春までお休みなさい……ZZZ 冬眠の秘密に迫る!

2023.12.30

 冬の兆しが日に日に増し、お布団が朝になっても離してくれない季節になった。そう、あくまでお布団が離してくれないだけであって、決して「あと5分だけ布団に入っていたい」などと思っている訳ではないのだ。……はい、ごめんなさい。葉月が怠惰なのが原因です。

 とはいえ、こんなことを日頃考えているのは何も葉月に限った話しではないだろう。あわよくば冬眠していたいと、一度も考えたことがないとは言わせない。

 しかしながら、よく考えてほしい。あなたは連続でどのくらい眠っていられるだろう? 普段でも長くて10時間前後、どれだけ疲れていたとしても丸一日がせいぜいといったところではないだろうか。一方で動物たちの冬眠は数ヶ月にわたる。この差はなんなのだろう。そこで今回は、哺乳類たちがどのように冬眠を行なっているのかについて解説していく。

 

 

少し詳しく 〜冬眠と体温

 そもそも普段の睡眠と冬眠は何が違うのだろうか? スマートフォンを例に考えてみよう。

 あなたが動画を観たり、ゲームをしたり、そしてこの記事を読んだりしている間、バッテリーに蓄えられた電力は消費される。このことに異論がある人はいないだろう[注1]

 使い終わったら、スリープモードにしてカバンなどにしまうだろう。電力の不要な消費を抑えるためだ。しかしながら、スリープモードでも電力消費は完全に抑えられる訳ではない。電話の受信やらGPSの探知やら、アプリの通知やらでスリープ状態でもスマホは忙しいからだ。

 そこでさらにバッテリーの消費を抑えるため、電源を切るという選択肢が取れる。もちろん自然放電は免れないが、電力消費はかなり抑えられる。

 この、「使用中」「スリープモード」「電源オフ」という3つの段階を哺乳類に置き換えて考えてみよう。

 まず「使用中」状態だが、これはもちろん歩いたり走ったり、食べたりと、日常生活でとる行動だ。私たちは、エネルギーを体温に変換して消費しているので、活発に動いているとポカポカと温かい。

 そして「スリープモード」ももちろん、睡眠中だ。私たちの体は睡眠によって、随意行動によるエネルギー消費は抑えられ、消費するエネルギーの多くはもっぱら身体機能の回復に利用される[注2]

 それでは「電源オフ」はどうだろうか? 自然放電以外一切のエネルギーが流れないスマホと違って、哺乳類の場合は必要最小限のエネルギーのみが使用され続けている状態だ。そのため、体温は10度以下という異常な低体温になる。

 そう、この意図的に低体温になる状態こそ、「休眠」と呼ばれる現象だ。

「……『冬眠』じゃないの?」と思った事だろう。

 実は休眠にも長さがある。休眠の中でも1日のリズムに組み込まれているものを「日内休眠」といい、比較的長期間に渡るものを「冬眠」というのだ[注3]

 冬眠は普段の睡眠と違って、エネルギー消費を抑えるために、体温を普段よりも大幅に下げていることがわかった。しかしながら、普段の睡眠を思い出してほしい。寝ていたってお腹は空く。空腹が続けば命に関わる。いくらエネルギー消費を抑えていると言っても、エネルギー消費量が0になったわけではない。それなのに生きたまま冬眠を続けられるのはどうしてだろうか?

 続いて冬眠中に消費するエネルギーについて解説する。

 

 

さらに掘り下げ 〜冬眠とエネルギー

 冬眠というと「丸々と肥えて脂肪を蓄え、飲まず食わずで春まで過ごす」というイメージがないだろうか? 何を隠そう、葉月もそのイメージがあった。しかしながら、実はそのイメージに合致するのは、クマなど一部の動物だけなのだ。

 どういうことだろうか?

 リスやハムスターなど、冬眠する多くの動物は冬眠期間中をずっと低体温の状態で過ごしているわけではない。深冬眠と呼ばれる数日間の休眠期間と、中途覚醒と呼ばれる半日程度の平常体温期間を交互に繰り返しているのだ。この中途覚醒期間中に、溜め込んだ餌や水を補給し、排泄を行なっている[注4]

 そして中途覚醒期間が終わると、再び深冬眠に戻るのだ。

 深冬眠期間中は脂肪組織がエネルギーを作り出している。ノルアドレナリンという主に安静時に放出されるホルモンの働きを受けて、細胞内のミトコンドリアが熱を作っていると考えられている。この熱が休眠時特有の、外気温よりわずかに高い体温というわけだ[注5]

 

 中途覚醒によるこまめな供給が、冬眠期間中でもエネルギーを保つ秘密だということがわかった。それでは、そもそも冬眠はなにをきっかけに始まるのだろうか?

 続いて、冬眠を開始するスイッチについて解説していく。

 

 

もっと専門的に 〜冬眠とスイッチ

 結論から言うと、冬眠がどのようなきっかけで開始されるのか、ハッキリと根拠となるような何かは現在のところ明らかになっていない。もちろん何も明らかになっていない訳ではないが、主に2つの理由で決定的な解釈が出来ていない。

 1つ目の理由は天候や気候との関連性である。

 当たり前の話だが、冬になれば気温が下がり、所によっては雪が降る。「冬」眠と書くくらいだから、冬になって、低温になったり雪が降ればスイッチが入るのかと思ってしまいそうになる。

 しかしながらそう結論づけるのは少々難しい。低温環境で飼育していても冬眠が誘導しないケースや、反対に適温条件でも一定時間以上絶食させると休眠時のような低体温になることが確認されているからだ[注6]。そのため、スイッチはあるがそれが野生の生活環境とどう結びつくのか不明という状態になっている。

 もう1つの理由は遺伝子的な理由である。

 生物の生態には遺伝子によって決定する部分が多くある。食性や活動時間、骨格などがそうだ。しかしながらリスやハムスター、クマなど冬眠をする動物には特有で、イヌやウシそしてヒトなどのように冬眠をしない動物には存在しないという、明確な違いを示すような遺伝子が見つかっていない。

 それでは冬眠に遺伝子は関与しないのかと言うと、冬眠期間中に発現量が変化する遺伝子というのは発見されている。

 以上のことを踏まえると、次のようになる。

 まず、冬眠に何らかのスイッチがあるのは間違いない。それは遺伝子的に制御されているものだが、「冬眠を制御する遺伝子」ではなく「別の役割を持った遺伝子」を応用して冬眠のスイッチとして活用している、という風になる[注7]

 さて、皆さんならどのようにこの謎を解き明かすだろうか?

 

 ここまで、冬眠の仕組みについて解説してきたが、いかがだっただろうか? 日ごとに寒くなる毎日に野生の動物たちのように冬眠して春を待ちたいと思わずにはいられないが、「1月は急ぐ、2月は逃げる、3月は去る」などというように、年が明ければ春などあっという間だ。人間社会で生きている私たちには、冬眠している暇なんてないのかもしれない。

 最後に、記事の趣旨からは少し外れるが寝具に関する研究について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。

 

 

ちょっとはみ出し 〜眠りを追求する

仮眠用枕と姿勢

 枕が変わると眠れなくなる人がいるように、枕は快適な睡眠を取るために重視したい寝具の一つだ。枕の形状については[枕 オーダーメイド]で検索すると、日本全国のオーダーメイド枕の専門店が見つかることからも関心の高さが窺える。良い眠りのために、枕にこだわることに対して、目くじらを立てて反論しようという人はそうそういないだろう。それでは仮眠用の枕についてはどうだろうか?

 集中力の改善やパフォーマンス向上のため、仮眠時間を導入する企業や学                                                                                                                    校が増えつつある。とはいえ仮眠用の専用スペースがある訳ではないから、眠り方としては机に突っ伏して寝る形になる。そんな時に役立つ仮眠用枕だが、その形状と仮眠時の姿勢や負担の関係について調べた研究がある。仮眠用枕のデザインは、机や椅子の高さなど普段の寝具とは違う要素を考慮しなければならないようだ。

緊急時でも眠る

 睡眠がいついかなる時も、安らかに落ち着いて出来るとは限らない。先に述べた仮眠もそうだし、家の外で騒音が響いていることだって考えられる。葉月は上京したての時、夜行バスで実家に帰省していたが、アレもなかなかに厳しいものだった。とはいえ夜行バスも仮眠も、その場さえ凌いでしまえば後ほどゆったりと眠ることができる。けれども、そうならない状況もある。

 ご存知の通り、我が国は毎年多くの災害に見舞われている。住み慣れた我が家がある日突然なくなる可能性は、誰にとっても0ではない。そんな時に当面の生活拠点として頼ることになるのが、避難所だ。寒冷期により暖かく、そして皆にとって快適に過ごせる避難所のあり方を、寝具の面から考えた研究がある。暖かくするために何を備蓄して、どのように運用していくかが鍵を握っているようだ。

参考文献

  • 小池 伸介ら. 『哺乳類学』. 東京大学出版会.

  • Fritz Geiser. “Hibernation”. Curr Biol. 2013 Mar 4;23(5):R188-93.
  • 堀井 有希ら. 『実験室における哺乳動物の冬眠・休眠誘導』. 低温科学 81 131-139, 2023-03-20.
  • Mallory A Ballinger, Matthew T Andrews. “Nature's fat-burning machine: brown adipose tissue on a hibernating mammal”. J Exp Biol. 2018 Mar 7;221(Pt Suppl 1):jeb162586.
  • 塚本 大輔, 高松 信彦. 『シマリスの冬眠の分子生物学的研究』. 低温科学 81 119-129, 2023-03-20.
  • 渡邊 正知, 田村 豊.『シリアンハムスターの冬眠を制御する中枢神経機構』. 低温科学 81 149-158, 2023-03-20.

  • Noriaki Kondo, et al. “Circannual control of hibernation by HP complex in the brain”. Cell . 2006 Apr 7;125(1):161-72.
  • Pier Morin Jr, Kenneth B Storey. “Mammalian hibernation: differential gene expression and novel application of epigenetic controls”. Int J Dev Biol . 2009;53(2-3):433-42.
  • 藤原 ののか, 村木 里志. 『仮眠用枕の形状が姿勢と使用感に及ぼす影響』. 人間工学 2022年 58 巻 Supplement 号 2E5-01.
  • 根本 昌宏. 『寒冷期の避難生活を想定した就寝資材の検討』. 日本衣服学会誌 2021年 64 巻 2 号 59-63.

脚注

[注1] 異論があるとしたら、例に出した行為に「フォン(Phone)」要素が無いって事かな。でも、さっき出した例に違和感を覚える人はそんなに居ない気がするんだ。みんな知ってた? スマホって電話なんだぜ。 (本文へ戻る)

[注2] そのため私たちも、睡眠中と起床直後は、日中の活動時間よりも体温がやや低い。恒温動物は「常に体温が一定」というイメージがあるだろうが、実は1日の中や取った行動でも割と上下しているのだ。 (本文へ戻る)

[注3] 冬眠状態と同様に、体温が平熱から極端に低下する現象として、低体温症が知られている。低体温症は各種臓器が十分に稼働せず、酷い場合では臓器不全を起こして死に至る事もある危険な現象だ。一方で冬眠中の臓器の働きは生きるためにキチンと制御されている。似てはいるが全く別の現象なのだ。 (本文へ戻る)

[注4] クマの冬眠が、他の動物と異なる点は中途覚醒の有無だけではない。具体的には体温がほとんど下がらない、冬眠期間中に排泄や給餌をしないなども挙げられる。そのため、クマが「冬眠をする動物」であるかについては、そうではないとする考えもあるようだ。 (本文へ戻る)

[注5] しかしながら冬眠期間中の全てのエネルギー消費が、これで説明できるわけではない。クマをはじめ、冬眠をする動物の中には、冬眠期間中に出産するものがいる。生まれた子供は母乳すなわち糖で育つわけだが、哺乳動物には脂肪を糖に変換する代謝経路がないのだ。ミステリー! (本文へ戻る)

[注6] 例えば、シマリスを常に暗い5 ℃の条件で飼育したという実験がある。気温や光量で冬眠が誘導されるならば当然、シマリスは冬眠するはずである。しかしながらシマリスは、ほぼ1年周期で冬眠を繰り返したのだ。つまり、一年の周期を感じ取ってその期間だけ冬眠に当てていたのだ。 (本文へ戻る)

[注7] この事は、私たちヒトでも冬眠できる可能性がある事も示唆している。ヒトが冬眠してどうするんだと思ってしまいそうになるが、実は冬眠はただ春を待つだけの行動ではない。冬眠中は有害物質でのダメージが軽減したり感染症に耐性が出来たりと、医学領域では割と注目されている話題のようだ。 (本文へ戻る)

 

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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