「ロイテリ菌」が社会性へ与える効果と、自閉症スペクトラムとの関連性(12月18日 Cell Host & Microbiome オンライン掲載論文)

2024.01.07

自閉症スペクトラム(ASD)の症状発生に腸内細菌叢が関与していることは、いくつかの細菌叢移植治験から示されているが、安全に子供の細菌叢移植を行える施設は限られている。代わりに期待されるのがプロバイオで、特にマウスのASDモデル実験から、有名なロイテリ菌がASDの社会性を回復させることが示されてきた。

 

本日紹介する論文

今日紹介するイタリアのローマ大学とスタンフォード大学の共同論文は、100人のASDへのロイテリ菌タブレットの効果を調べた無作為化偽二重盲験治験の結果で、12月18日 Cell Host & Microbiome にオンライン掲載された。

 

タイトルは「Precision microbial intervention improves social behavior but not autism severity: A pilot double-blind randomized placebo-controlled trial(細菌叢への厳密な介入は社会行動を改善するが自閉症の程度には影響しない:試験的無作為化二重盲験治験)」だ。

 

解説と考察

この研究では100人の平均6歳のASD児を集め、最終的に57名を無作為化して、2系統のロイテリ菌を含むタブレット、あるいは偽薬タブレットを6ヶ月服用させ、ASD症状や、免疫、細菌叢について調べている。

 

6ヶ月も服用するとしっかりロイテリ菌は腸内に居着くのではと思うが、便中のロイテリ菌の割合は多い人で0.02%で、ほとんどは検出が難しいレベルにとどまっている。プロバイオで投与する菌がホストで持続することの難しさがよくわかる。

 

それでも社会的コミュニケーション及び社会的モティベーションについては、治療効果が明確に現れていることが確認され、二重盲検治験でこれまで動物で観察されてきたことが人間にも当てはまることが確認された。

 

一方、ASDの症状からみる重症度指標や、免疫細胞、サイトカインなどにはロイテリ菌の影響は全くない。また、ASD児によく見られる消化器症状についても、ロイテリ菌でも改善できない。

 

実際、便中の細菌叢への影響を調べると、個々の被験者で細菌叢の変化が見られることもあるが、何か決まった方向への変化が見られると言うことはない。従って、これまで言われてきたようにロイテリ菌自体が持つ効果をこの治験では検出していると考えられる。

 

この治験に使われたタブレットは2種類のロイテリ菌が含まれているので、最後にそれぞれの菌についてマウスモデルを用いて調べると、PTA6475と呼ばれる菌だけに効果が見られた。おそらく、2系統の差を調べることで効果の原因を突き止めることが出来る可能性がある。

 

まとめと感想

結果は以上で、同じような研究は、今年3月に16人という少ない対象者ながら米国で行われており、やはり社会性の改善が確認されている。この時は、人数が少なすぎるので本当か少し心配だが、今回のように人数が増えてくると、ロイテリ菌は安全な自閉症治療の一つとして推奨されるようになるのではないだろうか。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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