植物は "トロイの木馬" で「灰色かび病」を防いでいる? 「細胞外小胞」は界レベルで異なる生物間で「mRNA」を輸送できることが判明!

2023.12.29

植物のmRNA輸送と灰色かび病 サムネ

 

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説の主題は、灰色かび病の原因菌「ボトリティス菌」を防ぐ植物の防御機構だよ。そのやり方が面白くて、研究者は "トロイの木馬" に喩えているよ!

 

ボトリティス菌の増殖を防ぐため、植物は「細胞外小胞」を通じて「mRNA」を送り込み、それがボトリティス菌にとって有害なタンパク質を合成するように仕向けるみたいだよ!

 

ちょっと難しい用語がいっぱい出てきた?1つ1つ解説するので、ぜひこの後の解説を読んでみてね!

 

農産物の深刻な問題「灰色かび病」

灰色かび病の概要

灰色かび病の原因となるボトリティス菌は、貴腐ワインの製造以外においては農業の厄介者で、毎年数千億円もの損害を与えているとされる深刻な植物の真菌感染症だよ。 (画像引用元番号①)

 

保管していた果物や野菜が傷んでしまい、泣く泣く捨ててしまった経験は誰しもあると思うのよね。この、果物や野菜が傷んでいる判断材料として、表面にカビが生えているのを見つけるという状況が考えられるよね。

 

果物や野菜、そして花に生えるカビとして代表的なものとして「ボトリティス菌 (Botrytis cinerea)」があり、見た目には灰色の毛のようなものが生えることから名付けられた「灰色かび病」の原因菌として知られているよ。

 

灰色かび病に侵された植物は黒くなったり萎びてしまうので、一般的には見た目や味を悪くしてしまうよ。これは、ボトリティス菌が植物から栄養を得ようとするために成長する過程で起こる現象だよ。

 

植物の表面は硬い皮で覆われているので、ボトリティス菌は内部へと侵入するために穴を開け、菌糸を伸ばすよ。穴は保護が剥がれているので、そこから水分が蒸発しやすくなる結果、萎びてしまうわけ。

 

ボトリティス菌は世界中に存在してて、1400種類以上の植物に感染し、しかも成長が早いため、灰色かび病は世界中の農業に対して年間数千億円の被害を出す、世界で2番目に深刻な真菌感染症として知られているよ。

 

一方、数少ない用途として、貴腐ワインの原料となるブドウを生産するのに使われるというのもあるよ。このことから、ボトリティス菌は別名として「貴腐菌」とも呼ばれているよ[注1]

 

灰色かび病を防ぐための対策として、環境改善と共に殺菌剤となる薬剤もあるものの、薬剤に対する耐性を持つ薬剤耐性菌も現れているので、灰色かび病は未だに農業における深刻な課題として残されているんだよね。

 

ところで、植物は自力では動けないとはいえ、ボトリティス菌の感染に対して黙っているわけではないことは予想できるよね。そうじゃなければ、世界中の植物はとっくにボトリティス菌に食い尽くされてしまうからね!

 

植物が有害な真菌と出会うと、細胞同士でのミクロな戦いが勃発するよ。植物の細胞は毒素、代謝物、タンパク質など、真菌にとって有害な物質を送り込み、感染や増殖を抑えることが分かっているよ。

 

植物は真菌に対し「mRNA」を送り込めるか?

ただ、この物質の輸送に関連して、あまり輸送関係の理解がされていなかったのが「RNA」だよ。RNAって何?って人のために、以下ちょっと話を脱線して、RNAについて少し解説していくよ。

 

DNAもRNAも、生物の設計図である遺伝情報を刻んだ物質だけど、使い方が異なるよ。DNAは基本的に情報保存に特化しているのに対し、RNAは必要に応じて合成され、様々な役割を果たすことが分かっているよ。

 

様々な役割、というのもいくつもあるんだけど、特に近年一気に身近になったのが「mRNA (メッセンジャーRNA・伝令RNA)」だね。2023年、つまり今年のノーベル生理学医学賞にもなったmRNAワクチンの根幹を成しているよ。

2023年ノーベル生理学医学賞について分かりやすく解説!『COVID-19に対する効果的なmRNAワクチンの開発を可能にしたヌクレオシド塩基修飾に関する発見』

 

メッセンジャーと呼ぶように、mRNAは細胞内外に遺伝情報をやり取りするメモ書きの役割を果たすよ。遺伝情報を保存しているDNAは、貸出禁止の分厚い辞書みたいなもの。だからこの代わりにmRNAが使用されるよ。

 

細胞はmRNAの情報を元に、例えば設計図通りにタンパク質を合成するよ。そして、mRNAに適切な情報さえあれば、生物が元々持っていないタンパク質、例えばウイルスのタンパク質を作り出すことも可能だよ。

 

mRNAワクチンに含まれるmRNAには、ウイルスを構成するタンパク質の情報があるよ。注射でmRNAを送り込むと、細胞内でウイルスのタンパク質が合成されるけど、一方でこれは本来ヒトには存在しない異物だよ。

 

この異物に合わせ、免疫細胞は専用の武器である抗体を作り出すよ。こうすると、本物のウイルスができたとしても、すぐに抗体を生産して感染や増殖を防ぐ、これがmRNAワクチンの基本的な仕組みというわけ。

 

じゃあ、mRNAワクチンでは人工的に合成したmRNAを使うけど、一方で自然環境でもmRNAが他の生物間でやり取りされるのか?という疑問があがるよね。この点については、これまではイマイチ分かっていなかったよ。

 

実際のところ、mRNA以外のタイプのRNAやDNAが、様々な形で異なる生物間を移動していることは知られているので、全くあり得ない話をしているわけではないんだよね。

 

一方で、mRNAをメモ書きだと例えたように、mRNAは使い捨て物質であり、非常に分解しやすいよ。異なる生物間という遠距離輸送でmRNAが残るのか、という指摘には、これまで自信を持って反論できる雰囲気ではなかったよ。

 

「細胞外小胞」には色んな物質が含まれている!ではmRNAは?

細胞外小胞を通じてmRNAを送り込めるか?

「細胞外小胞」は、様々な遺伝物質を輸送する役割があるらしいことが近年明らかにされていたよ。では、タンパク質の設計図にはなるけど、分解しやすい「mRNA」を送り込むことができるのか?ここは未だに分かってなかったよ。 (画像引用元番号①②③)

 

カリフォルニア大学リバーサイド校のShumei Wang氏などの研究チームは、植物とボトリティス菌との戦いにおいて、「細胞外小胞 (EVs; Extracellular vesicles)」に含まれるmRNAに着目した研究を行ったよ。

 

細胞外小胞とは、様々な細胞から放出されるとても小さな物体で、外側は細胞と同じく脂質二重膜でできているよ。ただ、自己増殖能力を持たないなど、細胞とは機能や構造が違うので、ミニ細胞というわけではないよ。

 

細胞外小胞の存在は1940年代に認識され、中にはタンパク質やDNA・RNAといった生体分子が含まれていることは分かっていたけど、2000年代に入るまで、きちんとした役割は中々理解されなかったよ。

 

当初はいらないタンパク質を捨てるためのゴミ袋のような役割だと考えられ来たけど、最近では細胞同士で遺伝情報をやり取りするための小包ではないのかと考えられるようになったことで、近年注目されているよ。

 

そしてWang氏らは2018年に、シロイヌナズナ (Arabidopsis thaliana) がsRNA (小分子RNA・スモールRNA) [注2]という別のタイプのRNAを、感染してきたボトリティス菌に送り込むことを発見しているんだよね。

 

sRNAを送り込まれたボトリティス菌は、植物に対する毒性が現れるために必要な遺伝子が働かなくなり、結果として感染や増殖が抑え込まれるよ。このsRNAを送り込んでいるのが細胞外小胞だというわけ。

 

sRNAが細胞外小胞に含まれており、しかも自身に対して有害な真菌に対する攻撃に使われているならば、同じくmRNAも真菌感染症に対する防御に使われているのではないか?と考えるのは自然だよね。

 

細胞外小胞でmRNAという “トロイの木馬” を輸送できると判明!

ボトリティス菌内部における植物由来タンパク質蛍光

シロイヌナズナやベンサミアナタバコで付着・成長したボトリティス菌を調べると、菌糸の中に目的のタンパク質が確認されたよ!時間経過していなかったり変異体では確認できなかったことから、これはタンパク質がボトリティス菌の中で合成されていることを示しているよ! (画像引用元番号①②③④)

 

Wang氏らはこの辺のところを証明するために、代表的なモデル生物[注3]であるシロイヌナズナとベンサミアナタバコ (Nicotiana benthamiana) の2種類の植物を使って実験を行ったよ。

 

まず、細胞外小胞の中にあるmRNAを可視化する方法を使って植物の細胞外小胞を観察したところ、確かにmRNAが含まれていることが分かったよ。

 

次に、植物に感染しているボトリティス菌を単離して調べ、植物由来のmRNAが含まれていることを確認したよ。感染していないボトリティス菌にmRNAは見られず、細胞外小胞に由来する物質も少なかったことも証明になるね。

 

そして、ボトリティス菌は送り込まれたmRNAを元に、タンパク質を合成する「翻訳」という作業を行っている、つまり、mRNAというメモ書きには、タンパク質の設計図があり、適切に読んでいることも突き止めたよ!

 

そしてこのタンパク質が合成されたボトリティス菌は、合成されていないボトリティス菌と比べて毒性が抑えられ、増殖も遅くなっていることが分かったよ!

 

植物mRNAに基づくタンパク質によってボトリティス菌の増殖が抑えられていることを確認!

目的のタンパク質が合成されているボトリティス菌は、それ以外の条件と比べて増殖が抑えられ、あまり成長していないことが分かるね。タンパク質がどこにあるのかを調べてみると、それはミトコンドリアに存在しており、機能の阻害が増殖を抑えていることが明らかにされたよ! (画像引用元番号⑦)

 

では、mRNAを元に合成されたタンパク質はどういう役割をするのかな?遺伝子や細胞内の構造などを調べたところ、エネルギー生産などの重要な役割を果たすミトコンドリアに影響を与えていることが分かったよ!

 

どうも、植物由来のmRNAを元に作ったタンパク質は、ミトコンドリア同士の距離やネットワークを混乱させるらしく、これによってボトリティス菌の細胞全体の機能が損なわれ、毒性や増殖が阻害されるみたいなんだよね。

 

つまり植物は、感染してくるボトリティス菌にとって有毒なタンパク質を合成するmRNAを送り込んでいる、というわけ!しかも、その有毒なタンパク質を、ボトリティス菌自身が合成しているよ。

 

感染の防御として有毒なタンパク質を送り込むのではなく、その設計図であるmRNAを送るのは、mRNAが低分子な上に、勝手に向こうで作ってくれるからと、輸送効率が高いからという可能性があるよ!

 

今回の研究でどうしても分からなかったのは、どうしてボトリティス菌はそんな危ないmRNAを含む細胞外小胞を取り込んでいるのか。ただ、細胞外小胞そのものが何でできているのかを考えると、想像はつくよ。

 

植物に感染する側であるボトリティス菌から見れば、これから活動と増殖で増えなきゃいけないので食料が欲しいところ。そんな時に、細胞外小胞というタンパク質と脂質の塊が転がってたら、利用しない手はないよね?

 

つまり、単にハングリー精神でボトリティス菌が細胞外小胞を食べたら、中に危ないものが入っていた、という可能性があるわけだよ!この辺の証明は、これからの研究が必要だね。

 

一見すると有益に思えるものを取り込んだら、実は中にとんでもなく悪いものが入っていた、という状況から、研究チームはプレスリリースでこれを "トロイの木馬" のようだと喩えているよ。

 

安全性と効果が高い殺菌剤の開発への応用も

細胞外小胞の役割自体、理解が進んだのがつい最近の話。今回の研究では、分解しやすいmRNAが、植物と菌類という界レベルで異なる生物間で輸送されるという発見は、中々興味深い研究結果だね![注4]

 

実際のところ、mRNAはとても分解しやすいので、細胞外小胞はmRNAの分解を防ぐバリアの役割を果たしてるのかもしれないね。ここは、mRNAワクチンが脂質ナノ粒子で保護されているのとどことなく似てるよね。

 

Wang氏らは、細胞外小胞を通じた他の生物同士でのmRNA輸送について解明すると共に、将来的にはこの研究をベースとした新しいタイプの殺菌剤の開発をしたいと考えているよ。

 

mRNAによる殺菌剤は、従来の化学反応ベースの薬剤とは仕組みが全く異なるので、耐性とのいたちごっことは無縁であるという可能性があるから、これはとても注目だね。

 

安全性については、利用では難点となる「mRNAは分解しやすい」という性質が逆に利点となるよ。植物にmRNAの殺菌剤を使ったとして、時間を置けばほとんど分解されている状態になるからね。

 

また、万が一植物に残っていたとしても、mRNA自体や、それに基づいて合成されたタンパク質などには毒性がなく、消化器官で簡単に分解されるよ。

 

真菌に対して害をなすようなmRNAやタンパク質は、必ずしもヒトや動物に害をなすとは限らないし、害がないものを探す・カスタマイズすることは技術的に可能だよ。

 

そしてさっきの繰り返しになっちゃうけど、薬剤の投与から時間が経過した上に、消化管の消化吸収も経ることから、そのmRNAは事実上分解して存在しなくなる可能性の方がずっと高いことを考えないといけないよ。

 

私たちは日々生物由来の食品を食べており、その中には様々な種類のmRNAが含まれていることを考えれば、mRNAを利用した殺菌剤は、従来のものと比べて安全性が高いものとして実用化するかもしれないよ!

 

いずれにしても、今のところこれは先々の応用例なので、まずは基本を押さえたい所。細胞外小胞に含まれたmRNAの役割について、これからもっと様々なことが明らかになることを期待したいね!

注釈

[注1] 貴腐菌  本文に戻る

ボトリティス菌が果実に感染すると、果皮を溶かして穴を開け内部へと菌糸を伸ばします。この過程で表面の保護が侵され、内部の水分が蒸発しやすくなります。白ワイン用のブドウの場合、蒸発によって干しブドウのようになり、結果として糖度が上がるとともに、ボトリティス菌の活動で独特の芳香を出すようになります。その味と香りを利用した貴腐ワインの原料となります。これはボトリティス菌が植物に害を与える影響を逆用した結果とも言えます。

[注2] sRNA  本文に戻る

機能で分けたRNAの分類の1つ。遺伝子発現 (遺伝子の働き) を制御する役割があると考えられています。本記事では、タンパク質の設計図となるmRNAとは異なるものであると考えて頂ければ差しつかえありません。

[注3] モデル生物  本文に戻る

生物学の実験や研究において普遍的に使われる生物のこと。飼育・繁殖・観察がしやすい、世代交代が早い、遺伝子情報の解明が進んでいるなどの条件を満たしており、過去の研究の蓄積から比較研究や考察もしやすい利点があります。シロイヌナズナやベンサミアナタバコは、植物における代表的なモデル生物です。

[注4] 界  本文に戻る

生物の大分類の1つ。植物と動物が界レベルで異なるように、植物と真菌もまた界レベルで異なる生物群です。

文献情報

<原著論文>

  • Shumei Wang, et al. "Plant mRNAs move into a fungal pathogen via extracellular vesicles to reduce infection". Cell Host & Microbe, 2024; 32, 1-13. DOI: 10.1016/j.chom.2023.11.020

 

<参考文献>

 

<関連研究>

  • Qiang Cai, et al. "Plants send small RNAs in extracellular vesicles to fungal pathogen to silence virulence genes". Science, 2019; 360 (6393) 1126-1129. DOI: 10.1126/science.aar4142
  • Qiang Cai, et al. "Message in a Bubble: Shuttling Small RNAs and Proteins Between Cells and Interacting Organisms Using Extracellular Vesicles". Annual Review of Plant Biology, 2021; 72, 497-524. DOI: 10.1146/annurev-arplant-081720-010616

 

<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

  1. ボトリティス菌の分生子柄: WikiMedia Commons (Autor: Ninjatacoshell / CC BY-SA 3.0)

  2. シロイヌナズナ: WikiMedia Commons (Autor: Peggy Greb; U.S. Department of Agriculture / Public Domain)
  3. ベンサミアナタバコ: WikiMeida Commons (Autor: Charles Andres / CC BY-SA 3.0)
  4. 菌糸内における蛍光タンパク質の分布: 原著論文Figure 4 D
  5. ボトリティス菌の増殖度合いおよびミトコンドリアへの蛍光タンパク質の偏在性: 原著論文Figure 5 A B C

 

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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