprint pattern formation and variation". Cell, 2023; 186 (5) 940-956.E20. DOI: 10.1016/j.cell.2023.01.015

 

<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

  1. 10本の指の指紋は全て異なる: Columbia Engineeringの公式動画よりキャプチャ&トリミング

  2. 指紋の解析方法: Columbia Engineeringの公式動画よりキャプチャ&トリミング

  3. 人工知能のイラスト: いらすとや

  4. 指紋の類似性のホットスポット: プレスリリースより

  5. 同一人物の異なる指紋のイメージ図: プレスリリースより

  6. 指紋認証のイラスト: いらすとや

 

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

このライターの記事一覧

彩恵りりの科学ニュース解説!の他の記事