うぃ〜ヒック。酒酔いってなんれすか〜?

2023.12.31

 世界的にはどうなのか知らないが、日本では年末年始はお酒の機会の増える季節だ。楽しいお酒も楽しくないお酒も、好みのお酒もそうでないお酒も、色々なお酒を飲む機会が出来る。ビールが苦手な葉月としては、とりあえず「とりあえずみんなビールで良いよね?」の風潮は消えて良かった。サワーとかカルーアミルクみたいな甘いお酒だけ飲んでいたい。

 お酒を飲んでいると、気をつけなければいけないのが酔いだ。飲んだ量に応じて少しずつ、そして無自覚にあなたの感覚を奪っていく、恐ろしい状態だ。頭はズキズキと痛み、吐き気は慢性的に襲い、視界はグルグルと回る。よく考えたら、そんなもの飲まなきゃ良いじゃん! なぜ私たちはお酒を飲むのだろう。そしてなぜ酔ってしまうのだろう? そこで今回は、酒酔いがどのように引き起こされるのかについて解説していく。

 

 

少し詳しく 〜酒酔いの症状

 突然だが、こんなシチュエーションを考えてほしい。

 酒酔いと聞いて、皆さんはどんな症状が思い浮かぶだろうか?

・血圧が上がる
・体温が上がる
・気持ちが悪くなり吐く
・呂律が回らなくなる

 ざっとこんなところだろうか。他にも感情がコントロール出来なくなる、足元が覚束なくなるなどの症状も挙げられるだろう。どれも、普段の日常生活では出ることのない症状ばかりの筈だ。

 さて、実はこれらの症状は、その原因から主に2種類に大別される。ある一箇所で区切るとしたら、どのように分けられるか考えてほしい。

 

血圧が上がる / 体温が上がる, 気持ちが悪くなり吐く, 呂律が回らなくなる

血圧が上がる, 体温が上がる / 気持ちが悪くなり吐く, 呂律が回らなくなる

血圧が上がる, 体温が上がる, 気持ちが悪くなり吐く / 呂律が回らなくなる

  •  この問題、訊ねているのは「体温が上がる」「気持ちが悪くなり吐く」という事が、「血圧が上がる」「呂律が回らなくなる」のどちらとより近いかという事だ。

 

 

 

 それでは正解の発表といこう。答えは「」だ!

 顔が赤くなったり体温が上がったりする時、体内では血管が拡張し、血流が速くなっている。とはいえこれは少量の時の反応で、量が増えると今度は血管が収縮するようになる。すると血液が流れにくくなり、血圧が上がる。この血管への働きがお酒の影響の1つ目だ。

 一方でお酒は、血管だけではなく神経にも作用する。神経の働きを抑制する事で、手足の震えなどの局所的な反応を引き起こす。それだけでなく神経の大元である脳にも働きかける。これにより体の機能を制御する自律神経の働きが弱くなり、嘔吐を引き起こしたり、呂律が回らなくなるというわけだ[注1]

 酒酔いの症状は、血管への働きと神経の抑制作用によって引き起こされる事がわかった[注2]。それではこれらの症状は何によって引き起こされるのだろうか?

 続いて、酒酔いを引き起こす物質について解説していく。

 

 

さらに掘り下げ 〜酒酔いの原因

 突然だが、ここにジャガイモがたくさんある。どう料理していこう。

 まずは薄くスライスして、何にするかはそれから考えよう。スライスのジャガイモといえばポテトチップスだろうか。しかし全部ポテトチップスというのはなんとなく量が多い気がする。

 いっそ湯掻いて潰して、マッシュポテトにしてしまおう。マヨネーズと和えればポテトサラダだ。でもポテトサラダはメインにしづらい。残ったマッシュポテトはコロッケにしたら良いかもしれない。手間はかかるが喜ばれるだろう。

 ただのジャガイモでも、まるごと→スライス→マッシュと段階を経るだけで、どのような料理になるかは様々に変化する[注3]。そう、段階的に起きる変化は、それぞれの段階で影響が生じるのだ。

 それでは私たちが飲んだアルコールはどのように変化しているのだろう?

 私たちが飲んだアルコールは、一部は胃で、大部分は小腸で吸収され、吸収されたアルコールは血管を通じて肝臓に運ばれる。

 お酒に含まれるアルコールの正体はエタノールだ。エタノールは肝臓内で、アルコール脱水素酵素(ADH)の働きによってアセトアルデヒドに変わる。アセトアルデヒドはさらにアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の働きによって酢酸へと変換される。

 この、エタノール→アセトアルデヒド→酢酸の段階的な変化は、同時に起きるわけではない。そのため、エタノールが多いタイミング、アセトアルデヒドが多いタイミングというものが生じる。エタノールとアセトアルデヒドは有害な物質であることが知られているため、酒酔いの症状は、エタノールとアセトアルデヒド双方の働きによって現れるというわけだ[注4]

 

 酒酔いの症状はエタノールだけではなく、分解されることによって生じるアセトアルデヒドによっても引き起こされているということがわかった。それではそれぞれの物質はどのように働くのだろう?

 続いて、酒酔いの症状が引き起こされる仕組みについて解説していこう。

 

 

もっと専門的に 〜酒酔いの機構

 血管の収縮と拡張はまず、エタノールが血管細胞のカルシウムイオンチャネルというタンパク質に結合することから始まる。これによって血管細胞内にカルシウムイオンが流入し、細胞をキュッと締め付ける。血管細胞全体が一斉に小さくなるため、血管の収縮が引き起こされる。

 しかしながらこれは一時的なものだ。エタノールはすぐに酸化されて、これに伴ってアセトアルデヒドが増える。すると今度は、血管を拡張する方向に働く。これにより体表面に血液が多く流れるようになると、体が赤くなるというわけだ。これをフラッシング反応という[注5]

 血管を拡張させる一方で、アセトアルデヒドは血管を収縮する方向にも働いている。ドーパミンという物質の放出量を増加させ、交感神経を刺激するからだ[注6]。そのため血管は収縮して拡張して、また収縮してという段階を経ることになる。……なんか忙しいな。

 

 ここまで、酔う仕組みについて解説してきたが、いかがだっただろうか? 「酒は飲んでも飲まれるな」という標語があるように、過度な飲酒は禁物だ。節度やルールを守って楽しいお酒の席にしてほしい。

 

 最後に、記事の趣旨からは少し外れるが酒酔いではない酔いに関する研究事例について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。

 

 

ちょっとはみ出し 〜酔いは酔いでも

車酔いを理解する

 皆さんは車酔いしやすい方だろうか? 葉月は割としやすい方だ。大人になってからはそれなりに強くなったが、子供の頃はわりと頻繁にリバースしていた。車内にするものだから、同乗者は大変だっただろうなと今にして思う。当時は自分が辛くてそれどころじゃなかったけど。吐きそうな時は早めに誰かに伝えて、車を止めてもらおうね。

 車が揺れる乗り物である以上、車と車酔いは切っても切れない症状だ。そのため現在でも車酔いを理解するため、様々な研究が行われている。例えば、酔う前の視線の動向と酔いやすさの関係をAIを利用して判定する方法や、実際に酔った時にミントガムが有効かの調査などだ。

 車が私たちに身近な乗り物である間は、研究は終わりそうもない。

VR酔いを緩和する

 仮想現実バーチャルリアリティいわゆるVR技術の進歩は著しい。目の前に、日常とは全く世界が広がる体験は一度してみる価値があるだろう。しかしながら、技術がどれだけ進歩したとしても現実世界には私たちがいることは変わらない。広大な原野を自由に駆け回り、ふかふかの布団にダイブしたとしても、私たち自身は首かせいぜい手足をその場で動かしているに過ぎない。当然、視覚情報と平衡感覚が乖離する原因になる。いわゆるVR酔いだ。

 運転中の自動車の中でのVR酔いを、どのように緩和させられるかを調べた研究がある。ある程度任意に体の状態を制御できる自室や床の上と違って、運転中の車内はどのように体が揺れるかVR体験中はいっさい予想ができない。そんな中で、どのような状態の時に酔いやすくなるかを調べた研究だ。

参考文献

  • Abraham L. Kierszenbaum, Laura L. Tres. 『組織細胞生物学 原初第5版』. 南江堂.

  • 岡田 泰伸ら. 『ギャノング生理学 原書26版』. 丸善出版.
  • 吉澤 淑. 『シリーズ《食品の科学》 酒の科学』. 朝倉書店.
  • 厚生労働省
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット
  • Shao-Cheng Wang, et al. “Alcohol Addiction, Gut Microbiota, and Alcoholism Treatment: A Review”. Int J Mol Sci. 2020 Sep 3;21(17):6413.
  • Niladri Banerjee. “Neurotransmitters in alcoholism: A review of neurobiological and genetic studies”. Indian J Hum Genet. 2014 Jan;20(1):20-31.
  • Arthur I Cederbaum. “Alcohol metabolism”. Clin Liver Dis. 2012 Nov;16(4):667-85.
  • David Nutt, et al. “Alcohol and the Brain”. Nutrients. 2021 Nov 4;13(11):3938.

  • 若林 一郎, 羽竹 勝彦. 『エタノールの神経系,血管系への影響 特に高血圧の発症機序と関連して』. 日本衛生学雑誌2001年 55 巻 4 号 607-617.

  • 奥山 祥太ら. 『車酔い自動判定モデルとランダムフォレストによる視線動向の階層化分類』. 日本情報ディレクトリ学会誌2021年 19 巻 1 号 2-9.

  • 稲葉 翔吾ら. 『ミントガムによる乗り物酔い軽減効果 』. 人間工学 2023年 59 巻 5 号 193-200.

  • 神原 誠之. 『自動走行酔い:車酔いとVR酔いが併発する環境で発生する動揺病』. 日本バーチャルリアリティ学会誌2020年 25 巻 1 号 19-22.

脚注

[注1] 酒酔いと同じく、自律神経の不調により嘔吐を誘発する事象に乗り物酔いがある。乗り物酔いは視覚の情報と平衡感覚の情報が食い違うことによって起きる。葉月も幼い頃はよく車酔いしてもどしたものだ。 (本文へ戻る)

[注2] とはいえそれぞれの症状が、どちらの要因によって引き起こされるのかについては明らかになっていない部分も多い。例えば、酒酔いによって引き起こされる事故の1つに低体温による凍死がある。実は被害者が寒く感じず徐々に低温になったのか、体温が急激に低下していたのか、ハッキリとしていない。 (本文へ戻る)

[注3] なぜジャガイモを例に出したかというと、葉月の好きなイラストレーターさんがジャガイモ料理のイラストをあげてたからだ。でもジャガイモってバリエーション多いよね。皆さんは何が好き? (本文へ戻る)

[注4] 特にアセトアルデヒドは有害な物質で、肝臓の細胞やミトコンドリアを傷害したり、タンパク質を変性させる。アルコールの摂取過多の影響として、肝硬変という肝臓が硬くなってしまう病気があるが、その原因はアセトアルデヒドだ。 (本文へ戻る)

[注5] 血管が拡張するという事はすなわち、血管周辺の細胞や組織が追いやられるという事だ。お酒を飲んで頭が痛くなるのは、拡張した血管が脳の神経を圧迫するためだと考えられている。これもフラッシング反応だ。フラッシング反応には他にも、嘔吐感や眠気などがある。 (本文へ戻る)

[注6] 交感神経は自律神経の一種で、熱中したり、快楽を覚えたりするときに働く神経系だ。お酒を飲むと気持ちよくなり、気が大きくなるのは交感神経が働くからだ。 (本文へ戻る)

 

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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