「マタベレアリ」は仲間のケガの診断と治療を行うと判明! ヒト以外では初発見の "医療行為"

2024.01.12

タベレアリの治療 サムネ

(画像引用元番号①)

 

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説の主題は、ヒト以外では初の例となる仲間のケガの診断と治療を行うことが確認された「マタベレアリ」の生態に関する研究だよ!

 

マタベレアリは、餌となるシロアリとの戦いで負傷した仲間を救助する行動が既に確認されているけど、今回の研究ではその後のこと、ケガの手当ても行っていることを突き止めたんだよね!

 

何もこれは闇雲な治療ではなく、感染症に罹ったケガのみに対し、抗菌作用や治癒を助ける成分を含んだ分泌液を塗るという、ケガの診断も同時に行っていることが明らかになったんだよね!

 

ほとんど医療行為とも思えるこんな行動を確認したのは、ヒト以外では初めてのことだよ!

 

動物は仲間のケガにどう対処している?

ヒトを含めたどんな動物でも、ケガは決して軽視できないものだね。傷口から細菌などが入り込んで感染症にかかるリスクが増大し、場合によっては命を落とすこともあり得るからね。

 

特に集団生活を行う動物にとっては、ケガをした個体の死だけでなく、他の健康的な個体にも感染症が蔓延するというリスクもあることから、結構深刻な問題なんだよね。

 

では、野生動物はどのようにケガに対処しているんだろうね?よく知られているのは傷口を舐める行動だけど、実はこの行動がケガへの対処と関連しているのかについては、あまりよくわかってないよ。

 

舐めるという行動は、例えば毛づくろいなどの、ケガではない理由でも行われていることから、舐める行動とケガとを確実に結び付けるための証拠が少ないというのがその理由なんだよね。

 

なので、もっと行動が観察しやすい動物から観察をすることで何かわかるかもしれないということで、研究者が着目しているのはアリなどの真社会性昆虫だよ。

 

アリは巣という閉じた空間で無数の個体が密集していることから、感染症の蔓延はより深刻な問題となるよ。よってアリの感染症対策というのは結構古くから注目されているよ。

 

これまでに知られているものとしては、例えば巣の中や仲間同士での消毒や、瀕死の個体が自主的に巣を離れて死ぬこと、感染したさなぎを殺した上で抗菌剤を注入する破壊的防疫など、実に様々なものが見られるよ!

 

じゃあ、ケガをしたアリは仲間によって治療されるようなことはあるのかな?さっきまでのいろいろを見てみると、そういう行動があってもおかしくはなさそうだけど、実際のところは調べてみないと分からないよね。

 

ケガ前提の生活を送り、仲間を救助する「マタベレアリ」

マタベレアリの生態概要

「マタベレアリ」はほぼシロアリのみを食べるので、定期的に巣を襲撃する狩りを行うよ。もちろんシロアリも反撃してくるので、脚を失うケガは珍しくないよ。 (画像引用元番号①②③)

 

ところで、そのような真社会性昆虫の中でも、負傷した仲間の救助や治療のような行動がみられる「マタベレアリ (Megaponera analis)」というアリがいるよ。

 

最大体長25mmにもなる世界最大級のアリでもあるマタベレアリは、サハラ砂漠より南のアフリカ大陸に広く生息し、様々な部族を圧倒した猛々しい戦士を有するマタベレ族に因んでこう呼ばれているんだよね。

 

マタベレアリは結構偏食で、食事のほとんどがシロアリの仲間 (マクロテルメス亜科) となるよ。大量の食糧を確保するため、働きアリが襲撃部隊を編成し、シロアリの巣を襲撃する狩り行動を行うんだよね。

 

もちろん、襲われる側のシロアリも強力なアゴで反撃するから、マタベレアリの部隊に死傷者が出るのは珍しくないよ。観察によれば、実に22%ものアリが脚を1本または2本失うというケガを負うよ!

 

マタベレアリの救助活動後は?

2018年の研究では、軽傷の仲間を救助し、巣に移動させる行動が確認されていたよ。では、巣に連れ帰った後はどうするのかな? (画像引用元番号①④)

 

2018年の研究では、現場でケガを負った個体を、他の個体が運び出して巣まで帰還する救助活動が行われていることが分かっているよ!これにより、放置された場合の死亡率32%をほぼゼロまで引き下げているよ!

 

この救助活動は合理化されていて、再び活動できる可能性が高い、つまり脚を1本か2本失った程度の "軽傷" な個体に限られるようになっていることも合わせて分かっているんだよね。[注1]

 

では救助活動後はどうなるのか?実は、仲間が傷口を舐めたり手入れをする行動が観察されているよ。これが行われないと24時間以内に90%が死亡してしまうことから、これは何らかの治療行動とも考えられるね!

 

ただ、どうしてこういう行動をすると死亡率が下がるのか、そもそもこれは何らかの医療行為のようなものなのか、という点だけは、まだはっきりとはわかっていなかったよ。

 

ケガを診断してから治療を行うことが判明!ヒト以外では初!

マタベレアリの死亡率と細菌感染率

細菌に感染した上、仲間にケアされずに放置されたマタベレアリは90%が死んでしまうよ。と同時に細菌の増殖が確認されていることから、何らかの方法で細菌感染症を防いでいるのではないか?という予想が立つね! (画像引用元番号①⑤)

 

ユリウス・マクシミリアン大学ヴュルツブルクのErik. T. Frank氏などの研究チームは、マタベレアリのケアのような行動が、実際に死亡率を下げる治療活動としての意味を持つのかについて実験や調査を行ったよ。

 

実は、マタベレアリが仲間を救助するという行動があるのを調べたのも同じ研究チームなので、2018年の研究の延長にあるものと言えることができるよ!

 

研究ではまず、ケガをしたマタベレアリの死因が感染症であると仮定し、傷口に細菌がついている場合とついてない場合の死亡率、およびその細菌の種類の特定を試みたよ。

 

結果、傷口に細菌がついていると、ついてない場合と比べて死亡率が高いことが判明し、主に緑膿菌 (Pseudomonas aeruginosa) に感染していることも併せて解明したよ。

 

ヒトに対しても日和見感染症として困っちゃう存在の緑膿菌。もし緑膿菌感染を防ぐのが死亡率の低下につながっているのだとしたら、傷口をケアする行動が何か関連しているのかもしれないね!

 

マタベレアリの分泌液の塗布の傾向

仲間のキズに分泌液を塗る時間は、細菌が増え出す時間とほぼ同じだよ。そして分泌液には抗菌作用や治癒を促す物質が含まれていることから、マタベレアリはキズの状態を診断し、必要な場合にのみ分泌液を塗るということが分かったよ! (画像引用元番号①⑥⑦)

 

ということで、次は治療に見える行動をじっくり観察してみると、Metapleural gland[注2]という器官から分泌される液体を傷口に塗っていることが分かったよ。

 

(リンク先の画像に注意: 切断直後の脚 (左) と、治療から1時間後の脚 (右) 。分泌液によって傷口の隙間が埋められていることが分かる。 (画像リンク) )

 

この分泌液を分析すると、タンパク質やその他の有機化合物が112種類も見つかり、その約半分は抗菌作用やケガの治癒を速める作用があるか、それに類似する構造を持つことが分かったよ!

 

他の種のアリの同じような分泌液には1種類から35種類しか含まれていないことを考えると、112種類というのはかなり豊かな状態だよね!分析が不完全だったり役割不明なものも多く、これは更なる研究が必要になるよ。

 

しかも面白いことに、マタベレアリが分泌液を塗るのは細菌に感染している傷口だけで、感染していない傷口とは塗る量が全く違うことが明らかになったよ。つまり、マタベレアリはケガを診断しているということだよね!

 

傷口に分泌液を塗るタイミングは、負傷してから約11時間後が最も多く、ちょうど感染した細菌が増殖するタイミングと一致しているよ。つまりマタベレアリは、何らかの方法で感染を判断できることになるね。

 

さらに調べてみると、アリの外骨格を作っているクチクラに関連する炭化水素が、細菌が感染して時間が経過している場合と、そうではない場合とで大きく違うことが分かったんだよね。

 

クチクラの炭化水素の変化をアリが敏感に感じ取ることはよく知られているので、マタベレアリは細菌が感染しているケガを見分け、必要な場合にのみ抗菌作用のある分泌液を塗っている、ということは十分に考えられるよ。

 

仲間の傷口の状態を診断し、治療が必要な傷口に対してのみ抗菌剤投与を行う。医療行為にも思えるこのような適格で区別された治療行動を行うことが発見されたのは、恐らくヒト以外では初めてだよ!

 

哺乳類で唾液をつける同様な行動は、傷口の状態や感染症の有無を見分けていることについての証明が一度もされていないので、ヒト以外で初めて判明した行動だというのは過言ともいえないんだよね!

 

アリの分泌液から医薬品?

今回の研究ではマタベレアリの医療行為に関する研究であったわけだけど、もちろんこれで終わりじゃないよ。特に興味深いのは、治療において抗菌剤を使っているという点だね。

 

感染症が厄介なのはヒトも同じで、45%の死因が感染症だともいわれているよ。特に緑膿菌は日和見感染症として、そして薬剤耐性菌が出現していることでとても困った存在になっているよ。

 

今回の研究では、どういう物質が抗菌作用を持っているのかが正確には明らかになっていないことから、数十種類の物質を更に正確にプロファイリングすることで、その正確な作用を特定する必要があるよ。

 

もし特定できれば、何か有望な物質が見つかるかもしれないということで、これは何らかの金脈になるかもしれないね!

注釈

[注1] マタベレアリの救助の基準  本文に戻る

マタベレアリが仲間に救助されるには、まずは残った脚で立ち上がり、その後に固有の臭いを持つフェロモンを出すことで相手に "助ける声" を出すという行動の順番があります。脚が1本か2本失われた程度ならば立ち上がれるものの、3本以上では自力では立ち上がれず、従ってフェロモンも出すことがないので、救助されることはありません。この違いは、再び働きアリとして活動できるかどうかで救助するかどうかを線引きし、コロニーの効率を最大限にするための行動であると考えられています。

[注2] Metapleural gland  本文に戻る

直訳すれば「後胸膜腺」ですが、Metapleuralを後胸膜と訳す十分な根拠が見つからなかったため、英語表記のままとしました。

文献情報

<原著論文>

  • Erik. T. Frank, et al. "Targeted treatment of injured nestmates with antimicrobial compounds in an ant society". Nature Communications, 2023; 14, 8446. DOI: 10.1038/s41467-023-43885-w

 

<参考文献>

 

<関連研究>

  • Erik T. Frank, Marten Wehrhahn & K. Eduard Linsenmair. "Wound treatment and selective help in a termite-hunting ant". Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 2018; 285, 1872. DOI: 10.1098/rspb.2017.2457

 

<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

  1. 仲間のケガをケアしているマタベレアリ: プレスリリースより (Credit: Erik Frank & Universität Würzburg)

  2. シロアリを運んでいるマタベレアリ: WikiMedia Commons (Autor: ETF89 / CC BY-SA 4.0)
  3. シロアリと戦っているマタベレアリ: WikiMedia Commons (Autor: ETF89 / CC BY-SA 4.0)
  4. 負傷した仲間を運んでいるマタベレアリ: WikiMedia Commons (Autor: ETF89 / CC BY-SA 4.0)
  5. 様々な状況でのマタベレアリの生存率および細菌数: 原著論文Fig.2 (日本語訳は筆者による)
  6. マタベレアリが分泌液を塗ったタイミングと細菌の増殖率: 原著論文Fig.3b&c
  7. マタベレアリのMetapleural Glandの位置: 原著論文Fig.3a

 

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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