スポーツ栄養学の専門家が考える、昆虫食のスポーツ栄養への応用

2024.01.11

現在進行形である食糧や環境の問題を解決する手段として、昆虫食が昨今注目されている。昆虫食に関しては様々な視点で述べられ、ときに「激しい議論がかわされる」こともある。

そのような昆虫食だが、今回は少し視点を変え、栄養学の専門家として「スポーツ栄養学的」に応用可能であるか?を考えてみたい。

そもそも昆虫とは?

昆虫食について述べる前に、少しだけ昆虫について基本事項を思い出してみたいと思う。

「昆虫を説明してください」と言われて、きちんと説明できるだろうか?多くの方が、中学校の理科で触れて以来、昆虫について浅くも深くも勉強していないと予想できる。

 

日々生活する中で、昆虫を見ない日のほうが少ないはずであるが、意外と昆虫については知らないことが多いのではないだろうか。

 

昆虫は無脊椎動物で、節足動物の一種に分類され、地球上で最も種類が豊富な動物群と言われている。昆虫の体は頭、胸、腹の3つの部分に分かれており、胸部には通常3対の脚があり、翅を1対または2対もっている (翅を持たない例外もある: アリなど)。

 

昆虫の生息数は膨大で、海を除く地球上の様々な場所に存在し、調査されているだけでも世界で約100万種、日本で約3万種が記録されている (地球上の動物の種の約8割を占めているとも言われる)。毎年新種が発見、発表されていることを考えると、いまだ発見されていない種が存在することは容易に想像でき、大きなロマンがある。

 

これだけ昆虫が繁栄できる理由として、小型であること、活発に活動すること、短期間で数多くの子孫を残せることなどがあげられる。つまり昆虫は、様々な環境に柔軟に適応して進化を遂げてきた生物である。それぞれの昆虫が、それぞれの土地に適応することで絶え間なく繁栄することができている。


昆虫は、体の特長から約30の「目(もく)」という単位に分類されている。目の中では、クワガタムシやコガネムシなどの甲虫目が最も多く、 以降、ハエ目 (ハエ、カの仲間)、チョウ目 (チョウやガの仲間)、ハチ目 (ハチやアリの仲間) の順となっている。これら4つの目だけで全昆虫の種類の約8割を占めるとされる。

 

昆虫を嫌いな方は多いかもしれないが、人間が生活して行く上で、重要な役割をもつ昆虫は多く存在する。人間に利益をもたらす益虫として、テントウムシ (アブラムシの捕食)、ミツバチ (花粉の媒介、はちみつ)、トンボ (害虫の捕食)などが挙げられる。

一方、当然、人間に害をもたらす害虫も多く存在し、農作物を食害したり、病原体を媒介する種が存在し、人間の生活を脅かすことがある。

 

昆虫は人間の生活圏に多く存在しており、共存していることを忘れてはならない。そして、人間が昆虫を見た時の感情などは、昆虫にとっては関係のない話である。

[注意]益虫および害虫には、昆虫以外の虫も含まれる

 

日本の昆虫食文化

日本には、古くから昆虫を食料として利用していた文化がある。これまでに日本で食べられていた昆虫は、ハチ類14種、ガ類11種、バッタ類10種など多岐に渡ることがわかっている。

昆虫を食べていた (る) 地域としては、長野県 (信州が有名) 17種がもっとも多く、その他広い地域で食べられていた。長野県の昆虫食といえば、イナゴの佃煮や蜂の子を思いつく方もいるだろう。

イナゴの佃煮画像

 

食用の昆虫は比較的身近な種が多く、貴重なたんぱく質源であった。しかし、経済の発展とともに様々な食品を生活の中に取り入れられるようになり、食用昆虫の利用価値が低くなった。食文化として昆虫食が受け継がれている地域があるものの、その文化の存続が危ぶまれている。

 

地球環境や食料資源を考えると、国内でも広くかつ日常にあった昆虫食を、現代の食文化に取り入れられるように再考することが必要になってくるのかもしれない。

 

食用昆虫の栄養学的特徴と利用

食用にされる昆虫には、イナゴ、バッタ、ガやハチの幼虫やサナギなど様々であり、世界中で2,000種類以上あるとされている。

日本では先述したように長野におけるイナゴや蜂の子が有名であろう。食用昆虫における栄養素の最大の特徴は、たんぱく質を豊富に含んでいることである。FAO(国連食糧農業機関)の報告を参考にすると以下の通りである。

昆虫のたんぱく質含有量(FAO:国際食糧農業機関より)

イナゴとバッタ (幼虫): 14-18g/100g fresh weight
イナゴとバッタ (成虫): 13-28g/100g fresh weight
かいこ (いも虫): 10-17g/100g fresh weight
ヤスデムシ (幼虫): 7-36g/100g fresh weight
イエロー・ミールワーム (いも虫): 14-25g/100g fresh weight
コオロギ (成虫): 8-25g/100g fresh weight
シロアリ (成虫): 13-28g/100g fresh weight

 

比較参考 (食品成分データベース: 農林水産省より)
牛 [和牛] もも赤身: 21.3g/100g
豚 [大型種肉] もも赤身: 22.1g/100g
ささみ: 24.6g/100g
イナゴ佃煮: 26.3g/100g
はちの子缶詰: 16.2g/100g

たんぱく質含有量は昆虫の種類によって異なるが、100gあたりで見ると畜肉に匹敵するたんぱく質量を含有しているものもある。

畜肉は部位によってたんぱく質含有量が変化し、バラ肉のように脂質を多く含む部位もある。畜肉の脂質は中性脂肪および飽和脂肪酸が多く、多量の摂取は健康を害するため注意が必要であるのは言うまでもない。

一方、食用昆虫も脂質を含む (5~30%程度) が、低飽和脂肪酸、高不飽和脂肪酸であり、魚類に似た脂肪酸組成であると考えられる。

 

食用昆虫には微量栄養素として、ミネラル (鉄、亜鉛、セレンなど)、ビタミン全般も含んでいるが、種類や含有量は種によって異なる。例えばミールワームは、牛肉よりもビタミン類(B12以外)を多く含んでいるという報告もある。

ちなみに、食品の栄養成分が記載されている食品成分表には、「いなご佃煮」と「はちの子缶詰」と記載されている (いずれも肉類のその他に分類) のみである。

 

このような高栄養価である食用昆虫の食品加工品への利用が、世界的に増加している。国内に目を向けてみると、大手の食品・雑貨等を製造販売する会社において、コオロギを利用した食品 (チョコ、せんべい) が販売されている。

また東京では、コオロギから出汁を取ったラーメン店や、様々な食用昆虫を使用したフルコース料理を提供する料理店も人気を博している。コオロギは飼育が容易で成長速度が早く、餌や水の使用量が家畜と比較して圧倒的に少ないという、畜産肉にはない特徴がある。

コオロギの利用方法は、パウダーに加工して使用することが多く、そのままの「姿」を見ることがないため拒否反応が少ないことも利点に含まれるかもしれない。そのままの「姿」のままで調理、喫食するイナゴや蜂の子と比較して、コオロギは日常の食品への応用範囲が広いと考えられる。

 

他の食品と同様に、食用昆虫も種類によって含有される栄養素は異なる。しかし高たんぱく質で、身体に有用な脂肪酸、さらにビタミン、ミネラルも含有する点は、食用昆虫に共通した特徴といっても良い。

(あまり触れないほうが良いかもしれないが) 環境面に対しては、家畜と比較して飼料や水の使用量が少なく、温室効果ガスの排出量も少ないため、食用昆虫の持つ栄養価は利用価値が高く、持続可能な食料源になると期待されている。

 

スポーツ栄養学における基本的な食事・栄養摂取の考え方

ここからはいったん、スポーツ栄養学の話をしたい。健康を維持増進するためには「運動」「栄養」「休養 (睡眠)」の3つの要素のバランスが保たれている必要であることは言うまでもない。

 

一方、スポーツ競技者がパフォーマンスを十分に発揮するためには「トレーニング」「栄養」「休養 (睡眠)」の3つの要素のバランスを保つ必要がある。実は、健康づくりもスポーツ競技者のパフォーマンス発揮も考え方の基本は同じである。

 

しかし、スポーツ競技者は、日々強度が高いトレーニングを行い、身体に負荷を与えている。トレーニング効果を十分に得ること、疲労した体を早期に回復すること、パフォーマンスを向上することを考慮すると、非競技者よりもこの3つの要素に配慮する必要がある。今回は3つの要素のうち、食事・栄養に着目をする。

 

スポーツ競技者の理想の食事は「栄養フルコース型」とされている。栄養フルコース型の食事は、【主食、主菜、副菜、果物、牛乳乳製品】を揃え、5大栄養素 (炭水化物、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラル)をバランスよく摂取することを目指している。

 

さらに、トレーニング内容や目標とする試合やレースに合わせて「炭水化物を体重あたり◯gとりましょう」や「筋合成を高めるために1食あたり◯gのたんぱく質をとりましょう」「貧血予防のために鉄を食事から摂取しましょう」のように、1日や1食単位で様々な栄養素をしっかりと摂取できるように計画を立て、試合やレースでのベストパフォーマンスを目指している。

 

つまりスポーツ競技者のパフォーマンス発揮は、試験前日の一夜漬けのようにはいかず、日々のトレーニング、体調に合わせた食事摂取が必要であり、多種多様な栄養素 (5大栄養素) を摂取することが求められる。栄養素は単一の食品からのみでは摂取できないため、様々な食品を選択する必要がある。

 

例えば、
穀類、豆類 (大豆以外)、イモ類:炭水化物、食物繊維
肉類、魚類、大豆、卵類、牛乳乳製品:たんぱく質や脂質
野菜類 (緑黄色野菜、淡色野菜など)、海藻類、きのこ類: ビタミン、ミネラル
のようなイメージである。(※各食品に特徴があるのであくまでも大まかなイメージ)

現在、このような食品群、分類に「昆虫類」は存在していない。つまり、スポーツ競技者の食事を構成する食品の選択肢に昆虫が含まれていないということである。


昆虫食はスポーツ栄養に利用可能か?

さて、前置きが長くなってしまったが、昆虫食はスポーツ栄養に応用可能か否かを「青」「黄色」「赤」で答えるならば、「黄色」であろう。現時点で、スポーツ栄養に応用する場合、気をつけなければならない点が多くある。

 

先に、昆虫のたんぱく質を利用した研究 (Hermans et al, 2021) を紹介したい。

 

この研究では、健康で積極的に身体活動を行っている男性24名を対象に、片脚レジスタンス運動を行った後、牛乳たんぱく質30gまたはミールワームたんぱく質30gを含むシェイクを摂取させ、5時間にわたって血液サンプルと筋生検を行った。

 

その結果、両条件ともに、摂取した食品は消化・吸収され、血漿中アミノ酸濃度が上昇することを観察できた (摂取2時間以内に筋組織に取り込まれていたと予想できる)。

さらに、筋たんぱく質合成率は両条件ともに増加しており、条件間に差は認められなかった。

本知見から、昆虫由来のたんぱく質も、牛乳と同様に筋成長を刺激する良いたんぱく質源になりうると考えられる。


紹介した研究だけで「昆虫食はスポーツ栄養に応用可能だ」とはならないが、応用の可能性を示す一例にはなるだろう。

先述したように、食用昆虫のたんぱく質およびその他栄養価の高さはスポーツ実施者にとって大変魅力的であることは言うまでもない。肉類、魚類、大豆・大豆製品、乳製品にはない特徴があるため、食品としての選択肢に並んでも不思議ではない。

一方で、管理栄養士として、以下の点に注意が必要であると考えられる。

■食物アレルギーの詳細について、多くの不明点がある
■食用昆虫は基本的に飼育されたものが利用されるが、個体差や飼育方法による栄養成分の変化が不明である
■管理された食用昆虫以外の摂取は危険である: 寄生虫、有毒物 (ヒ素、重金属など) の濃縮
■国内における食に関連する法律等の整備が追いついていない: JAS規格、成分表示、アレルギーなど
■ドーピングの可能性はないか?: 食品であるから大丈夫かもしれないが・・・

 

食用昆虫の栄養価は魅力的であるものの、クリアしなければならない壁は多いように感じる。特に、食物アレルギーに関しては情報が少なく、注意が必要である。例えば、甲殻を持つような昆虫 (バッタやコオロギ) は、甲殻アレルギーの原因となる可能性が高く、加熱されていたとしてもアナフィラキシーとなるリスクは高い。

 

また、昆虫食も食品衛生法等で管理されると考えられるが、昆虫食に特化した法律等は整備されていない。したがって、現状ある食品や衛生に関連する法律をうまく運用しているにすぎない。執筆時点で特段の問題は発生していないと思われるが、今後昆虫食を発展させると考えると、様々な整備の必要が生まれるかもしれない。

 

スポーツ実施者を対象とした、いわゆるスポーツフードに食用昆虫を使用する場合、ドーピングの可能性も気になるところである。食品の中でも、ハーブのようにドーピング禁止物質が含まれるものがある。昆虫にドーピング禁止物質が含まれているか否かは明らかでないが、昆虫自体が持っていなくとも、飼育環境等で含まれる可能性は拭いきれない。

したがって、食用昆虫を用いたスポーツフードを利用するときには、アンチ・ドーピング認証マークがあるかどうかを確認するなど、慎重さが必要かもしれない。

 

まとめ

私見では、昆虫食のスポーツ栄養への応用は十分可能性が高いと考える。しかしながら、スポーツ実施者が安全に使用できる状況であるか?には疑問が残り、残念ながら強く勧めるような現状にはない。

また、昆虫に抵抗感がある消費者も多く存在するため、国内における昆虫食に対する気持ちが醸成しなければ、スポーツ栄養への応用も進まないと考える。

 

国内外において市場が拡大しているのは事実であり、研究および開発が進んでいくことは確実であろう。とはいえ、日本には佃煮などをはじめとした日本食に合った伝統的な昆虫食文化が古くから存在している。

新しい食文化だけではなく、まずは古き良き昆虫食文化に目を向けることも必要かもしれない。

参考文献

日本産生物種数調査 - 日本分類学会連合: 昆虫綱 Insecta

公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会: 多彩だった日本の昆虫食

公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会: 虫の種類数

無印良品: コオロギが地球を救う?

Edible insects

論文

HERMANS, Wesley JH, et al. Insects are a viable protein source for human consumption: from insect protein digestion to postprandial muscle protein synthesis in vivo in humans: a double-blind randomized trial. The American journal of clinical nutrition, 2021, 114.3: 934-944.

PLACENTINO, Umberto, et al. The new challenge of sports nutrition: accepting insect food as dietary supplements in professional athletes. Foods, 2021, 10.5: 1117.

松井欣也. 昆虫食の現状と未来. 環動昆, 2022, 33.4: 155-160.

土屋翼, et al. 食用昆虫の微生物検査による安全性評価と養殖法および栄養成分の検討. 日本臨床栄養学会雑誌, 2017, 39.1: 29-39.

北原悠吾, et al. 食用昆虫におけるヒ素・重金属および農薬の残留調査. 食品衛生学雑誌, 2022, 63.4: 136-140.

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【著者紹介】栄 養太郎

管理栄養士、公認スポーツ栄養士。
専門分野は、スポーツ栄養、健康科学、学位 [博士 (学術)] 取得後、栄養系の大学教員になりました。
現在は、ジュニアアスリートを中心に、スポーツ栄養教育の実施と選手から得られたデータを評価・分析する研究を行っています。
スポーツ栄養に関する情報を様々な形で発信したいと思い、活動しています。