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(画像引用元番号①②)
みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は「シャンパン」!高速で栓が飛ぶあのシャンパンについて、その物理的な側面に関する研究と、医学的な側面に関するコラム記事を解説するよ。
物理的な側面とは、開栓時に発生する気流がどんなものか、開栓のその瞬間からシミュレーションすることに成功した初の研究についてだよ!
面白いことに、シャンパンの開栓時には最高速度マッハ1.5の超音速気流と、最低温度-130℃もの環境が発生していることが今回明らかになったんだよ!
その一方で、シャンパンの栓を飛ばすことの、特に目に対する危険性について述べたコラム記事も紹介するよ。最悪の場合で失明するリスクもあるので、十分な注意を払って聞くべき話でもあるよ。
CONTENTS
シャンパンの栓が抜ける時にどのように二酸化炭素が漏れるのか。簡単そうに見えて、実はこれまで開栓前の初期状態からモデル化した研究というのはなかったよ。それくらい流体力学の中でも難しい課題なんだよね。 (画像引用元番号③)
年末年始やお祝いのイベントの時に、「シャンパン」の栓を開けることは珍しくなくなってきたよね。この時、中身と共に栓が勢いよく飛び出すのも、またよく見かけることだよね。
シャンパンの栓は時速80kmほどで飛び出すけど、なぜそれほどの勢いになるのか。これは一見単純な話のようにも思えるよね。シャンパンはブドウを発酵させて作るので、内部に二酸化炭素が高圧で溶け込んでいるよ。
シャンパンの内圧は大気圧の5~6倍 (自動車のタイヤの2~3倍) にもなっているので、栓を開けると、圧力が解けて二酸化炭素が発泡し、栓を強い力で押す。これがシャンパンの栓が飛び出す原動力になるとは想像がつくよね。
この様子は、ホームビデオからハイスピードカメラまで様々な状況で撮影されているので、これ自体は解明された現象にも思えるよね?ところが意外かもしれないけど、主に数学面での解析は未知の領域だったよ。
シャンパンの栓が飛び出すという現象の背景には、高圧の気体が高速で流れ、急激な減圧と減速が発生する、という現象が起きていることになるよ。
圧力と流速が大幅に変化する気体の流れとは、元々解析が難しい流体力学の中でも特に解析が困難な部分が含まれているんだよね。これは計算速度の速いコンピューターや、適切なモデルを組まないと中々解決しないよ。
特に、シャンパンの栓が開けられるような状況では、このシミュレーションというのも中々難しいよ。高圧なボトルから急激に大気圧へと減圧するという状況は、モデルを組むのが極めて難しんだよね。
この難しさはこれ以前の研究にも表れているよ。2022年には、今回と同じくシャンパンの開栓時の気流がモデル化されていて、気流の "ほぼ全体" がシミュレーションされているよ。
ただ、これは初期条件がシミュレーションされていないという意味では不完全だと言えるよ。初期条件がシミュレーションされず仮定に基づいているということは、そこが正しいかどうかが自信が持てないからね。
ウィーン工科大学のLukas Wagner氏などの研究チームは、これまでの研究でなされなかった、初期条件を含めたシャンパンの開栓後の気流の条件をシミュレーションしたよ。
2022年の初期条件が探索できないという難点を克服するため、Wagner氏らはシミュレーションソフトや計算モデルをイチから見直し、適切な条件になるように調整を図ったよ。
もちろん無限にリアルな条件を仮定することはできないので、無視できると考えられるものはなるべく簡略化したけど、例えばコルクの変形など、他の研究とは異なるアプローチも計算結果に含めてみたよ。
これら全てを考慮に入れて、二酸化炭素の気流の速度と密度をシミュレーションしたよ。今回のWagner氏らのモデルでは、20℃および30℃のシャンパンについて、開栓のその瞬間からの様子を知ることに成功したんだよね!
開栓後すぐの気流の物性を調べて見ると、最低温度が-130℃、最高速度マッハ1.5の気流が発生していることが分かったよ!このような極端な状況をモデル化できることは、他の超音速で飛ぶようなものの理解にも役に立つよ! (画像引用元番号④)
まず気流の速度が驚きだよ。その速度は最高でマッハ1.5 (秒速400m) で飛び出すこともあることが明らかになったよ!2022年のシミュレーションでも示されていた結果ではあるものの、改めて追認した形だよ!
あれ?マッハ1.5はもう少し速くない?って思う人もいるかもだけど、音速は密度や温度によって変わる数値で[注1]、これが関係してくるよ。今回のシミュレーションは密度や温度の変化についても大きな理解があったよ。
ボトルに高圧で封印された二酸化炭素が一気に大気圧に晒されることで、二酸化炭素の気流の密度は急激に下がるよ。この時「断熱膨張」[注2]という現象が起こり、温度が一気に下がるよ。
ただ、シャンパンボトルから大気圧というのは非常に極端な圧力変化なので、断熱膨張による温度低下で、最低温度が-130℃に達することが今回明らかとなったよ!
二酸化炭素は約-80℃で固体 (ドライアイス) になるので、それを下回る温度となる開栓時の環境では、ドライアイスの極めて細かい結晶が生じていることになるよ。
そしてシャンパンの元の温度はドライアイスの結晶の大きさを変え、結晶の大きさは散乱される光の波長を左右することになるから、原理的には光を当ててシャンパンの元の温度を測定する、なんてことが可能になるよ。
結局のところ、シャンパンの開栓時の「ポン」という音は2つの理由で発生した音の混ざりということになるよ。まず、圧力が急激に下がることによって発生する圧力波。これは蓋の開け閉めで一般的に聞こえる音だね。
そして超音速の気流が生じる衝撃波。人間の耳には区別不能だったとしても、衝撃波が圧力波とは異なる音として「ポン」という音に混ざっているはずなんだよね。
もちろん、Wagner氏はシャンパンの開栓時の気流を知りたくて研究を行ったわけだけど、その理由はもちろんシャンパン温度測定器を作るという理由じゃないよ。
今回の研究で改めて明らかになった「シャンパンの開栓時の気流が音速を超えている」というのは、実は非常に重要なんだよね。これは気流が音速を超えているかどうかで性質がガラリと変わってしまう点にあるよ。
音速より遅い気流の場合、その流れは連続的にとらえることができるので、モデル化しやすいよ。もう少し詳しく言えば、近い距離の2点を選んだ時、速度や密度などにほとんど違いがない、と捉えることができるよ。
ところが超音速の気流があると、互いの流れを断絶する壁のようなものができて、近い距離の2点間で速度も密度も全然違う、なんて状況が起こるよ。こういう不連続な流れというのが、本当にモデル化が難しいんだよね。
実際に今回の研究では、超音速の気流によって生じる「マッハ・ディスク」[注3]が生じ、それが栓という固体と衝突している様子が観察されたんだよね。
柔らかい気流が栓にぶつかる状況と、マッハ・ディスクという硬い壁が栓にぶつかる状況というのは、同じ気流であっても全然状況が違うので、これがシミュレーションされたのはとても重要なんだよね。
今回は条件面がある程度詳細に絞られているシャンパンを例にシミュレーションしたわけだけど、それでもここまで難しかったんだよね。となれば、その応用例はもっと難しいことになるよ。
例えば弾丸やロケットのような、固体そのものが超音速で飛んでいく状況をシミュレーションするには、やはり超音速の気流を外すことはできないのよね。そしてこれが極めて難しい、ということ。
なのでこのシャンパンの気流の研究は、様々な超音速・亜音速な物体が飛び交っているこの世界を正確にシミュレーションする時にとても重要になってくるんだよ!
シャンパンを含めた、加圧された気体を含む飲料の栓が目に衝突したことによるケガは結構な報告があり、26%が永久的な失明を被るなど、とても重大なケガに繋がっているよ。なのでシャンパンの栓は安全に外すことをお勧めするよ (やり方は本文にも書かれているよ!) (画像引用元番号②⑤)
一方で、シャンパンの栓が高速ですっ飛んでいく状況は、やっぱり危ないよ。栓は時速80kmほどで飛ぶから、数mの距離ではケガを負わせるのに十分なエネルギーを持つよ。
ケンブリッジ大学のEthan Waisberg氏などが書いた、ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルの2023年クリスマス号に掲載されたコラムでは、この無視できない危険性について特集した内容だよ。
まず、高速で飛び出したシャンパンの栓は、近くの人に激突するまで0.05秒ほどしかかからないよ。これは目に向かって飛んできた時、瞬きで防ぐことができないほどだよ。
つまり、シャンパンの栓を不用意に飛ばすと、目にダメージが及ぶリスクがあるということだよ。これは痛いだけでなく、水晶体の損傷、網膜剥離、最悪の場合は永久的な失明など、結構深刻だよ。
実際、加圧飲料全体に占めるシャンパンの栓による目の事故は、アメリカでは26%、メキシコでは71%、ハンガリーではゼロと言った具合に、地域差がかなりあるけど、決して無視できない割合を占めているよ。
そしてシャンパンを含めた加圧飲料の栓に由来する目の事故では、26%が永久的な失明であると報告されているよ。これはQOLを下げてしまう、極めて深刻な問題だよね。
なのでこのコラム記事では、アメリカ眼科学会のガイドラインを引用し、安全なシャンパンの栓の開け方を提案しているよ。迫力は無くなるかもだけど、みんなの安全のために、これを守ることを私はおススメするよ!
1.開ける前にボトルを冷やしてください。ボトルが冷えると圧力が低下し、コルクの速度が低下します。同じ理由で、開ける前にボトルを振るのも避けてください。
2.開ける前に、自分や他の人の顔から45度の角度に向けてください。
3.コルクを手のひらで押しながら、ボトルの上からワイヤーケージを慎重に取り外します。 (追加の飛翔体となる可能性があります)
4.ボトルの上にタオルを置き、コルクをしっかりと持ちます。
5.コルクが緩むまで、ボトルを軽く捻ります。コルクを押し下げて、コルクが上向きに働く力に対抗します。
[注1] 音速 本文に戻る
音は物質の疎密波 (密度の差が伝わる縦波) なので、気体を伝わる音波の速度は温度や気圧に左右されます。室温でマッハ1.5 (音速の1.5倍) となっている場合、その速度は秒速500mほどとなっていますが、今回の実験ではマッハ1.5を記録する瞬間は温度が極めて低いため、基準となる音速が遅くなっていることから、マッハ1.5が秒速400mとなっています。
[注2] 断熱膨張 本文に戻る
気体の体積が膨張する時に、他の場所へと熱が伝わらない状態を指します。シャンパンの開栓時のような体積が小さい状況の場合には瞬間的な変化が必要ですが、十分に体積が大きい場合にはもう少しゆっくりとした変化でも起こります。断熱膨張の最も身近な例は雲の発生であり、水蒸気を含んだ空気が上空の低い気圧で膨張すると温度が下がり、空気が含むことのできなくなった水蒸気が結露し、雲ができます。一方で断熱膨張の逆である断熱圧縮は、空気入れの本体が加熱することや、流星や火球の発光の原因など、より身近です。
[注3] マッハ・ディスク 本文に戻る
超音速で流れる気流と、それ以下の速度で流れる気流の境目が不連続であるために生じる "壁" のことを指します。音速近くで飛行する戦闘機やロケットに生じる「ベイパーコーン」と勘違いされることがありますが、ベイパー・コーンは音速以下でも発生しうるものであり、乾いた空気では発生しません。またベイパー・コーンは結露した水蒸気で視認可能なのに対し、マッハ・ディスクは目には見えません。マッハ・ディスクとベイパー・コーンの位置は一致しないこともあります。
<原著論文>
<参考文献>
<関連研究>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)
開栓後の各時間ごとの気流の状況: 原著論文1のFigure 9 (arXiv)