オキシトシンは交感神経でも発現して、脂肪の分解を調節する(12月13日 Nature オンライン掲載論文)

2023.12.31

オキシトシンは視床下部で合成されるペプチドホルモンで、授乳行動に代表される個体の社会行動を調節するホルモンとして、自閉症の治療にも使えるのではと研究が続いている。ところが、オキシトシンを投与すると、脂肪代謝にも影響があることがわかってきた。

 

今日紹介するハーバード大学からの論文は、オキシトシンの脂肪細胞への影響を調べる中で、オキシトシンが交感神経でも分泌され、脂肪細胞での脂肪分解を誘導していることを明らかにした研究で、12月13日 Nature にオンライン掲載された。

 

タイトルは「Control of lipolysis by a population of oxytocinergic sympathetic neurons(オキシトシン合成性の交感神経による脂肪分解の調節)」だ。

 

この研究では脂肪細胞でオキシトシン受容体が発現していること、さらにオキシトシン受容体を脂肪細胞特異的にノックアウトすると、肥満にはならないが、白色脂肪細胞が肥大し、刺激による脂肪分解が強く抑制されることを示し、確かに脂肪細胞にオキシトシンが作用していることを確認している。

 

次にオキシトシンによる脂肪分解のメカニズムを調べると、分解を調節するペリリピンやリパーゼへのオキシトシンシグナルの直接関与は少なく、代わりに脂肪分解刺激を誘導するカテコールアミンへの反応性を高めることを明らかにしている。

 

実験の詳細は省いてメカニズムをまとめると、オキシトシンにより脂肪細胞が刺激されると、ERKシグナル分子を介して交感神経のカテコールアミンへの反応性が高まり、この結果脂肪滴の周りに存在するペリリピンの脂肪滴への動因、リパーゼの活性化が誘導され、脂肪分解が始まるというシナリオだ。

 

そこで重要になるのが「ではオキシトシンはどこから来るのか?」で、血中オキシトシンの変動を調べた結果、脳からではなく局所、おそらく脂肪を支配している交感神経由来ではないかという結論に至る。

 

そこで、オキシトシンの発現を見ることが出来るレポーターマウスを用いて調べた結果、脂肪に接合している交感神経の一部にオキシトシンを分泌する細胞が存在することを確認する。あとは、光遺伝学的方法を用いて、交感神経刺激によりオキシトシンが合成され、脂肪分解が高まることを明らかにしている。

 

結果は以上で、オキシトシンが交感神経で発現し、脂肪代謝に機能していることは驚きだ。神経系の病気の場合、脳内にオキシトシンを到達させるために、全身投与は選択肢にないが、今後受容体のアゴニストなどを利用するようになる場合は、脂肪代謝への影響も考慮する必要があるだろう。

 

しかし、ケトーシスなどを考えると、代謝的にも自閉症には良い影響を持つ可能性はある。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

このライターの記事一覧