関節炎 治療の糸口|軟骨の変性を食い止めることができるか(1月3日 Nature オンライン掲載論文)

2024.01.19

メディアには関節の痛みを軽減すると称する様々なサプリが溢れているが、それだけ多くの人が関節症状を訴えていることになる。このほとんどはいわゆる変形性関節炎で、軟骨がすり減ることで起こってくる。そして、現在の医学でも痛みを緩和することは出来ても、軟骨の変性を食い止めることは難しかった。

 

本日紹介する論文

しかし、今日紹介するニューヨーク大学からの論文は、変形性関節炎の病態メカニズムの一端を解明し、治療への糸口を見つけた点で重要な研究だ。

 

タイトルは「Nav 1.7 as a chondrocyte regulator and therapeutic target for osteoarthritis(Nav1.7は軟骨の調節因子で変形性関節炎の治療標的になる)」だ。

 

解説と考察

このグループは、元々痛みを緩和するために電位依存性のナトリウムチャンネルを研究する中で、軟骨にもいくつかの電位依存性Naチャンネル(Nav)が発現し、中でも Nav1.7 が変形性関節炎で上昇していることを発見する。

 

この現象と変形性関節炎の関係を調べるため、マウスの軟骨、あるいは感覚神経から Nav1.7 をノックアウトして、外科的あるいは化学的に軟骨を傷害して変形性関節炎を誘導すると、痛みに関しては感覚神経、軟骨特異的ノックアウト両方で発生が抑制される。

 

一方、関節炎の病理的進行と症状改善について見ると、なんと軟骨特異的に Nav1.7欠損マウスで進行を止めることが出来ることを明らかにしている。

 

Nav1.7 については、てんかん治療目的などで様々な特異的阻害剤が開発されており、これを全身投与することでノックアウトと同じように症状を改善することが出来る。

 

次に、Nav1.7チャンネル阻害が変形性関節炎進行抑制のメカニズムを培養軟骨を用いて検討し、チャンネル抑制により発現が上昇する分子の中で、シャペロンである HSP70 と生理活性物質ミッドカインがそれぞれ軟骨細胞のコラーゲン増殖など再生型の代謝、およりマトリックス分解酵素などの炎症型分子の賛成を抑える役割があることを発見する。

 

最後に、Nav1.7チャンネル抑制によりこれら分子の細胞外への湧出が誘導されるメカニズムも検討し、流入したナトリウムがナトリウムカルシウムトランスポーターによって細胞外へ排出される結果、細胞内のカルシウム濃度が高まり、それによりこれら分子が細胞外へ湧出することを示している。

 

まとめと感想

以上が結果で、なぜ変形性関節炎が Nav1.7 の発現を高めるか、あるいはカルシウムとHSP70、ミッドカインの分泌など、まだまだ詳細については詰める必要があると思うが、これまで全く糸口のなかった変形性関節炎治療開発については大きな進展だと思う。

 

内服できる Nav1.7阻害剤は存在し、効果があることも示されたが、これまで精神疾患に使われていることを考えると、そのまま高齢者に使っていいかは問題になると思うが、局所持続投与が可能なら大きな関節だけでもすぐ治療可能になったほしい。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

このライターの記事一覧