イカ以外もある!魚肉の入った塩辛をスーパーで探してみよう!

2024.01.16

 普段行かないスーパーに足を運ぶと、思わぬ商品との出会いがあったりする。近所にミニコスができたというので、どんな所なのか興味本位で行ってみた。ミニコスはコストコ再販専門店で、コストコの人気商品が厳選されて売られているようだ。コンビニよりも小さな店であったが、その中で非常に気になった商品を見つけた。

 株式会社合食が販売する「いくらが入った サーモン塩辛」である。

 

 

食べてみる

 イカの塩辛は有名だが、魚の塩辛なんて聞いたことが無い……どんなもんだろうと思い購入してみた。インターネットで調べて知ったのだが、この商品、コストコユーザーの間では結構有名なものらしい。280 gと大きな瓶を開けると、サケの切り身といくら(醤油漬け)、米麹が目に入る。サケの切り身が結構分厚い。冷蔵品として売られていたが、刺身に近い状態で瓶詰めできるんだと私は驚いた。

 

 サケはアトランティックサーモンと書かれていたので、日本近海のサケではないようだ。ご飯の上に乗せてみると、非常に美味しそう。食べてみると、サケは刺身に近い柔らかさで、良い具合に塩と米麴が効いていて、甘塩っぽい。いくらのプチプチ感も楽しめて、まさに海鮮親子丼。私は好きな味だった。

 

 

そもそも「塩辛」ってなんだ?

 そもそも塩辛とはどんな料理を指すのか? と疑問に思ったので、改めて調べてみた。角野(1999)によると、塩辛とは「魚介類の筋肉や内臓などに食塩を加え、腐敗を防ぎながら自己消化酵素や微生物酵素によって消化し、特有の風味を醸成させた塩蔵発酵食品のこと」を指す。魚醤ぎょしょうも塩辛の1種になるようだが、こちらは液体状だ。

 

 魚の塩辛と言われても何も思い浮かばなかったのだが、ネットで検索してみると、カツオなど魚の内臓のみを塩漬けした「酒盗しゅとう」が有名なものとしてよくヒットした。塩辛というイメージは無かったが、確かにそう言われてみれば酒盗は食べたことがあったし、スーパーで見かけたこともあった! なるほど、これも塩辛の一種なのか。

 

 他にも沖縄料理で有名なアイゴの稚魚を丸ごと塩漬けにした「スクガラス」や、アユの内臓や生殖腺を塩漬けにした「うるか」が魚の塩辛の代表として挙げられるようだ。

 

 このような広義の塩辛は、日本だけではなく、韓国、中国、フィリピン、タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナムなど海外でも独自のものが作られている。塩辛の世界もなかなか奥が深そうだ。

 

 

「塩辛」に関する論文を読んでみる

 角野(1999)の研究による塩辛(魚以外も含む)の知見をピックアップしてみると、日本は健康上の理由から減塩傾向にあり、食塩摂取量は1日10 g以下が推奨されている。塩辛の消費量は、一人年間314 g。これは一日あたり約0.86 gの摂取であり、少ない量だ。

 

 確かに毎日塩辛を食べているかと聞かれると、飲み会の時以外はあまり食べない気がする。

 

 日本では確かに塩辛は低塩化しているが、食べる量が従来の高塩塩辛よりも増えているため、低塩化の塩辛はあまり意義が無いと皮肉な指摘もされている。

 

 今田・藤田(2003)の研究による塩辛(魚以外も含む)の知見をピックアップしてみると、日本での塩辛・魚醤類に使用された魚介類の部位は、体全体が最も多く、続いて、生殖腺、内臓のみ、魚肉のみであった。

 

 塩辛・魚醤類に使用される塩分濃度は約23%が一般的で、これ以上の塩分濃度にすると貯蔵性が上がると考えられている(微生物は減るので熟成は遅くなる)。塩以外の副材料としては、米麹が最も多く使われ、続いて、唐辛子、酒であった。

 

 米麹には糖化と発酵促進の2つの作用があり、塩分濃度が低く防腐性が欠ける塩辛・魚醤類に、発酵熟成を早める工夫として使われていたと考えられている。確かに、私が食べたサーモン塩辛は全然塩辛いとは感じなかったので、こういう理由で米麹が使われていたのかと考えるとなかなか面白い。唐辛子は防腐作用があり、酒は生臭みをおさえ保存性を増す効果があり、どちらも私が食べたサーモン塩辛に入っていた。

 

 現代の塩辛の低塩化に合わせて、早く熟成させ、塩の代わりに保存性が増すように工夫されていることが推察される。

 

 

意識して「塩辛」を探してみると、新たな発見があるかも!?

 塩辛には、肉そのものが入っているものから、ペースト状になっているもの、液体状になっているものなど、その状態は様々な形態があるが、個人的にはやはりイカの塩辛のように素材そのものの肉が入っているものこそがThe塩辛というイメージが強い。

 

 そこで、改めて近所のスーパーで、魚肉が入った塩辛が売っていないものか調べてみた。

 

 ダイエットも兼ねて徒歩2時間かけて3件回ったうち、2件で酒盗が置かれていたが、これはペースト状なので私の求める魚の塩辛ではない。しかし、1件、私の求める魚肉の入った塩辛が置かれていた!! それが内海水産の「ニシンの切込み」という商品である。

 

 今まで意識して見ていなかったのでスルーしていたが、意外にも身近に魚の塩辛が売られていたのだ! ニシンの切り込みは北海道や東北地方の伝統的な郷土料理で、ニシンを細切りにし、塩と米麹に漬け込んだ塩辛である。

 

 どうも昔ながらの塩分の濃い辛口タイプと塩分控えめの甘口タイプが売られているようだ。私が食べたものは甘口タイプで、塩味がほとんどせず、甘かったが、酒の肴に良い味だった。こちらの方にも米麹の他に副材料として唐辛子が入っていた。

 

 こうして意識しながらスーパーの魚コーナーを見てみると、意外と食べたことが無い魚の塩辛が置かれている可能性がある。興味が湧いた方は、是非魚肉がごろっと入った塩辛を探してみて欲しい。

 

 

今日の一首

 食べてみた
  魚の塩辛
   柔らかい
    塩分控えめ
     米麹かな

参考文献

角野猛.1999.日本,韓国及び東南アジアの魚の発酵食品.日本調理科学会誌,32(4): 360-366.

今田節子・藤田真理子.2003.保存食「塩辛・魚醤」の伝統的食習慣とその地域性.日本家政学会誌,54(2): 171-181.

 

【著者情報】澤井 悦郎

海とくらしの史料館の「特任マンボウ研究員」である牛マンボウ博士。この連載は、マンボウ類だけを研究し続けていつまで生きられるかを問うた男の、マンボウへの愛を綴る科学エッセイである。

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